2020年11月30日

食品工場のムダを省く~工場簡易診断の現場から~第02回 食品工場における現場改善

トリニティプログラム 代表 野中 帝二 氏

現場改善が進んでいない食品工場の代表的な特徴としては、「部分最適な改善」に終始していることがあげられます。ムダが多い食品工場でも改善は行われていますが、一部の工程でどんなに改善を行っても他の工程にムダを発生させたり、全体の生産プロセスから乖離しているようでは生産プロセス全体の生産効率は向上しません。つまり部分最適でなく全体最適化された改善を進めていく必要があるのです。そこで食品工場における現場改善の進め方を、全体最適化の観点から整理してみます。

部分最適からの脱却を目指す

食品工場での現場改善を全体最適で行なうということは、自部門や自工程だけではなく全工場や生産プロセス全体を俯瞰したうえで、自部門や自工程内ではどのような改善を行うべきかを考えることが必要です。通常、他工程や他部門の課題は部門間での情報連携が無い限り、知り得る機会は少ないものです。そこで我々が全社最適化された改善課題を抽出する際には、2段階上の立場で考えるように伝えています。例えば、係長であれば2段階上の部長の立場で課題を抽出するのです。そうすると自ずと工場全体や生産プロセス全体を考えざるを得なくなり、工場の全体最適化を想定した場合の自部門や自工程内の課題が見えてくるのです。またもう一つの観点は、「他責」ではなく「自責」で考えることが重要です。何か問題や課題があった場合、その原因は他部門にあると考える他責ではなく、自部門にその原因があるという自責で物事を捉えるのです。そうすれば自ずと他部門や他工程の状況を把握した上で改善を進める必要性が増し、全体最適化に向けた取り組みとなるのです。

真の現場改善は、自動化やツール導入だけでは実現できません。現場改善は現場のムダ取りを行い、付加価値を生まない作業の見える化・効率化・撲滅が必要となります。そのうえで部分最適ではなく全体最適化を目指し、「人の意識を変え」、「プロセスを改革し」、「自動化やツール」の三つ巴で考えることが重要となります。そのような段階を踏むことでシステムや自動化ツールは導入したが運用が回らない、期待効果が出せないといった問題も回避できるのです。

工場従業員の意識改革を促す

工場改善で最初に実施することが、工場従業員の意識改革だと考えています。常にベストを狙うような改善を行っている工場では、改善するのに「一生懸命に知恵」を出していますが、中途半端な改善やトップからの押し付け型の改善を行っている工場では、「愚痴」や「言い訳」が多く出ている傾向があります。つまり改善自体が他責となっているのです。この状態を打破するために工場全従業員の意識変革を促し、知恵を出し続ける組織を創造していく必要があります。

「改善は必要だし、実施すべきだと納得した。しかし自分がやるかどうかかは分らないよ」といった考えから、協創化した組織への変革を行うのです。協創とは多様な立場の人たちと対話し、新しい価値を「共」に「創り」あげていくことです。そのためにはまず、工場内の課題を整理し全社最適化された改善課題を共有して、改善すべき目標を明確にします。その上で「よし、分った。一緒にやろう」といった協創行動をとり自律的な改善組織にするために、ベクトル(目的・課題・進め方)を合せる仕掛け(協創の場)が必要となります。協創の仕掛けは、現場課題整理ワークショツプやAAR(After Action Review:振り返り会)を利用した教え合う職場作りが有効と考えています。そのような仕掛けのなかで、コミュニケーションギャップを解消し、部門(工程)間の壁を取り除きベクトルを合せていくのです。

プロセスを変える

工場内にムダがある場合、プロセスを変えることが必要となります。ムダを徹底的に排除するには、「ものの流し方」と「ものの作り方」の両面からプロセスを改革し、生産性が高く働きやすい環境をつくり出すのです(図表参照)。

「ものの流し方」は、材料や製品の動き・動線に注目します。例えば分岐・合流が多い工程だと、分岐点や合流点に「溜り」といった仕掛が発生し、遅れ・進み・異常が分りづらくなり、また合流地点での作業の優先順位が不明確で、製造リードタイムも長くなります。そこで分岐・合流を無くす整流化をまず実施し、途中のムダな仕掛在庫を削減するのです。その上で段替時間の短縮や生産ロット数を最小化し、最終的には多品種を同時に小ロットで生産するような混流生産を目指します。また生産状況をコントロールするため、生産実績と進捗の見える化を行い、異常を察知しスピーディに対応出来る体制を整えるのです。

「ものの作り方」は品質が良く安全な製品を、人と機械の最適な組み合わせにより最短リードタイムで作ることが出来る「標準作業」が基本となります。しかし多くの食品工場で整備されている「作業標準」は、製造のための大きさや温度・加熱・速度などの条件であり、これを遵守していれば一定の品質の製品を作ることはできますが、標準作業ではないため作業改善には活用しづらい状態となっております。作業標準はHACCPやISO等で規定されているものですが、ムダ取りなどの作業改善には効果的に使えない場合が多いのです。一方標準作業を整備すれば、標準との差異がムダと認識できるため改善がしやすくなります。また標準作業を整備し多能工や保守体制を拡充することで、フレキシブルな生産体制が可能となり、生産性の向上も期待できるのです。

改善結果を定着させる

工場の改善が進んだら、改善の成果を定着させる必要があります。現場改善している際によくあることですが、何かトラブルがあると改善した内容が原因だと思い込みすぐに元の姿に戻してしまうことがあります。問題を引き起こすのが改善そのものであれば元に戻すこともありえますが、問題の発生原因が改善した結果だと決めつけ、直ぐに元の姿に戻し改善を後戻りさせるのです。これを防ぐ意味でも改善結果を定着させる必要があります。

定着させる手段の一つとして、自動化やIoTなどのICTツールを活用し、改善を後戻りさせない仕組みがあります。自動化やIoTツールを導入すれば改善が進むと考えている方も多いのですが、ツールを改善結果を維持する仕組みとして使用するのです。ツール導入でも多少の効率化や改善効果は期待出来ますが、変革を伴うような改善は自動化やICTツールだけでは起こせません。このような点に留意し、十二分に変革(改善)を起こしたうえで改善成果を定着させるために自動化やICTツールを導入することが必要となります。

~食品製造業様向け~工場簡易診断チェックリストとその解説
ダウンロードはこちら

著者プロフィール

トリニティプログラム 代表

野中 帝二(のなか ていじ) 氏

大手電機メーカーにて電子機器の生産技術に従事後、大手電機メーカー系シンクタンクや㈱富士通総研において情報システム構築/ものづくり革新(現場改善)/技術・技能伝承などのコンサルティング業務に従事する。2015年に独立し、現在は技術・技能伝承とものづくり改革の専門家として、コンサルティグ活動や論文・寄稿などの執筆活動を展開している。また食品工場向けの工場簡易診断を実施しものづくり革新活動の支援を行っているほか、独立行政法人中小企業基盤整備機構などのアドバイザーなども務めている。

技術・技能伝承サイト「https://nonaka333.wixsite.com/mysite」にて伝承に関する情報公開中

野中 帝二 氏

ページの先頭へ