2018年01月16日更新

リハビリテーションの立場から見た介護経営 第04回 通所介護における自立支援とアセスメントに基づいた機能訓練の実際

株式会社メディックプランニング 代表取締役
作業療法士 / リハビリテーション颯 スーパーバイザー 三好貴之 氏

平成30年度介護報酬改定は「個別機能訓練強化改定」だ

平成29年11月8日の介護給付費分科会では、通所介護に関する改定項目が議論され、個別機能訓練加算の強化が予測される。前改定でも、個別機能訓練加算Ⅰ、Ⅱともに単位数が増加した。平成29年6月21日の介護給付費分科会の資料によれば、個別機能訓練加算のいずれかを算定している事業所は、していない事業所に比べ、利用者の日常生活自立度の維持向上割合が高く、さらに機能訓練指導員として、PT・OT・STを配置していればさらに高くなるとの調査結果が出ている(図1)。

通所介護の機能訓練による効果等

  • 【出典】
    平成28年度老人保健事業推進費等補助金老人保健健康増進事業「通所介護などの今後のあり方に関する調査研究事業」(平成29年3月)

図1:個別機能訓練加算を算定し、PT・OT・STの配置が効果的である

また、次期改定では、小規模な事業所のためにPT・OT・STの雇用が難しいという点から、通所・訪問リハビリや医療機関のPT・OT・STの派遣を受け、通所介護の職員と共同でアセスメントを行い、個別機能訓練計画の策定や定期的な評価を行うと「生活機能連携向上加算(仮)」という加算が新設されることが予測される。
つまり、この個別機能訓練計画は、通所介護にとって非常に重要な「プロセス評価」となり、個別機能訓練に取り組まない通所介護は事実上「減算扱い」と考えても良いのではないだろうか。
しかし、この個別機能訓練を通所リハビリの「個別リハビリ」と同じイメージでとらえられ「リハビリ=PT・OT・STがマンツーマン行うもの」と捉えている人が多いようだが、リハビリと機能訓練は違うものである。医療機関や通所リハビリで行うリハビリは、医師の指示のもとに、PT・OT・STが実施するものである。これに対し、通所介護における機能訓練は、個別機能訓練ⅠとⅡに分かれている。まず、個別機能訓練Ⅰは、端的に言えば、機能訓練指導員が専従配置され、複数プログラムを用意し、選択できるようにした上で、生活意欲や心身機能に働きかけるプログラムの提供である。これは、事実上、機能訓練指導員の配置とその取り組みに対する加算である。

特に「個別機能訓練加算Ⅱ」が重要

次に、筆者が非常に重要視しているのは、個別機能訓練Ⅱの取り組みである。これは、個別機能訓練Ⅰよりもより複雑なプロセスが必要となる。まず、「利用者のアセスメント」を行い、「多職種でカンファレンス」を経て「生活機能向上ための段階的な目標設定と計画立案」を行い、機能訓練指導員が直接実施することである。ここでのポイントは、機能訓練指導員だけがこのプロセスに関わるのではなく、生活相談員、看護職、介護職などが多職種連携で行うことであり、心身機能だけではなく、活動・参加の維持向上へもアプローチしていくことである。

目で見えないものを評価するのがアセスメント

まず、アセスメントである。アセスメントとは、「評価」「情報収集」であるが、通所介護の多くは、このアセスメントを十分に行わず、個別機能訓練を行っている場合が多いようだ。本来、個別機能訓練は、「この利用者が来るからこの訓練をやろう」となるが、前提が「利用者に喜んでもらう、楽しんでもらう」という発想でやっている場合、個別機能訓練加算Ⅱの要件には該当しない。そもそも、通所介護は、楽しんだり喜んだりする娯楽施設やレクリエーション施設ではない。
通所介護は、生活機能の維持向上を行う施設であり、住み慣れた地域や家庭で主体的に生きることを支援する場である。これらの取り組みを行い、目標が達成することで、楽しんでもらったり、喜んでもらったりするのは良いが、本来の個別機能訓練の目的ではない。また、提供する個別機能訓練の内容も利用者全員に一律的・画一的に行うものでもなく、あくまでも利用者ごとに個別に計画され、個別に提供されるものである。
では、生活機能の維持向上のためのアセスメントにはどのような視点が必要なのだろうか。多くの介護施設がアセスメントしている内容は、「介護度」「ADL」「認知症の程度」「家屋環境」などの、問題点、課題点の抽出である。しかし、ここに書かれていることの多くは改善が難しいことが多く、脳卒中の麻痺や進んだ認知症を治すのは困難である。よって、その麻痺があっても、認知症があっても生活機能の維持向上を図るための新たな視点が必要であり、いわゆる「目に見える問題点」のみを抽出したところで、「利用者を理解している」ことにはならない。
そこで、必要なのは、人となり魅力を把握する視点である。その人がどのような人なのかを「利用者」としてではなく「人間として」理解していく視点である。「その人がどのような人なのか」を考えていくときに、先ほどの「目に見える部分」だけでは不十分である。誰しも、名前や住所、職業、身長など目で見える情報もあるが、性格、価値観、過去の経験なども含めて「その人」である。つまり、その人の人生観、価値観、現状の暮らしに関する満足度や、「こうしたい」「ああしたい」という希望を聞かなければならない。多くの施設は、目に見えるものばかり執着し、利用者の口から出てくる言葉のような「目で見えない情報」をアセスメントしてないケースが多い。

多職種による目標設定と計画策定

アセスメントの次に必要なのは、多職種による計画策定である。これは意外に難しい。まず、計画の前に目標設定である。どのような目標が妥当なのか、この目標は利用者にとって“本当に”必要なのかという未来を決めるものだからである。だからこそ、よりアセスメントが必要であることは言うまでもない。
さらに、多職種にて共同で話し合う場合、生活相談員、看護職、リハビリ職、介護職などの価値観が大きく違うことも多くある。この価値観の違いを乗り越えるのは、お互いに対する尊敬と共感である。違うものが同じ方向に向かうためには、意見が対立した場合、どちらが正しいかということではなく、2つの意見に共通するものは何かを創造していくことが重要だ。

目標に働きかける「目的別グループ」

最後に、どのような訓練プログラムを提供するかだ。個別機能訓練加算Ⅱの要件は、機能訓練指導員によるマンツーマンの訓練実施は求められておらず「5人程度以下の小集団」でも良いとされている。今までのアセスメントからの計画策定の流れを考えてみると、次の二つの通所介護の差が見えてくるだろう。

A通所介護は、職員があらかじめプログラムを用意し、利用者に対し、同じプログラムを一律的・画一的に提供している。その日のプログラムで何をするかは、機能訓練指導員が考えて実施しているが、「できるだけ目新しいもの」や「利用者が笑顔になるような内容」を重視している。

B通所介護は、その日の利用者の「目標」に働きかけるプログラムを提供している。よって、全員で一律的に行うのは、準備体操のみで、利用者の目標に合わせ、「脚力アップ」「脳トレ」「体力向上」などをグループ単位で行っている。機能訓練指導員は、「いかに、買い物に行きたい、料理をしたいという目標に直接働きかけるプログラムであるか」が重要だと言っている。

もう、お分かりだと思うが、今後、通所介護で求められるのは、B通所介護のような個別機能訓練である。アセスメントに基づいた目標設定とそれを達成するための計画とプログラムである。A通所介護のように「プログラムありき」ではない。また、「昨日これをやったから、今日はこれをやろう」という発想も間違いで、「今日この目標を持った利用者がくるので、このプログラムをやろう」という発想である。さらに、同じような目標や目標達成までの課題を同じにする利用者を小集団にすると、利用者同士がお互いを励まし合いながら主体的にプログラムに取り組めるようになる。そうすると、特に職員がプログラムを盛り上げなくても、利用者が自分で盛り上げてくれる。 筆者はこのように、きちんと無目的ではなく、目的的に提供される小集団のプログラムを「目的別グループ」と呼んでいる。安易に大きな声で盛り上げて楽しかったではなく、目的を持って取り組めば、楽しいかどうかは分からないが、満足感、充実感を味わえるはずだ。

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著者プロフィール

株式会社メディックプランニング
代表取締役 / 経営コンサルタント / 作業療法士
株式会社楓の風 リハビリテーション颯 FC事業部 スーパーバイザー
株式会社保健医療福祉サービス研究会 リハビリテーション事業講師

三好 貴之(Takayuki Miyoshi) 氏

株式会社メディックプランニング 代表取締役<br>作業療法士 / リハビリテーション颯 スーパーバイザー 三好 貴之(Takayuki Miyoshi) 氏

専門は、病院・介護施設におけるリハビリテーション機能強化による経営戦略立案で、「人と業績を同時に伸ばす」をモットーに全国多数の病院・介護施設のコンサルティングを実践中。現場の管理者・スタッフとともに業務改善・人材育成を行うことで業績アップに導いている。特に近年は、リハビリテーション機能を強化したなかでの地域包括ケアモデルを提唱し、年間1000名を超える医師・看護師・PT・OT・介護士など病院・介護施設の管理者へのマネジメントやリーダーシップに対する指導とアドバイスも行っている。平成26年5月に単行本「マンガでわかる介護リーダーのしごと」(中央法規出版)より上梓し大ヒットしている。また、平成26年6月に自ら経営するリハビリ特化型デイサービス「リハビリテーション颯(そう)倉敷」、平成27年9月に「リハビリテーション颯高松中央」をオープンしている。

<連載・特集記事>
「看護部長通信」「通所介護&ケア」(日総研出版)「全国自治体病院協議会雑誌」(全国自治体病院協議会)「おはよう21」(中央法規出版)「月刊デイ」(QOLサービス)CBニュースEXCUTIVE(キャリアブレイン)「最新医療経営フェイズスリー」(日本医療企画)「作業療法ジャーナル」(三輪書店)「臨床作業療法」(青海社)等多数
<単行本>
マンガでわかる介護リーダーのしごと(中央法規出版.2014)

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