2018年10月19日更新
リハビリテーションの立場から見た介護経営 第08回 平成30年度介護報酬改定対策③『介護老人保健施設における在宅復帰強化の推進』
株式会社メディックプランニング 代表取締役
作業療法士/リハビリテーション颯 スーパーバイザー 三好貴之 氏
平成24年度介護報酬改定にて、介護老人保健施設(以下、老健)は、在宅復帰率、ベッド回転率などを評価した、在宅復帰強化型、加算型、そしてそれ以外の従来型と3段階となった。平成29年8月4日の第144回社会保障審議会介護給付費分科会資料によれば、平成28年10月現在で、回答のあった1807施設のうち、在宅復帰強化型13.6%、加算型29.3%、従来型57.1%と約4割の老健の在宅復帰が進んでいるが、残り6割の老健では在宅復帰が進んでおらず、従来型にとどまっていた。
平成30年度介護報酬改定では、在宅復帰強化型、加算型、従来型の3段階から、在宅復帰超強化型、在宅強化型、加算型、基本型、その他の型と5段階となった(図1)。
図1
そして、注目すべきは、従来の在宅復帰率、ベッド回転率だけではなく、入所前後訪問指導やリハビリ専門職の配置など10個の指標が導入され、その合計ポイント制が導入されたことだ。これによって、加算型であれば、在宅復帰率が低くてもその他の指標で40以上を満たせば、加算型の算定が可能になった。
今回の介護報酬改定に大きな影響をおよぼしたのは、平成29年度全老健が行った「介護老人保健施設における在宅復帰・在宅療養支援機能の強化~在宅復帰阻害要因の検討と在宅復帰機能の強化策」(以下、本調査)である。
本調査では、在宅復帰機能だけではなく、在宅療養支援機能も踏まえ、老健の取り組みに関し、実態調査を行っている。本調査では、在宅復帰が低い老健でも、高い割合で入所前後訪問指導を実施していたり、リハビリ職を配置し、入所者のリハビリを手厚く行っている老健もあることが分かった。地域柄、なかなか在宅復帰が進まない老健では、在宅復帰以外の指標を上げて、加算型までランクアップすることが可能になったのである。
さらに加算型を算定している老健では、3年間かけて強化型へのランクアップを目指すべきだが、ここでの一番の課題は、10項目の指標ではなく、別に設けられている4項目のうちの「充実したリハ」である。入所者に週3回以上、個別でのリハビリ提供が必要で、これを実施しようとすると、10個の指標のなかにもあるリハビリ職の配置が5人以上は必ず必要となる。すぐに、リハビリ職の採用が可能な老健ではすぐに対応できるが、なかなか採用が難しい老健では、養成校への依頼や職員からの紹介など採用活動に力を注ぐ必要がある。
強化型に向けてリハビリ職を増員するA老健
A老健(加算型:入所定員100名、通所定員40名)では、リハビリ職が4名配置されていたが4名のうち2名は、通所・訪問リハビリと兼務しているため、実質常勤換算で3名の配置であった。筆者は、A老健の会議で、「強化型のランクアップのため今後リハビリ職をもう2名、増員してはどうか」と提案した。しかし、それに反対したのは、事務長である。事務長は、もともと母体の病院の総務畑が長く、人件費が上がることを指摘した。特にリハビリ職の場合は、介護職に比べて人件費が1.3倍かかるため、一気に2名の採用は難しいとのことだった。そこで、筆者は、シミュレーションを提示し、「加算型から強化型へランクアップすれば、約100万円/月で増収する。確かに、人件費は上がるが、その分、収益も上がるため「人件費率」は上がらない」と説明した。つまり、ここでいうリハビリ職の人件費は「費用」ではなく、収益を上げるための「原価」である。2名増員するだけで収益が約100万円上がることは、A老健の取り組みとしては、難易度はそれほど高くない。結局、A老健の事務長は、筆者のシミュレーションをみて、「これなら大丈夫ですね」と増員をOKしてもらった。
よく老健のリハビリ職の人員に関し、「加算」部分だけで評価している老健がある。しかし、老健のリハビリ職の配置は「施設基準」であり、基本報酬分にも含まれている。また、入所前後や退所前訪問指導では、リハビリ職が訪問指導を実施することが多いことに加えて、家族と在宅復帰後の生活の相談や助言をリハビリ職がきめ細かく行ったり、短期集中リハビリ加算以外でも在宅復帰機能のリーダーとしての役割を果たすことができる。もちろん、充実したリハビリが老健内で行われていれば、近隣の医療機関からの紹介も増えるだろう。それは「充実したリハビリ」をPRするのに一番分かりやすいのは「リハビリ職の人数」だからである。
在宅復帰率が上がるとベッド稼働率が下がるというトレードオフ
次に、加算型、強化型と在宅復帰が進むと同時にベッド回転率が向上し、その結果、ベッド稼働率が下がってしまうという傾向がある。前述の本調査では、従来型、加算型、強化型のベッド稼働率を調べてみると「在宅復帰率が上がるとベッド稼働率が下がる」というトレードオフ(二律背反)現象がみられた(図2)。
図2
確かに、在宅復帰だけを進めれば退所者だけが増えてしまい、ベッド稼働率が下がる。そのため、在宅復帰を進めると同時に新規入所者を増加させなければならない。もちろん、医療機関を訪問し、紹介を増やすということも重要である。しかし、残念ながら今回の診療報酬改定にて地域包括ケア病棟の在宅復帰先から外れてしまったため紹介ルートが減少してしまった。よって、今後は、「自前で入所者を作る」努力が必要だ。自前で作るとは、一度入所した入所者が退所したあと定期的に入所してもらえるような「リピート利用」の促進である。例えば、年間3ヶ月入所する入所者が4名いれば1床は埋まる。また、ショートステイを「何となく」運用している老健では、空床対策のために意識的な運用に切り替える必要がある。
加算型にランクアップしたらベッド稼働率が下がったB老健
B老健(60床)は、従来型から在宅復帰率30%を超えて加算型算定を始めた。毎月3名ほどが退所しそのうち1名が自宅等に復帰するようになった。もともとB老健は在宅復帰に取り組んでおらず、昨年度は自宅等に復帰した入所者は合計3名だった。よって、従来型よりも加算型になることで、退所者が増加し、ベッド稼働率が98%から80%へ減少してしまった。筆者は、B老健に訪問し、まず、入所者を確保するための方法を検討した。B老健は、もともと在宅復帰に取り組んでいないことで、近隣の医療機関とはあまり連携ができておらず、新規入所者もほとんどいない状態だった。
筆者は、近隣の医療機関との連携強化のために定期的な訪問営業や広報誌の配布を行うことを勧めた。ただ、これらは効果が出るまでには数ヶ月の時間が必要となる場合が多い。そこで、筆者は、ショートステイの割合を増やしてはどうかと提案した。
B老健では、今までショートステイの利用がほとんどなく、「利用者の希望に応じて」たまに実施している程度であった。B老健の通所リハビリ、訪問介護、訪問看護の利用者を分析してみると、重度認知症や脳卒中の利用者も多くいることが分かり、これらの利用者の在宅療養支援機能を高めるためのショートステイの利用を開始することにした。もちろん、レスパイトが中心であるが「ただ入所してください」では、ただ在宅から切り離すだけで、在宅療養支援機能としては低い。
よって、まず、ADL支援、排泄管理、褥瘡管理、栄養管理など職種別のアプローチから多職種でチームを形成し、チームで取り組みようにした。これにより、ショートステイの目的がレスパイトだけではなく、リハビリ、排泄改善、褥瘡治癒、栄養改善といった在宅利用者のニーズにマッチすれば、ショートステイの利用が増加するのではないかということだ。実際、B老健では、このようなショートステイの利用を始め、80%だったベッド稼働率は、3か月で90%まで上がった。しかし、法人全体で考えると既存利用者が入所しているだけなので、今後は、これらの在宅療養支援機能をさらに強化し、新規入所者の獲得を目指していく。また、退所した利用者を普段は、通所や訪問でフォローしているが、定期的な入所でのリピート利用をお勧めすることでベッド稼働率を安定的に上げていくことにも取り組んでいる。よって、ベッド稼働率向上のためには、「医療機関との連携強化」「ショートステイ件数の増加」「退所者のリピート利用」の3点に対し取り組むべきである。
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- リハビリテーションの立場から見た介護経営【連載記事】
著者プロフィール
株式会社メディックプランニング
代表取締役 / 経営コンサルタント / 作業療法士
株式会社楓の風 リハビリテーション颯 FC事業部 スーパーバイザー
株式会社保健医療福祉サービス研究会 リハビリテーション事業講師
三好 貴之(Takayuki Miyoshi) 氏
専門は、病院・介護施設におけるリハビリテーション機能強化による経営戦略立案で、「人と業績を同時に伸ばす」をモットーに全国多数の病院・介護施設のコンサルティングを実践中。現場の管理者・スタッフとともに業務改善・人材育成を行うことで業績アップに導いている。特に近年は、リハビリテーション機能を強化したなかでの地域包括ケアモデルを提唱し、年間1000名を超える医師・看護師・PT・OT・介護士など病院・介護施設の管理者へのマネジメントやリーダーシップに対する指導とアドバイスも行っている。平成26年5月に単行本「マンガでわかる介護リーダーのしごと」(中央法規出版)より上梓し大ヒットしている。また、平成26年6月に自ら経営するリハビリ特化型デイサービス「リハビリテーション颯(そう)倉敷」、平成27年9月に「リハビリテーション颯高松中央」をオープンしている。
<連載・特集記事>
「看護部長通信」「通所介護&ケア」(日総研出版)「全国自治体病院協議会雑誌」(全国自治体病院協議会)「おはよう21」(中央法規出版)「月刊デイ」(QOLサービス)CBニュースEXCUTIVE(キャリアブレイン)「最新医療経営フェイズスリー」(日本医療企画)「作業療法ジャーナル」(三輪書店)「臨床作業療法」(青海社)等多数
<単行本>
マンガでわかる介護リーダーのしごと(中央法規出版.2014)
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