2017年09月20日更新
リハビリテーションの立場から見た介護経営 第03回 退院(所)後の通所・訪問リハビリによる早期リハビリ提供体制の整備
株式会社メディックプランニング 代表取締役
作業療法士 / リハビリテーション颯 スーパーバイザー 三好貴之 氏
平成27年度介護報酬改定で、もっとも大きな影響を受けたのが、通所・訪問リハビリである。本改定後より、通所・訪問リハビリの求められる機能は「リハビリ実施施設」から「生活期リハビリマネジメント施設」に変わり、そのなかで働くリハビリ職の働き方も大幅な変更が求められた。しかし、改定から約2年が経過してもまだ、「改定対策」が終わっていない事業所も多いようで、筆者の関係先では、この改定対策の成果によって収益面にも差が出てきている。
例えば、同じ40名定員の通所リハビリにおいても、改定対策をしっかりと実施している通所リハビリでは、リハビリテーションマネジメント加算Ⅱ、短期集中個別リハビリ、中重度者ケア体制加算等の新設算定をし、利用者の1回利用単価は1万円を超えており、改定前より増収、増益している施設もある。一方、改定対策が進まず、以前のままのオペレーションを継続し、新設加算を算定できていない通所リハビリでは、基本報酬の減算分がそのまま収益減となり、1回利用者単価は8千円代に落ち込んでいる。また、要支援の単価も下がっているなか、未だに要支援を6時間、食事・入浴付きのフルサービスを提供している通所リハビリと要支援を半日×2単位制に切り替えている施設では明らかに収益差が出てきている。さらに、支出の面で言えば、3ヶ月以内と加算が限定された個別リハビリに対し、集団リハビリとの並行モデルに移行した通所リハビリと、そのまま従来通り、利用者全員に個別リハビリを継続している通所リハビリでは、リハビリ職の人件費を以前のように加算で充当されないため人件費率がかなり高くなってしまい、場合によっては赤字に転落してしまっている。おそらく、平成30年度の診療報酬改定との同時改定では、さらにこれら新設加算の単位数増加が見込まれ、通所・訪問リハビリはさらに「活動と参加の生活期リハビリの拠点」が推進されることが予測される。病院や介護施設の受け皿となるべく、介護保険における「早期リハビリ施設」に変革できるかである。第13回社会保障審議会介護給付費分科会介護報酬改定検証・研究委員会資料では、リハマネ加算Ⅱの届出を出している通所リハビリは、平成28年度で37.1%と全体の4割弱である。届出できない理由は「医師のリハ会議参加が困難」「医師からの説明時間が確保できない」が6割以上となり、医師の時間確保が最大の課題となっているようだ。
訪問リハビリに関しては、訪問リハビリ料の単位数は下がってきているが、その分、通所リハビリと同じようにリハマネ加算が新設された。また、病院や老健からの訪問リハビリと訪問看護ステーションから出る訪問リハビリの単位数が統一化され、病棟のリハビリセラピストがダイレクトに訪問リハビリがしやすくなった。
今回は、このように大きな転換期を迎えた通所・訪問リハビリの退院・退所後の早期リハビリ体制について解説する。
退院患者の受け皿へ、脱娯楽施設
通所リハビリに関しては、まず、医療機関の受け皿になり得るかどうかが重要である。診療報酬制度では、入院期間がますます短縮している。急性期のDPC 制度(DPC/PDPS)、回復期リハビリ病棟のアウトカム評価、地域包括ケア病棟の入院期間等、診療報酬制度によって入院期間短縮が政策誘導されているところであるが、これは患者の状態が良くなって退院しているというよりは、早期からの退院支援により、在宅医療、在宅介護を増加しての在宅復帰である場合も多い。リハビリで言えば、退院前訪問指導後に自宅を想定した入浴動作訓練や階段の昇降訓練などのリハビリを入院中に実施していたが、これを今度は、すでに自宅に退院させて、通所リハビリにてこれらのリハビリを行う必要がある。
しかし、実際多くの通所リハビリはこのような医療機関の受け皿となるようなサービス提供が行われているだろうか。通所リハビリのなかには、未だにレクリエーションを中心とした娯楽施設として機能し、オプション的にリハビリが提供されている状況もある。今までは、これでも良かったのかも知れないが、通所リハビリは、退院患者の受け皿として、入院中に実施してきたリハビリの成果が自宅や地域できちんと発揮できているかどうかをアセスメントし、不足する身体能力や環境に引き続き働きかけ、自宅内の活動範囲を広げ、地域社会への参加を促していく必要がある。つまり、「遊んでいる場合ではない」のである。
訪問リハビリは訪問部門のADLの司令塔へ
これに関しては、訪問リハビリも同様である。訪問リハビリは今まで「外来リハビリや通所リハビリに通えない重度な利用者が使うところ」というイメージが強かった。しかし、退院・退所後の早期リハビリの機能を考えると、今後、訪問リハビリに求められる機能は、「退院・退所直後における訪問部門のADLの司令塔」ではないだろうか。訪問看護、訪問介護と多事業所連携しながら、在宅で直接、活動と参加に働きかけるリハビリ提供が必要である。特に、退院・退所後では、入浴動作が自立していない場合が多い。ケアプランではこれを「通所で入浴」としてしまうが、あと5年、10年先、今のように通所で入浴を希望する人たちがいるだろうか。筆者は、関係先の訪問リハビリで、通所リハビリ、訪問介護と協力して、入浴動作にアプローチしている。訪問リハビリにて、リハマネ加算を算定し、リハビリセラピストが自宅の浴室と利用者の身体機能をアセスメントした上で、リハ会議にて、多事業所と情報を共有する。訪問リハビリと並行して、通所リハビリでは、入浴時にリハビリを実施し、訪問看護、訪問介護では、訪問リハビリセラピストが作った下肢筋力強化の体操を実施した。すると、3ヶ月すると自宅での入浴動作が一部介助で行えるようになった。このように、通所リハビリ・訪問リハビリの2択方式ではなく、今後、利用者の状態にあわせて同時介入も有効である。
週1回のリハビリは効果がない
このように早期リハビリでは、通所リハビリでも訪問リハビリでも頻回な介入が必要である。そこで、問題になるのがリハビリの必要度とケアプランのミスマッチである。よくケアマネジャーからは「○○さんが慣れるまで週に1回の利用にしましょう」ということがある。しかし、リハビリのエビデンスでは、週に1回では効果はなく、週2回かつ継続利用が条件である。つまり、理論上、週に1回のリハビリは無駄になる。よって、通所・訪問リハビリのリハビリ職は、まず最低週2回から始めることを、エビデンスを示しながらケアマネジャーや利用者に説明するべきである。
現在、ケアマネジャーの8割は介護職である。介護職が十分にリハビリの知識を持ち、ケアプランを立てることは実際には難しいだろう。これは、ケアマネジャーの資質の問題ではなく、ケアマネジャーに引き継いでいる入院・入所のリハビリ職の問題ではないだろうか。入院・入所中に、毎日リハビリを実施しているセラピストの方がたくさん情報を持っており、そのリハビリ目標の多くは「在宅復帰」である。しかし、在宅復帰後の生活に関しては考えられていないこともある。退院・退所後のリハビリ提供に関して、ケアマネジャー任せにせずに、担当者会議に出席して「○○さんは、退院後も週3回のリハビリが必要です」「あと、3ヶ月継続すればもっとADLは上がります」などケアマネジャーに進言するべきである。
以上、今回は、退院(所)後の通所・訪問リハビリによる早期リハビリ提供体制の整備として解説した。通所・訪問リハビリともに早期リハビリ提供体制を整備するためには、まずリハマネ加算Ⅱを算定し、「生活期リハビリマネジメント施設」へ変革することであり、その上で、医療機関や老健と連携強化していくことである。次期改定まであと1年。早急な変革が望まれているところである。
専任スタッフとの対話形式
富士通の介護システム WINCARE オンラインデモ
- リハビリテーションの立場から見た介護経営【連載記事】
著者プロフィール
株式会社メディックプランニング
代表取締役 / 経営コンサルタント / 作業療法士
株式会社楓の風 リハビリテーション颯 FC事業部 スーパーバイザー
株式会社保健医療福祉サービス研究会 リハビリテーション事業講師
三好 貴之(Takayuki Miyoshi) 氏
専門は、病院・介護施設におけるリハビリテーション機能強化による経営戦略立案で、「人と業績を同時に伸ばす」をモットーに全国多数の病院・介護施設のコンサルティングを実践中。現場の管理者・スタッフとともに業務改善・人材育成を行うことで業績アップに導いている。特に近年は、リハビリテーション機能を強化したなかでの地域包括ケアモデルを提唱し、年間1000名を超える医師・看護師・PT・OT・介護士など病院・介護施設の管理者へのマネジメントやリーダーシップに対する指導とアドバイスも行っている。平成26年5月に単行本「マンガでわかる介護リーダーのしごと」(中央法規出版)より上梓し大ヒットしている。また、平成26年6月に自ら経営するリハビリ特化型デイサービス「リハビリテーション颯(そう)倉敷」、平成27年9月に「リハビリテーション颯高松中央」をオープンしている。
<連載・特集記事>
「看護部長通信」「通所介護&ケア」(日総研出版)「全国自治体病院協議会雑誌」(全国自治体病院協議会)「おはよう21」(中央法規出版)「月刊デイ」(QOLサービス)CBニュースEXCUTIVE(キャリアブレイン)「最新医療経営フェイズスリー」(日本医療企画)「作業療法ジャーナル」(三輪書店)「臨床作業療法」(青海社)等多数
<単行本>
マンガでわかる介護リーダーのしごと(中央法規出版.2014)
三好 貴之 氏コラム一覧
おすすめコンテンツ
-
WEBでのお問い合わせはこちら入力フォーム
当社はセキュリティ保護の観点からSSL技術を使用しております。
-
お電話でのお問い合わせ
富士通Japan
お客様総合センター0120-835-554受付時間:平日9時~17時30分(土曜・日曜・祝日・当社指定の休業日を除く)