2020年06月17日更新

介護施設における外国人採用第03回 在留資格『介護』と特定技能2号

株式会社スターパートナーズ 代表取締役
一般社団法人介護経営フォーラム 代表理事
脳梗塞リハビリステーション 代表
齋藤 直路 氏

介護業界の外国人採用:その3 在留資格「介護」

外国人介護士が職場の上司・・・。遠い未来の話ではなく、今現在もこのような施設はすでに存在する。長らく日本の介護現場の担い手の多くは日本人であったが、大きく変わろうとしている。

平成28年11月18日、第192回臨時国会において「出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律」が成立、平成29年9月1日より施行された。これにより、以前は経済連携協定(EPA)の枠組み以外では認められなかった介護従事者としての入国・在留が「本邦の公私の機関との契約に基づいて介護福祉士の資格を有する者が介護又は介護の指導を行う業務に従事する活動」をおこなう場合において認められることとなり、在留資格「介護」が創設された。

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在留資格「介護」の特徴は、在留状況に問題がなければ在留期間の更新が可能であり、その更新回数に制限がないこと、配偶者及び子が「家族滞在」の在留資格で在留することが可能となっていることである。これは、在留期間に制限や家族の在留に制限のある「技能実習」や「特定技能」とは大きく異なる。実質的には日本人人材と全く同じ条件で就労を継続してもらうことが可能となる。もちろん、職場選びも自由となる。

在留資格「介護」は「介護の業務に従事する外国人の受入れを図るため介護福祉士の国家資格を有する者を対象」とするものである。つまり、端的に表現すれば、外国人人材が「介護福祉士」の資格を取得すれば在留資格が得られるということである。その典型的な流れとされているのは養成校を卒業しての介護福祉士の資格取得を目指す「養成施設ルート」である。

「養成施設ルート」の見通し

平成29年度より介護福祉士は養成施設卒業者も国家試験に合格しなければ資格を取得できなくなったが、令和3年度までの卒業者は卒業後5年間継続して介護業務に従事すれば、国家試験を受験しなくても介護福祉士の資格を取得することができる経過措置が認められている。また、この経過措置は更に延長される見通しであるようだ。外国人人材も在留期間を延長(この間、在留資格は「特定活動(※「特定技能」とは異なる)」となる)し、5年間継続して介護業務に従事すれば、介護福祉士資格を取得し在留資格「介護」への切り替えをおこなうことができる。

その影響を受けて「養成施設ルート」での介護福祉士の取得を目指す外国人人材も増加している。「平成30年6月末現在における在留外国人数について(法務省)」によると平成30年6月末時点で在留資格「介護」の取得者は177名と対前年末比159名増、「介護福祉士を目指す外国人留学生の受入れ状況と課題(公益社団法人 日本介護福祉士養成施設協会)」によると養成施設での外国人留学生入学者数は平成30年度で1,142名と前年度対比で551名増となっている。今後も、外国人留学生は増加していくものと考えられる。

「実務経験ルート」の可能性

また、平成29年12月に公表された「新しい経済政策パッケージ」によると「介護分野における技能実習や留学中の資格外活動による3年以上の実務経験に加え、実務者研修を受講し、介護福祉士の国家試験に合格した外国人に在留資格(介護)を認めること」を図るとされている。このことから「技能実習」や「特定技能」での実務経験を経た後に介護福祉士を取得する「実務経験ルート」も今後重要になってくる。

「養成施設ルート」の場合、経過措置の期間内であれば確実に介護福祉士資格を取得できるというメリットがある。一方で、養成施設在籍中は在留資格「留学生」となり、週の労働時間が28時間に制限され、学費負担が生じるというデメリットもある。これは施設側で貸し付けるなどの例もあるようだ。
また、他の在留資格も同様であるが、資格を取得する前、在学中や卒業後の5年間、または資格を取得した後でも、帰国や他の施設を選ぶリスクは無視できない。

中長期的な滞在意思が確実であり、それを実現するという目的が明確であるならば「養成施設ルート」による在留資格「介護」の取得も有効である。しかし、まずは外国人人材の受け入れを実施しながら、本人の意思によってより長期の在留期間の取得を目指すという形であれば「実務経験ルート」も重要な選択肢となる。
重要なのはその特性を理解しながら、中長期を見据えて人材計画を立案していくことである。

在留資格「介護」を取り巻く環境

現在、介護福祉士の養成施設では日本人学生の数が減少している。これは少子高齢化だけでなく、介護業界のイメージ等のさまざまな要因によるものと考えられる。これに対し、養成施設側も日本人学生へのアピールをするとともに、外国人留学生を積極的に受け入れるところが増えてきている。

「介護福祉士を目指す外国人留学生の受入れ状況と課題(公益社団法人 日本介護福祉士養成施設協会)」の調査によると平成30年時点で養成施設の入学者に占める留学生の割合は16.7%となっている。また、弊社で独自におこなったヒアリング調査では、ある学年の外国人留学生の割合が7割近い養成施設も存在している。入学前に施設側からいわば内定を得たような状態を経て入学してくる学生も一部いるようだが、養成施設の教員が自ら就職先を探すケースもあるとのことである。「養成施設ルート」に興味を持たれた場合は、近隣の養成校へ相談をしてみても良いのではないだろうか。

「実務経験ルート」では、やはり国家試験が最難関となる。まだ実績はないが、同じく介護福祉士の取得を目指しているEPA介護福祉士候補者の試験結果を参考とするならば、第31回介護福祉士国家試験での実績が合格者数266名、合格率46.0%となっている。同回の受験者全体の合格率は73.7%であった。

EPA介護福祉士候補者の受け入れを行い、かつ一定の合格者を輩出している施設は、いずれも法人を挙げての日本語教育および介護福祉士試験対策のバックアップを行っている。「実務経験ルート」を目指す上では、個人の努力に頼るのではなく、組織的な支援体制を作ることが必須となることは理解しておく必要があるだろう。そのためには専門のチームを組織し、日本人も含めて一体的に資格取得を目指していく体制を構築していくことが重要である。

以上、全3回に渡って、現在注目が高まっている「介護業界の外国人採用」について解説させていただいた。本稿でも繰り返し述べたとおり、外国人人材は安易な“人手”ではなく、立派な“人財”にしていかなくてはならない。そのためには、“外国人だから低賃金”のような過去の思い込みを捨て、日本人同様に働き易い環境を整える必要がある。もっと言えば、世界中で人手不足となる医療介護人材について、世界の中の日本、日本の中の自分の法人・施設を選んでもらうには、何が必要か?という視点が極めて重要である。私自身も、これからも医療介護業界における日本と外国の関りを研究し続けたい。

3回に渡り読んで頂き誠にありがとうございます。介護業界における外国人人材について、その理解の一助となれたならば幸いです。

著者プロフィール

株式会社スターパートナーズ 代表取締役
一般社団法人介護経営フォーラム 代表理事
脳梗塞リハビリステーション 代表
Japan Care and Medical co., Ltd(Thailand)共同代表
齋藤 直路(さいとう・なおみち) 氏

東京都出身。宮崎県にて幼少期を過ごす。九州大学大学院医学系学府卒(MPH)。日本社会事業大学大学院卒。
大手コンサルティング会社を経て、日本全国の高齢・医療・児童・障害サービスに特化したコンサルティング会社を設立。“外国人介護士”に関しては早くから着目し、EPA以前より海外人材に着目し毎年アジア視察ツアーを開催。これまで、中国、ベトナム、ミャンマー、フィリピン等で開催し採用・育成に関して支援をしてきた。2019年1月にはタイ王国バンコク県の病院内にてリハビリ事業を開始。その他、会員制研究会「介護経営フォーラムin東京・仙台・博多」主催。保険外自費リハビリ施設「脳梗塞リハビリステーション」を福岡・山口・神戸須磨・タイ王国バンコクにて展開。講演執筆多数。

<有識者等>
・厚生労働省老健局 老人保健健康増進等事業『外国人介護人材の受入れの実態等に関する調査研究事業』有識者委員(現任)
・厚生労働省老健局 老人保健健康増進等事業『東北地方における介護未経験者確保に関する調査研究事業(略称)』有識者委員(現任) 他

<執筆>
・「定番必携 はじめてでもわかる!介護施設&老人ホームのさがし方・選び方」(2016,サンライズパブリッシング)
・「あの介護施設はなぜ、地域一番になったのか」(2015,共著,PHP研究所) 他

齋藤 直路 氏

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