2019年12月17日更新

介護施設における外国人採用第01回 介護施設における外国人雇用の実際

株式会社スターパートナーズ 代表取締役
一般社団法人介護経営フォーラム 代表理事
脳梗塞リハビリステーション 代表
齋藤 直路 氏

在留外国人は昨年と比べ約17万人増加。介護現場においても今後増加していく

法務省入国管理局によると、平成30年末における在留外国人数について、273万1,093人となり、前年末に比べ16万9,245人(6.6%)増加し、過去最高になった。(注1)私たちの生活の中でも外国人と出会うことは当たり前になった。近所のコンビニエンスストア、ファストフード店はもちろんのこと、飲食店、宅配など、様々な場面で様々な国の人々が活躍している。介護現場でも例外ではない。平成20年にはEPA(経済連携協定)の枠組みでの来日を始め、平成30年に技能実習生として初来日するなど、活躍の場の一つとなっている。本コラムでは3回に渡り、介護医療専門コンサルタントの立場から、これから増加する「外国人」と「介護施設」について考えていきたい。

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厚生労働省老健事業において実態調査を開始している

介護施設において入国方法は複数ある。例えば、技能実習生、特定技能、在留資格介護(EPA)、留学生を中心として、ワーキングホリデー、いわゆる新日系人などのケースもある。このうち特定技能を除き、すでに数多くの方が入国・就労されている。そうした背景から、厚生労働省では、令和元年度老人保健健康増進等事業において、「外国人介護人材の受け入れの実態等に関する調査研究事業」を開始し(筆者も有識者委員として参加)、技能実習制度および在留資格「特定技能」により受け入れた外国人介護人材の生活・就労の実態や受入れ施設等における支援の実態を調査するとしている 。(注2)

介護施設における外国人の就労の際に最も気を付けることは「日本の介護観」

筆者はEPA以前より介護施設における外国人の就労を支援してきた。その多くがベトナム、フィリピン、中国、ミャンマー、インドネシアなど、東南アジア・東アジア諸国である。これらの地域から介護施設で受け入れる際に最も重要な事は“言葉”ではなく、「日本の介護観」を伝えることである。そもそも「介護」という概念がほぼない(近年高齢者の増加と共に醸成されている)。高齢に伴い不自由になれば「ハウスキーパー(メイド・家事手伝い)」を依頼する文化であることが多く、病気になれば「入院」する。「医療」と「ハウスキーパー」の視点が主であり、その間に位置する「日本の介護」の考え方は存在していない。
このような状況の中、特に気を付けなければならない事は、日本の介護施設では当たり前になっている価値観である。特に「自立支援」「権利擁護」「認知症対応」といった分野で差が顕著となるのでないだろうか。例えば、「自立支援」をみてみよう。数年前、筆者がミャンマーにて、来日の候補者と意見交換していると「身体が不自由なに、何故代わりにやってあげないのですか?」という質問があった。どうやら、支援が必要だから施設で暮らしているのに可哀そうだ、というのだ。確かに一見そのようにも見えなくもない。受入予定の介護施設では、残存機能を活用しできる限り自分でおこなっていただくという考え方が浸透していることを伝え、事前に資料を作成し手渡すことになった。そこには、残存機能を活用しないことは高齢者の“出来る事をする”機会を奪い、高齢者の能力が衰えていくことを明確に伝え、“あえて”ご自分にしてもらうことが支援の一部であることを、繰り返し伝えている。

外国人候補者・日本の介護施設の職員に対する受入の準備を

前項のように、日本の介護の“当たり前”は通用しない。したがって来日前には、現地と日本の介護観の違いを伝える必要がある。長崎県の介護施設では、私たちと一緒に介護の基本の考え方をまとめた「法人オリジナルの介護テキスト」を作成した。このテキストには、前出の日本の介護の特徴や基本的な介護のルールだけでなく、自社のこだわり、自社の取り組み等について整理した。そして、分かりやすい日本語に書き換えた上で、現地の日本語学校に送付している。日本語学校では、教師の指導の下、指導テキストとして事前にしっかり教育できるというわけである。このプロセスを経ることで、来日後のギャップを埋めて就業開始することができる。また、テキストに整理し言語化することは、外国人のみならず、日本人が入職する際にも大変有用であったようである。
また、受け入れ側の介護施設職員の準備も重要である。受け入れ施設では、そもそも外国人に対する基本的な知識が無い場合がほとんどである。来日国の文化を理解し、相互に尊重し合うことが重要である。千葉県の介護施設では、受け入れる以前から段階的に、来日国の文化などを伝えたり、外国人候補生が日本語で作成した日報を共有している。担当者はもちろんのこと、職員一人ひとりの意識づけをしていきたい。

日本語教育は入国前に十分な時間確保

介護施設において「日本語能力」も重要である。コミュニケーションの重要性の高い介護現場では想定しているよりも高いレベルが必要となることは言うまでもないだろう。
日本語能力の評価は、基本的にJLPT(日本語能力試験)の受験を経て取得するN1~N5の5段階を基準としている。現在の制度では、「入国はN4レベル」「滞在延長(技能実習2号)はN3レベル」という具合だ。一見、「N3」取得後に来日した方が良いように思える。しかし、ここには課題がある。

それはN3の壁は想像以上に高いということである。これはもちろん個人の資質にもよるが、ベトナム、ミャンマー等の非漢字圏の場合、そもそも入国レベルである「N4」の取得に際しても学習開始から8~10ヶ月程度で取得する場合が多い。ここからさらに「N3」となると、もう3~6ヵ月は要するだろう。つまり内定を出してから来日まで11ヵ月~16ヶ月を要することになる。長引くと学費の問題も出てくる。来日する外国人候補生への生活保障の意味合いで、実質的な“給与”としての支払いを求められるケースもある。その結果、各関係機関とのやりとりで「N4すれすれ」での入国も多いと聞く。しかし、入国後は実務に加え、日本語の勉強をしなければならず、また日本語教育コストも現地と比較すると高くなる。やはりできる限り日本語教育期間を確保し、出国前の段階で「N3」に近い日本語能力を取得していることが望ましい。

来日前は現地教育機関のレベルが“カギ”となる。来日後は施設の教育体制構築を

日本語の教育について、いずれの入国方法についても、高いレベルを目指す現地教育機関の選定が必須である。前出のテキストを事前に共有することや、ITを活用したコミュニケーションなどができるとなお良い。教育機関に訪問する際は、目標としている日本語能力レベルや教育期間、試験合格の実績、オーダーメードの教育プログラムの可能性なども情報収集しておくと良いだろう。
また、来日後の支援体制についても検討したい。例えば技能実習生であれば、毎日10時間以上日本語を勉強しているケースも少なくない。来日という大きな「ゴール」を果たして燃え尽きてしまったら意味がない。しかも、N4で入国した場合、N3に合格できなければ帰国を余儀なくされる。本人が日本語の勉強時間を確保できるよう担当者を付ける、シフトを調整するなど、試験に打ち込めるよう支援をおこなうことが重要である。
加えて、技術取得に関する評価制度も検討したい。東北の顧問先では、20段階の教育システムを構築した。これは、私たちコンサルタントと介護施設の職員と半年に渡って議論し、1人前のレベルを設定、その後、難易度に合わせて20段階に分けたものである。来日した外国人職員は、この目安を見ながら、レベルアップしていき、その分給与が増加する仕組みだ。

本コラムでは、外国人雇用の背景と、特に注意すべき「日本の介護観」「日本語教育」「受入準備」についてお伝えした。次回のコラムでは、特に増加している「外国人技能実習生」と今後増加する「特定技能」について解説していきたい。

著者プロフィール

株式会社スターパートナーズ 代表取締役
一般社団法人介護経営フォーラム 代表理事
脳梗塞リハビリステーション 代表
Japan Care and Medical co., Ltd(Thailand)共同代表
齋藤 直路(さいとう・なおみち) 氏

東京都出身。宮崎県にて幼少期を過ごす。九州大学大学院医学系学府卒(MPH)。日本社会事業大学大学院卒。
大手コンサルティング会社を経て、日本全国の高齢・医療・児童・障害サービスに特化したコンサルティング会社を設立。“外国人介護士”に関しては早くから着目し、EPA以前より海外人材に着目し毎年アジア視察ツアーを開催。これまで、中国、ベトナム、ミャンマー、フィリピン等で開催し採用・育成に関して支援をしてきた。2019年1月にはタイ王国バンコク県の病院内にてリハビリ事業を開始。その他、会員制研究会「介護経営フォーラムin東京・仙台・博多」主催。保険外自費リハビリ施設「脳梗塞リハビリステーション」を福岡・山口・神戸須磨・タイ王国バンコクにて展開。講演執筆多数。

<有識者等>
・厚生労働省老健局 老人保健健康増進等事業『外国人介護人材の受入れの実態等に関する調査研究事業』有識者委員(現任)
・厚生労働省老健局 老人保健健康増進等事業『東北地方における介護未経験者確保に関する調査研究事業(略称)』有識者委員(現任) 他

<執筆>
・「定番必携 はじめてでもわかる!介護施設&老人ホームのさがし方・選び方」(2016,サンライズパブリッシング)
・「あの介護施設はなぜ、地域一番になったのか」(2015,共著,PHP研究所) 他

齋藤 直路 氏

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