2020年06月24日更新
DX時代にバリバリ活躍するIT技術者になるためのこれだけは知っておきたいスキルセット・ガイド第08回 イノベーションを生み出すビジネスモデルのフレームワーク
株式会社サイクス 代表取締役 宗 雅彦 氏
今回のテーマ
今回のテーマはイノベーションを生み出すDXビジネスモデルをどのように構想企画すればよいかということです。筆者は実に多くの方がこのテーマに悩み困っておられることを経験しています。しかしこの問題の解決のヒントになるDXビジネスモデルの典型的な原型(フレームワーク)がありますから、今回はそのフレームワークを紹介し、その読み解き方をお伝えしたいと思います。説明なしに事例を引用する場合、過去記事に解説していますから、必用に応じて過去記事をご覧いただければ参考になると思います。
DXビジネスモデル・フレームワーク
図1
DXビジネスモデルの原型は「サービス・製品の変革の軸」と「デジタルサービスによる変革の軸」の組み合わせであらわすことができます。
デジタルサービスの変革の軸のひとつは前回記事で解説したとおり「デジタル直結によるプロセスイノベーション」です。筆者は企業内のワークフロー(ビジネスプロセス)をデジタル直結でプロセスイノベーションを起こすこともDXであると考える立場に立っています。これを従業員の生産性向上のためのプロセスイノベーションであるという意味で、独自に「EDX」と呼んでいます。
一方、アマゾンのWEBサイトのように、顧客とデジタル直結することによってプロセスイノベーションを起こす場合、筆者は顧客のためのプロセスイノベーションであるという意味で「CDX」と呼んで区別しています。コマツのKOMTRAXのように建機にGPSなどセンサーを搭載してIoT化することは、建機などモノを介して顧客のコトがデジタル直結されるということですから筆者はCDXに分類しています。
さらにCDXにより顧客とデジタル直結すれば、顧客のコトがビッグデータとして収集できますから、それをAI技術の助けもかりて解析すればサービスや製品の磨き上げに役立てることができます。
それではこの組み合わせの読み解き方を具体的な事例と照合しながら考えていきましょう。
「現状のサービス・製品」をデジタル変革する:
EDXの適用
図2
「現状のサービス・製品」を変えることなしに、デジタルサービスにより変革を目指すパターンがあります。ひとつ目のパターンは、EDXにより企業内のワークフロー(ビジネスプロセス)を合理化し生産性を向上させるパターンです。ITツールとしては、ワークフローのオートメーションパッケージを導入したりつくりこんだりすることになるでしょう。定型的な大量処理をする業務であれば最近、注目のRPA(ロボティクス・プロセス・オートメーション)を導入することになります。しかし業務をスピードアップし効率を向上させるためには、ワークフローのオートメーションの観点が大切になるものです。これがもう一歩、RPA活用の効果が発揮できないつまづき所ですが、今回は紙面の制約がありますから、ワークフロー・オートメーションの成功事例を公開事例から紹介させていただきます。
サービス産業生産性協議会『ハイ・サービス300選』から新日本ウエックス株式会社
https://www.service-js.jp/modules/spring/?ACTION=hs_data&high_service_id=279
筆者はこのパターンのDXがもっとも可能性があり、適用領域が広く、潜在需要が多いと考えています。なぜならば宿泊業や小売業など数多くのローカルサービス業が、現状のサービスを変えることなしに、オートメーションによる生産性向上で従業員の業務負担を軽減し利幅を拡大することができるからです。
『ハイ・サービス300選』には、この他にも優れた事例が数多く紹介されていますから、ご興味があればご覧になると有意義な発見が数多く見つかることと思います。
「現状のサービス・製品」をデジタル変革する:
CDXの適用
図3
アマゾンとはいわば小売業のサービスにCDXを適用したものです。コマツのKOMTRAXは、建機の製造販売というビジネスモデルを、CDX(IoT)の適用によりサービス化したものです。このパターンは、顧客とのデジタル直結により顧客のコトがビッグデータとして収集できますから、AI技術の助けを借りて、サービスや製品の磨き上げに活用することができます。
1997年8月に世界初のオンラインDVDレンタルサービスをはじめたNetflixの創業時のビジネスモデルは、WEBサイトで注文を受けDVDを郵送するというものでした。Netflixの創業時のビジネスモデルは、まさしくこのパターンで、あたかもビデオ・レンタルショップがCDXを適用することにより、商品の受注をWEBサイトで行うというビジネスモデルだったのです。
今日でも現状のサービスをそのままに、受注をWEB化するタイプのEコマースサービスが数多く見受けられます。しかしDXで先行する米国ではアマゾンやNetflixといったトップベンダーを除くEコマース専業ベンダーの苦境が伝えられ、あるいは撤退の動向が顕著になっています。そしてその現象は早晩、日本でも起きるに違いないと観測されています。それはなぜでしょうか。
このタイプのDXビジネスの競合はまさにアマゾンやNetflixなどのグローバルなトップベンダーになります。いまからこれらグローバル・トップベンダーと競合するのは無謀という結果になりがちです。
ではなぜアマゾンやNetflixはトップベンダーの座を獲得することができたのでしょうか。その大きな要因のひとつは、これら企業が「現状のサービス・製品のWEB化」に留まらず、「顧客経験変革型」に移行したからです。その方が顧客にもたらすバリューが大きいからです。
「顧客経験変革型」でデジタル変革する
図4
書籍のEコマースサービスからはじめたアマゾンの創業時のビジネスモデルは、Netflixの創業時のビジネスモデルと同様に、既存の書店のビジネスモデルをそのままに受注をWEB化するというものでした。しかし2000年11月に起きた、通称「ドットコム・バブル」と呼ばれたインターネット関連企業への過剰な投資バブルがはじめた余波を受け、アマゾンは経営危機に瀕します。
そこで意を決したアマゾンのベゾスは、顧客経験変革型へのトランスフォーメーションを決意し「弾み車ビジネスモデル」をデザインし実行に移したのでした。(第5回コラムを参照)
図5
コマツのKOMTRAXサービスも顧客経験変革型です。製造業もサービス業も、この顧客経験変革型が大きな流れとなっています。今回は駆け足で要約していますが、次回に踏み込んだ解説を予定しています。
「クリエイティブ型」にデジタル変革する
図6
動画のストリーミング配信で成功を収めたNetflixは既存作品の配信だけでなく、オリジナル作品の制作にも乗り出すようになりました。中でも同社が2013年に配信を開始したドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』は評判を呼び、1クール全話での一挙配信を行ったことから、アメリカ国内では俗にいう「一気見」をする人が続出、社会現象ともなったのです。この作品の大ヒットには「ビッグデータ×AI」が大きく貢献しています。Netflixは、人々がどのような番組をどう観ているかというデータを大量に集めています。どのようなプロフィールをもったひとが、いつ、何の番組を観たか、ある番組を5分だけですぐに観るのをやめてしまった、一気見した、シリーズものであればエピソードをどこまで観たのか、パソコンからみたのか、スマホだったのかなどを細かくデータ収集しています。このデータをもとに人々がどんな番組を観たがっているかをビッグデータ解析し作品を制作したのです。
なぜNetflixはこのように自主製作番組というクリエイティブ領域に進出する必要があったのでしょうか。それはアマゾンのプライムビデオなどあまたの競合がいる中で、どの動画ストリーミング配信サービスでも鑑賞できる作品がコモディティ化し、顧客にとって魅力的ではなくなったからです。このようにNetflixやアマゾンなどトップベンダーの経営努力はクリエイティブ領域にまで及び、いまや映画制作会社やテレビ局と競合するまでになっているのです。
なぜ既存のサービスをWEB化したEコマース専業ベンダーの苦境が伝えられるのみならず、既存のビデオ・レンタルショップのように市場退場を迫られるリアル店舗が存在するのか、その理由の一端が垣間見えるようです。
次回にむけて
今回は駆け足でDXビジネスモデルの変革パターンを俯瞰しました。次回はもう一歩踏み込んで、変革パターンをもう一段、ブレークダウンして理解を深めたいと思います。
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DX時代にバリバリ活躍するIT技術者になるためのこれだけは知っておきたいスキルセット・ガイド 【連載記事】
- 第01回 バリバリ活躍するIT技術者になるための、これだけは知っておかなければならないコア・スキル
- 第02回 DXって、わたしたちのIT導入アプローチと何が違うんですか?
- 第03回 わたしたちがまだ知らないDXの推進プロセス
- 第04回 そもそもビジネスモデルって何ですか?
- 第05回 アマゾンはどのようにして破壊的イノベーションを起こしたのか?
- 第06回 AIはおもてなしサービスの夢をみるか?
- 第07回 イノベーションを生み出すDXビジネスモデルとはなにか?
- 第08回 イノベーションを生み出すビジネスモデルのフレームワーク
- 第09回 顧客経験変革型の弾み車モデル
- 第10回 日本企業のDX推進に必要なこと
著者プロフィール
株式会社サイクス
代表取締役 宗 雅彦 氏
IT経営ナビゲータ
『DX経営の冒険』(Facebookページ) http://fb.me/DXkeiei
UNIX OSの開発業務から、シリコンバレーでのITベンチャーの動向リサーチ・発掘、投資、事業開発業務までを経験し独立。DX(デジタルトランスフォーメーション)をIT経営の変革と定義し、企業の経営変革と顧客創造の推進支援に取り組む。
国際NPO団体IIBA(カナダ・トロント)にてBABOK(ビジネスアナリシスの知識体系ガイド)バージョン3(英語版)開発リーダーなど社会貢献活動にも参加。
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