2019年10月03日更新

変革の時代を生き抜く製造業向け特効薬シリーズPART-2 第01回 出図遅れに効く薬(1):モジュール化設計技法の活用

株式会社経営システム研究所 代表取締役社長 冨田 茂 氏

はじめに

貿易摩擦・中国やASEAN製造業台頭・人手不足・自国優先主義など、製造業を取り巻く環境は、厳しさを増す時代が続いています。
当コラムでは、これから個別受注生産製造業で起こる諸問題を、どう理解し、対応していけばいいのかについて、「モノづくりの特効薬PART-2」と銘打って、創意工夫ポイントを、前シリーズよりも、一層深くお話しさせていただきます。

4回シリーズの要旨

第一回:出図遅れに効く薬(1)モジュール化設計技法の活用
出図遅れ防止対策として、モジュール化設計技法を、活用する企業が増えています。ここでは、非設計部門の方でもわかるように、モジュール化設計技法の導入と活用についてのお話しを、させていただきます。

第二回:出図遅れに効く薬(2)仕様機能展開と設計不通化出図
仕様機能展開によって、設計を通さずに出図するしくみ作りのプロジェクトが、多くの企業で進められています。ここでは、その方法や進め方について、お話しをさせていただきます。

第三回:出図遅れに効く薬(3)出図日程計画と製番部品表
設計出図計画を作っている会社は、多くありますが、残念ながら、出図が計画通りでうまくいっている企業は少ないのが、現状です。ここでは、製番部品表を利用した出図管理について、お話しさせていただきます。

第四回:出図遅れに効く薬(4)標準設計と製番設計
設計効率を決める大きな要素の一つに、標準設計と製番設計の組織構成と、組織連携問題があります。この問題について、ここではお話しさせていただきます。

第一回.出図遅れに効く薬(1):モジュール化設計技法の活用

出図遅れ問題は、個別受注型組立製造業の、殆ど全ての企業で発生している問題です。 出図が遅れると、手配が遅れ、部品入手が遅れ、組立が遅れ、ムダムラムリが多発し、納期が遅れ、生産性が低下し、残業・休出や、品質不良が多発するようになります。
また、個別受注事後設計が必要な会社では、設計部門の案件対応キャパシティが、受注活動そのもののキャパシティを決めていることも、よくあります。このような会社で、設計生産性向上による出図遅れ防止を実現すると、設計キャパシティ向上によって、売上高や利益額といった企業業績が、急速に拡大することも、珍しくありません。
更に、経営環境の激変期にある今日では、出図遅れを解消するだけではなく、設計生産性の向上によって、次の時代の屋台骨となる新製品の開発要員を創出する動きも、盛んになってきています。
出図遅れと設計生産性向上を、実現する手段として、最も効果的なものの一つが、モジュール化設計技法の導入です。今回は、出図遅れ対策として、多くの企業で続々と導入が進む、モジュール化設計技法について、お話しさせていただきます。

1.設計者個々人での図面再利用 ~製番部分組図一覧表~

個々の設計者が、何年にもわたって、精魂を傾けて描き溜めた図面を、再利用したいと考えるのは、自然なことです。
図面を再利用しやすくするために、EXCELなどで、型式別にシートを起こし、横軸に製番・向け先を、縦軸に製品部位をとり、マス目の中に、その時に使った部分組図の番号を記入し、個人の覚えとして持っておくという整理の仕方は、自然発生的によく行われています。これを作っておけば、自分が流用したい図面を捜す手間が、かなり省けることになるからです。このようなシートは、『製番部分組図一覧表』などと、呼ばれます。
製番部分組図一覧表(図1)は、個別受注事後設計型組立製造業の設計部門における効率化チャレンジの、大事な第一歩です。この一覧表を基盤として、色々な工夫が生まれてくることに、なるのです。

図1 製番部分組図一覧表

製番部分組図一覧表

実際に、この製番部分組図一覧表を作って、使っていくと、以下にあげるような、設計効率改善の種が、自然に発生してきます。これが大事なのです。

  • 1)
    担当した製番の数が増えて行くと、横に広がっていき、見づらくなる。
  • 2)
    部分組図番号だけの記録の場合、本人でも時間が経つと、どんな図面か分からなくなる。
  • 3)
    新人や部下が、一覧表を見ても、どんな図面か分からず、利用できない。
  • 4)
    図面構成や図面表現範囲、図面間の取り合い部分が、設計者毎に異なるため、設計者間で図面が流用できない。

2.部分組図検索・流用方法の整備

上記1)~3)は、部分組図の検索と管理の問題です。部分組図は平均構成部品点数が20~30点くらいあります。部分組図を流用しようとして、過去に同一部位に使われている部分組図を引っ張り出して、見比べて、どこが違うのかを確認する作業は、多くの手間がかかります。実際、若い設計者に、問題点カードなどを配って、困っていることを書いてもらうと、部分組図の検索問題が、上位に来る会社が、珍しくありません。
では、『どうすればいいのか?』と、いうことになります。一般に、部分組図検索・流用問題を解決するためには、『機能項目・条件』による管理が必要になります。
子部品図は、材質・寸法・形状などによって、図面を検索することが、比較的容易に行われます。多くの会社で、実際にこれらを使って検索が行われています。
しかし、部品を集合させた部分組図は、検索・管理する手段の整備が、遅れているのが現状です。
一般に、部分組図を一発検索するためには、図2に示す“機能項目・条件”が、用いられることに、なります。

図2 部分組図の検索

部分組図の検索

この部分組図管理方法を、型式単位まで広げて、活用している例を、図3に示します。

図3 型式別部分組図管理表

型式別部分組図管理表

ご覧のように、型式別部分組図管理表は、製番や向け先を付ければ、設計が行う、製番毎の図面リスト、一般に『製番要品目録』と呼ばれる機能で、そのまま受注設計部門で活用できるようになります。右端の、“新図番”欄は、整備されたバリエーション内には、該当する図面が無く、新図が必要になった場合に、新図番号を記入するためのものです。

ここまで整備が進むと、受注直後に、設計部門から製番要品目録が出してくるようになり、出図遅れ問題が、かなり緩和されます。

3.担当者や設計グループを越えた図面検索・流用のしくみづくり

部分組図の完全流用率を高めようとすると、製品図面構成や、部分組図の表現範囲、図面間の取り合い部分が、設計者や設計グループ毎に異なるため、他の設計者やグループが、図面を完全流用しようとしても、できない・・・という問題がよく発生しています。

3-1.製品図面構成と取合い部分の標準化

図面構成の標準化については、以下の4つの視点で検討することが肝要です。

視点1:製品型式が正しく設定できているか?
意外かも知れませんが、製品図面構成が整備できていない企業の約半分で、製品型式が正しく設定できていないことが分かっています。
型式単位に図面構成が設定されるのですから、型式が正しく設定できていないと、
図面構成も正しく設定できないことになるのです。
よくある問題の代表は、同一方法論の製品群の中で、方式の異なる複数の製品が、一つの型式の中に、含まれているというものです。
一般に、製品型式を設定する場合には、以下のa.~f.の順に、定義していくことが、大事になります。また、図面構成の整備は、中型式(基幹型式)を単位として行います。

  • a.
    製品カテゴリー 『~を~する』
    例:動力を取り出す
  • b.
    製品ジャンル 『~を~という方法論で~する』
    例:動力をディーゼルエンジンという方法論で取り出す
  • c.
    シリーズ・大型式 『~を~という方法論の~という方式論で~する』
    例:動力をディーゼルエンジンという方法論の直列6気筒方式で取り出す
  • d.
    中型式(基幹型式) 『シリーズ・大型式を能力などで分けたもの』
    例:1200rpm×1000PSクラス→DEH1000、720rpm×2000PSクラス→DEM2000
  • e.
    小型式 『中型式内での主要部の仕様で分類したもの』
    例:ターボチャージャー付→DEH1000TC
  • f.
    オプション型式 『小型式内での仕様で分類したもの』
    例:海水冷却→DE1000TC-SWC

視点2:部分組図の分割が、正しく行われているか?
製品型式を構成する部分組図の分割が、正しく行われていないケースが、多くの会社で発生しています。
総組図は、一般に以下の階層で、分割されていきます。
総組図>ブロック図>ユニット図>アッシー図>子部品図
『この階層のどこを部分組図の単位とすれば、図面完全流用率が、最も上がるのか?』という視点で、部分組図構成を考えることが、必要なのです。
一般的な産業機械での経験値では、部分組図の分割数は、『総部品点数÷23』程度が、正解となるケースが多いようです。
例:1000点の子部品からなる製品→部分組図の分割数は、1000÷23=43程度。

視点3:1枚の部分組図の中に、変化する複数種類の機能を持たさない。
例:3つの機能部位からなる部分組図があったとして、各々が10通りの変化を持つ場合、部分組図は10×10×10=1000枚持たなければ、完全流用設計は行えません。しかし、これを3つの部分組図に分割すれば、10+10+10=30種類の部分組図を持てば、常に完全流用設計が、できるようになります。
毎回、新図が起きる部分組図は、この問題を内包していることが多いようです。

視点4:仕様で変化する部分組図間の取り合いは、変化する側の部分組図側に持たせる。
例:扉に仕様の異なるセンサーが付く場合、扉の図面ではなく、別途、センサー&取り付け図を作成し、必要があれば、扉の追加工部分図をセンサー&取り付け図に、添付するようにします。こうすることによって、センサーの種類や、取り付け方法が変化しても、扉図には影響が出なくなります。

3-2.受注の都度、毎回新図が発生する

受注する都度、毎回新図が発生する部分組図があり、完全流用設計ができないという問題がある場合で、部分組図分割も、取り合いも正しく行われているケースが、あります。このような場合に必要な視点は、以下の通りです。

視点1.顧客要求仕様を、点ではなく面で受ける設計を行う。
雨のように降って来る1点1点の個別仕様を、ロートで雨を受けるように対応して、完全流用図率を高める視点が必要です。
例:色々な長さの要求がある場合に、長さ1~3mなら図面1が、3~5mなら図面2が、5~8mなら図面3が、適用できるように設計しておくといった、『点を面で受ける』設計を行い、完全流用図率を向上させます。

視点2.自動設計やパラメトリック設計の活用
客先指定の寸法などを入れると、品番や図面が自動生成されるしくみによって、設計者の新図作成作業を無くすという視点。 住設機器や厨房設備などの業界で、よく行われています。

視点3.現場で調整できる設計を行う。
フレキ管や高圧チューブ、角度調整可能な取り付け座、小判形の締結穴などの設計を、予め行っておき、指示を出せば、現場合わせで調整可能とする視点。

視点4.自動編集設計の活用
総組図、ブロック図、ユニット図などを、個別オーダー対応で自動編集設計する視点。
最近は3D画像を用いて、稼働状態まで一気にシュミレーションする動きも、出てきています。

次回は、受注設計を通らずに図面が出てくる、“設計不通化”の仕組みについて、お話しします。ご期待ください。

著者プロフィール

株式会社経営システム研究所
代表取締役社長

冨田 茂(トミタ シゲル)氏

昭和27年生まれ(兵庫県)
甲南大学理学部経営理学科卒業
大手輸送機メーカを経て現在に至る。
製造業を中心に約1000社のコンサルティング実績を持つ。
企業変革をメインテーマとした、経営戦略、企業文化変革、生産改善、設計技術改善、BPR、情報戦略策定指導、原価・業績管理指導などのコンサルティング活動を展開中。

冨田氏

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