2020年01月10日更新

DX時代にバリバリ活躍するIT技術者になるためのこれだけは知っておきたいスキルセット・ガイド第04回 そもそもビジネスモデルって何ですか?

株式会社サイクス 代表取締役 宗 雅彦 氏

第三回で、DX推進には「ビジネスモデルの構想企画」から始まるプロセスが必要であることを確認しました。「構想企画」を英語では"Concept Planning"といったり"Concept Design(概念設計)"と言ったりします。つまりDX推進の起点は「ビジネスモデルのコンセプト(概念)設計」だということです。しかし筆者は、ビジネスモデルの構想企画のすすめ方がわからないので学びたいという相談を受けることが多くあります。それはなぜかと言えば、これも前回述べたとおり、多くの場合、わたしたちにはDX推進の経験がないうえに、「ソフトウェア要件定義」からIT導入プロセスを始めることに慣れているがゆえに構想企画の経験も薄いからです。どんなに優秀な方でも、やったことがない、知らないことは想像できません。

この連載記事のテーマは、DX時代にバリバリ活躍するIT技術者になるために、これだけは知っておかなければならないコアスキルをお伝えすることにあります。この「ビジネスモデルの構想企画(コンセプト設計)」のメソドロジー(方法論)は、DXを推進するうえで、まさにコアスキル中のコアスキルです。そこで前回の予告どおり、今回からこの重要テーマについて何回かに分けて解説を進めていきたいと思います。

そこでこの第四回では、この重要テーマの大前提となる「そもそもビジネスモデルとは何であるのか」について解説したいと思います。

ビジネスモデルとは何だろう?

みなさまの中にはビジネスモデルのことならまかしておけという専門家もいらっしゃれば、ビジネスモデルにはなじみがあまりないという方もいらっしゃるかもしれません。でもあまりなじみがないという方であっても「ビジネスモデル」という言葉を一度くらいは聞いたことがあるという方がほとんどではないでしょうか。というのも仮にDXの領域でよく使われている言葉のトップ3をあげてみれば、まず間違いなくトップ3に入るであろう言葉のひとつが「ビジネスモデル」だからです。

このように頻繁に使われている言葉でありながら、実はビジネスモデルという言葉には、これが決め手という鉄板の定義がありません。ですから、なんとなくビジネスモデルという言葉を使っているという現状があるのではないでしょうか。しかしビジネスモデル構想企画のメソドロジーを検討するにあたって、「ビジネスモデル」という言葉が定義されていなければメソドロジーの検討がおぼつきません。そこで今回は「ビジネスモデル」という言葉の意味を探ってみたいと思います。

しかしこの記事は、実務的なビジネスモデル構想企画メソドロジーを提供することが目的であって、学術論文を書いているわけではありません。そこでビジネスモデルという言葉を厳密に定義するのではなく、ビジネスモデルの構想企画メソドロジーを検討することができるくらいに、おおまかに定義できれば十分だということにして検討をはじめます。

まず「モデル」という言葉を国語辞書(スーパー大辞林)で引いてみると、「問題とする事象を模倣し、類比・単純化したもの。また、事象の構造を抽象化して論理的に形式化したもの」という定義が出てきます。「モデル」とは「ものごとの構造・仕組みを単純化・抽象化してあらわしたもの」くらいにとらえておけば良さそうです。

とすれば「ビジネスモデル」とは読んで字のごとくビジネスのモデル、つまり「ビジネスの仕組みのこと」だと言えそうです。また「ビジネス」を同様に国語辞書で引くと「仕事・業務・営利活動・取り引きなどのこと」と出てきますから、こちらも「お客様に価値を提供することで利益をあげる活動のこと」ぐらいにざっくりととらえてみたいと思います。

ビジネスモデルとは、お客様に価値を提供することで利益をあげる活動の仕組みのこと

ビジネスモデルには、お客様とビジネス提供者の関係に関わる仕組みだけではなく、パートナーやリソースのことなど多様な構成要素があります。しかしここでは検討を単純化するために、便宜上、お客様とビジネス提供者の関係のことだけを考慮してビジネスモデルの構成要素を検討することにします。

図1:ビジネスモデル・フレームワーク
図1:ビジネスモデル・フレームワーク

図1に、お客様とビジネス提供者の間の関係だけに注目して構造化したビジネスモデルのフレームワークをつくってみました。以下、それぞれの要素が何を意味するかについて解説します。

① カスタマーの「デマンド」

お客様の需要や要求のことです。マーケティングの大家、フィリップ・コトラーによると、「デマンド」という言葉ひとつをとっても、例えば「ニーズ」とは異なる意味を持っています。しかし、ここではおおまかにとらえますので、お客様からの需要や要求に加えて、いわゆるお客様のニーズや期待などがすべてここに含まれるとします。

② ビジネス提供者の「エンゲージ」

ビジネス提供者がお客様と関係づくりをするための活動の仕組みのことです。例えばお客様のデマンドを理解したり、お客様のデマンドを満たすことができる製品やサービスを提供できるように心がけたりする活動を指します。

③ ビジネス提供者の「バリュー」

ビジネス提供者がお客様に提供する「価値」のことです。「バリュー」はビジネス提供者が製品やサービスをとおして提供します。ですから「バリュー」をあらわすためには、お客様に提供している製品やサービスがなにかをリストし、それぞれの製品やサービスが、お客様にどのような「機能や便益」を提供しているのか、どのような「不足や苦痛」を低減しているのかを明らかにします。

④ ビジネス提供者の「デリバリー」

ビジネス提供者がお客様に「バリュー」、すなわち製品やサービスを提供する仕組みのことです。

⑤ ビジネス提供者の「プロフィット」

ビジネスである以上、「バリュー」をお客様に提供して利益をあげる必要があります。「プロフィット」とは、利益をあげる仕組み、つまり「プロフィット・モデル」のことです。「プロフィット・モデル」については別の回で取り上げますので、今回は「プロフィット・モデル」についての検討を省略します。

⑥ カスタマーの「エクスペリエンス」

お客様がビジネス提供者から「バリュー」の提供を受けて経験する価値、つまりCX(カスタマーエクスペリエンス)のことです。

「更科そば」のビジネスモデル

それではこのビジネスモデル・フレームワークを使ってビジネスモデルの具体例を検討してみることにします。今回も登場してもらうのは第2回に登場した東京都・千代田区・麹町でそば屋を営む「更科そば」です。

まずはじめに、よくある街のそば屋さんとしての「いままでのアナログな更科そば」のビジネスモデルを分析してみましょう。

【いままでのアナログな更科そば】

① ビジネスモデル・コンセプト

自家製麺したおいしいそばをお客様に楽しんでもらう。
それを麹町の店舗で提供する。

② カスタマー・デマンド

お腹をすかせたお客様のおいしいそばを楽しみたいという要求のこと。

③ エンゲージ

麹町の店舗でお客様が来店するのを待つ。いまはチラシを配ったり積極的に集客することはしていない。ポイントカードの発行や大盛り無料券の発行なども考えたが、それもやっていない。

④ バリュー

ビジネスモデル・コンセプトが「自家製麺したおいしいそばをお客様に楽しんでもらう」ということは、更科そばの「コア・バリュー」は「自家製麺したおいしいそば」ということになります。また更科そばの「コアとなる仕事」は「自家製麺のおいしいそばをつくること」ということになります。
言い換えると更科そばがお客様に「バリュー」を提供している仕事だけを抜き出してみれば「調理場で自家製麺のおいしいそばをつくるという仕事」だけが残るのであって、お客様から注文を聞いたり配膳したり会計したりする仕事は、この「コアとなる仕事」をサポートするための仕事ということになります。

⑤ デリバリー

麹町の店舗でフロア担当のスタッフが調理場からお客様のテーブルまでおそばを配膳します。

⑥ カスタマー・エクスペリエンス

お腹がいっぱいになり、おいしいおそばを楽しむこともできてハッピー!

図2:いままでのアナログな更科そばのビジネスモデル
図2:いままでのアナログな更科そばのビジネスモデル

次にランチタイムのお客様の取りこぼしをなくしたいと思った小島店長は、更科そばの「出前サービス」を拡充することにしました。またDX(デジタル・トランスフォーメーション)の取り組みとして、出前の注文・予約ができるスマホ・アプリも提供することにしました。この「新しいDX版出前サービス」のビジネスモデルは、このようになります。

【新しいDX版出前サービス】

① ビジネスモデル・コンセプト

「自家製麺したおいしいそばをお客様に楽しんでもらう」というコンセプトに変わりはありません。ただし麹町の店舗ではなく、スマホアプリで注文・予約することで希望する場所に届けてもらえます。

② カスタマー・デマンド

「お腹をすかせたお客様のおいしいそばを楽しみたいという要求」ということで「いままでのアナログな更科そば」へのカスタマー・デマンドと同じです。ただし「わざわざお店まで足を運びたくない」や「忙しい昼休みに行列に並びたくない」というデマンドが加わっていると考えることができます。

③ エンゲージ

スマホアプリで注文・予約します。また会計処理も同時に済ませてしまいます。いわばお客様と、更科そばの「コアとなる仕事」である「自家製麺のおいしいそばをつくる調理場」がデジタル直結されたことになります。ということは、店舗でフロア担当スタッフがお客様から注文を聞いたり会計処理をしたりする仕事が中抜きされたことになります。DXの意味が、第一にお客様とビジネス(のコアとなる仕事)がデジタル直結されること、第二にそれによって中抜きが起きることというおはなしを思い出してください。

④ バリュー

「コア・バリュー」が「自家製麺したおいしいそば」であるということに変わりはありません。

⑤ デリバリー

出前サービスですから、お客様が店舗まで足を運んで食事をするのではなく、お店がお客様の指定する場所までデリバリーすることになります。どのようにデリバリーするかはいくつか選択肢がありそうです。いままでのやり方で更科そばのスタッフが、自転車やバイクを使って配達するという案があるでしょう。あるいは"Uber Eats(ウーバー イーツ)"を利用することで店舗の人件費を変動費化する案も良さそうです。将来的にはAmazon(アマゾン)のように、ドローンを使って配達する時代が来るかもしれません。Amazon(アマゾン)であれば、ドローンを使って配達するサービスの手数料を取って公開するくらいのことは考えそうですね。

⑥ カスタマー・エクスペリエンス

「お腹がいっぱいになり、おいしいおそばを楽しむこともできてハッピー!」というカスタマー・エクスペリエンスに変わりはありません。ただし「お店にまで足を運ぶ必要がなかった」や「行列に並ばずに済んだ」という新しいカスタマー・エクスペリエンスが加わっていると考えることができます。

図3:新しいDX版出前サービスのビジネスモデル
図3:新しいDX版出前サービスのビジネスモデル

今回のまとめ

今回はそもそもビジネスモデルとは何かを理解するために、再び更科そばに登場してもらい、アナログなビジネスモデルとデジタルなビジネスモデルを比較してみました。
この更科そばの事例の場合には、次のことが言えます。

  • アナログなビジネスモデルであっても、デジタルなビジネスモデルであっても、更科そばのコア・バリューが「自家製麺したおいしいそば」であることに変わりはありません。ということは「自家製麺したおいしいそばをつくる」という「コアとなる仕事」には変わりはないということでもあります。
  • デジタルなビジネスモデルにおいては、お客様がスマホアプリで更科そばのコアとなる仕事である「自家製麺したおいしいそばをつくる調理場」とデジタル直結しています。つまりエンゲージでプロセス・イノベーションが起きています。これによってアナログなビジネスモデルでは人間が注文・予約の処理をしていたものがデジタルによって代替され中抜きされています。
  • 出来上がった料理は物理的なものですから、デリバリーは人手によって行うというアナログなものになっています。しかし"Uber Eats(ウーバー イーツ)"を利用したり、将来的にはドローンを利用するといった代替案を採用できる可能性があります。

さて今回は更科そばを事例にデジタルなビジネスモデルを分析してみました。しかしDXはさまざまな領域で進行しており、多様なデジタル・ビジネスモデルが開発され普及しています。そこで次回は、デジタル・ビジネスモデルをいくつか取り上げ、それにはどのようなパターンがあるのか、それらビジネスモデルの効用はなにかについて、もう一歩、掘り下げて検討してみたいと思います。また今回は省略しましたが、プロフィット・モデルは最近、とても注目されている重要な要素ですから、これも検討しておく必要がありそうです。そこでこれらを解説した後に、ビジネスモデルを構想企画するメソドロジーの解説に移りたいと思います。

それでは次回を楽しみにお待ちください。

著者プロフィール

株式会社サイクス

代表取締役 宗 雅彦 氏

「方法こそが未来創造に向かうための武器なのです」をモットーに、IT経営の変革、DX(デジタルトランスフォーメーション)のためのビジネスモデル創造の方法の研究・普及活動に取り組む。近年は、DX推進の人材育成、新規創造プロジェクトの支援のために精力的に活動。
外資系コンピュータメーカーでUNIXオペレーティングシステムの開発業務に従事。その後、シリコンバレーに駐在し、ITベンチャーの発掘・投資・事業開発推進業務に従事。2000年に株式会社サイクスを創業。IIBA(カナダ・トロント)のBABOK(ビジネスアナリシスの知識体系ガイド)バージョン3の開発リーダーなど、社会貢献活動にも参加。

宗 雅彦氏

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