2019年05月27日更新

病院とICT活用 第01回 電子カルテによる効率化

MICTコンサルティング株式会社 代表取締役 大西 大輔 氏

電子カルテの導入を進める上で、実際にどのような業務効率化が図れるか(期待される効果)について、あらかじめ考えておくことはとても大切である。
電子カルテとは、医療機関の様々な業務を効率化することを目的に導入されるシステムである。電子カルテは狭義には、カルテの電子化を意味し、広義には医療機関の基幹システムとして、様々な部門システムをつなぐ役割を担っている。
電子カルテ導入で期待される効果は、医療機関の状況に応じて変わることは当然考えられる。今回は一般的なもののみを挙げることにする。

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カルテ情報をデジタル化することによる院内の情報共有の効率化

医療機関では医師の指示のもと、薬剤師、看護師、検査技師、放射線技師、栄養士、リハビリスタッフ、医療事務などが、各自の業務を遂行している。従来、紙カルテのころは、医師がカルテに手書きで書いた情報を指示箋に転記し、それを各部門に配布することで業務指示を伝達してきた。
電子カルテでは、電子カルテに医師が入力することで、各部門に瞬時に情報伝達が行えるようになる。カルテを複数の場所で、複数のスタッフが見ることが可能になり、情報伝達スピードが高まる。カルテ情報をデジタル化することで「情報共有の効率化」が図れるのだ。
この業務はもともとオーダーエントリー業務と呼ばれてきたもので、現在では電子カルテにこの機能が備わっている。ITがもっとも得意とする「距離」と「時間」を限りなくゼロにする効能が活用されている。

ペーパーレス化による情報管理の効率化

医療機関は電子カルテを導入することで紙カルテは徐々になくなっていく。(カルテの保存義務や急激な運用変化の問題でいきなり、紙カルテが完全になくなることはない。)新規に開業するクリニックでは最初から電子カルテが入っているケースが多く、紙を極力使わない運用が考えられている。このいわゆるペーパーレス化は、「情報管理の効率化」をもたらす。電子カルテは大量の紙カルテを管理する「場所」の問題から解放される。
また、地震や洪水、火事といった大規模なトラブルに対しても、デジタル情報のバックアップを行うことで対応がしやすくなる。瞬時に紙カルテを大量に運ぶことは不可能であるが、デジタル化された情報は容易に移動することを可能にする。

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カルテ情報の2次利用による書類作成の効率化

電子カルテに蓄積された情報を2次利用することで、診断書や診療情報提供書(紹介状)、主治医意見書、訪問看護指示書など、様々な「書類作成を効率化」することができる。従来、書類を作成する上で、紙カルテの情報を転記する作業が多く行われてきた。カルテをぺらぺらと見ながら、書類を作成する作業は大きな無駄を生み出していた。
患者さんの頭書き、病名、処方、検査結果、サマリー(診療経過)などは、電子カルテに蓄積されており、これらをコピーアンドペーストし、その情報を加工するだけで簡単に書類を作成することが可能になる。その結果、紹介状をもらうためだけに、患者さんが後日、医療機関を訪問するということはなくなり、その日のうちに書類を受け取ることが可能になる。

地域包括ケアシステムでの情報共有の効率化

地域連携ネットワークが整備された地域では、デジタル化された情報を共有することで、病院同士、医療と介護など、地域間での情報共有が効率化される。
現在、各地で進められている地域包括ケアシステムは、地域を大きな病院に見立て、医療と介護、そして生活をつなぐ試みである。この取り組みの中でも電子カルテは重要な役割を担っている。今後、超高齢社会の到来によって、患者さんは病院に通うことが難しくなり、在宅医療や遠隔医療(オンライン診療)が進むことで、さらに電子カルテの地域をまたいだ情報共有の重要性が高まっていくことだろう。

電子カルテの導入プロセスの中での業務標準化による効率化

電子カルテの導入は、個別性を排除し、業務の標準化を図ることにも寄与する。紙カルテから電子カルテに移行するプロセスの中で、業務フローの整理が行われ、標準化が進んでいく。かつてあった病院独自のルールは、伝統芸能のように代々受け継がれてきたが、それが本当に効率的であるかの検証が行われることはまずなかった。院内マニュアルが整備されていないケースも多く見受けられた。
電子カルテでは、病院内のスタッフが同じルールに則って、電子カルテを操作していくことになり、自ずと無理無駄が排除され、業務の標準化、そして効率化をもたらすのだ。

カルテとレセプトの一致によるレセプト請求業務の効率化

電子カルテはレセプトコンピュータと組み合わせて開発されてきた経緯から、カルテとレセプトの一致を強く意識したシステムである。医療は、診療報酬点数表で定義された料金メニューと実際の診療行為を一致させることで、活動の価値の価格を決定している。
紙カルテのころは、専門にトレーニングされた医療事務員がカルテの内容を読み解き、診療報酬点数表と照らし合わせながら、算定行為がされてきた。
電子カルテでは、カルテの記載された内容が、そのままレセプト情報に置き換わることで、請求の効率化が図れるようになる。いまのところ、カルテとレセプトが完全に一致するレベルには至っていないが、今後のAIなどの活用により、自ずと一致が図れるようになるだろう。

カルテとレセプトの一致によるレセプト請求業務の効率化

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著者プロフィール

MICTコンサルティング株式会社 代表取締役

大西 大輔 氏

過去3,000件を超える医療機関へのシステム導入の実績に基づき、診療所・病院・医療IT企業のコンサルティングおよび講演活動、執筆活動を行う。

経歴
2001年 一橋大学大学院MBAコース修了
2001年 医療系コンサルティングファーム「日本経営グループ」入社
2002年 医療IT総合展示場「メディプラザ」設立 (~2016閉館)
2016年 コンサルタントとして独立し、「MICTコンサルティング」を設立

大西 大輔 氏

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