2018年08月23日更新
リハビリテーションの立場から見た介護経営 第07回 平成30年度介護報酬改定対策②『通所介護における自立支援の推進』
株式会社メディックプランニング 代表取締役
作業療法士 / リハビリテーション颯 スーパーバイザー 三好貴之 氏
平成30年度介護報酬改定の大きな目玉は、「自立支援」と「科学的介護」の2点だった。これは、内閣府の「未来投資戦略2017」に端を発したものである。ここには、「自立支援・重度化予防防止に向けた科学的介護の実現」として、「自立支援等の効果が裏付けられたデータベースの構築」「データ分析による自立支援を2021年度以降介護報酬改定で評価」としている。特に通所・訪問リハビリでは、リハビリテーションマネジメント加算Ⅳが新設され、これは、今後の自立支援を見据えた科学的介護のデータベース(VISIT)構築のための加算であり、次回改定には、重要なアウトカム指標として用いられることが予測される。
そして、通所介護においては、自立支援に向けた「生活機能向上連携加算」「ADL維持等加算(Ⅰ)(Ⅱ)」が新設された。
個別機能訓練を提供するための生活機能向上連携加算
生活機能向上連携加算の算定要件は、通所・訪問リハビリや医療機関のリハビリ職や医師が、通所介護を訪問し、通所介護の職員と共同で個別機能訓練計画を作成すること、さらに、3か月ごとに1回以上評価し、必要に応じて計画・訓練内容等の見直しを行うものである。
ここで注意が必要なのは、派遣されるリハビリ職は、個別機能訓練を実施するのではなく、あくまでも個別機能訓練の計画立案と評価のために派遣されるものであり、実際に個別機能訓練を実施するのは、介護事業所の職員であるという点だ。
現在、個別機能訓練加算の届出状況は、(図1)の通りである。
【個別機能訓練加算の届出状況】
(図1)出典:第150回社会保障審議会介護給付費分科会資料 平成29年11月8日(水)(厚生労働省)
機能訓練指導員の専従配置を評価した個別機能訓練加算Ⅰの届出では、全体では23.4%である。また、機能訓練指導員が非常勤でも算定可能な個別機能訓練加算Ⅱでも35.5%と全体的に非常に低い。そのなかでも、特に小規模型(現地域密着型)では、通常規模型、大規模型よりも届出割合が少なく、多くの地域密着型通所介護では、個別機能訓練が行われていないという実態がある。その要因としては、個別機能訓練指導員の配置が難しいためであり、今回の生活機能向上連携加算は、いわゆる「外付けでもOK」という緩和的措置と捉えることができる。
この生活機能向上連携加算は、200単位/月(個別機能訓練加算を算定している場合は100単位/月)と収益性は非常に低い。しかし、今後、ますます難しくなってくるであろう「新規利用者獲得」や「稼働率向上」という通所介護経営の根本に関わる面においては重要な加算になるのではないだろうか。
それは、通所・訪問リハビリからの利用者紹介を増加させるための手段として考えられるからである。現在、通所・訪問リハビリでは、「社会参加支援加算」というアウトカム評価があり、その算定要件は、通所・訪問リハビリを卒業し、通所介護を含む社会資源への移行と平均利用年数である回転率の2点ある。今回の介護報酬改定で、通所リハビリは、4時間以上の基本報酬が大幅減算され、多くの通所リハビリが「短時間化」の対策を取ることが予測されるが、さらに、社会参加支援加算の要件をみれば、次は「短期間化」であり、通所介護が通所リハビリの受け皿になることが求められているのである。
よって、この生活機能向上連携加算の枠組みを利用し、他の通所・訪問リハビリの受け皿として、継続的に個別機能訓練を実施できる体制をこの3年間で構築することが重要である。特に、同一法人内で通所・訪問リハビリと通所介護を経営している場合、これらの事業所の連携強化策として利用して欲しい。さらに、法人外であっても、うまく連携が進めば、通所・訪問リハビリと通所介護の双方にメリットがある。通所・訪問リハビリでは、「通所介護に移行すれば自分たちの利用者が減る」というデメリットがある。しかし、この生活機能向上連携加算で、他の通所介護へ出向き、職員とコミュニケーションを取ることで、「この利用者は足が弱ってきているため、集中的なリハビリが必要なのでは」という、通所介護から通所リハビリへの「逆紹介」の可能性も出てくるのである。
ADL維持等加算
そして、通所介護に新たに新設されたのがADL維持等加算である。算定要件は、5時間以上サービス提供している通所介護で、ADL指標であるBarhel Index(以下、B.I)が悪化していないことを評価するものである。つまり、前述の生活機能向上連携加算は「自立支援」的要素が強いのに対し、こちらのADL維持等加算は、「重度化予防」である。
これにより、短時間型通所介護は、自立支援や重度化予防を「標準装備の機能」として、5時間以上の1日滞在型の通所介護にも「重度化予防」が求められるのである。よって、今後は、5時間以上の通所介護もお世話型のレスパイト機能だけではなく、機能訓練に取り組み、利用者のADLが下がらないようなプログラム内容を提供していかなくてはならない。
通所介護に求められる機能
今後、通所介護に求められる機能は、大きく3点である。
1点目は、生活機能の維持向上、2点目は、認知症高齢者・重度者への対応、3点目は、地域連携の拠点である(図2)。
(図2)出典:第106回社会保障審議会介護給付費分科会資料 平成26年8月27日(水)(厚生労働省)
生活機能とは、「心身機能の維持・向上」「活動の維持・向上」「社会参加の推進」としており、通所介護は、これらに対し機能訓練を実施していく必要がある。さらに、今まで通所介護が中心的な機能を果たしてきた家族の負担軽減のためのレスパイト機能の評価した基本報酬は今後の下がっていくことが予測される。
では、今までお世話型のレスパイト機能中心でやってきた通所介護はどのような業務改善が必要なのであろうか。筆者は、このような通所介護を自立支援、重度化予防機能を持たせるために2点の業務改善を提案している。
1.明確な目標設定
まず、通所介護が何のための施設であるかを再認識していただきたい。それは「利用者の在宅生活」のための存在するのではないだろうか。通所介護は、利用者が、自宅でできるだけ自分らしく生活していくために支援していく施設である。よって、通所介護の顧客は「利用者自身」であり、「家族」や「ケアマネジャー」だけではない。「私の通所介護の利用者ニーズはレスパイトが多い」と聞くが、それは、主に家族ニーズであり、利用者自身のニーズではない。家族ニーズがレスパイトであっても、「では、預かった上で何を提供するか」が重要である。通所介護に設定されている個別機能訓練加算、口腔機能向上加算、栄養改善加算など取り組むべきサービス内容はいくらでもある。
まずは、利用者にきちんと自宅での生活をアセスメントし、そこから目標設定をして欲しい。「うちの利用者に目標はありません」と聞くことがあるが、それは、目標がないのではなく、イメージできていないのである。通所介護には生活相談員という専門職が専従配置されいる。しかし、この生活相談員が「介護職員化」しており、相談業務をないがしろにしているのをよく見かける。この生活相談員の業務を見直し、きちんと利用者のアセスメント、目標設定ができる体制を作っていただきたい。
2.目標達成のためのプログラム提供
次に、1日のプログラム内容の見直しである。そのプログラムが利用者の目標達成に働きかけるものかどうかを見直していただきたい。カラオケや塗り絵、玉入れなどを娯楽のための「レクリエーション」として提供するのではなく、目標達成を意識した「目的を持った」プログラムに変えて欲しい。
さらに言えば、(図2)のように通所介護に求められている生活機能の維持・向上のなかの「心身機能」「活動」「社会参加」のどこに働きかけているのか、ADL維持等加算に示されたB.Iでいえば、どのADLに働きかけているのかなど目標を明確にした上でプログラム提供を行う必要がある。もし、機能訓練指導員がいない場合は、生活機能向上連携加算の枠組みで、近隣の通所・訪問リハビリからリハビリ職を派遣してもらうことを検討したほうが良い。
以上、通所介護の改定対策として、新設加算からの視点で解説した、次期改定は、いよいよ「自立支援」「科学的介護」が本格的に始動する。この3年間でいかにお世話型のレスパイト機能に加えて、個別機能訓練に取り組めるかどうかが重要である。
専任スタッフとの対話形式
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- リハビリテーションの立場から見た介護経営【連載記事】
著者プロフィール
株式会社メディックプランニング
代表取締役 / 経営コンサルタント / 作業療法士
株式会社楓の風 リハビリテーション颯 FC事業部 スーパーバイザー
株式会社保健医療福祉サービス研究会 リハビリテーション事業講師
三好 貴之(Takayuki Miyoshi) 氏
専門は、病院・介護施設におけるリハビリテーション機能強化による経営戦略立案で、「人と業績を同時に伸ばす」をモットーに全国多数の病院・介護施設のコンサルティングを実践中。現場の管理者・スタッフとともに業務改善・人材育成を行うことで業績アップに導いている。特に近年は、リハビリテーション機能を強化したなかでの地域包括ケアモデルを提唱し、年間1000名を超える医師・看護師・PT・OT・介護士など病院・介護施設の管理者へのマネジメントやリーダーシップに対する指導とアドバイスも行っている。平成26年5月に単行本「マンガでわかる介護リーダーのしごと」(中央法規出版)より上梓し大ヒットしている。また、平成26年6月に自ら経営するリハビリ特化型デイサービス「リハビリテーション颯(そう)倉敷」、平成27年9月に「リハビリテーション颯高松中央」をオープンしている。
<連載・特集記事>
「看護部長通信」「通所介護&ケア」(日総研出版)「全国自治体病院協議会雑誌」(全国自治体病院協議会)「おはよう21」(中央法規出版)「月刊デイ」(QOLサービス)CBニュースEXCUTIVE(キャリアブレイン)「最新医療経営フェイズスリー」(日本医療企画)「作業療法ジャーナル」(三輪書店)「臨床作業療法」(青海社)等多数
<単行本>
マンガでわかる介護リーダーのしごと(中央法規出版.2014)
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