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Japan

第02回 PSI(生販在)統合管理のススメ

「PDCA」でコントロールする製造業の在庫管理

ピークコンサルティンググループ株式会社
代表取締役 北村 友博 氏

2015年02月23日更新

はじめに

前回、在庫管理は“PDCA”でおこなうこと、在庫のコントロールは生産リードタイムを前提におこなうことだとお話ししました。今回は在庫の意味をもう一度考えた上で、SCM(サプライチェーンマネジメント:供給連鎖管理)の前提となる、PSI(生販在)統合管理について筆を進めていきます。

在庫を最適に保つための業務が在庫管理

「在庫」であることの条件

まず「在庫」について再確認することから始めます。「何をいまさら」と感じる方も多いと思いますが、しばらくの間おつき合いください。

  1. 最初に、なぜ在庫が存在するか、在庫が必要とされる理由を考えます。
  2. 次に、なぜ在庫を削減するのか、在庫を敵視する理由を考えます。
  3. 最後に、それでは在庫はどうあるべきか、在庫管理の目的について考えます。

その前に「在庫」が在庫であるための条件についておさらいしておきます。在庫には以下の条件がすべて揃っていることが必要です。これらの条件を満たさなければ在庫とはいえません。

  • 「モノ」であること
  • 保管されていること
  • 近い将来売れること

とくに最後の項が重要です。古新聞は捨てられれば「廃棄物」ですが、リサイクル資源として販売され再利用される場合は「在庫」となります。

在庫が存在する理由

世の中に在庫が存在する理由は以下の8つがあります。

  1. 顧客リードタイムに間に合わすため
    前回に説明しましたが、顧客の求める納期が、仕入・生産に要するリードタイムより短い場合は、要求に合わせるために、製品・半製品・原材料の形で、事前に在庫を確保しておく必要があります。顧客リードタイムに間に合わすための在庫が、在庫が存在する最大の理由と言えるでしょう。
  2. 工程間の相互干渉を減らすため
    工程間で機械能力に差がある場合は、能力の大きい工程の後に在庫が発生します。
  3. 生産を平準化させるため
    生産能力に合わせて生産量の平準化を図ると、必然的に在庫が発生します。
  4. 需要変動に備えるため
    季節によって需要量にバラつきがある場合、欠品が生じないよう作り込みを行い、必要量の在庫を確保しておきます。
  5. まとめ買い・まとめ生産するため
    原材料や部品を安価に調達するため一定のロットで発注します。同様に生産も一定のロットで行う方が低い原価に抑えられます。
  6. 輸送中・荷役中のため
    輸送や荷役に要する期間は販売に立たないので在庫となります。海外への船便輸出では数十日を要することがありますが、この期間は在庫です。
  7. 欠品防止のため
    欠品による販売機会を逃さないため需要より多く生産する、また緊急注文や生産トラブルに備えて原材料を多めに持つ場合があります。
  8. 売れ残り・使い残しのため
    発注ミス・予測ミスなど生産管理上の様々なトラブルが原因となって、残ってしまった不要な在庫です。将来も販売や利用の見込みのないものを「死蔵(デッド)在庫」と呼びます。

在庫を削減する理由

在庫はロスやムダを伴います。ロスやムダが最少になるよう、在庫量を最少にして保管コストを最少化する業務が在庫管理です。在庫がもたらす悪い影響、つまりロスやムダについて考えいきます。

  1. 資金効率を落とす
    在庫は売上が計上できていないため、企業の運転資金を圧迫し金利負担を増加させます。これが在庫削減を指示する経営トップの最大の理由です。
  2. 保管・管理コストが発生する
    在庫を保管するための管理工数や保管場所が必要となります。外部倉庫を借用している場合は、契約料や賃貸料が発生します。
  3. 破損・価値低下リスクが発生する
    以下のような在庫期間中に、製品そのものの価値が低下するケースです。
    • 材料・製品の腐敗・変質・発錆による品質低下や価値低下
    • 在庫が長期間に及ぶ場合の破損・磨耗・老朽化・陳腐化
  4. 市場動向に鈍感になる
    在庫が十分にあると需要が多少増加しても、在庫で対応できます。つまり市場の需要動向に鈍感になる可能性があります。
  5. 問題の本質が見え難くなる
    本来あるべき生産リードタイム、あってはいけない品質不良なども在庫があれば対応できます。工場の体質悪化を隠し、抱えている様々な問題点の本質を隠してしまう弊害があります。
  6. 生産効率低下によるロスの発生
    在庫品は売れなかった製品ですからムダな作業をしたことになります。また生産ライン周辺に積上った仕掛品は、スペースや作業性、安全性を損ないます。

在庫を最適化することが在庫管理の目的

在庫を持つことによって、市場における需要変動を吸収するだけでなく、生産活動を円滑に進めることができ、生産資源を有効に活用できる効果があります。その反面、在庫を保有するために様々な費用が発生します。したがって在庫を持つことによる効果と、在庫を持つことによる損失から、最適な在庫量を求め維持し続けることが、在庫管理業務のテーマとなります。つまり「在庫の最適化」です。

SCMのススメ

付加価値の連鎖をバリューチェーンという

ハーバードビジネススクールのマイケルポーター教授が、バリューチェーンという考え方を提唱しました。簡単に説明すると世の中の商品は、原材料メーカーから、製造・卸・小売を経て消費者に届けられ、さらにアフターサービスに至るまで、すべての段階で付加価値を生んで行きます。ポーターはこの付加価値の連鎖をバリューチェーンと名づけたのです。
バリューチェーンは図1に示すように、サプライチェーン(供給連鎖)、デマンドチェーン(需要連鎖)、エンジニアリングチェーン(技術連鎖)、3つのチェーンが製品の付加価値を増殖するという、ITシステムを前提とした考え方です。関連する企業は情報を共有する必要があり、チェーンに含まれる企業が一社でも情報共有の輪から脱落すると、バリューチェーンとしては機能できません。顧客のニーズを敏感に吸い上げ、商品化をすばやく実現し、顧客の求める納期に合わせて商品を供給すること、そのための業務が停滞しないよう、自工場や関係企業をコントロールすることが重要なのです。


図1:製造業の機能とバリューチェーン

生産は原材料を仕入れて(購買)、作って(生産)、売る(販売)こと、そして生産管理は、最少の原材料を投入して、最少の経営資源を用いて、最短の時間で、誤りなく、生産活動を行うようコントロールすることです。「良い生産管理」は、物の流れ、情報の流れ、技術(知識)の流れを、リアルタイムで最適にコントロールできます。そのために各部門や外部の企業が、リアルタイムで情報を共有、業務に反映できる情報インフラを作り上げることが必要なのです。近年は費用の掛からないインターネットを情報インフラとして、中小企業でも様々な情報共有がおこなわれています。

サプライチェーンは「モノ」の流れ

バリューチェーンの中で、モノの流れをサプライチェーン(供給連鎖)といいます。企業内部から見れば、仕入~生産~出荷がモノの流れですが、外部から見ると、モノは原料~材料~自工場、自工場から物流倉庫~商社~販売店~消費者へと流れていきます。いわば自工場は「モノ」というバトンを繋ぐ、リレーの一走者です。図5に示すように、企業内はもちろん企業間でもモノの流れを繋いで(連鎖)、途切れないよう(停滞させないよう)コントロールするシステムを、SCM(Supply Chain Management)と呼んでいます。
ものづくりを自社の視点だけから考えていた時代は終わり、現在ではサプライチェーン全体を、コントロールしていく時代に変化しました。日本でSCMに取り組む企業が増えたのは1990年半ばからですが、そのルーツは1980年代の米国における衣料品業界に求めることができます。海外から流入する安価な製品に対抗するため始まった、QR(Quick Response)の考え方です。QRは小売店からの発注に対して、衣料品メーカーが「素早く納品すること」が目的でした。小売業や卸店、素材メーカー、縫製メーカーなどが、受発注や在庫のデータを共有して、製品在庫の削減や納期の短縮を目指しました。これが米国で始まったSCMのルーツです。

図2:商品のサプライチェーン(供給連鎖)

デマンドチェーンは「情報」の流れ

顧客からの需要情報の流れをデマンドチェーン(需要連鎖)といい、サプライ(供給)側へは「発注」、エンジニアリング(技術)側へは「商品ニーズ」が伝達されます。リレーの一人の走者である製造業は、原材料から製品が消費者に届くまで、バトンを落とさず、速く走らなければなりません。そのためにはデマンドチェーンの発注情報に応えるようもモノを流すことが最重要であり、そのための仕組み、すなわちシステムが必要となります。

エンジニアリングチェーンは「技術」の流れ

もう一つ技術の流れ、エンジニアリングチェーンが加わります。設計情報や生産指示情報、すなわち知恵と知識の情報流です。製品の設計内容を規定した図面や、生産の方法を規定した作業要領を、人手や郵送で伝達していては時間が掛かり過ぎます。そこで製品の設計(CAD)情報を、製造部門や外注企業へLANやインターネットでリアルタイムに流し、部品発注の時間短縮やコスト圧縮を図るようにして、新商品や改良商品の立上げ期間の短縮を図っています。

PSI(生販在)をPDCAで一元管理する

サプライチェーンは在庫をフローと時間で捉える

情報のやり取りや対応に要する時間をペーパーリードタイムといいます。ペーパーリードタイムは社内の組織間や、企業間の取引情報の伝達で発生して、そのつど情報鮮度を悪化させます。つまり古い情報で調達や生産を余儀なくされるため、追加・変更・取消といったムダな対応が増え、ムダな在庫発生の要因となります。
 サプライチェーンを川上にたどるに従って、需要の変動の波が増幅されて伝わります。これをブルウィップ効果といいます。ブルウィップとは牛(ブル)に使う鞭(ウィップ)のことで、手元(消費者)では僅かな変動(鞭のしなり)が、末端では大きな変動(しなり)になることが語源です。この主な原因が時間差(タイムラグ)すなわちペーパーリードタイムの存在です。従ってサプライチェーンは、多数の取引業者が介在する長いチェーンほど、情報鮮度が損なわれ、在庫を適正に維持することが困難となります。
 また調達・生産(自工場内)・流通の、各段階における物流リードタイムにも着目することが必要です。私が経験した機械製品の例では、物流リードタイムに120日、全行程はなんと3500㎞に及ぶケースがありました。皆さんの工場の製品ではどうなっているでしょうか。
 目に見える在庫量だけでなく、モノの流れをフローとして捉えるサプライチェーンの観点が、在庫管理に必要ということです。

「在庫」と「リードタイム」のトレードオフを解消するには

前回にお話ししたように、在庫とリードタイムは必然的にトレードオフの関係となります。このトレードオフの解消は在庫管理の永遠の課題ともいえますが、具体的な改善の方向について考えてみましょう。

  1. リードタイムの短縮
    生産・調達・リードタイムを極限まで短縮することです。トヨタ生産方式では、「カンバン納入」「1個流し生産」「ワンタッチ段取」などが推進され、リードタイム゛短縮に一役買っています。
  2. 精度の高い販売計画・生産計画
    見込生産の場合は「在庫充当生産」ですから、適正在庫を維持するためには、販売・生産計画の基となる販売予測の精度を上げることが重要です。販売予測は欠品や余剰在庫が発生する確率を、統計的に推計する手法ですから、この精度が100%在庫の増減となります。また受注生産ではペーパーリードタイムによるタイムラグを、ゼロ化する情報インフラの構築が必要です。
  3. 計画通り出荷できる生産力
    計画し指示された製品を指示通りに生産すること、当たり前のことですが意外とこれが上手くできていない工場が多いようです。“PDCA”の(C)は、計画と実績との乖離を評価することです。難しいことに取り組む前に、「計画通り実行できる生産力」がつくように、努めるべきではないでしょうか。

PSI一元管理をおこなう組織としくみ

在庫管理は在庫を最適に維持するための業務ですが、生産・販売・在庫、これらが在庫=生産-販売の関係で互いに連動しています。従って単独で在庫をコントロールすることはできません。
この3つの管理は“PDCA”でおこないます。計画・実績を評価し、差分の発生原因を追究し(C)、計画と実績とを一致させるよう「手を打つ」(A)ことです。このように“PDCA”サイクルを継続的に廻し続けることが重要です。
連動した販売計画・在庫計画・生産計画が全ての出発点となります。これらの3計画は社内でオーソライズされた、事業計画に基づいていなければなりません。
PSI需給管理を行うために専任の組織とシステムが必要です。販売計画は営業部門で、生産計画は製造部門で、肝心の在庫は両者がバラバラに行い、ノーコントロール状態といった企業があります。バラバラな管理はそれぞれの利害による部分最適な計画となります。PSI一元統合管理では、全体最適の観点から生産・販売・在庫を、統合的に一元管理する組織体とシステムが必要なのです。図3に「PSI受給センター」と名づけられた、某中堅機械部品製造業の組織と業務を示します。だいたいの位置づけが判ることで、ご参考になると思います。

図3:PSI需給組織の業務

第2回目は長文となりましたが、在庫の意味をもう一度考え、SCM(サプライチェーンマネジメント)と、その前提となるPSI(生販在)統合管理についてお話ししました。次回は「在庫分析」と題して分析手法とともに在庫評価の考え方をお話しする予定です。

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著者プロフィール

北村 友博 氏

ピークコンサルティンググループ株式会社

北村 友博 氏

ピークコンサルティンググループ株式会社 代表取締役

早大商学部卒、大手機械部品メーカーにて、生産管理, 設計技術, グループウェアなどのシステム化、国内・海外子会社システム構築を担当、情報企画部長(理事)を経て、ビジネス・コンサルティング会社を設立。以来、中堅・中小製造業、約70社の経営指導、システム改善指導をおこなっている。(社)日本技術士会に所属し、理事・副会長を勤める(2005~2009)、京都地裁専門委員(情報技術)・民事調停委員、関西大学環境都市システム工学部・講師。

所属:日本技術士会、関西情報技術士会、日本生産管理学会

専門:IS運営、ITビジネス改善、生産管理、工場改善,MOTなど

著書:生産管理システム構築のすべて(2010・日本生産管理学会賞) 他以上

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