2019年10月21日更新

DX時代にバリバリ活躍するIT技術者になるためのこれだけは知っておきたいスキルセット・ガイド 第02回 DXって、わたしたちのIT導入アプローチと何が違うんですか?

株式会社サイクス 代表取締役 宗 雅彦 氏

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第一回目のコラムでは、欧米+中国でDXが急速に進展していることや、それにも関わらず日本では未だDXが立ち上がっていないこと。DXとは何かや、DXを推進するためのプロセスについて、ざっと解説しました。
しかし、ざっとの解説でしたから、なかなか具体的なイメージがつかみづらかったかもしれません。そこで、二回目となる今回は、改めて、DXとはなにか、わたしたちのIT導入アプローチとなにが違うのかについて、事例をとりあげて具体的に考えてみたいと思います。
それでは事例として、業績不振の「更科そば」に登場してもらいましょう。

事例:業績不振の更科そば

東京都・千代田区の麹町で、長年、そば屋を営む「更科そば」は、小島店長が20年前に脱サラをしてはじめた店です。趣味のそば打ちの腕を活かして、なかなかおいしいそば屋として営業を続けてきました。麹町はオフィス街ですから、お昼になると店の前に長い行列ができる状況です。ところが最近、いくつかの問題が浮上してきました。外国人スタッフにフロア係を務めていただいていますが、言葉の問題から注文の受け取りミスや、会計ミスが多発してお客様からのクレームが増えています。さらに、名代富士そばやゆで太郎、丸亀製麺といった低価格チェーン店の出店が相次いでいて、お客様がそちらに流れていっているようなのです。小島店長は、ランチタイムのお客様の取りこぼしを無くしたいと考えています。さて、小島店長は、どのようにしたら良いでしょうか?(1分、考えてみてください)。

ソリューション

わたしがDX研修でこの問題を出すと、以下のようなソリューションのアイデアを多く見かけることになります。多くというよりもむしろ、ほとんどといって良いでしょう。

  • 食券販売機を導入する
  • 電子マネーを導入する
  • スタッフにタブレットをもたせて注文をとり会計計算もやらせる
  • などなど

でも中には、このようなアイデアを出す方も、ごく希ですがいらっしゃいます。

  • お客様がタブレットを使って注文する。

この前者と後者の違いがわかりますでしょうか。前者が「わたしたちの従来型のIT導入アプローチ-店内(社内)業務の効率化」です。後者がいわゆるDXのアプローチになります。なぜかといえば、第一回で定義したとおり、「DXとは顧客とのデジタル直結で、顧客に新しいCX(カスタマー・エクスペリエンス)を提供するとともに、なにかが中抜きされること」だったからです。ここで顧客は「自分で注文できる」という新しいCXを得ると共に、更科そばのフロア係スタッフが中抜きされているのがおわかりかと思います。

図1

でもDXってITシステムだけを考えればいいんじゃないんです

前者が従来型、後者がDX型という違いがわかりましたでしょうか。もしかしたら、「そんなに違いはないんじゃないか」と思っている方もいらっしゃるかもしれませんね。でも、前者の従来型アプローチは、社内業務の効率化を目的としており、ITシステムは顧客とは断絶されていることを理解することが大切です。

ところで、もうひとつ、考えておくべき重要な点があります。それは何かというと、小島店長の目的は「ランチタイムのお客様の取りこぼしを無くしたい」という点にあったということです。みなさまは「ランチタイムのお客様の取りこぼしを無くしたい」という小島店長の問題を解決可能なソリューションは無数にあると思いませんか。例えばですが、「丸亀製麺」みたいに効率的な店舗レイアウトに改装したっていいんだし、「ゆで太郎」のように立ち食いそばに改装したっていいわけです。(ちなみに筆者は「ゆで太郎」が好きです)。

そこでもう一度、図1を見てください。お客様がタブレットを使って厨房担当とデジタル直結しています。でもタブレットがお客様のスマホ上のアプリだっていいわけです。だったら、お客様は店内にいなくたってどこにいたって注文ができるということになります。

改めて考えると、小島店長の目的は「ランチタイムのお客様の取りこぼしを無くしたい」でした。ということは小島店長は、この目的を達成するために更科そばを「テークアウト専門店」や「出前専門店」にしたっていいわけです。そのときに、お客様の注文手段が、電話やFAXだけじゃなくて、スマホのアプリでも出来るのであれば、お客様のCXが向上するということなのです。

図2

ここで「テイクアウト専門店」や「出前専門店」といったソリューションのアイデアを、「現実世界の事業モデルのコンセプト」と呼び、このアイデア出しの活動を「事業の構想企画」といいます。一方、「スマホのアプリで注文できるようにする」というソリューションのアイデアを「ITシステムモデルのコンセプト」と呼び、このアイデア出しの活動を「ITシステムの構想企画」といいます。

ですから、「DXビジネスモデルコンセプト」とは、「事業モデルのコンセプト×ITシステムモデルのコンセプト」ですから、「DXビジネスモデルコンセプト」を構想企画するということは、事業面とITシステム面の両方の観点から、構想企画することが必要になるという点を理解することが必要です。

DXってITシステムを提案する活動じゃないんです

このようにDXビジネスモデルのコンセプトを構想すること、つまりビジネスモデルの概念設計は、事業面とITシステム面の双方を結合して考える必要があるのです。ところが筆者が、DXの研究活動や推進活動を拝見していて、まま目にするのは、「IT部門やITベンダーが主導してITシステムを事業部門やお客様に提案する」ことを目標とする活動があまりにも多いことです。しかし残念ながら、これでは新しいCXを生みだし利益を生み出すDXビジネスモデルの構想企画(概念設計)はできません。

図3

繰り返しになりますが、DXの目的は「新しいCXを提供することで、利益を向上させること」です。新しいCXを提供するためには「DXビジネスモデルのコンセプトを構想企画する」ことが必要です。その「DXビジネスモデルのコンセプトの構想企画」の中で、「事業モデル・コンセプトの構想企画」とあわせて、顧客とのデジタル直結という「ITシステムモデル・コンセプトの構想企画」を進めることが必要です。ITシステム単独の構想企画の活動は、ビジネスから見れば、意味を生まないことを理解することが大切です。事業組織とIT組織が結合して、DXビジネスモデルの構想企画メソドロジーを実行することが必要なのです。

それでは次回は、真のDX企業を目指すために必要なDX推進プロセスを具体化し、それを業務効率化を目的とする私たちの今日のプラクティスと比較して、われわれがどのようなプロセス能力を身に着ける必要があるかを考察したいと思います。楽しみにお待ちください。

著者プロフィール

株式会社サイクス

代表取締役 宗 雅彦 氏

「方法こそが未来創造に向かうための武器なのです」をモットーに、IT経営の変革、DX(デジタルトランスフォーメーション)のためのビジネスモデル創造の方法の研究・普及活動に取り組む。近年は、DX推進の人材育成、新規創造プロジェクトの支援のために精力的に活動。
外資系コンピュータメーカーでUNIXオペレーティングシステムの開発業務に従事。その後、シリコンバレーに駐在し、ITベンチャーの発掘・投資・事業開発推進業務に従事。2000年に株式会社サイクスを創業。IIBA(カナダ・トロント)のBABOK(ビジネスアナリシスの知識体系ガイド)バージョン3の開発リーダーなど、社会貢献活動にも参加。

宗 雅彦氏

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