2017年01月15日更新

リハビリテーションの立場から見た介護経営 第01回 介護老人保健施設におけるADL支援強化と在宅復帰促進の業務改善

株式会社メディックプランニング 代表取締役
作業療法士 / リハビリテーション颯 スーパーバイザー 三好貴之 氏

かつて介護老人保健施設(以下、老健)は、退院患者の受け入れ先として高い稼働率と共に高い収益性を保っていた。その潮目が大きく変わったのが平成24年度介護報酬改定で導入された通称、在宅復帰強化型(在宅復帰率50%、ベッド回転率10%)と加算型(在宅復帰率30%、ベッド回転率5%)である。それ以外のいわゆる「通常型」は、介護報酬改定以降、基本報酬が下がっており、平成27年度介護報酬改定では、強化型まで下がってしまった。
また、ベッド稼働率の面でも、平成27年度介護報酬改定にて、特別養護老人ホームの入所条件が原則、要介護度3以上となり、「特養入所待ち条件の老健入所」の需要が激減した。さらに、平成26年度診療報酬改定で新設された「地域包括ケア病棟」は、「必要な患者に1日2単位以上のリハビリを実施」が施設基準となり、老健のリハビリ機能と競合している。次期診療報酬改定では、「療養病床再編」も1つの目玉であり、この再編後の「医療内包型」もまた、老健に近い機能と言える。
このように改定ごとに厳しい状況となっている老健であるが、地域包括ケア報告書2010年度版には、「リハビリ職を多く配置し、在宅復帰を実施する施設とそれ以外の集合住宅」と表現されているように、在宅復帰機能のない老健は住宅化していくこともあり得る。次期改定から療養病床が介護施設や住宅に変わる時代である。機能性の低い老健が集合住宅になる可能性も十分に考えられるということだ。
平成26年8月7日第105回社会保障審議会介護給付費分科会資料によれば、在宅復帰率の高い老健の特徴は、以下の4点である。

  1. 入所時から積極的に退所の相談を実施している
  2. リハビリ職の配置が多い
  3. 訪問リハビリ等の訪問事業の実施
  4. ターミナルケア加算の算定が多い

この4点について、詳しく解説していく。

1.入所時から積極的に退所の相談を実施している

よく退所時には退所前訪問指導や退所前カンファレンスなど退所支援を実施している老健は多い。しかし、診療報酬も含めて現在のトレンドは、退院支援は、入所時からスタートである。退所が決まってから動き出すのではなく、「退所ありき」でスタートする。筆者のクライアント先では、入所時に全職種が集まって入所者のADLの確認と介助方法を決める「入所時合同評価」を実施し、入所1週間以内には、入所者の自宅をリハビリ職と相談員が見に行く「入所前後訪問指導」を実施している。それらのアセスメントに基づいて、リハビリ目標や日々のADL支援を決定していく。この入所時のアセスメントが少ない場合、どうしても転倒や転落のリスクを高く見積もり「過剰介護」となってしまう。この過剰介護を防止し、より高いレベルでADLが実践されるためには、入所時の相談、合同評価、訪問指導は必須である。

2.リハビリ職の配置が多い

現在、老健の施設基準では、リハビリ職の配置は、入所者100人に対してリハビリ職1人である。但し、これは現実的な数字ではなく、在宅復帰を行うためには、25人に1人もしくは、20人に1人は必要であろう。上記の入所時の取り組み、短期集中リハビリの実施、そして、何より、介護スタッフに対する利用者の介助方法の検討を密に行うためには、それなりの人数が必要である。よく「リハビリ室では歩行訓練をしているが、フロアでは車いすのままで一歩も歩いていない」という状況がみられる。つまり「できるADL」と「しているADL」がかい離している。これでは、何のためにリハビリを実施しているか分からない。リハビリ内容と日々の生活がきちんと一致するためには、カンファレンスの方法(特に目標設定の明確化)、介助方法を共有するための連絡方法やツールの開発、車いすから介助歩行への変更といったリスクが高まる場面での安静度の決定方法などのリハビリ職がリーダーシップを発揮しケアプロセスを変えていく必要がある。
しかし、一方でリハビリ職を増員する場合、「それじゃ、人件費が上がって採算が合わない」と言われる方もいるが、それは、短期集中リハビリの加算部分だけを見ている場合が多い。実際には、施設基準として配置されている以上、基本報酬からの按分も考えなければならない。また、退所した利用者が通所・訪問リハビリへ移行できれば、施設全体としての収益は上がってくる。例えば、回復期リハビリ病棟をみれば、質の高いリハビリを実施している回復期リハビリ病棟は、その絶対条件として、リハビリ職が多いのが特徴である。逆に、ギリギリの人員で質の高いリハビリは困難である。

3.訪問リハビリ等の訪問事業の実施

診療報酬上の急性期一般病床や地域包括ケア病棟、回復期リハビリ病棟の「在宅復帰のカウント」と老健の在宅復帰のカウント方法は違う。それは、在宅復帰するだけではだめで、在宅復帰後1ヶ月間ないしは、要介護4、5の方は14日間と在宅生活の維持が確認されて初めて「在宅復帰」とみなされる。つまり、訪問リハビリ、訪問看護、場合によっては通所リハビリも含めて複合的な在宅支援を行うことが「ありき」としての制度である。この入所部門と通所、訪問部門が一体的に情報共有しながら退所支援から在宅支援までシームレスにサービス提供できるかが重要である。しかし、実際に現場に入ってみると、入所、通所、訪問の各部門がバラバラに動いている場合が多い。これらの部門を一体的に運営していくためには、入所から退所、在宅サービスの「パス化」や共有ツールの開発、入所早期からの通所、訪問部門のカンファレンスへの参加が必要だ。

4.ターミナルケア加算の算定が多い

なぜ、在宅復帰率の高い老健がターミナルケア加算の算定数が多いかというと、それは、ベッドシェアリングを行っているからである。退所後、通所リハビリや訪問事業だけでフォローするのではなく、定期的に入所してもらい、そこでADLや認知症のアセスメントを実施し、廃用症候群、口腔機能低下、フレイル、認知症進行などの早期発見を行う。また、発見された場合は、集中的にリハビリを実施し、改善した上で在宅復帰する。このような利用者が数名おり、定期的に入所すると、稼働率は安定する。今までは医療機関や居宅のケアマネ頼みだったが、このように自前で利用者を増やしていくことも重要である。
そして、このようなベッドシェアリングの対象者が最終的に看取りが必要となった場合、医療機関ではなく、何年もお付き合いし、共に在宅生活を支えた老健での「ここで看取りを」と家族から依頼されるため、ターミナルケア加算が多くなる。

以上、老健におけるADL支援強化と在宅復帰促進の業務改善について解説した。稼働率も利用者単価も下がっている老健はそろそろ本腰を入れないと次期改定には間に合わない。稼働率も単価も下がっているということはリハビリ競合施設が増加している現在、「存在価値」の問題でもある。もう何年も入所している利用者を退所させるのは難しい。そうではなく、新しい入所者を在宅復帰させ、通所リハビリや訪問でフォローし、ベッドシェアリング対象者を増やしていくことだ。「基本は在宅、時々、入所、いつでも交流」。この形を作っていくことが地域包括ケア時代の老健の在り方ではないだろうか。

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著者プロフィール

株式会社メディックプランニング
代表取締役 / 経営コンサルタント / 作業療法士
株式会社楓の風 リハビリテーション颯 FC事業部 スーパーバイザー
株式会社保健医療福祉サービス研究会 リハビリテーション事業講師

三好 貴之(Takayuki Miyoshi) 氏

株式会社メディックプランニング 代表取締役<br>作業療法士 / リハビリテーション颯 スーパーバイザー 三好 貴之(Takayuki Miyoshi) 氏

専門は、病院・介護施設におけるリハビリテーション機能強化による経営戦略立案で、「人と業績を同時に伸ばす」をモットーに全国多数の病院・介護施設のコンサルティングを実践中。現場の管理者・スタッフとともに業務改善・人材育成を行うことで業績アップに導いている。特に近年は、リハビリテーション機能を強化したなかでの地域包括ケアモデルを提唱し、年間1000名を超える医師・看護師・PT・OT・介護士など病院・介護施設の管理者へのマネジメントやリーダーシップに対する指導とアドバイスも行っている。平成26年5月に単行本「マンガでわかる介護リーダーのしごと」(中央法規出版)より上梓し大ヒットしている。また、平成26年6月に自ら経営するリハビリ特化型デイサービス「リハビリテーション颯(そう)倉敷」、平成27年9月に「リハビリテーション颯高松中央」をオープンしている。

<連載・特集記事>
「看護部長通信」「通所介護&ケア」(日総研出版)「全国自治体病院協議会雑誌」(全国自治体病院協議会)「おはよう21」(中央法規出版)「月刊デイ」(QOLサービス)CBニュースEXCUTIVE(キャリアブレイン)「最新医療経営フェイズスリー」(日本医療企画)「作業療法ジャーナル」(三輪書店)「臨床作業療法」(青海社)等多数
<単行本>
マンガでわかる介護リーダーのしごと(中央法規出版.2014)

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