2020年11月24日

HACCP法制化をわかりやすく解説! 第02回 HACCP法制化って? -結局Codex準拠!!

株式会社鶏卵肉情報センター 代表取締役社長(月刊HACCP発行人) 杉浦 嘉彦 氏

はじめに

食品衛生法一部改正(2019.6.13)により広域食中毒捜査の仕組みが大きく変わって、従来は事故発生施設に止まっていた罰則の適用が、サプライチェーンの川上へ川下へと伸びる場合があること、その際に自身の正当性を保証する食品安全の“見える化”ツールHACCPが皆さまの事業を守ってくれること、食品等事業者に要求される義務は、衛生管理計画を自ら作成すること、作成した計画を日々実践すること、実践を記録に残すこと、この3つだけであることを前回は解説しました。今回はいよいよその法制化で求められる“HACCPに沿った衛生管理”とは何なのかについて解説いたします。

”沿った”には“基づいた”と“考え方を取り入れ”がある

多くの読者の皆さまはすでにお聞き及びと思いますが、今回のHACCP法制化ですべての食品等事業者(食品の製造・加工、調理、販売等)に求められる「HACCPに沿った衛生管理」には2つあって、自ら分析し食品衛生上の危害の発生を予防するために必須のステップを見つけてコントロール手段を定める、いわゆる①HACCP原則に基づく衛生管理と、小規模営業者等を対象として手引書を参考に簡略化されたアプローチによる衛生管理を行うとする、②HACCPの考え方を取り入れた衛生管理に大別(図を参照)されます。

この線引きは人数と、業態の2つがあって、食品取扱者の人数が50人未満、あるいは50人以上であっても特定業態ならば②の“考え方を取り入れた”の対象となります。特定業態というのは、対面販売などのバックヤード製造、飲食や総菜など調理(消費期限5日迄を目安に)、包装済み食品の貯蔵・運搬・販売、量り売り業の4業態です。これら人数と業態での線引きを「小規模営業者等」と呼びます。

小規模営業者等に認められる、HACCPの“考え方を取り入れ”た衛生管理は、業界団体が作成した手引書を参考に、簡略化されたアプローチによる衛生管理が認められます。手引書は、インターネットで「厚生労働省 HACCP 手引書」と検索すればすぐに見つかりますよ。

HACCP”原則”はCodexベース!

日本では2014年にHACCP及び一般衛生管理の基準を「管理運営基準の指針(ガイドライン)」としてまとめており、これを基本に各自治体が食品衛生施行条例を改正し、これにより食品等事業者には、従来型の衛生管理基準と、HACCPに基づく衛生管理基準の“選択性”が採られ、現在に至っています。この管理運営基準は国連のWHO(世界保健機構)とFAO(国際食糧機関)合同で設立された食品規格委員会Codex(コーデックス)が定めた、国際的に推奨される実施規格「食品衛生の一般原則」を満たすもので、この実施規格に「HACCP及びその適用のためのガイドライン」が組み込まれています。

つまり、一般衛生管理については、すでにすべての食品等事業者がCodexに沿った基準を守らなければならない法整備ができており、これにHACCPに基づく衛生管理の基準が選択性とはいえをすでに法制化されているということです。今回の法改正はこの選択制だった“基づいた”に小規模営業者等でも実施できる“考え方を取り入れ”を創設して、それを包括する「HACCPに沿った衛生管理」をすべての食品等事業者が実施しなければならないとしたものです。

Codexの一般原則には、食品等事業者が守るべき“設計・設備”“衛生化・保全”“個人衛生”“輸送”“製品情報”“訓練”“農場”の他に、“オペレーション上のコントロール”、そして“訓練”の要求事項が示されています。HACCPガイドラインは、このうち“オペレーション上のコントロール”に付属していて、「原材料・ヒト・環境」から入り得るハザード(ヒトに食物由来の疾病・傷害を引き起こし得る要因)を自ら分析して評価し、それを予防、排除あるいは許容できるレベルまで低減するようなオペレーションを“見える化”していく12の手順と、食品安全を保証するうえで必須の7原則が示されています。Codexの詳細をここで説明するにはスペースが足りませんのでまたの機会にするとして、2019年11月7日に公布された厚生労働省令第68号で示された「食品衛生法施行規則」は上記のうち“設計・設備”“農場”を除いてCodexをカバーする形で法的要求事項が示されています。なお、“設計・設備”の法的要求事項は別の厚生労働省令第87号(2019年12月27日公布)に示されていて、これは営業許可に直結する大事な話なので次回のコラムで解説します。

”考え方を取り入れ”もCodexベース!!

手引書による簡略化されたアプローチが認められるHACCPの“考え方を取り入れ” た衛生管理について、日本独自ではないか?国際的に認められないのではないか?とご心配される声も結構多く聞きます。何を心配されているかというと、国際取引ではHACCP義務化の進む先進各国では輸入相手国に対してHACCPを要求していて、日本も同様の措置を輸入相手国に要求できるのかと懸念されているのです。

結果から申し上げると「できます!」。というのも“考え方を取り入れ”もまったく日本独自ではなく実は、完全にCodexベースの解決アプローチだからです。CodexのHACCPガイドラインでは、その適用編の序文でこう記述しています。

-HACCP原則の適用は各事業者の責任で行われるべきである。しかしながら(略)妨げる障害が、特に「小規模及び/又は未発達事業者」(SLDBs)に当てはまり、弾力性(フレキシビリティ)をもって考えることが重要である。

このSLDBsというのが先述の“小規模営業者等”のことでCodexは、規模的に計画策定の資材(ヒト・財源・情報)を持っておらず、また業態により施設や工程などの実際上の制限を含むオペレーションの性質を考慮に入れるべきとしています。こうした状況では専門的な助言を得られるようにするべきで、そのより所として業界団体や独立した専門家、規制当局が提供するべきであり、オペレーションの工程や種類ごとに適切な専門家が開発した“手引き”が有益であるとしているのです。つまり厚生労働省が業界団体に働きかけている手引書の開発はCodexが国際的に推奨しているアプローチをていねいになぞっているということです。欧米各国でも日本より先に同様の、米国リテールHACCPや、英国SFBBなどCodexの弾力的アプローチに沿ったHACCPの“考え方を取り入れ”た運用が小規模営業者等に対して進められています。

手引書を守らねばいけないのは”誰!?”

HACCP法制化の基本がCodexだとわかりさえすれば、Codex HACCPをよく理解している我々にとっては無茶を要求する法律でないとわかります。多品目製造やその代表例である調理現場でも、江戸時代からの木造施設でもHACCPは可能です。繰り返しますが、安全に食品を提供できるためのオペレーションの仕組みを“見える化”するだけなのですから。ところがCodex HACCPをあまり理解できていないでHACCPに取り組もうとすると、やたら無駄な文書化や記録付けを押し付けたり、これまでのやり方を納得いく根拠もなく変更させようとするなど、製造・調理の現場にいらぬ要求をしてしまいがちです。

代表例として「手引書通りにしなさい!」といわれた場合です。図にあるように“考え方を取り入れ”の規模や業種であっても“基づいた”にステップアップしていただいても良いし、逆に手引書がフィットするならそのままでも構わないということです。屋上屋を架すような言葉には惑わされないようくれぐれも気を付けましょう。

著者プロフィール

JHTC専務理事

株式会社鶏卵肉情報センター
代表取締役社長(月刊HACCP発行人)

杉浦 嘉彦 氏

  • 月刊HACCPでオピニオンコラム「私の視点」を執筆
  • JHTCの専務理事として、会の各事業計画、運用および監督に携わる
  • 農林水産省フード・コミュニケーション・プロジェクト(FCP)ファシリテーター、NPO日本食品安全検証機構 常務理事、フードサニテーションパートナー会(FSP会) 理事、一般社団法人日本フードラボ&トレーニング協会理事などを歴任
  • 東京都および栃木県の食品衛生自主管理認証制度 認証基準検討委員ほか

杉浦 嘉彦 氏

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