2019年09月13日更新

中小企業必見!知っておくべき働き方改革関連法のポイントと実務対応 第04回 新様式の36協定と労働安全衛生法の改正による労働時間の適正な把握 ~企業が行う実務~

社会保険労務士法人C・プレイス 代表社員 渡邊 敦子 氏

今回は労働時間に関して企業が行わなければならない実務として新様式の36協定を記載する際の注意点と労働安全衛生法の改正による労働時間の状況の把握についてご説明します。

意外と知らない労使協定の話

新様式の36協定のお話の前に、労使協定について意外と知られていないと感じることについてお伝えします。
一つ目は協定書と協定届の違いです。
労使協定の定義は「労働者の過半数を代表する者(労働者の過半数で組織する労働組合があるときは労働組合)と使用者が締結する書面による協定」です。労働基準法で定められている労使協定は、協定内容は決められていますが形式に決まりはなく、書面により作成し、従業員代表と使用者の双方が記名・押印することにより成立します。これが「協定書」です。
「協定届」というのは、どのような内容の協定書を締結したかを労働基準監督署に届け出るための形式が決められた書式です。
36協定だけは労働者代表の記名・押印があれば、協定届が協定書を兼ねることができるとされていますが、その他の労働基準監督署に届け出る労使協定は協定届を作成するだけでなく協定書も必要です。労働基準監督署では届を受理する際に協定書の有無を確認されることはほぼないので、1年単位の変形労働時間制や裁量労働制の協定届は作成していても、協定書を作成していない会社をよく見かけます。協定届は協定書の内容を届け出るもので、労使協定ではありません。みなさんの会社では労使協定が適切に締結されているか確認してみて下さい。

二つ目は労使協定の周知義務です。
労働基準法で決められた労使協定を締結したときは、掲示、備え付け、書面の交付等によって労使協定の内容をその事業場の全ての従業員に周知させなければなりません。労使協定をファイリングして保管している会社をよく見かけますが、内容を周知させていないことでトラブルが発生することがあるかもしれませんので、必ず周知させて下さい。なお、周知義務が定められているのは労働基準法に基づく労使協定で、例えば育児・介護休業に関する労使協定の周知は努力義務となっています。

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さて、ここからが本題の新様式の36協定のお話です。

新様式の協定届はいつから届け出るか

大企業は本年4月1日、中小企業は2020年4月1日の時間外労働の上限規制が適用される日以降、新たに締結する協定から新様式で届け出ることになりますが、中小企業でも上限規制を遵守する内容で協定を締結する場合は新様式で届け出ることが可能です。

新様式の協定届の変更点(特別条項なし)

特別条項を付けない36協定届は従来の様式とそれほど大きく変わった点はありません。
延長できる時間の定めが、従来は「1日」「1日を超える一定の期間」「1年」だったものが、「1日」「1箇月」「1年」と変更になりました。多くの会社では「1箇月」の延長できる時間を定めていたと思うので、実務上はそれほど影響がないと思いますが、もし「2箇月」「3箇月」等の期間で定めていた場合は見直しが必要です。
また、「時間外労働及び休日労働を合算した時間数は、1箇月について100時間未満でなければならず、かつ2箇月から6箇月までを平均して80時間を超過しないこと」という文章の後にチェックボックスがあります。これは協定による延長できる時間が短い場合でも、必ず協定しなければならない内容なのでチェックが必須です。 その他にも若干の変更はあるものの、実務上はほとんど影響がないと思います。

特別条項付協定届の変更点

特別条項の協定事項として今回新たに追加されたのが「健康および福祉を確保するための措置」です。措置内容は、協定届の裏面に記載されており、その中から選択し具体的内容を記載します。協定届裏面に書かれた措置の内容は以下のとおりです。

  1. 労働時間が一定時間を超えた労働者に医師による面接指導を実施すること。
  2. 深夜労働の回数を1箇月について一定回数以内とすること。
  3. 終業から始業までに一定時間以上の継続した休息時間を確保すること。
  4. 労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、代償休日又は特別な休暇を付与すること。
  5. 労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、健康診断を実施すること。
  6. 年次有給休暇についてまとまった日数連続して取得することを含めてその取得を促進すること。
  7. 心とからだのけ健康問題についての相談窓口を設置すること。
  8. 労働者の勤務状況及びその健康状態に配慮し、必要な場合には適切な部署に配置転換をすること。
  9. 必要に応じて、産業医等による助言・指導を受け、又は労働者に産業医等による保健指導を受けさせること。
  10. その他

選択するのは一つの措置に限らず、想定されるものが複数あれば複数記載します。

従来の協定届では特別条項を発動する具体的な事由のみ記載していましたが、新様式では、業務の種類ごとに事由を決めなければなりません。また、従来は「限度時間を超えて労働時間を延長しなければならない特別の事情(臨時的なものに限る)」があるときに特別条項を発動することができましたが、改正により「当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等」となり、より突発的・臨時的な事由に限られたと思います。
ただし、厚生労働省のリーフレットに、「臨時的な必要がある場合の例」として「予算、決算業務」が書かれていました。決算は毎年のことなので当然予見することができるものと考え、特別条項発動の事由にはならないのではないかと思いましたが、労働基準監督署に確認したところ、毎月発生することではなく恒常的な時間外労働の原因となるものではないので特別条項発動の事由になる、ということでした。労働基準監督署では、毎年恒例のもので繁忙が予想できるとしても、恒常的な時間外労働の原因となるものではなく、かつ労使で協議して決定したものであれば、不適当とは言えないと判断するようです。また、通常予見することができない事由を、事前に協定するのは難しいので「機械トラブルの対応等」のように「等」をつけて事由が曖昧になったとしても、問題なく受理されるようです。

特別条項付協定届の注意点

特別条項を適用するときの手続きについては従来からの協定事項ですが、厚生労働省の記載例で「労働者代表者に対する事前申し入れ」と書かれているせいか、記載例と同じ内容で協定している会社を多く見かけます。労働者代表者は管理監督者ではないので、実際に特別条項を発動する事態が発生したときに、全く関係ない部署にいるかもしれない一般社員に特別条項を発動することを伝えるのは現実的ではないのではないかと思います。実際には、限度時間を超えて働く従業員本人に直接伝えるか、その従業員の所属長に伝えるかのどちらかではないでしょうか? 手続きについては「対象者に個別に通知」又は「所属長に通知」とするのが現実に即していると思います。(もちろん36協定を締結しているのは労働者の代表者なので、代表者に申し入れてもおかしくはありません。)

特別条項により限度時間を超えて労働させることができる時間については上限時間が決められました。上限時間については前回ご説明しているので省略しますが、限度時間を超える場合でもできる限り限度時間に近づけるように努めなければならないと定められています。
厚生労働省が公開していた記載例では、当初は月90時間(年6回)、月80時間(年4回)という内容でしたが、過労死認定基準に近く、長時間労働を認定するものだということが問題となり、月60時間(年6回)など大幅に時間を変更した内容に差し替えられました。
協定違反とならないように時間は長めに設定している会社も多いと思いますが、「できる限り限度時間に近づける」という努力義務も踏まえ、協定している時間が適正かどうか検討する必要があると思います。

特別条項についてのご説明は以上です。
次に、労働安全衛生法の改正による労働時間の状況の把握についてご説明します。

労働基準法による労働時間の適正な把握

労働基準法では会社に労働時間を適正に把握する義務があるとされており、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」により、客観的記録を基礎とした労働時間の記録など会社が講じなければならない措置が決められています。このガイドラインによる労働時間の把握は時間外労働等の管理を目的としており、管理監督者や裁量労働制などのみなし労働時間制が適用になる従業員は対象から除かれています。

労働安全衛生法の改正による労働時間の状況の把握

今回の労働安全衛生法の改正では長時間労働者に対する医師の面接指導の履行確保を図るという健康管理の面から、高度プロフェッショナル制度適用者を除く全ての従業員の労働時間の状況の把握が義務となりました。

労働時間の状況の把握とは

「労働時間の状況」とは「労務を提供し得る状態にあった時間」であり「労働時間」とイコールではありません。例えば、仕事はしていないけど、自分の仕事の席につきパソコンの電源がついている状況はいつでも仕事にとりかかることができる状態といえるので、把握すべき時間となります。
このような状態が、いかなる時間帯にどの程度の時間あったかを把握しなければなりません。

労働時間の状況の把握方法

労働安全衛生法では労働時間の状況の把握方法は、タイムカードによる記録、パソコン等の使用時間(ログインからログアウトの時間)の記録等の客観的な方法とされています。客観的な方法により把握することが難しいときは、従業員の自己申告による把握が考えられますが、自己申告による場合は、申告が適正かどうか会社による確認や必要に応じて実態調査も必要となります。
必ずしも労働時間とは一致しない時間なので、会社はどのように把握するか検討する必要があります。

今回のご説明は以上です。 次回は知っておいた方が良い働き方改革によるその他の主な改正を簡単にご説明します。

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著者プロフィール

社会保険労務士法人C・プレイス
代表社員

渡邊 敦子 氏

平成8年 社会保険労務士試験合格後、社会保険労務士事務所勤務を経て、平成11年個人事務所を開設。社会保険労務士事務所の法人化が認められた平成15年に事務所を法人化。
東京都で7番目の社会保険労務士法人として社会保険労務士法人C・プレイス設立。平成25年特定社会保険労務士付記。現在は中小企業から大企業まで100社を超える企業と顧問契約を締結し、労務相談、就業規則等の作成をメインに活動中。

渡邊 敦子 氏

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