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Japan

第01回 ”働き方改革”推進の第一歩は3つの視点の違いを理解すること【前編】

誰も言わない経営者が持つべき“働き方改革”の視点

株式会社ワイズエッジ
代表取締役  経営コンサルタント  清水 泰志 氏

2017年06月21日 更新

日本人の長時間労働がいまになってクローズアップされている理由

2015年12月に電通新入社員の方が自殺するという不幸な出来事がありましたが、2016年10月にその原因が過重労働だったとして労災認定され、各方面で様々な議論を呼んだことは記憶に新しいはずです。
この結果を追いかけるように、厚労省から『平成28年度版過労死等防止対策白書』が初めて発表されました。この白書は2014年に施行された過労死等防止対策推進法に基づいて、厚労省が毎年まとめることにしたものですが、日本における長時間労働や過労死問題の実態が見える化されたことになります。
それにしても、なぜいま「長時間労働の是正」という課題がクローズアップされているのでしょうか。日本人が働き過ぎているという問題は今に始まったことではないはずです。
厚労省が発表している年間総実労働時間の推移を見ると、20年ほど前の数値は1900時間を超えていましたが、最近では1700時間台にまで減少しています。2015年のデータでは、1719時間で、OECD加盟国内では22位です。16位アメリカ1790時間や21位イタリア1725時間より、労働時間が短いということになっているのです。
この数字を見る限り、日本人の働き過ぎは年々解消されてきているため、今になって長時間労働の是正を声高に叫ぶ必要性は低いように思えます。
そもそも、過労死という言葉が生み出され、社会問題化したのは1980年代後半です。労働者人口の増加に伴い60年代初めから70年代前半まで労働時間は減少していましたが、1970年代半ばからまた増え始め、バブル経済の訪れとともに1980年代末には週60時間以上の労働者が、男性では4人に1人を占めるまでなりました。その結果、過労死が多発するようになったのです。
その頃と比べて、現在の実態はどうなのでしょうか。厚労省のデータとは別に、総務省統計局が行っている「労働力調査」というものがあります。この中で、全国の約4万世帯(約10万人)に対して聞き取りをした結果である平均週間就業時間が発表されています。
この平均週間就業時間に年間の平均就業週≒52週を掛けると、年間労働時間が大ざっぱですが導き出せます。その結果を見ると、2010年:男2345時間/女1778時間、2011年:男2340時間/女1763時間、2012年:男2340時間/女1768時間になります。
実は、この男女別の労働時間の中には、正規社員と非正規社員が含まれているので、男性の正規社員は2300時間をはるかに超える時間(一説では2700時間超)働いていることが推察されます。ちなみに、先ほど紹介したOECD加盟国内で労働時間が1位の国はメキシコで2246時間です。
政府は数値目標を掲げて労働時間の減少に取り組んできましたが、正規社員の労働時間については、この20年近く、週平均50時間から52時間程度で、ほとんど変わっていないのです。これは欧米先進国と比較し、おおよそ週10時間、年間500時間も長くなっています。
日本の労働者の就労時間は短縮されているように見えながら、依然として長時間労働をしている人が相当数存在する原因はどこにあるのでしょうか。大きな原因として、有期雇用、パート・アルバイト、派遣社員などの非正規労働者が急増したことがあります。
非正規労働者を含めた平均労働時間は確かに減っています。ただその結果、男性正規社員が働き過ぎている傾向が強まってしまいました。コスト優先で、非正規労働者を増やした副作用が、男性正社員の労働時間の長さに出ているのです。
やや話が横道にそれますが、どの産業の残業時間が多いのでしょうか。前掲の白書によると、正規社員一人当たりの月間時間外労働時間が「月45時間を超える」と回答した企業の割合は、「運輸業、郵便業」(14.0%)が1位で際立って高い結果となっています。「月20時間を超える」と回答した企業の割合も「運輸業、郵便業」(54.7%)が最も多く、「情報通信業」(53.7%)、「建設業」(48.7%)と続いています。
最近、ヤマト運輸が取扱荷物個数の増加により現場に過大な負担がかかっていることを理由に、運賃の値上げや一部の法人顧客との取引を中止する方針を打ち出したことが話題になりましたが、運輸・郵便業界の時間外労働時間の長さは、この白書においても裏付けられていることになります。

「過労死」と「過労自殺」を切り分けなければ見えてこない過重労働の実態と対策

日本における特に正規社員が、依然として長時間労働している実態がわかりましたが、「過労死」は、今と昔を比べて増えているのでしょうか、それとも減っているのでしょうか。 このテーマを考えるに当たり、最初に言葉の定義を確認しておくことが大切です。実は「過労死」と「過労自殺」を分けて考えないことには、何が取り組み課題になるかが見えてこないからです。

  1. 業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡(過労死)
  2. 業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死(過労自殺)
    過労死等防止対策推進法で、「過労死等」は、こう定義されていいます。つまり、1の「過労死」と2の「過労自殺」は明確に区分されているのです。

国内外の多くの研究の結果、長時間労働および深夜勤務が、脳血管疾患若しくは心臓疾患と強く関連していることが認められています。言い替えると、本人はやる気ややりがいに満ちていたとしても、長時間働き続けることで過労死する危険性があるという事実を認識する必要があります。
一方で、過労自殺の場合には、目標の達成ができないなどの行き詰まりから来る精神的なストレスの比重が高いのです。もちろん過労自殺の前提には、半年から1年以上に渡る連日深夜に及ぶ残業、休日出勤が繰り返されるという長時間労働が存在しますが、それに加えて、納期の切迫やトラブルの発生などにより精神的に追いつめられることにより、多くの場合、うつ病などの精神障害に陥った末の自殺であるという特徴があります。
単に「忙しい」「人手が足りない」というだけではなく、過労自殺の背景には、現代の働き方そのものがストレスフルになっていることがあります。グローバル化と情報化が進み、昔以上に個人にもスピードと成果を求め、競い合うことが当たり前になっています。加えてICTの発達により、オンとオフの境目がなくなり、家に帰っても休暇中でも、仕事のメールや電話から解放されなくなりました。
同じ労働者でも、ブルーカラーの世界では、技術の進歩により以前と比べて負担は軽減されている分野がありますが、ホワイトカラーの世界では、市場全体が停滞気味という環境の変化も加わって、労働者の精神的疲労が高まっている可能性が高いのです。
長時間労働と精神障害との間に直接的な因果関係はないとする研究結果があることまで考慮すると、「過労自殺」を防ぐためには、単に「労働時間を短くすればいい」というものではないことが分かるはずです。本人を追いつめる「仕事上のストレス」も同じように考慮すべき課題なのです。
実際のところ、過労死と過労自殺の推移を見ると、ある傾向が浮き彫りになってきます。厚労省が発表している『過労死等の労災補償状況』によると、過労死については、請求件数・支給決定件数ともに微減傾向にありますが、精神障害については、ともに増加傾向にあることが見てとれます。
2015年の数値を具体的に見ると、脳・心臓疾患:申請数=763件/認定数=277件、精神疾患:申請数=1456件/認定数=497件となっています。
このように増加傾向にある精神疾患を年齢別に見ると、精神疾患については、若年層が中心になっていることが分かります。具体的に2006~2015年の累計値を見ると、脳・心臓疾患による労災申請は50代が2979件とダントツで多く、次いで40代2151件、僅差で60代以上2120件と続いています。
ところが、精神疾患による労災申請件数は、30代が3736件と突出して多く、次いで40代3375件、20代2442件と続いています。
これらのことから分かるように、一昔前の過労死は脳・心臓疾患を原因とした40代以上の世代を中心とした問題でしたが、最近では、中心的な世代が20代30代に移っていて、しかも精神疾患が原因となっていることが多いという変化があることを見逃してはいけません。
こうした状況に対して、先ず打つべき現実的かつ即効性が期待できる施策は、「過労死」と「過労自殺」の違いがあることは事実ですが、「36協定」の見直しでしょう。ご存じのとおり労働基準法では、労働時間は週40時間、1日8時間と定めています。これを超えて残業させる場合には、労使で上限を定めた「36協定」を結び、それを労働基準監督署に届ける義務があります。
ところが、36協定における「特別条項」が厄介な存在になっています。業務の繁忙や設備の保守点検、生産上の必要性など一定の条件を満たせば、上限をさらに上回る残業が可能になるのです。
その条件は明文化されていてもあいまいで、事実上どうにでも解釈できるのです。実際に一部上場企業でも、この特別条項を適用して月100~200時間の上限を認めているケースがあります。これは、一般的に過労死の危険ラインとされる月80時間の残業上限をはるかに超過しています。この骨抜きにされた現状について、行政による指導を待つことなく、企業が自らガイドラインを作成・運用していく必要があるでしょう。

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