2021年09月17日更新

病院とICT活用 第05回 ニューノーマル、アフターコロナを見据えた病院のICT化とは

MICTコンサルティング株式会社 代表取締役 大西 大輔 氏

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医療デジタル化の流れ

医療のデジタル化の歴史は約48年前のレセプトコンピューター(レセコン)に始まり、その後、オーダーリング、電子カルテと発展を遂げます。2000年代に入り、政府は積極的にITの活用を進めており、特に2010年の医療分野のクラウド解禁以降、2025年の地域包括ケアシステムの完成を目指して、医療・介護の情報共有がデジタル化の重要テーマになっています。直近ではオンライン診療、オンライン服薬指導と、「オンライン」がデジタル化の目玉となっています。

2020年には4月に新型コロナウイルス感染症拡大のため「緊急事態宣言」が全国で発令されました。それに合わせて、オンライン診療・オンライン服薬指導が利用しやすいように、時限的に規制が緩和されています。また、感染症対策、医療提供体制の安定化のために、補正予算が3度組まれ、積極的な財政出動が行われています。同時に、補助金を活用したシステム化が活発に行われています。

また、2021年3月にはオンライン資格確認が開始され、その後特定健診情報、薬剤情報の開示、2022年夏には電子処方箋の仕組みが開始される予定です。急速に進む政府のデジタル政策は、医療におけるデジタル格差を生み出す懸念すらあります。

医療デジタル化政策を整理すると、政府はカルテ、レセプト、フィルムのデジタル化を進め、クラウドを解禁し、デジタルでのコミュニケーションを可能とする基盤を整備しました。そして、オンライン診療、オンライン資格確認と、デジタル化による社会変革を実現しようとしています。IT、ICT、そしてデジタルトランスフォーメーション(DX)の流れが医療の世界にも押し寄せているのです。

業務効率化と3密対策

現在、病院のデジタル化を進める上で、「感染予防」「生産性向上」「患者満足」の3つの視点が大切です。コロナ禍で広まった感染予防の考え方は、アフターコロナでも継続して取り組む必要があります。対策としては、医療現場の「密集」「密閉」「密接」を避けることのできるICT活用を考えることが大切です。また、患者増が見込めない状況においては、コストに注目する必要があり、自動化やタスクシフトに取り組み「生産性向上」できるICT活用を考えることが大切です。さらに、地域での競争が激化し、患者による医療機関選別が進むことから、患者に選ばれる医療機関になるために、患者の不満解消、利便性向上に着目したICT活用を考えることも重要でしょう。

生産性とは、「アウトプット/インプット」の式で表されます。言い換えれば、売上を最大化し、経費を最小化することに他なりません。患者数が増えず、なかなか売上増が見込めない現状においては、コストダウンの視点から医療の最大のコストである人件費に注目する必要があるのです。従来の常識や固定観念にとらわれず、売上最大、経費最小のための努力を、日々創意工夫をこらしながら粘り強く続けていくことが大切です。

自動化とタスクシフティング

医療における「タスクシフティング」として、医師の事務作業軽減を目的に医師事務作業補助者の導入、看護師をサポートするための看護補助者の導入が進められています。一方、受付自動化の流れが急速に進んでおり、事務作業の自動化へのIT投資が積極的に行われるようになりました。医師事務作業補助者、いわゆるクラークを例に、業務分散の進め方を考えると、

  1. 受付で問診票の内容を確認し、看護師が予診を実施。電子カルテに主訴として登録
  2. 医師は問診内容(過去カルテ)を確認しながら診察を進め、所見、指導、オーダーなどの内容をクラークに指示
  3. クラークは医師の指示を電子カルテに入力
  4. クラークはレセプト請求を意識して、点検をしながら足りない部分を補う
  5. 医師が最終承認
  6. 次回予約が必要であれば医師の指示のもとクラークが入力
  7. 会計で最終チェックを行う

このように、医師、看護師、クラークがチームを組んで業務分担を行うことで、効率的なカルテ作成が行えるようになるのです。

3密対策とICT化

また、感染症予防の観点からICTの利活用が進んでいます。ICTを活用して、業務を効率化(省力化)する例としては、複数の電子カルテ端末の導入により、場所あたりの人員を減らすことで、密の回避を図りながら業務分散を進めることが可能となります。現在政府が急ピッチで進めている「オンライン資格確認」も、保険証の確認、登録を自動化し、人為的なミスによって生まれていた資格過誤を減らし、返戻が減少することが期待されています。補助金を活用して、しっかりと進めていただきたいところです。

コロナ禍で「予約システム」と「Web問診」による密の回避、業務効率化にも注目が集まっています。予約システムを導入することで、患者の来院をコントロールすることができ、待合室での長時間滞在の短縮が期待できます。Web問診が導入されることで、来院前に問診票の記入が可能となるほか、事前トリアージとして感染リスクを軽減することが可能となります。

オンライン診療

医療のデジタル化は、診療スタイルについても見直しを求めています。感染予防の観点から、電話診療、オンライン診療に係る規制が大幅に見直され、多くの医療機関でオンライン診療システムの導入が進みました。医療機関はオンライン診療と対面診療を上手に使い分けることで、患者アクセスの選択肢を増やし、安心・安全な医療サービスの提供が実現できると期待されています。今後、オンライン診療を定着させるためには、高齢者などデジタル機器を使いこなすことの苦手な方々への配慮が重要となります。

自動精算機・セルフレジ

コロナ禍で急速に進んでいるのが、「精算業務」の自動化です。精算場面での人と人との接触を減らすことや人件費を下げることを目的に、飲食店、小売店などで導入が進み、その波が医療現場にも訪れています。自動精算機・セルフレジを導入することで、労働時間の短縮が可能となり、スタッフと患者の接触機会も減少していきます。感染予防と業務効率化という2つの効果を期待して、導入が今後も進められていくことでしょう。

中小規模病院で電子カルテの普及が進まなかった理由

医療現場でデジタル化を進める上で、中心的な役割を担うのは「電子カルテ」です。電子カルテはパソコンでいうところのOSの役割を担っており、さまざまなアプリケーションを動かすための基盤となるシステムです。長らく、中小規模の病院では電子カルテの普及が遅れていました。普及が進まなかった原因として、(1)コストが高いこと、(2)補助金による優遇が少なかったこと、(3)パソコンの苦手なスタッフが多いこと、(4)非常勤医師の配置が多いこと、(5)規模的に医療IT専任担当者の配置が難しいことなどが挙げられます。このような状況は、クラウド技術の進歩や価格の減少、補助金の活用、デジタルネイティブと呼ばれる若者の増加などにより、一気に進もうとしています。

電子カルテ導入時の注意点

これまで電子カルテの導入は、「システム選定」に重きが置かれてきました。電子カルテというシステム自体が未熟であったこともあり、現場の運用に合わせたカスタマイズが多く行われてきたためです。電子カルテが生まれて約20年が経った今では、パッケージ化が進み、導入は昔ほど難しくなくなりました。現在は、選定フェーズよりも導入準備フェーズに重きを置いて、プロジェクトをスムーズに遂行することに重点が置かれるようになっています。導入準備期をスムーズに進めるためには、以下の5点が大切となります。

  1. ベクトル調整(紙カルテ運用と電子カルテ運用の違いの共有化)
  2. 情報共有と担当者(誰が院内調整をし、誰が決定するのか)
  3. 準備と期限(事前準備の洗い出しと進め方、そのスケジュール化)
  4. フロー(新業務フローの作成)
  5. シミュレーション(複数回のシミュレーションによるフローの見直し)

これらの手順をしっかりと踏むことで、現場の混乱を抑え、電子カルテの導入が進むと考えます。

アフターコロナに向けて

新型コロナウイルスの感染拡大は、我々の生活様式と受療行動に大きな変化をもたらしました。感染を恐れる患者は「受診控え」という行動をとり、医療機関が「安心」「安全」と認識できなければ患者は戻ってこない状況が続いています。このような、非増患時代に病院経営は、これまでの常識を一旦否定し、新たな常識に沿ったニューノーマルに取り組む必要があるのです。コロナ禍は立地の考え方を見直す必要があり、待ち時間を短くすればするほど、患者に選ばれるという状況が生まれています。また、患者、地域住民へのプロモーションをWebにシフトする必要が出ており、新規患者増加から「既存患者の再来率向上」に注目しなければなりません。アフターコロナに向けた戦略は、患者に「ファン」になってもらうために、ITを活用して安心・安全・利便性を高める必要があるのです。

著者プロフィール

MICTコンサルティング株式会社 代表取締役

大西 大輔 氏

過去3,000件を超える医療機関へのシステム導入の実績に基づき、診療所・病院・医療IT企業のコンサルティングおよび講演活動、執筆活動を行う。

経歴
2001年 一橋大学大学院MBAコース修了
2001年 医療系コンサルティングファーム「日本経営グループ」入社
2002年 医療IT総合展示場「メディプラザ」設立 (~2016閉館)
2016年 コンサルタントとして独立し、「MICTコンサルティング」を設立

大西 大輔 氏

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