2020年12月11日

HACCP法制化をわかりやすく解説! 第03回 どうしても気になる!?―営業許可との関係

株式会社鶏卵肉情報センター 代表取締役社長(月刊HACCP発行人) 杉浦 嘉彦 氏

はじめに

食品衛生法一部改正(2019.6.13)によりすべての食品等事業者が遵守しなければならない“HACCPに沿った衛生管理”には、HACCP原則に基づく衛生管理とHACCPの考え方を取り入れた衛生管理に大別され、規模や業態でわけられること。“考え方を取り入れ”た規模や業態であっても“基づいた”へステップアップ可能であること。そして“考え方を取り入れ”た規模・業態向けの簡易アプローチである手引書も含めて、HACCP法制化は国際機関である食品規格委員会Codexの推奨する一般原則に沿って施策が進められていることなどを前回は解説しました。今回は心配される事業主さまも多い、HACCP法制化後の営業許可・届け出制度について解説します。

国際化が最も出遅れた“施設基準”

HACCP法制化後も営業許可のための基準は引き続き、施設基準となります。前回も解説した通り、Codex一般原則のうち“設計・設備”の項目は、日本の管理運営基準に含まれていません。それは従来の営業許可基準としての施設基準が、自治体ごと食品衛生施行条例が定められ統一したスタンダードもないまま、戦後長く運用されてきた歴史があったためです。過去の経緯では地方自治と中央との縦串を指すことが相当難しくて簡単には変えられなかったのです。

施設の設計・設備(ハード)と、管理運営(ソフト)は言うまでもなく食品衛生を確保する車の両輪です。HACCP実施の前提条件となる要求事項としてやはりCodexの一般原則に「右へならえ」する必要があるのです。厚生労働省は今回の食品衛生法改正7つの柱に「実態等に応じた営業許可・届出制度」(2021.6施行予定)を挙げており、厚生労働省令第87号(2019年12月27日公布)に定めていることは前々回、前回に分けて触れさせていただきました。

現行の施設基準は各自治体の食品衛生施行条例で定めてあり一律ではないため、改正後は国の施設基準を参酌(いわゆる“参酌基準”)して条例を定めることとしました。2021年6月1日施行予定で、施行後3年以内には新たな営業許可を取得する必要があります。なお、新設の届出制度の対象施設にはこの施設基準の適用は不用となります。

新しい営業許可対象業種と新設の届出制度

施設基準の改定と同様に、これまで自治体によりバラついていた営業許可対象業種も全国平準化(図3)が図られました。公衆衛生上のリスクの高い業種・業態を見直して、比較的リスクの高くないものは新たに届出制度を新設、ほとんど公衆衛生リスクのない業種は「届出制度も不要」としました。

自治体によりけりですがおおよそ34業種あった営業許可業種は32業種に変更となりました。また1施設でいくつも営業許可が必要だったような場合に1つの営業許可でくくることも可能(複合型のそうざい/冷凍食品製造業)となりましたが複合型を選択される場合は必ずHACCP原則に基づいた衛生管理が要求されます。ちなみに届出不要業種は、①食品・添加物の輸入、②食品・添加物のうち常温保管製品の貯蔵/運搬、③容器包装済み食品・添加物のうち常温保管製品のみを販売、④ポジティブリストで定める材質以外の器具・容器包装製造、⑤器具・容器包装の輸入/販売となります。

Codex準拠の新“施設基準”はリスクベース

参酌基準とも称される国が示した新しい施設基準は、従来の施設基準(自治体によりバラつきがありますが)と文字数比較すると2倍以上~3倍近い内容となっています。全体を俯瞰すると散見されるのが「汚染を防止できる」「侵入を防止できる」「容易に汚染される高さまで」「必要な照度を」「使用目的に応じた」など数値ではなくリスクベースで施設側に判断を要求する文面となっていることです。

またCodex一般原則に沿って、「手洗い設備の手指再汚染防止」「適温水の供給」「結露やカビの発生、水滴による汚染防止」「病害虫駆除設備」「機械器具の分解洗浄しやすさ(サニタリーデザイン)」「薬剤保管庫の設置」「貯水槽の衛生構造」「廃棄物保管庫の密閉構造」「排水の逆流防止」が、また努力規定であるものの「床面に排水設備(グリーストラップ等)を置かない」が明記されました。

なお、喫茶店などで“そのまま食べられる食品”を盛り付ける、そうざい半製品を加熱するだけの簡易営業、床・壁に不浸透性材料以外の材料を使用する場合、施設外の冷蔵/冷凍設備の設置、食品施設の立ち入り、自動車内調理、自動車内処理(ジビエなど)その他の基準も設けて、リスクベースの根拠があれば現実的な対応が可能となるよう仕立てられています。

従来施設で“施設基準”準拠とするために

上述のように例えば、床・壁が不浸透性材料でなかった(たとえば伝統食品の100年以上たった製造施設)としても取扱う食品や営業の形態を踏まえて、衛生上支障がないと認められる場合には継続して使用が認められます。ただし、あくまでも“リスクベース”が基本となります。

心配されるのは、結露、手指再汚染、排水逆流、室内グリーストラップが現状起きている場合です。まず結露ですが設備設計段階で厨房の排熱量と吸排気とのバランスが取れないことが原因ですから常態化しやすく悩ましく思っておられる施設も多いのではないでしょうか。排気量が大きくても吸気してやらないと流れませんから必要に応じてドアなどを開けるとか、どうしても滞留しがちなスペースならばサーキュレーターで湿った空気を強制的に取り除くなど工夫してみてはいかがでしょうか。

足踏み式や自動の手洗い設備であれば問題ありませんが手でひねる蛇口も多いでしょう。この場合ぜひ使い捨てのペーパータオルを設置していただき洗った手を拭いたタオル紙で蛇口をひねる、これだけで再汚染防止になります。排水逆流はエアギャップを設ければ確実に防止できますが、逆流防止弁というのも売られていますから最小限の設備投資で対応可能です。厨房施設内グリーストラップについては今後新設の場合には採用されなくなるでしょうが、既存なら日常のこまめな床と排水溝の清掃が求められるようになります。若干の設備投資が必要な場合もあるかもしれませんが、オペレーションの工夫で対処できるものも多いことを理解して必要以上に深刻にならないようしていただきたいです。

これら新施設基準への対応に不安を持たれる施設には、50人未満規模や、バックヤード製造、調理業態等のいわゆる“小規模営業者等”が多いでしょう。手引書の多くは施設基準を満たしている前提で開発されていますので、施設基準に不安のある事業者は、その若干の設備投資やオペレーション上の工夫を衛生管理計画に“見える化”しておくという方法もあります。

施設の設計・設備(ハード)と、管理運営(ソフト)という食品衛生を確保する車の両輪。HACCP制度化に対応する衛生管理計画の策定と遵守が2021年6月に間に合わないからといって営業許可の取り消しにはなりませんが、施設基準への準拠は営業許可に直結いたします。ハードの弱点はうまくHACCPに沿った衛生管理のオペレーションでカバーして新しい時代に引き続き認められる、むしろ “見える化”することで第三者に胸を張って説明できる、強いプライドで現場に立てる状況を実現していただきたいです。

拝読ありがとうございました。ご質問がありましたら気軽にお問い合わせください。

著者プロフィール

JHTC専務理事

株式会社鶏卵肉情報センター
代表取締役社長(月刊HACCP発行人)

杉浦 嘉彦 氏

  • 月刊HACCPでオピニオンコラム「私の視点」を執筆
  • JHTCの専務理事として、会の各事業計画、運用および監督に携わる
  • 農林水産省フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)ファシリテーター、NPO日本食品安全検証機構 常務理事、フードサニテーションパートナー会(FSP会) 理事、一般社団法人日本フードラボ&トレーニング協会理事などを歴任
  • 東京都および栃木県の食品衛生自主管理認証制度 認証基準検討委員ほか

杉浦 嘉彦 氏

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