2021年8月19日

介護経営実地指導シリーズ 第03回 法律に従ってサービス提供する以上は「言葉」を大切にする

株式会社ヘルプズ・アンド・カンパニー 兼 ISO9001審査員 西村 栄一 氏

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前に『実地指導と監査を混同してはいけない』ということを書かせていただきました。感覚的に似た言葉であっても、介護保険事業は『法律に実直に則り運営を行なわなければならないもの』ですので、今回は噂やネットの情報に惑わされることなく、介護施設の運営上で大事な『言葉』について、改めて確認します。

介護報酬改定の表現でみる優先順位

令和3年の介護報酬改定の中にもいろいろな優先順位を想定される表現が表出しました。まずは『義務づける』という言葉で表記されている事項を最優先で取り組むことになります。これを行っていないと、例えば実地指導において、運営基準減算等の返還につながるリスクも高くなります。

次の優先順位は『なければならない』と『努めること』です。これを行っていない場合、指導の際は、『努力義務』という曖昧な指導対象にはなるでしょう。優先度合いとしても、『やっている姿勢』『やろうとする気持ち』だけで評価されることもあれば、厳しい評価となる場合は返還を求められないとも限らないので、これも指導官の指導に従うこととなるでしょう。

その次の『求める』『差し支えない』と表記されている事項については、まず返還のリスクは非常に低いです。ただし、検査する指導官もすべての文言表現を暗記しているわけではないので、その人の捉え方で指導の緩急が生じることもあります。 指導官の『だと思う』や『あるかないかと言えばあったほうがいい』といった個人的な見解を示す『言葉』には、より一層気をつけましょう。事業所として実直に従ったために、配置しなくてもいい職員を配置し人員の無駄な支出になったり、法令上絶対必要な書類とそうでないものを指導の緩急のイメージとして混在させて膨大な時間を費やすことにもなりかねないからです。指導官の『個人的な見解』に対しては、「大変勉強になります。ちなみに、その判断はどの法令、解釈、QAなどにあるかを教えてください」と謙虚に確認をするようにしましょう。

基準省令を基に、表現は正しく反映

通所介護と通所リハビリテーション

言葉を大切にするという点では、こういう例もあります。最近、街角で『リハビリ特化型デイサービス』『短時間通所介護』などの看板をよく見かけます。「通所介護(デイサービス)と通所リハ(デイケア)の違いはなんでしょうか?」と研修やセミナーで質問をすると、「デイケア(通所リハ)は、専任常勤医師をおかなければならない」という答えが返ってくることが多々あります。これは間違いではありません。しかし、下に引用する厚生労働省基準省令をきちんと読めば、もっと大きな違いが書かれていることがわかります。

第七章  通所介護
第一節  基本方針
(基本方針)
第九十二条
  指定居宅サービスに該当する通所介護(以下「指定通所介護」という。)の事業は、要介護状態となった場合においても、その利用者が可能な限りその居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう生活機能の維持又は向上を目指し、必要な日常生活上の世話及び機能訓練を行うことにより、利用者の社会的孤立感の解消及び心身の機能の維持並びに利用者の家族の身体的及び精神的負担の軽減を図るものでなければならない。

第八章  通所リハビリテーション
第一節  基本方針
(基本方針)
第百十条
  指定居宅サービスに該当する通所リハビリテーション(以下「指定通所リハビリテーション」という。)の事業は、要介護状態となった場合においても、その利用者が可能な限りその居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう生活機能の維持又は向上を目指し、理学療法、作業療法その他必要なリハビリテーションを行うことにより、利用者の心身の機能の維持回復を図るものでなければならない。

もし、私が法律を作っている当事者だったら「誰の許可を得て勝手にリハビリに特化してるの? ちゃんと書いてあること全部やりなさい!」とでも突っ込みを入れたくなるのではないかと思います。改めて、自事業の定義や目的を、基準省令で確認するようにしてください。

訪問看護と訪問リハビリテーション

令和3年度の改定でも机上に上がっていた『訪問看護事業』の過剰訪問リハビリの問題は、実態としては訪問リハビリを柱として人員の半分かそれ以上を理学療法士や作業療法士などが行っている『訪問看護事業』が、本来の看護事業の役割を成しているのかという問題です。これも同様に『訪問リハビリ事業』との違いについて厚生労働省基準省令を読んで明らかにしておきたいものです。

第四章  訪問看護
第一節  基本方針
(基本方針)
第五十九条
  指定居宅サービスに該当する訪問看護(以下「指定訪問看護」という。)の事業は、要介護状態となった場合においても、その利用者が可能な限りその居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、その療養生活を支援し、心身の機能の維持回復及び生活機能の維持又は向上を目指すものでなければならない。

第五章  訪問リハビリテーション
第一節  基本方針
(基本方針)
第七十五条
  指定居宅サービスに該当する訪問リハビリテーション(以下「指定訪問リハビリテーション」という。)の事業は、要介護状態となった場合においても、その利用者が可能な限りその居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう生活機能の維持又は向上を目指し、利用者の居宅において、理学療法、作業療法その他必要なリハビリテーションを行うことにより、利用者の心身の機能の維持回復を図るものでなければならない。

基準省令を読むこと、『言葉』をきちんと事業に投影させることで法令上の指定事業の役割は果たせるはずです。

現場の業務にも役立つ『老計10号』

基準省令以外にも、通知として出されている『老計10号』も、言葉を重視したものです。そこには『訪問介護』の言葉の説明が並んでいますが、これらの内容は、『介護サービスの基本用語集』としても、サービスの流れ・手順を組む、またスタッフの指導の際にもかなり使えます。現場での指差し確認としても活用できるので、私はことあるごとに読み返しています。

例えば、『入浴介助の全身浴』とは、

安全確認(浴室での安全)→ 声かけ・説明 → 浴槽の清掃 → 湯はり → 物品準備(タオル・着替えなど)→ ヘルパー自身の身支度 → 排泄の確認 → 脱衣室の温度確認 → 脱衣 → 皮膚等の観察 → 浴室への移動 → 湯温の確認 → 入湯 → 洗体・すすぎ → 洗髪・すすぎ → 入湯 → 体を拭く → 着衣 → 身体状況の点検・確認 → 髪の乾燥、整髪 → 浴室 → 居室への移動 → 水分補給 → 汚れた衣服の処理 → 浴槽の簡単な後始末 → 使用物品の後始末 → ヘルパー自身の身支度、清潔動作

この流れ通りにサービスを行うことが定義です。これ以外のイレギュラーがあれば、記録を取ればいいだけです。そう考えると、ベテランの先輩の教えは、ここに基づいて教えられていたか?我流を教えていたのか?
ほとんどが後者だと思われます。『迷ったら法律に戻れ』です。先輩が我流であっても、ここに戻ることを忘れないようにしていただきたいと思います。

記録帳票類に書き残す内容

本コラムの第1回で事業所内の「記録帳票類には名前と日付は必ず書きましょう」とお伝えしましたが、そもそも、それら記録帳表類を書き残さなければならない目的はなんだと思いますか?
国は今、『書類を減らそう』、『記録や帳票類のICT化』、『簡潔化』などの指針を示していますが、減らしていい記録帳表類とそうでないものを明確にしなければなりません。ここで記録の目的を明らかにしておきましょう。

記録帳票の8つの目的とメリット

【目的】

  1. 利用者様、利用者様のご家族のため
  2. 職員間の情報共有のため
  3. 上司への報告書類のため
  4. 請求する証明書類のため
  5. 保管の義務があるため
  6. 実地指導が入った時の証明のため
  7. ケアマネ、医療機関との情報共有のため
  8. 自分自身の観察力や気づきを記録し、継続する能力育成のため

【メリット】

  1. 利用者様の異常の早期発見・予測ができること
  2. 業務効率が良い、質の高いケアが提供でき、継続性あるものにできること
  3. サービスに対する評価ができること
  4. 提供サービスの満足度を高め、改善提案を模索できること

現場からは「実際はもうそれどころじゃないですよね。記録を書く時間、考える時間なんてない」「やったかやっていないかのチェックでさえ精一杯。ましてや文章を書くのは業務終了後に」という声がよく聞こえてきます。
「しかたがない。実地指導で言われないように記録・・・」ではないのです。すべては8つの目的のためであることを覚えておいてください。実直さは正義。必ず乗り切れます。

著者プロフィール

株式会社ヘルプズ・アンド・カンパニー
代表取締役

西村 栄一(にしむら・えいいち) 氏

実地指導監査対応コンサルティング創設。2016年IRCA認定ISO9001審査員合格。現在、災害や福祉に強いまちづくり研究のため、大阪市立大学院都市経営研究科所属。これまでの事業方針は介護サービス利用者、家族の居心地の良さを追求し、職員の現場改善を熟考し、介護を聖域とは呼ばせない「誰もが自由に行き来できる環境」を作るために、これまで300以上の事業所のお手伝いをしてきました。法令遵守は最低限のマナー、の理念のもと、実地指導・監査対策を通じ、事業の「守り」を強化、安全で確実な「攻めの経営」体制の支援をいたします。

経歴
1966年 熊本生れ 県立済々黌高等学校 早稲田大学卒
1991年 人材派遣株式会社パソナ入社
1994年 有償ボランティア講師として、アラスカ大学で1年半、オクラホマ大学で2年
1998年 米国ディズニーワールドウェディング指定衣裳室(WATABE)店長着任
2004年 株式会社コムスン入社。現場問題解決、面談やクレーム処理、債権回収、行政対応と後任育成に取り組む。環状関西副支社長昇進
2010年より現職

執筆・講演

  • 混合介護導入・運営実践事例集(書籍共同執筆)
  • 週刊ニューヨーク生活「日本の介護事情」(コラム隔週連載)
  • 日本通所ケア研究会参考セミナー

コンサルティング

  • スターパートナーズ パートナーコンサルタント 法令遵守コンサルタント
  • 脳活バランサー CogEvo アドバイザー

資格 その他

  • 介護事業経営研究会(C-MAS)認定スペシャリスト
  • 社団法人きらめき認知症トレーナー協会4sr.
  • 一般社団法人関西デイサービス協会 幹事

西村氏

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