2020年04月16日更新

介護施設における外国人採用第02回 介護分野における「技能実習」と「特定技能」

株式会社スターパートナーズ 代表取締役
一般社団法人介護経営フォーラム 代表理事
脳梗塞リハビリステーション 代表
齋藤 直路 氏

介護業界の外国人採用:その1 在留資格「技能実習」

介護分野における在留資格「技能実習」での入国者数は1,823人(外国人技能実習機構「平成30年度業務統計」、2019年3月時点)、「特定技能」の枠組みにおけるフィリピン、カンボジア、ネパール、インドネシア、モンゴル、日本国内の介護技能評価試験、および、介護技術評価試験合格者数はそれぞれ累計1,400名を超えた(厚生労働省「介護技能評価試験・介護日本語評価試験の試験結果」、2019年12月末時点)。今後も増加していくものと考えられる。

イメージ

これまで外国人の就労はごく少数であった。2017年在留資格「介護」が創設され、介護福祉士を取得した外国人は日本の介護施設で就労することができるようになった。その後、さまざまな在留資格を得て日本の介護現場で働く外国人は増えている。「技能実習」「特定技能」はその中の一つである。

「外国人技能実習制度」は「日本で培われた技能、技術又は知識を開発途上地域への移転し、開発途上地域の経済発展を担う『人づくり』に寄与する」という目的のもと1993年に制度化された。制度化時点では「介護」は対象分野ではなかったが、2017年11月に「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」が施行されると同時に「介護」も追加された。2018年7月には宮崎県のグループホームに中国から介護職種初となる技能実習生が来日し(注1)、その後も各地で受け入れが続いている。

介護現場での「外国人技能実習生」受け入れのメリット

「外国人技能実習制度」は、実習を目的としているため、入国時点ではそこまで高い専門性が求められない。また「留学生」のように就労は週28時間までという制約もない。そのため、現時点での介護施設における外国人受け入れの形として主流となっているのではないだろうか。

受け入れを実施している施設にお伺いすると、「技能実習生である間は定められた実習施設での実習(就労)が求められるので、少なくとも3年間は辞めない」「現地教育機関との関係ができれば人材を安定して紹介されるのではないか」といった声がきかれることもある。
いずれも、一部正しいかもしれないが誤りである。日本人同様、実習生にとっても働き易い職場の構築が必要だ。なぜなら、すでに世界中で介護看護人材のニーズは高まっており、実習生にとっては日本だけが実習・就労先ではないからだ。

筆者は毎年海外視察ツアーを企画し、介護医療事業の経営者・幹部と一緒に現地の養成校等での意見交換をしている。その際にどの国でも共通する事項として、収入、言語、入国ハードル、その他環境を総合した結果、日本の人気はだいたい3~4番手である。

実習生受け入れをおこなっている施設の担当者からは、職員間の連携が深まるという効果もお聞きした。日々忙しく余裕のない現場でも、日本語も介護もおぼつかない、見守りが必要な人材がくることで、周囲の職員が積極的に支えようと動き、ケアの質の向上にもつながったとのことだった。他にも、利用者にも評判が良い、仕事を覚えようと努力する、まじめに働くといった、さまざまなメリットをお聞きしている。

外国人介護士という新しい存在が、日本の介護現場に今後もさまざまな影響を及ぼしていくと考えられる。

「外国人技能実習生」受け入れの流れ

「介護」職種で外国人技能実習生を受け入れるには、複数の「介護」固有の条件がある。
代表的な一つは日本語能力要件である。JLPT(日本語能力試験)等を受験し、入国時にはN4(日本語検定4級)、入国後1年の時点でN3(日本語検定3級)を合格する必要がある。
もう一つは「職歴要件」である。「日本において従事しようとする業務と同種の業務に外国において従事した経験があること」が要件となる。これらの要件を満たすためには現地教育機関の役割が大きい事も既に述べた通りである。

また「監理団体」と呼ばれる機関との関係も重要になってくる。「監理団体」とは外国人技能実習生を受け入れ、傘下の企業等で技能実習を実施する、営利を目的としない団体である。“組合”と呼ばれることも多い。現地の「送出し機関」とのやり取りや、「地方入国管理局」との調整をおこなう。「技能実習」の在留資格を得る手続き上、重要な役割を担っているといえる。

「介護」職種の監理をおこなう場合、「監理団体」そのものにも5年以上の実務経験を有する介護福祉士等を配置する必要がある。他の職種に比べ手がかかるため「介護」は積極的に取り扱わないという「監理団体」も多い。技能実習生を受け入れる場合、自分の地域に「介護」を取り扱う「監理団体」が見つからない、見つかっても意思疎通がうまくいかないなどつまずく場合も多い。これから長期にわたりお付き合いする組織であるため、焦らず、しっかりと意思疎通ができる団体を見つけるべきだ。どうしても良い団体が見つからないなど困ったときは、専門家等に相談してみるのも良いだろう。

技能実習生の来日後支援

来日後は日本での生活への支援が必要となる。技能実習の制度上、住居(寮)や生活用品を準備することが定められているが、通勤や買い物、ゴミの出し方、医療機関の使い方等、生活指導をする上で教えなくてはいけないことは多い。国や地域によっては、洗濯機や電子レンジの使用方法を知らない場合もある。来日直後は専属の担当もしくはチームを組織し、困りごとがあった場合にはすぐ対応できる体制を整えておく必要がある。

また、技能実習生同士のトラブルにも注意が必要である。技能実習生同士は現地教育機関等でつながりを持っており、来日後もSNS等を利用して連絡を取り合う場合が多い。技能実習生との意見交換の中で「帰国する先輩実習生が現金を家族に渡してくれる」「もっと稼げる仕事を紹介された」といった話を聞くこともある。金銭の授受はトラブルのもとであるし、別の仕事にいたっては在留資格取り消しの上、強制帰国となる可能性もある。絶対に避けなければならないが、SNS等を通じて直接やりとりがされているので施設側からは見えづらい。

こういった生活上の注意点は、事前に「日本での仕事/生活マニュアル」等の形にまとめて繰り返し教育すると良い。もっと言えば、出国時にもしっかり指導してもらうように働きかける必要がある。また、専属の担当を設置し、変わったことがあったら常に相談をしてもらうための体制づくりは必要だろう。受け入れには入念な準備が必要なのである。

「技能実習第2号」の取得とその先

日本での生活に慣れながら、在留資格の延長を目指す実習生もいるだろう。そのためには日本語能力および介護技術の取得を目指していかなければならない。

実習施設への配置直後、技能実習生の在留資格は「技能実習第1号」となっており、日本語能力検定は少なくともN4に合格している。その後、1年間の実習期間の間に日本語能力検定のN3と介護実技および学科試験に合格することで「技能実習第2号」の在留資格を得ることができる。これで「第1号」では1年間のみだった在留期間を3年間に延長することができる。

「第2号」への変更ではN3の取得が大きな壁となる。取得できなければ帰国を余儀なくされるため、早期のN3取得を目指して集中的な日本語教育をおこなう実習施設も多い。技能実習生にとっては来日までが日本語学習の大きな目標のひとつなので、来日後も高いモチベーションを保って独学で学習し続けるのは難しい。学習時間を設定する、日本語を教える担当を配置する等、受け入れ側の積極的な介入が必要となる。
こういった支援を継続的におこなっていくことで「第2号」へ移行できる準備が整ってくる。無事「第2号」へ移行できた後、2年間で更に高度な介護技能を身につけることで「技能実習第3号」に移行できる。「第3号」に移行すると、さらに2年、合計で5年間技能実習生として日本に滞在することができるようになる。長期滞在のための一つの目標となる。加えて、「技能実習第3号」に移行する時点で別の在留資格を取得することができるようになる。それが在留資格「特定技能」である。

介護業界の外国人採用:その2 「特定技能」

2018年12月、在留資格「特定技能」の新設を柱とする「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律」が可決・成立し、2019年4月1日より人手不足が深刻な産業分野(14分野)において「特定技能」での新たな外国人材の受入れが可能となった。「介護」もその14のうちの分野の1つである。

「外国人技能実習制度」の目的が「技術移転」であったのに対し「特定技能」の目的は「専門性・技能を生かした業務に即戦力として従事する外国人を受け入れること」である。

「技能実習2号」を修了した実習生は、試験免除で「特定技能1号」の在留資格を取得することができる。「技能実習」では最大5年間だった在留期間を、「特定技能」を取得することで更に5年間延長することができるようになる。今後は「技能実習」から「特定技能」という流れも多くなる見込みである。

介護施設からは、長期滞在に意欲を持った人材を技能実習生候補の段階から採用し、「特定技能」につなげたいという声を聞く。しかし、現実の多くの場合において3年の実習期間終了とともに帰国する外国人技能実習生が大半ではないだろうか。やはりより長期的に居続けてもらうには、根本的な魅力アップが必要だ。それは日本人職員と同様の定着率向上への取り組みである。長期間、就労したいと思える「魅力的な職場」となるような環境整備を検討したい。

「特定技能」による入国実績は、法務省「特定技能在留外国人数の公表」によると16名(2019年9月末時点)と少ない。しかし、厚生労働省による「介護技能評価試験・介護日本語評価試験の試験結果」から、2019年12月末時点での国別・試験別の合格者数の累計が、フィリピンは介護技能評価試験合格者960名、介護日本語評価試験合格者922名、カンボジアは介護技能評価試験合格者16名、介護日本語評価試験合格者40名、ネパールは介護技能評価試験合格者21名、介護日本語評価試験合格者21名、インドネシアは介護技能評価試験合格者100名、介護日本語評価試験合格者117名、モンゴルは介護技能評価試験合格者74名、介護日本語評価試験合格者70名、国内は介護技能評価試験合格者280名、介護日本語評価試験合格者355名となっている。
全ての国を合わせると介護技能評価試験合格者、介護日本語評価試験合格者ともに1,400名を超えており、今後、入国実績も増加していくものと考えられる。

長期間に渡って外国人介護士が活躍できる制度は整いつつある。次回は「特定技能」のさらに先に目指すべき在留資格「介護」について解説する。

著者プロフィール

株式会社スターパートナーズ 代表取締役
一般社団法人介護経営フォーラム 代表理事
脳梗塞リハビリステーション 代表
Japan Care and Medical co., Ltd(Thailand)共同代表
齋藤 直路(さいとう・なおみち) 氏

東京都出身。宮崎県にて幼少期を過ごす。九州大学大学院医学系学府卒(MPH)。日本社会事業大学大学院卒。
大手コンサルティング会社を経て、日本全国の高齢・医療・児童・障害サービスに特化したコンサルティング会社を設立。“外国人介護士”に関しては早くから着目し、EPA以前より海外人材に着目し毎年アジア視察ツアーを開催。これまで、中国、ベトナム、ミャンマー、フィリピン等で開催し採用・育成に関して支援をしてきた。2019年1月にはタイ王国バンコク県の病院内にてリハビリ事業を開始。その他、会員制研究会「介護経営フォーラムin東京・仙台・博多」主催。保険外自費リハビリ施設「脳梗塞リハビリステーション」を福岡・山口・神戸須磨・タイ王国バンコクにて展開。講演執筆多数。

<有識者等>
・厚生労働省老健局 老人保健健康増進等事業『外国人介護人材の受入れの実態等に関する調査研究事業』有識者委員(現任)
・厚生労働省老健局 老人保健健康増進等事業『東北地方における介護未経験者確保に関する調査研究事業(略称)』有識者委員(現任) 他

<執筆>
・「定番必携 はじめてでもわかる!介護施設&老人ホームのさがし方・選び方」(2016,サンライズパブリッシング)
・「あの介護施設はなぜ、地域一番になったのか」(2015,共著,PHP研究所) 他

齋藤 直路 氏

齋藤 直路 氏コラム一覧

ページの先頭へ