2019年03月19日更新

コスト改善に繋がる院内業務改善 第02回 医療機関の経費削減 外部努力編

株式会社FMCA 代表取締役 藤井 昌弘 氏

前回のコラムでは、経費削減には順序があり、最初に内部努力による経費削減に取り組むべきと記した。これは、医療機関と取引のある企業へのアピール、意思表示と捉えることもできる。すなわち、「自分たちも真剣に経費削減に取り組んでいるので、是非協力してほしい」ということを言葉だけではなく態度で示すことが重要である。
医療機関と取引関係にあるのは、医薬品や診療材料の卸売企業や、システム企業、さらに委託企業なども含まれ、長期に渡り定期的に取引関係にある企業から、スポット的な取引企業まで非常に多くの企業にわたる。今回は外部取引企業の協力を得て、経費削減に取り組むということを中心に話をするので、スポット的な取引企業ではなく、毎月定期的に取引関係にある企業が対象である。

最初に、医療機関が行わなければならないことは、これから協力を仰ぐ企業へ丁寧に説明することである。半ば脅かしながらの一方的な値引き要求やいきなり相見積りを取ることは一時期的な、または多少の削減効果はあるかもしれないが、中長期的にみれば機会損失的なデメリットの方が大きいので、絶対にしないほうが良い。相手も生身の人間なので、そのような手法よりも取引企業を自分たちの仲間に引き込み、自ら率先して協力を提供してくれるような関係を構築したほうが、労力が少なく、はるかに大きなメリットが得られる。以下に調達担当者の間違いやすい調達活動のチェック表を表記するので担当者はチェックしてほしい。

  • 取引先の営業と常に良い関係でありたいと常に考えている
  • 日頃、営業担当には様々な無理を言っており、借りがある
  • 営業担当を便利に利用しており、継続したいと思う
  • 自分たち調達担当者にも面子がある
  • 調達担当者の深謀遠慮で、調達を避けたがる
  • 「契約」の取引継続・維持を主張し、変化を好まない
  • 誰が調達コストの管理者か分からない(決定者が不明確)
  • 調達担当は明確だが、調達価格をチェックする牽制機能が院内にない
  • 集中購買をして調達価格を改善したいが、推進体制は誰か分からない
  • 現場に取引先の選定や取引条件を委ねてしまう
  • 当初の購入価格が大幅値引きだったので、安易に契約してしまったことがある
  • 医師や各部門など、利用者側から強い圧力がかかるが多い
  • 品質やサービスが重要であり、コストは二の次という風潮がある
  • 営業のバーター取引の場合は、コスト低減要請はタブーと思う
  • 生命の重視、医の倫理などの観点から先行調達し、価格調達を阻害している
  • 調達担当者に限らず、現状に満足し変化を好まない
  • 経営トップが圧力をかけてくる
  • 経営トップの方針が不明確
  • 経営トップは、方針は出すが、現場に浸透していない
  • 調達コスト低減率や金額の実績を把握していない(上司も関心が薄い)
  • 過去5年間価格を見直していない商品やサービスがある
  • コモデティ商品(薄利商品)なのに強い値引き要請をしてしまったことがある
  • 全体の調達実績や仕入の取引単価の詳細な実績表がない
  • あいまいな予算策定となっている
  • 計画時の要求機能と実際のサービス内容にギャップがある
  • 取引契約条項が明確でなく、お互いが都合の良いように解釈している
  • ベンチマーク(比較)したがらない(していない)
  • 調達担当者が商品スキル不足で折衝に自信がない
  • 長い取引関係から技術力、供給力、財務内容など必要な調査(力)が不十分
  • 今までの調達単価の推移や価格調整の経緯がわからない
  • 折衝活動を担当者にまかせっきり
  • 値引き要請をかわされることが多い
  • 強い営業担当の恫喝・圧力に屈してしまうことがある
  • 業務委託先に、その下請け先の調達価格を丸投げしている
  • 1回目の見積もり金額が妥当かどうか分からない

取引企業と良好な関係を構築する第一歩となるのが、「丁寧な説明」である。何を説明すればよいのかというと、場合によっては現在の自院の経営状況などもある程度説明しなければならない。さらに自院は、何をあなたに望んでいるのか。何を期待しているのかということを企業毎に明確に伝えることが重要である。期待されれば人はその期待に応えたいと考えるものである。ある会社には、「他医療機関の取組み事例」であったり、また他会社には「収益を増やすアイデア」や「使用量を少なくする方法」、「使用データの活用方法」といった具合である。企業毎にどのようなことを希望すれば良いか分からない場合は「貴社ができる当院にとってメリットのある提案」をお願いすれば良い。各企業は、自分たちのフィールドの特徴を踏まえて、様々なユニークな提案をしてくれることだろう。そして、この医療機関のことを真剣に考えてくれて提案してくれる企業こそ、一緒に手を結ぶべき企業である。
取引企業に望むことと言えば、価格を安くしてほしいということだが、相手もボランティアではないので、採算を度外視してまで、価格を下げてはこないし、下げられない。このような当たり前のことを無視して、値引き要求ばかりしても、「値段のことしか言ってこない顧客だ」と相手企業から思われるだけである。また相手側の事情などにも配慮すべきである。一般的に購入量が増えれば、単価を下げることは可能である。であれば、院内では、1品目1種類に集約することで、1品目当たりの購入量を増やすことができる。様々な事情で1種類に絞り込むことができないケースでも種類数を少しでも減らせることができれば、やはり1種類当たりの購入量を増やすことができるので、価格の交渉材料となりうる。また、分野毎の取引企業数を集約することも企業当たりの取引量を増やすことに繋がるので、ケースによっては検討してみると良い。同時に在庫管理も徹底すべきである。特に材料費は、購入には費用が掛かるが、医療機関はその材料を患者さんに使用して、初めて収入になる。したがって、在庫を抱えてばかりだと、支出は多く収入は増えないことになる。SPDシステムなどを導入して、定数在庫制を採用することもひとつの方法である。

委託費についての実際の事例を紹介する。清掃委託であるが、この医療機関では、約10年前に、(価格が安かった企業へ)委託企業が変更になってから、一度も価格交渉を担当者が行っていなかった。10年前は、安かったかもしれないが、現在は必ずしも満足できる委託契約価格ではない。そこで、職員に清掃や清掃会社に関してのアンケートを実施した。その結果、職員からは「何かあった際の都度清掃の対応に不満がある」さらに汚れる機会が多い(少ない)場所と清掃回数の契約内容が現状と合っていないなどの問題点が明らかになった。同時に清掃面積から1㎡当たりの清掃委託単価を計算し、委託企業との交渉に臨んだ。汚れる機会が多い(少ない)場所と清掃回数については、見直しをしてもらい、適正な業務量となり、職員のアンケート結果についても開示し、単価交渉を開始した。予め1㎡当たりの単価を計算してあったので、目標妥結単価なども設定しやすい。最終的には清掃委託費の減額に繋がった。清掃委託企業にしてみれば、汚れてもいないところを、契約だからといって決まった回数清掃して、しかし職員からは評価されていないという状況から、清掃に対する要望が明確になり、その要望項目に対応することにより清掃委託企業や清掃担当者の評価にも、モチベーションのアップにも繋がり、医療機関と委託企業が良好な協力関係となった。もちろん、その後毎年、契約交渉は行っている。

著者プロフィール

株式会社FMCA
代表取締役

藤井 昌弘(ふじい・まさひろ)氏

1984年:医療関連企業入社
営業を経て、医療機関の運営改善や業務改善など大型プロジェクト専門職、医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事
2005年:退職及び株式会社FMCAを設立し同社代表取締役に就任

株式会社FMCA 代表取締役 藤井 昌弘(ふじい・まさひろ)氏

執筆
「病院のマネジメント」共著 建帛社
「医療機関における原価計算の取組み」、「診療圏調査への取組み」
「紹介率と医療連携」(完全返信を目指したシステム構築と運用)
「診療所における診療録の電子化についての一考察」
「新入社員のための教育研修ガイドライン」(ユニット1:医療とは何か?)日本衛生検査所協会 他
藤井昌弘の「医療・介護のWhat do you think?」(大塚商会)など継続掲載中

会員 他
日本医療・病院管理学会 会員
NPO法人HIS研究会 会員
MJS税経システム研究会 客員研究員(研究テーマ:戦略的医療機関経営)
埼玉女子短期大学 非常勤講師(担当科目:コーディング、医療法規等)
早稲田速記医療福祉専門学校 兼任講師(担当科目:財務諸表/原価計算・医療経営指標など)

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