2021年6月15日

介護経営実地指導シリーズ 第01回 実地指導・監査対策について

株式会社ヘルプズ・アンド・カンパニー 兼 ISO9001審査員 西村 栄一 氏

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『実地指導対策』は、介護経営をしていくうえで最も重要な基盤といっても過言ではありません。
「あれ?利用者がいて、介護職員がいれば、介護は成り立つんじゃないの?」「そもそも介護は制度よりも先に人間としてあるべき生き方から自然に生まれてくるものでは?」といったご意見もあるかもしれません。無償で行うのであれば、それも充分に成り立つでしょう。しかし、そこには『介護保険制度』という『公助』の下に国民の税金と国の財源をもってサービス提供者・事業者に給付され、しかもその割合は7割から9割が国の財源で担保されています。自ずと介護保険制度は従わなければならない厳正なルールであることが理解できるはずです。

にもかかわらず、前述のような声と共に、「私たちは介護という枠に縛られず、自由に利用者のためのサービスを」という声もよく聞きます。それならば、利用者からサービス料を10割いただければ成り立つのです。しかも、そういう自由な介護を求める方ほど、次の質問に答えられないことが多くあります。
「身体介護を1時間行ったらおおよそいくら掛かるのか知っていますか?」
繰り返しますが、介護保険で給付されるほぼ9割は国からのお金です。そこを履き違えないよう、介護経営・サービス提供に努めていただければ幸いです。(ちなみに「身体介護1時間」の答えは「約4,000円」です)

最近は、昔に比べると、全体的に高齢化が進んでいるせいか『優しい空気』が広がっているような気がします。特に、パワハラ問題やコンプライアンスの徹底が世の中の規範になっているため、行政からの『法律を守れ』と厳正かつ高らかに言われる実地指導の検査官も少なくなりました。なので、このコラムでは、私が行政に代わって、実地指導Xデーに備えて毎日指差し確認をするくらい、いざ指摘されたとしても、びくともしない事業所経営ができるよう、安全確実な施設運営継続のためのポイントをお伝えしようと思います。

『実地指導』と『監査』の違い

『実地指導』と『監査』。この二つはよく混同、誤解される言葉です。実際に、行政から通知が届いて開封してみたら『書面指導』『書面監査』『実地監査』『実地検査』など、通知する側もよくわかっていないのか、それとも通知される側をわざと煙に巻いているのかとすら疑うような表記をよく見かけます。正式には、その違いについて『介護サービス事業者等指導及び監査実施要綱』の『趣旨』にて、『介護保険法第24条の規定により第26条の規定による旧介護保険法第24条、第76条、第90条、第100条、第114条の2、第115条の7、第115条の33、第112条並びに生活保護法第54条の2の規定に基づき、指導及び監査について、基本的事項を定める』として、以下のように定められています。

<実地指導の目的>

介護サービス事業者等に対して行う介護給付等に係る介護給付等対象サービスの介護報酬の請求等に関し、法令、通達に対する適合状況等について、個別に明らかにし、利用者の自立支援及び尊厳の保持を念頭において、介護サービス事業者等の支援を基本とし、介護給付等対象サービスの質の確保及び保険給付の適正化を図ることを目的とする。

<監査の目的>

介護給付等対象サービスの内容、介護報酬の請求及び業務管理体制の整備に関し、法に定める勧告、命令、指定取消処分等に該当する場合、又は介護報酬の請求について、不正若しくは著しい不当が疑われる場合において、事実関係を的確に把握し、公正かつ適切な措置を採ることを主眼とし、介護給付等対象サービスの質の確保、保険給付の適正化及び業務管理体制の適正な整備運用を図ることを目的とする。

簡単にいうと、実地指導は事業運営を進めていくための健康診断みたいなもの、監査はその目的に照らし頻繁に出てくる『不正』を暴くためのもの、と理解していいと思います。
さらに、監査には『聴聞』というイベントもセットでついてきます。これはまた追って事例を挙げさせていただきます。

健康診断のようなものとしての『実地指導』の基本

まず先に私がお伝えしたい『実地指導』の基本3つについては、明日からでも着手してください。

  1. 記録や帳票類には全て作成者、説明者、監督責任者の名前を記入すること。名前なしの記録をたくさん見かけます。
  2. 決められた様式があるのであれば、記録の記入欄は全て埋める、つまり空欄には必ず何かを書くこと。『該当なし』『調査中』など何でもいいのです。
  3. それら書類には必ず日付を入れること。そこには『年』からきちんと書くこと。あとから追記する場合にも同じく『追加記入者』『追加記入日』を書くこと。

これらは習慣にしてください。そして、実際に、実地指導の最初の15分で、記録や帳票類をパラパラと見ただけで、当該事業所のレベルがわかるからです。

最初に見せる書類といえば、まずは『人事関係』です。具体的には『雇用契約書』または『労働条件通知書』。そして『勤務形態一覧表』、要するに『シフト表』とそれにともなう『出勤実績』や『賃金台帳』などです。
特に、雇用契約書が法人全体のものであることが多く、介護保険制度における指定事業所の管理下にある『職責』の名称になっていない点が多く指摘されます。たまに、代表者もヘルプでシフトに名前を連ねていらっしゃることもありますが、そのような場合でも『雇用契約書』が必要です。雇用契約書の欄には『職責(業務内容):非常勤介護職員』と明記されたうえでその法人代表の欄にも同じ名前を書くという、『業務命令者』と業務命令を受ける対象が『本人』というのは違和感があるかもしれませんが、これがこの制度なのです。

そして、この時点で、まさかの『日付抜け』や『空欄』がないことを確認してください。最初の15分でこの後の数時間を厳しく見ていくかどうかを、検査官は判断するのです。身近な例でいうと、みなさんも食事をするために入ったお店のこと、初めに肌感覚でわかりますよね。人は、日常業務で慣れていることに対して、どう対峙していくか自然と肌感覚でわかるものなのです。その観点で、充分ご注意ください。

まとめ

既述していますが、「実地指導は健康診断みたいなものだから、いつ来られても自分たちのやっていることに自信を持って」と、軽く考えるのは止めましょう。根拠のある自信ならいいですが、根拠となる介護実態や法律の知見が充分でない場合は注意が必要です。
実地指導は、事実上の『立入検査』『監査のための視察』と考えたほうがよいでしょう。

著者プロフィール

株式会社ヘルプズ・アンド・カンパニー
代表取締役

西村 栄一(にしむら・えいいち) 氏

実地指導監査対応コンサルティング創設。2016年IRCA認定ISO9001審査員合格。現在、災害や福祉に強いまちづくり研究のため、大阪市立大学院都市経営研究科所属。これまでの事業方針は介護サービス利用者、家族の居心地の良さを追求し、職員の現場改善を熟考し、介護を聖域とは呼ばせない「誰もが自由に行き来できる環境」を作るために、これまで300以上の事業所のお手伝いをしてきました。法令遵守は最低限のマナー、の理念のもと、実地指導・監査対策を通じ、事業の「守り」を強化、安全で確実な「攻めの経営」体制の支援をいたします。

経歴
1966年 熊本生れ 県立済々黌高等学校 早稲田大学卒
1991年 人材派遣株式会社パソナ入社
1994年 有償ボランティア講師として、アラスカ大学で1年半、オクラホマ大学で2年
1998年 米国ディズニーワールドウェディング指定衣裳室(WATABE)店長着任
2004年 株式会社コムスン入社。現場問題解決、面談やクレーム処理、債権回収、行政対応と後任育成に取り組む。環状関西副支社長昇進
2010年より現職

執筆・講演

  • 混合介護導入・運営実践事例集(書籍共同執筆)
  • 週刊ニューヨーク生活「日本の介護事情」(コラム隔週連載)
  • 日本通所ケア研究会参考セミナー

コンサルティング

  • スターパートナーズ パートナーコンサルタント 法令遵守コンサルタント
  • 脳活バランサー CogEvo アドバイザー

資格 その他

  • 介護事業経営研究会(C-MAS)認定スペシャリスト
  • 社団法人きらめき認知症トレーナー協会4sr.
  • 一般社団法人関西デイサービス協会 幹事

西村氏

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