2020年02月17日更新

DX時代にバリバリ活躍するIT技術者になるためのこれだけは知っておきたいスキルセット・ガイド第05回 アマゾンはどのようにして破壊的イノベーションを起こしたのか?

株式会社サイクス 代表取締役 宗 雅彦 氏


Andrei - stock.adobe.com

世界を見渡すとデジタル化されたビジネスモデルが百花繚乱です。GAFAと呼ばれるGoogle、Apple、Facebook、Amazonをはじめとして、ウーバー・テクノロジーズやエア・ビー・アンド・ビー等のシェアリング・エコノミーと呼ばれるビジネスモデル。米国の産業界ではGEがインダストリアル・インターネットと呼ばれる活動を展開していますが、日本でも有名なKOMTRAXで先駆的な活動を展開してきたコマツが、建設生産プロセス全体の生産性向上を目的とするプラットフォームLANDLOGの提供をはじめたことは注目に値するところです。わたしたちに身近なところで言えば、PayPayなどキャッシュレス決済サービスが普及をはじめていることも感じておられることでしょう。

そこで今回は、これら多様なデジタル化されたビジネスモデルの特徴について考えたいと思います。DX(デジタル・トランスフォーメーション)のビジネスモデルを特徴づける機能とは何でしょうか。どのようなバリューを顧客に提供しているのでしょうか。そこで今回は代表的なDX企業としてアマゾンを取り上げて分析をはじめたいと思います。

アマゾンのデジタル・コマースとスーパーのアナログ・コマースを比較してみる

第01回のコラムで「アマゾン恐怖銘柄指数」を取り上げたように、GAFAの一角を占めるアマゾンは既存の小売りビジネスに絶大とも言える影響力を及ぼしています。アマゾンのように新しいビジネスモデルが圧倒的なバリューを提供することで、既存ビジネスモデルを衰退に追いやることを、イノベーション学者のクレイトン・クリステンセンは「破壊的イノベーション」を起こしたと言っています。それではこのアマゾンのビジネスモデルは、どのようにして「破壊的イノベーション」を起こすことができたのでしょうか。

実はアマゾンというのはまことに進取の気性に富んだ企業で、莫大な研究開発投資やM&Aを背景に、常に新しいビジネスモデルを創出し、それら多様なビジネスモデルを成功に導く能力に長けた希有な企業です。ですから今日のアマゾンは、AWSなど、複数の多様なビジネスモデルを統合したデジタルビジネスのコングロマリット企業とでも言うべき存在になっています。しかし限られた紙面でこれらビジネスモデルをすべて分析することはできませんから、まずはアマゾンの原点となったEコマースとスーパーのアナログ・コマースの比較から検討をはじめましょう。それぞれのビジネスモデルの要素は次のようになっています。ビジネスモデル・フレームワークの言葉の意味については、前回を参照してください。

図1
図1

アマゾンもスーパーも、そのビジネスモデルは一言でいえば「小売業」です。小売業としてのアマゾンもスーパーも、そのコア・バリューは「良い商品を手軽に安く買いたいというコア・デマンドと商品をマッチングさせるサービス」であると言えます。その結果、得られるコアなエクスペリエンスは、コア・デマンドとコア・バリューが同じですから、やはり同じであると考えることができます。つまり両者のビジネスモデルの、「コア・デマンド、コア・バリュー、コア・エクスペリエンス」は共通です。

図2
図2

しかしスーパーは、店舗というアナログ・プラットフォームでお客様を待ちますが、アマゾンの場合は、Webサイトというデジタル・プラットフォームでお客様を待ちます。またスーパーの場合は基本的に買った商品を自分で持って帰るというアナログな手段によりますが、アマゾンの場合は、デジタル・コンテンツ商品の場合はデジタル配信、物理的なアナログ商品の場合には配送サービスとアナログな手段とデジタルな手段を併用しています。このプラットフォームがアナログかデジタルかの違いが、両者のビジネスモデルが提供する付加バリューの違いを生みます。

スーパーが提供するバリューはなにか?

図3
図3

スーパーのビジネスモデルのコアバリューは「デマンドと商品のマッチング・サービス」ということで、アマゾンと共通だということでした。しかしプラットフォームは「物理的な店舗」というアナログなものであり、そこで「人」が温もりを感じるサービスを提供しています。これがスーパーのビジネスモデルの付加バリューを特色づけます。

例えばプラットフォームが「物理的な店舗」というアナログなものですから、そのスーパーは一定範囲の商圏を持つことになります。近所になじみのスーパーがあるのに、よっぽどの特売をしているか、そのスーパーにいかなければ手に入らない商品でもなければ、わざわざ隣町のスーパーに行く人はいない理屈です。同様に「今夜は人気の花火大会があるから、お惣菜やアルコールを存分に準備しておこう」といった地域に根差した経営になるでしょうし、地域性を活かした商品の品ぞろえをすることもあるかもしれません。広告宣伝にチラシを打つこともあるし、全国展開の大手スーパーであれば「エブリディ・ロー・プライス」というメッセージングをすることもあるでしょう。そして何よりも「人によるサービス」の特色を活かして、多様な現場の工夫を活かしたサービスを提供していることでしょう。

例えば著者の近所のスーパーでは夜8時前後にお惣菜が2割引きになりますが、夜8時半には半額になるといった具合です。この時間帯が週末になるとずれるのも現場の工夫のひとつなのでしょう。

アマゾンが提供するバリューはなにか?

図4
図4

アマゾンのプラットフォームがインターネットを介したデジタルなものであるということが「どこからでもアクセスできる」という大きな特長を生み出しています。というのも「どこからでもアクセスできる」ということは、アマゾンのお客様は世界中どこにいても注文できるわけですから、アマゾンの商圏は基本的に世界中だということになるからです。アマゾン・ジャパンの商圏は日本全国です。だからアマゾンの潜在顧客数は膨大なものとなります。もちろん商品が物理的なものであれば配送しなければならないという制限がありますから、アマゾンは物流システムのロボティクス化などを含めて物流システムへの膨大な投資をしてこの制限を可能なかぎり緩和しようとしているのです。

またITサービスが24時間365日オペレーションを提供していますから、お客様からみればいつでもショッピングが楽しめるということになります。これがデジタルプラットフォームの特徴と併せてEコマースの第一のメリットである「いつでもどこでもショッピング」を可能にしていますし、アマゾンから見れば膨大な潜在顧客数というアナログ・コマースに対する大きなアドバンテージを獲得することができるということになります。この膨大な潜在顧客数という第一のメリットをみるだけでも、アマゾンのビジネスモデルは十分に破壊的になりうるのですが、しかしこの点だけに注目するだけでは、アマゾンの競争力がなぜこれだけ脅威的かという理由を見失ってしまいます。

図5
図5

この図は「マルチサイド・プラットフォーム型ビジネスモデル」と呼ばれるビジネスモデルの仕組みをあらわしたものです。この図で「提供者」とはアマゾンへの商品のサプライヤー、「顧客」とはアマゾンの顧客のことを指しています。このビジネスモデルの勝ちパターンは「顧客」が増えれば「提供者」が嬉しいので商品のサプライヤーが増える、「提供者」が増えれば顧客が嬉しいので「顧客」が増えるというポジティブなフィードバックサイクルが回ることです。収穫逓増型と呼ばれる特徴を備えたこのビジネスモデルの型が、アマゾンの膨大な顧客数と膨大な商品数の秘密だったのです。

図6
図6(出典:Amazon.co.jp https://www.amazon.co.jp/b?ie=UTF8&node=4967767051新しいウィンドウで表示

この図はアマゾンのCEO、ジェフ・ベゾスが自ら描いたと言われるアマゾンのビジネスモデルをあらわしています。著者はこの図を見た時に、なんて巧みにアマゾンのビジネスモデルを表しているのだろうととても感心しました。「サプライヤー」が増えれば「購買機会」が増えて「カスタマー・エクスペリエンス」が改善されるから「購買量」が増える。だから「サプライヤー」がまた増えるというマルチサイド・プラットフォーム型ビジネスモデルの収穫逓増のしくみをとても上手にあらわしています。まるでハムスターが成長エンジンとして回し車の中に入っているのですが、回し車を回すパワーが膨大なのでその回転スピードがどんどん加速していく様子が頭に浮かびます。このビジネスモデルの成果が、アマゾンの膨大な顧客数と商品数という結果としてあらわれたということができるでしょう。

しかしアマゾンの成長エンジンには、もうひとつの秘密が隠されていました。アマゾンのサービスは、ITサービスやロボティクス化が進んだ物流システムなど、サービスプロセス全体のオートメーション化がとても進んでいます。ということはアマゾンのオペレーションは低コスト構造であるし、ビジネススピードが速いということです。さらに第01回の記事を思い出していただきたいのですが、アマゾンが顧客やサプライヤーとデジタル直結されたことにより、膨大な中間マージンがコスト・カットされているのです。ベゾスはこの排除した膨大なコストを意識して商品の低価格化につなげることにより、さらに良好なカスタマー・エクスペリエンスを生み出したのでした。

今回のまとめ

今回はアマゾンのビジネスモデルを分析して、どのようにして「破壊的イノベーション」を起こしたのか、その強さの秘密を探ってみました。電気工学とコンピュータ・サイエンスで学位を取得したベゾスは、金融ビジネスの領域でIT技術者として従事した後、ビジネス部門に移り、その後、アマゾンを創業したとあります。デジタルビジネスの特徴を知り尽くしたベゾスは、優れたDXビジネスモデルのデザイナーでもあることを感じることができたのではないでしょうか。

でもしかし、これだけ破壊的なアマゾンのビジネスモデルですが、死角はないのでしょうか。わたしたちの近所のスーパーはアマゾンによって破壊つくされてしまうのでしょうか。いえ、そういうことになりそうな気はしません。確かに米国トイザラスや米国第二位の書店チェーンであったボーダーズなど、倒産に追い込まれたり、業績が低迷する小売業は今後も続出するでしょうが、アマゾンのビジネスモデルにもどこかに死角があるはずです。

しかし今回は残念ながら紙面が尽きてしまいました。また製造業の「モノづくり」の世界でも、DXによって大きな産業構造転換のうねりが生まれています。この解説記事は外せないと思いましたので、次回はアマゾンのビジネスモデル分析の続きと、製造業におけるDXのトレンドについて解説したいと思います。それでは次回を楽しみにお待ちください。

著者プロフィール

株式会社サイクス

代表取締役 宗 雅彦 氏

「方法こそが未来創造に向かうための武器なのです」をモットーに、IT経営の変革、DX(デジタルトランスフォーメーション)のためのビジネスモデル創造の方法の研究・普及活動に取り組む。近年は、DX推進の人材育成、新規創造プロジェクトの支援のために精力的に活動。
外資系コンピュータメーカーでUNIXオペレーティングシステムの開発業務に従事。その後、シリコンバレーに駐在し、ITベンチャーの発掘・投資・事業開発推進業務に従事。2000年に株式会社サイクスを創業。IIBA(カナダ・トロント)のBABOK(ビジネスアナリシスの知識体系ガイド)バージョン3の開発リーダーなど、社会貢献活動にも参加。

宗 雅彦氏

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