2018年12月12日更新

稼働率を上げる介護事業所のつくり方 第01回 人気施設の作り方 ~デイサービス稼働率アップ事例~

株式会社スターコンサルティンググループ 代表取締役 経営コンサルタント 糠谷 和弘 氏

介護事業における競争が激化しています。最近では「待機者が30万人以上」とも言われる特別養護老人ホームでも「稼働率が上がらない」という相談をいただきます。
特に、デイサービスセンターは、施設が飽和状態にあります。2016年の「介護給付費実態調査」によれば、介護保険がはじまって以来、はじめて事業所数が減少しました。前年の報酬ダウンによる影響もありますが、実際には、稼働率がダウンしたことによる休止・廃止も多いと聞きます。

今回は、デイサービスにおける稼働率ダウンの傾向と対策についてお伝えします。

稼働率ダウンの理由

コンサルタントとして、数々の不振施設と向き合ってきましたが、その理由は大きく4つに分類できます。

①対象者がしぼれていない 自立度の低い方から高い方まで、満遍なく受け入れることによって、サービス、ケア、機能訓練のすべてが中途半端になっている。
②時流にあっていない 5年前、10年前と提供しているサービスが変わっておらず、飽きられている。
③特長がない
クオリティが低い
食事、入浴、認知症ケア、重度対応、自立訓練等で、特に力を入れているものがない。または、あったとしても、競合他社を上回るレベルのクオリティではない。
④プロモーションが不足 ケアマネジャーへの告知、地域への働きかけ、施設前での看板、のぼりなどによる訴求が不足している。

このうち②~④は、誰にもわかりやすい課題ですが、「①対象者が絞れていない」に関しては、ピンとこない方が多いようです。これに関しては、趣味の教室やスポーツクラブなどを想像していただければ、イメージしやすいと思います。

<あるテニス教室>

  • あなたは、健康維持のために、友人の誘いでテニスを習うことになりました。
  • あなたが選んだ教室には、年齢を問わず、初心者からセミプロまでが同じクラスで練習します。
  • 「ラケットの握り方」や「打ち方」を指導する場面もあれば、目にもとまらぬ剛速球サーブを打ち返す練習もあります。
  • ラリーの相手は、小学生だったり、大会に出場するような大学生だったり、時には70代のベテランプレイヤーとなることもあります。

さて、このようなテニス教室で、あなたは満足して続けられるでしょうか?きっと「初心者クラスにすれば良かった」と嘆くはずです。

つまり、対象者を特定せず、要支援1~要介護5までを満遍なく受け入れ、介護予防目的の方、自立度の高い方から、車椅子の方、認知症の重篤な方まで対応するのは、初心者からセミプロまでを一緒に練習させるテニス教室と同じこと。人気が出るはずはないのです。

施設がまだ少ない頃は「どんな方でも受け入れる」ことが“美徳”でしたが、いまは様々なタイプの施設があるのですから、もしあなたの施設を希望する方が、あなたの施設に合わないのであれば、無理に受け入れるのではなく、マッチする施設を紹介すれば良いのです。

成功のポイント

では、どうすれば稼働率を高められるかと言えば、稼働率が低くなるケースとは逆のことをすれば良いのです。

①対象者をしぼる どのような悩み、ニーズを持つ対象者を受け入れるのかを明確にする。
②時流適応 施設デザイン、設備、ユニフォーム、BGM、機能訓練、レク、食事などのサービスを、できる限り時流に合わせる。(“古くさい”という印象を持たれると、それだけでケアマネが紹介しないケースもある)
③“武器”で一点突破 “対象者”に対して、どのようなサービス、ケア、機能訓練を提供するべきかを検討し、武器を1つ決めて、そのテーマでは“地域一番(エリアナンバー1)”を目指す
④ウチからソトへ告知 施設の“武器”をウチ(身内)からソト(外部)へ「スタッフ」→「利用者」→「家族」→「ケアマネ」→「地域」の順に伝える。(まずはスタッフに“武器”を強烈に意識させる)

このうち大事なのは「①対象者をしぼる」ことでした。対象者を明確にすれば、自ずと提供すべきサービス、訓練なども明確になってきます。それを「武器」とすれば良いのです。どんな人でも受け入れ、サービスについても、あれもこれもやろうとするから力が分散し、中途半端になるのです。

「武器」を決めたら、本当に戦える「武器」となるまで、徹底的に磨き込みましょう。競合他社の動きをリサーチし、こうしたサイトやセミナー、業界紙などから情報を仕入れ、現場でプロジェクトチームをつくって脇目もふらずに磨き続けるのです。それをしっかりと外部に告知すれば、お客様は集まってきます。これで人気施設の出来上がりです。

成功事例紹介

神奈川県内で2つの施設を運営する法人Hでは、両施設ともに、30名定員の一般的な施設ですが、稼働率が60%台と低迷していました。
弊社で経営分析してみると、どちらもターゲットが決まっておらず、入浴目的の方、運動目的の方、レクを楽しみにしている方など、お客様のニーズがバラバラでした。時間帯としても「5時間超」と「7時間超」が同程度いて、効率的とは言えない状況でした。
そこで、以下のような手順で課題解決のサポートをしました。

①コンセプトのリメイクと武器の磨き込み
2つの施設のターゲットを別々にし、コンセプトの再設定を行いました。狙いとしては、ターゲットを分けることで、幅広い客層に対応することと、それぞれの施設の特長を際立たせることです。

                
施設A 施設B
コンセプト 「楽しく食べる」を実現する 「自分の足で歩く」を実現する
ターゲット 中度者 軽度者
武器 【生活リハ(食事)】
  • 食器のリニューアル
  • 調理機器の導入
  • 調理リハ(教室)の実施
  • 調理イベント
    (2チームに分かれて対決)の実施
  • 口腔体操の強化
【歩行訓練】
  • 室内ウォーキングタイム
  • 下肢訓練用機器設置
  • 体幹訓練用機器設置
  • 平行棒による訓練メニュー
  • 外出歩行訓練 (ポールウォーキング)
時間帯 7時間中心 5時間中心

改善活動実施までには、3ヶ月程度の期間を置いてお客様、家族、ケアマネに何度も説明し(文章でも通知し)、施設間を移動していただくこともありました。しかしながら、どうしても変化に対応できず、やめた方も各施設2~3名いたということも補足しておきます。
こういう改革は、少なからず痛みを伴います。しかし、それを理由に先延ばしすれば、取り返しのつかないことにもなりかねません。十分な配慮は不可欠ですが、時には大きな決断が必要なときもあります。

②合同営業の実施
それぞれの相談員が、別々にケアマネ営業をしていました。時には、同じ居宅に、時間をずらして訪問することもありました。社内で競合していたのです。
そこで、居宅ごとに訪問する担当者を決め、訪問時には両施設の情報を提供することにしました。2つの施設が別々の客層を狙っているため、居宅からの問い合わせがあったときの振り分けはスムーズで、月に10数件しかまわれていなかった訪問活動が、倍以上になりました。
また、訪問時の情報提供ツールとして、合同の広報誌を作成しました。以下は、広報誌を作成する上で重要なポイントです。

【広報誌のポイント(これだけは入れてほしい!)】

  • 「武器」となる活動シーン(写真+キャッチコピー)
  • 「武器」による成果(リハであれば改善事例)
  • 空き状況

これらの活動により、特に成果が高かったB施設は、以下のような結果となりました。(ともに月間26日営業で比較)

                
B施設(定員30名) 改善前 改善後
稼働率 64% 91%
利用客数 60人 97人
のべ利用人数 498人 710人
時間帯 8.3回 7.3回

平均介護度が下がった分、利用回数は減りましたが、特徴的なサービスを持つことによる契約者増でカバーしました。 また、7時間の時間帯が減った分、客単価は下がりましたが、スタッフ数はほぼ変わらずに、売上は上がりました。しかも、7時間のときは定時に帰れず、残業が慢性化していたのですが、それも解消され利益率は大きく改善しました。 ちなみに、A施設はB施設ほどではありませんでしたが、稼働率が67%から83%となり、大きく改善しました。

デイサービスセンターは、どのエリアも飽和状態です。弊社の調査によれば、需要の2~3倍以上の充足率となっているエリアもあります。そのような環境下で、勝ちのこれるかどうかは、強力な武器を持てるかどうかにかかっています。そのためには、受け入れ対象者をある程度しぼらなければいけません。すべての人を満足させられるサービスなどないからです。もし、稼働率が上がらずに悩んでいるのであれば、ぜひ「対象者の絞り込み」から実践してみましょう。きっと成果につながるはずです。

著者プロフィール

株式会社スターコンサルティンググループ
代表取締役 経営コンサルタント

糠谷 和弘 氏

プロフィール
1971年東京生まれ。明治大学政治経済学部卒業。ディズニーでの4年間のキャスト経験を経て、株式会社ジェイティビーに入社。企業の海外視察を担当し、39カ国を訪問。当時の専門は、農業、原子力発電、高齢者福祉。コンサルティング大手の株式会社船井総合研究所に入社後は、介護保険施行当初から介護サービスに特化したチームを自ら立ち上げ、統括責任者として幅広くコンサルティング活動を行ってきた。
現在では、介護サービスに特化したコンサルティング会社を自ら設立し、「地域一番企業をつくる」をモットーに、年に50回以上の講演をこなすほかは、年間250日以上はクライアントを訪問し、経営者や経営幹部と一緒に様々な経営課題の解決にあたっている。コンサルティング実績450社以上。
コンサルティングテーマ
  • 異業種からの新規参入支援
  • 新規事業開設(有料老人ホーム、サービス付高齢者向け住宅、デイサービス、グループホームなど)
  • 中・長期事業計画の策定
  • 集客支援(デイサービス、デイケア、有料老人ホーム、高専賃、ショートステイ)
  • プロポーザル支援(特養、老健、特定施設)
  • キャリアパス制度、評価制度構築
  • ホームページ構築
コンサルティング実績
社会福祉法人、医療法人、民間企業などのべ450法人
連絡先
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糠谷 和弘 氏

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