2020年05月19日更新

DX時代にバリバリ活躍するIT技術者になるためのこれだけは知っておきたいスキルセット・ガイド第07回 イノベーションを生み出すDXビジネスモデルとはなにか?

株式会社サイクス 代表取締役 宗 雅彦 氏

今回のねらい

それでは今回から本連載の中核テーマである、DXのためのビジネスモデル構想企画の方法についての解説を始めたいと思います。前回までの連載記事の内容を頻繁に参照しますから、いままでの振り返りを下記にまとめました。参考にされてください。

  • この連載記事で事例としてとりあげた「業績不振の更科そば」の問題状況(第02回コラムを参照)。
  • 「わたしたちが慣れ親しんでいる従来型のIT導入プロセス」と「DX推進に必要な導入プロセス」の違い(第03回コラムを参照)。
  • ビジネスモデルとはなにか。またこの連載で利用しているビジネスモデル・フレームワークと用語の説明。アナログ版とデジタル版の更科そばのビジネスモデル事例(第04回コラムを参照)。
  • アマゾンはどのようにして破壊的イノベーションを起こしたのか(第05回コラムを参照)。
  • アマゾンのようなデジタルサービスの特徴。DXによってサービス化が進んでいる製造業ビジネスモデルの特徴(第06回コラムを参照)。

それでは今回のねらいです。今回のテーマは、DXにおけるビジネスモデルとは、DXによるイノベーション創出を目的とするものであるが、そもそもイノベーションとはなにか、DXビジネスモデルはどのようにイノベーションを創出するのかを説明することです。また、なぜイノベーションが必要とされているかについても言及します。これはDXがなぜ必要とされるのか、ビジネス上の本質的な目的に関わってくるテーマです。それでは早速、はじめることにしましょう。

そもそも、なぜイノベーションが必要とされるのか?

この連載で取り上げている業績不振の更科そば(第02回コラムを参照)は、なぜ業績不振なのでしょうか。小島店長が20年前に店をはじめたときは手打ちそばのおいしさが喜ばれて順調に営業を続けてきたとあります。しかし最近、競合店が現れ、顧客離れが起きていたり、人手不足という状況変化から外国人スタッフの言葉の問題があって、お客様からのクレームが増えているといいます。業績不振の直接的な原因は、このようなところにありそうです。それでは更科そばはどうすれば良いのでしょうか。

チャールズ・ダーウィンが言ったとされる「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることが出来るのは、変化できる者である」という言葉はあまりにも有名です。知らない方は、おそらくいないのではないでしょうか。しかし更科そばがどうすればよいかという身近な問題を考えたときに、このような言葉を思い浮かべる方は意外に希かもしれません。

「唯一、変化しないことは変化するということだけだ」という言葉もあります。冷たく聞こえてしまう懸念を恐れずに言えば、更科そばが業績不振である根本原因は「更科そばを取り巻く状況が変化しているにも関わらず、更科そばがビジネスモデルを変えずにきたから」です。このことは更科そばに限った話ではありません。さまざまなところでビジネスを取り巻く状況が変化したにも関わらず、業務改善を細かく繰り返して業務の生産性を向上し続けたり、ビジネスモデルを変革するといった行動をとらなかったがために、業績不振あるいは市場からの退場という事態に陥る例はいくらでもあります。

ただし、状況変化の現象はまことに多様です。また状況変化のスピードもケース・バイ・ケースです。強力な規制があるという理由で百年一日、ビジネスモデルを変えずに安定している(ように見える)業界があります(しかし規制が撤廃されればどうなるのでしょうか?)。アマゾンの破壊的なイノベーションで、あっという間の市場退場に追い込まれた企業もあります。あるいは今回のコロナ騒動からの業績低迷のように、不可抗力としか思えないような事件が起こることもあります。更科そばの場合も、やはり20年という時間を過ごす中で、さまざま状況変化が起きてしまったのです。

経済というのは成長、発展するという変化が本質です。企業同士が競争を繰り広げる側面がある以上、新しいテクノロジーが登場すれば、それを導入して優位に立とうとする動きがでるのは必然です。また変化する顧客のデマンドに応えて、新しい価値を提供しようと変革の努力をだれかが払うものです。そのような絶え間ない変化をしつづける事業体だけが生き残ることができるというのは、まさにダーウィンが言うとおりだと思います。

イノベーションとは、そのために、より機能、性能や利便性に優れたり、あるいは、よりコストパフォーマンスに優れた製品やサービスを提供することです。または、そのプロセスをより優れたものに変えることです。ビジネスが資本主義経済の仕組みの上になりたっている以上、変化しないことは状況変化だけであると考えて、イノベーションを創出することで変革し続けることは、ある意味、必然であると思われます。

それではイノベーションにはどのようなタイプがあるのか?

図1 カスタマーデマンド、カスタマーエクスペリエンス、バリューとビジネスモデルの関係
図1 カスタマーデマンド、カスタマーエクスペリエンス、バリューとビジネスモデルの関係

この図は、DXビジネスモデルの構想企画から始まるプロセスのデリバリーまでを実行すると、DXビジネスモデルで構想企画(デザイン)したバリューがアウトプットとして生み出されること。またそのバリューがカスタマーデマンドを充足させることで、顧客にカスタマーエクスペリエンスがもたらされることをまとめたものです。

図2 ビジネスモデル・フレームワーク
図2 ビジネスモデル・フレームワーク

そしてこの図は、ビジネスモデルには5つの構成要素があって、ビジネスモデルとはその5つを結合したものであること。そしてそれら構成要素がそれぞれバリューを生みだしていることをあらわしています。それではこの図に照らし合わせて、イノベーションにはどのようなタイプのものがあるのかを解説します。なおプロフィットモデルについての検討は最終回に行う予定です。

一つ目のイノベーションは「製品」のイノベーションです。このタイプのイノベーションを考えるときに典型的な落とし穴があるので注意が必要です。読者の方々は「空飛ぶ自動車」はイノベーションだと思われるでしょうか。筆者は「イノベーションかもしれないし、そうではないかもしれない」と考えます。なぜかと言えば、製品のバリューというものは、それがカスタマーデマンドを満たしていなければバリューがあるということはできないからです(図1を参照)。技術的にどれだけ革新的であっても、その製品にデマンドがなければ無用の長物だということです。「空飛ぶ自動車」や「荷物を宅配してくれるドローン」そのものがイノベーションであると考えてしまうことをプロダクトアウトの発想であるといいます。製品のバリューがイノベーションであるかどうかは、その他のビジネスモデル要素についても同じことが言えますが、デマンドとの組み合わせでなければ判断できないことを筆者は強調しておきたいと思います。

さて、その製品のイノベーションには、さらにどのようなタイプがあるのでしょうか。

飛行機がレシプロエンジンとプロペラの組み合わせのみであった時代の、英米や独の空軍の悩みは、これでは飛行機を高高度に飛ばすことができないということでした。というのは空気が薄いとレシプロエンジンがうまく働かないうえに、プロペラが空気をうまくつかむことができなかったからです。そこで空軍のデマンドを受けてジェットエンジンが発明されたという背景があったとのことです。このように新しい製品がコスト的にはどれだけ高くても、だれも充足していないデマンドを満たす製品を発明するといったイノベーションがあります。

または新しい利便性を提供することで、だれも気付いていないデマンドを創造するタイプのイノベーションがあります。筆者がはじめてiPhoneを使ったときは、スマートなUIとデザインに興奮しながらも、使いにくい携帯電話だなと思った記憶があります。しかしすぐにiPhoneの価値は、いままではデスクトップのパソコンでしか使えなかったコンピュータ・アプリケーションを、いつでもどこにいても使える利便性にあることに気が付いたのでした。iPhoneは、このようにだれも気付いていないデマンドを創造するタイプのイノベーションであったのです。

さらに製品自体はいままでと同じであっても、その製品が想定していなかった新しいデマンドを満たすというタイプのイノベーションがあります。経営学者であるピーター・ドラッカーが好んで使った「エスキモーが食料品の凍結防止に冷蔵庫を使えば、それはイノベーションである」という例えがありますが、それは既存の製品が新しい用途を開発したというタイプのイノベーションなのです。

図3 アマゾンが起こしたプロセス・イノベーション
図3 アマゾンが起こしたプロセス・イノベーション

二つ目のタイプのイノベーションが「プロセスのイノベーション」です。私たちがよく知っているプロセスのイノベーションといえば、トヨタのジャスト・イン・タイムが思い浮かびます。T型フォードに始まる長大なベルトコンベアでの流れ作業によって自動車を組み立てていた時代と比較して、ジャスト・イン・タイムのプロセス・イノベーションが生み出す生産性は400倍以上、高まったというデータがあります。また多品種少量生産の柔軟性を、このプロセス・イノベーションは備えていることに注目したいと思います。

実はDXによるイノベーションの本質とは、「デジタルサービスのコンセプト=デジタル直結によるプロセス・イノベーション」なのでした。これはスーパーで買い物をする場合と、アマゾンで買い物をする場合の顧客の行動を比較してみるとよくわかります。例えば、スーパーで買い物をする場合、店舗まで移動して店内の商品を探索し、必要なものを見つけたらカゴに入れてレジで決済します。アマゾンの場合が、これらがすべてWeb上での行動に置き換わりますが、それが「デジタル直結によるプロセス・イノベーション」というコンセプトによるものなのです。

このデジタル直結によるプロセス・イノベーションが、サービス・バリューのイノベーションにつながっていることに注目する必要があります。このようなデジタル直結によるプロセス・イノベーションあるからこそ、アマゾンのEコマースには「24時間365日、いつでもどこでもショッピング」や「膨大な数の低価格商品」といったスーパーにはないバリューが付加されているのです。詳しくは第5回(第05回コラムを参照)の記事を参照してください。

通常、「IoT(Internet of Things)」の「Things」を「モノ」と訳すことが一般的です。しかしこの連載では、IoTが、あらゆる「ヒトとモノ」が生み出す「コト」をデジタル直結するプラットフォームになっていると考えますから、「コトのインターネット」と呼ぶことにします。例えば誰かがメールを送信するという「コト」を起こせば、受け取ったひとがそのメールを読むという「コト」を起こすといった具合です。あるいは機器に搭載されたセンサーが機器の故障を察知して、集中監視センターに機器の故障を通知するという「コト」を起こすということです。このIoTインターネット・プラットフォームは、インターネットが接続されている限り、世界中のどこからでも、あらゆる「ヒトとモノ」が生み出す「コト」をデジタル直結することを可能にしました。「デジタル直結によるプロセス・イノベーション」は、IoTというインターネット・プラットフォームがあるからこそ可能になるのです。

今回のまとめ

今回は、DXビジネスモデルを構想企画するとは、DXビジネスモデルが創出するイノベーションをデザインすることあることや、そもそも、なぜそのようなイノベーションが必要とされているかについても検討しました。いままでの連載記事の内容を、イノベーションの観点から振り返ったかたちになりましたが、いかがでしたでしょうか。

それでは次回は、このようなDXビジネスモデルが創出するイノベーションをどのように構想企画したらよいのか、その方法について検討します。それでは次回を楽しみにお待ちください。

著者プロフィール

株式会社サイクス

代表取締役 宗 雅彦 氏

「方法こそが未来創造に向かうための武器なのです」をモットーに、IT経営の変革、DX(デジタルトランスフォーメーション)のためのビジネスモデル創造の方法の研究・普及活動に取り組む。近年は、DX推進の人材育成、新規創造プロジェクトの支援のために精力的に活動。
外資系コンピュータメーカーでUNIXオペレーティングシステムの開発業務に従事。その後、シリコンバレーに駐在し、ITベンチャーの発掘・投資・事業開発推進業務に従事。2000年に株式会社サイクスを創業。IIBA(カナダ・トロント)のBABOK(ビジネスアナリシスの知識体系ガイド)バージョン3の開発リーダーなど、社会貢献活動にも参加。

宗 雅彦氏

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