2017年07月18日更新

SCM“人間系業務”にこそ改革の可能性あり!実践事例で解説 第05回 電子部品・ハイテク部品製造の需給調整

株式会社フェアウェイソリューションズ 代表取締役社長 殷 烽彦 氏

前回のコラムでは、製造業全般における「人間系業務」、特に「需給調整業務」効率化・標準化について簡単に説明しました。
今回は、日本の製造業の中で競争力の高い分野である、電子部品・ハイテク部品の製造業について特に解説します。

電子部品・ハイテク部品製造業をとりまく業界背景

ここ10年来、日本では、携帯電話やパソコン、家電などのセット品メーカーが、激しいグローバル競争の中でことごとく敗退、またはシェアの大幅低下という事態となってしまいました。
原因は様々考えられますが、規模・価格・スピード・ローカライズ(マーケティング)・グローバル人材などの弱みが、複合的に作用したと考えられます。また、パソコンやスマートフォンなど完成品に使われる様々な部品について、標準化・モジュール化・高性能化が進み、コモンディティー化された製品が、誰にでも簡単に組み立て製造できるようになったことも、衰退の大きな要因の一つではないでしょうか。

一方、セット品メーカーの衰退を尻目に、電子部品などの部品・素材系メーカーはグローバルに成長を続けています。その理由は何でしょう。

日本の部品メーカーの強みとは

部品・素材系メーカーが持続的に成長出来る理由は、限定された領域における圧倒的な「技術力」、絶え間ない「マーケット創造力」、「迅速な対応力(スピード)」がポイントであると考えられます。

技術力の強み

日本の部品メーカーには、その専門領域において他者の追随を許さない研究開発力、生産技術力があります。それは他者が容易に真似できない、企業が絶え間なく進化する力の根源です。
同時に、部品・素材類は製品自体の「物」が小さいだけに、比較的に巨大資本に依存しない形で量産、グローバル展開が可能です。Only One、Number Oneの地位が確立しやすいと言えるでしょう。

マーケット創造力の強み

日本の部品メーカーは、時代のトレンドに沿った新規マーケットを創出し続けています。
伝統的な家電・パソコンなどのメーカーが衰退し始めると、新しいマーケットとしてスマートフォンや車載電子機器に素早く対応して来ました。今後もEV、自動運転に代表されるように、車載用部品は拡大が見込めますし、さらに量的に爆発的に増えるであろうIoT関連機器の部品、高度化する医療機器用部品など、適用分野はますます拡大して行きそうです。

迅速な対応力(スピード)の強み

3つ目にあるのは、顧客であるセット品メーカーからの様々な要求に対する、迅速な対応力です。
顧客仕様に合わせたカスタム部品の製品開発のみならず、顧客の部品在庫を管理・コントロールするVMI(Vendor Management Inventory)サービスを提供し、セット品メーカーの生産拠点に合わせて、自社の生産拠点もグローバル展開して成長して来ました。

この「迅速な対応力」をささえるのは、まさに「需給調整力」です。
電子部品・ハイテク部品の業界において、需給調整業務は、その特殊性により大変難しいことを次項で解説しますが、部品メーカーの必死の努力によって、セット品メーカーは自社でコストをかけずに、部品在庫の適正供給を支えられているのです。

電子部品業界の需給調整の難しさ

この業界における需給調整業務には、様々な難しい点があります。
他の多くの製造業では、需給調整は“人間系業務”とされており、主にExcelシートで管理し、担当者の経験値で行われていることが多いのですが、この業界に関しては、人間系ではまず限界である、と言っても言い過ぎではありません。

  • 難題1 カスタム品が多い
    セット品メーカーの要求に合わせた形態で提供するため他社への転用が出来ない。
    • ⇒ 過剰在庫が売れ残ると、即、デッドストック化のリスクに。
    • SKU数が増大、管理負担の増加
  • 難題2 VMIが多い
    各セット品メーカーの拠点分行うため、在庫拠点数(ストックポイント)が増大

    ①と②の掛け算で管理対象が爆発的に増大

  • 難題3 需要が読めない
    基本的にセット品メーカーのフォーキャストがあるが、頻繁にフォーキャストが変更される。確定受注が来るのは直前。かつ欠品は厳禁!
  • 難題4 製品寿命が極端に短い
    3ヶ月、半年で、より高性能な製品に入れ替わる。
    • ⇒ 残ったカスタム品はデッドストック化のリスクに。

電子部品業界の「迅速な対応力」強化の要点

このように困難を避けて通れない需給調整業務のため、弊社クライアント様でも以前は数十種類のExcel帳票を用いて、人間がてんやわんやしながら日々の調整対応に追われており、結果的に本来の計画見直しは月に1回しか行われていない、という状況がありました。

では、この環境下でどのような改革により、「迅速な対応力」を強化出来るでしょうか。
そして、全般的にExcel(人間系)で行っていた内容を、どのようにシステム化し改革を支援出来るでしょうか。
この業界での大手から中小含めた様々な構築経験から、いくつかポイントを紹介します。

「迅速な対応力」強化の要点

  1. 需要と供給の一元管理
    爆発的に増える管理単位(例えば、1000箇所のVMIに50 SKU があり、そのSKUが3ヶ月ごとに変わる)に対して、「Excel」スタイルの管理は全く追いつくものではありません。
    デイリー単位で、需要と供給の変化を一元的に保持し、可視化する機能が必要です。
    当然ながら、既存の販売や生産システムとリアルタイムに近い接続が求められます。
  2. 需要バケットと生産バケットの短縮
    需要変化への対応力強化のためには、月次バケットから週次バケットへ、週次バケットからデイリーバケットへの短縮が有効です。極端な場合、従来1ヶ月間の需要変動に備えるために必要としていた在庫を、一日分の需要変動だけに備えれば良くなり、大幅に在庫リスクは減少します。 言うは易し、ですが、バケット短縮のためには、前述の需給の一元管理化が必須です。(それがなければ、膨大な作業を人海戦術で行わざるを得なくなります。)
  3. 迅速な供給力
    輸配送リードタイムを可能な限り短縮するためには、生産拠点をセット品メーカー拠点の近くに設置したいものです。もしも部品製造の性質上、新規生産拠点構築が難しい場合、常に複数の輸配送手段を確保します(航空便、船便、鉄道、陸上輸送など)。
    需給バランスが崩れ、欠品が発生しそうな際にも、「緊急輸送」という手段を保持していれば回避が出来ます。(それがなければ、常に余分な在庫を用意し、リスクを抱えることになります。)
    複数の生産拠点で、同一SKUを代替生産できる体制も有効です。
  4. 在庫基準のルール化・標準化
    大量の管理対象(例:1000箇所のVMI×50 SKU)に対して、供給を適切に自動コントロールする仕組みを構築すれば、人手をかけない管理が可能になります。
    そのためには、各VMI倉庫、SKU毎に在庫基準を設定する必要があります。この時の在庫日数は、過去実績から求めるのではなく、未来需要を満たす日数で計算することが肝要です。需要の変動に対して、欠品を防止しつつ、在庫過剰にもならない適正供給量を、自動で算出することで、大幅な業務コスト削減が可能になるでしょう。
  5. 需給のモニタリングと緊急時の対応力
    1~4の全てを行ったとしても、突発的な需要増加や供給力減少(歩留まり、品質問題、輸送問題、自然災害など)は現実として起こりえます。これに対処するためには、需要と供給の変動を常にモニタリングし、未来に起こり得る深刻な問題に対して、アラートを自動生成できる機能が不可欠となります。
    問題発生を事前に検知できる仕組みを作っておくことで、迅速に他の生産拠点での緊急対応や、高速な輸送手段への切り替えを行い、トラブルを未然に防ぐことが可能になります。

これら一連の改革を実行し、また絶え間なく持続的に運営して行くためには、「需給調整」を中心とした専門の情報システムの活用は不可欠になって来ています。
実際、海外や日本の大手電子部品メーカーでは、他の業界と比較して、「需給調整」分野のシステム化がかなり進んでおり、これらメーカーの強い競争力を生み出す原動力の一つとなっていることは間違いありません。

著者プロフィール

株式会社フェアウェイソリューションズ
代表取締役社長

殷 烽彦(いん ほうげん/Fengyan Yin)氏

1987年3月 京都大学工学部情報工学科卒
1989年3月 京都大学工学研究科 情報工学専攻卒
1992年4月 ウッドランド株式会社(現 フューチャーアーキテクト)入社。
PIM、CRM、マルチメディアなど様々な情報システムの設計・開発に従事。
1997年7月 Toona Softs Pty Ltd 入社。φ-Conductorのシステム設計責任者として、日本・オーストラリア両開発チームの指揮を担当 。
2003年4月 株式会社フェアウェイソリューションズ 入社。大手電子部品メーカー・商社などのプロジェクト責任者として導入に携わる。
2005年4月 同社 取締役 就任
2007年4月 同社 代表取締役社長 就任

殷 烽彦(いん ほうげん/Fengyan Yin)氏

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