2020年05月11日更新

AI時代が求める未来の経理戦略 第08回 経理視点から売上・利益改善を提案する

流創株式会社 代表取締役 前田 康二郎 氏

ここ最近の急激なさまざまな環境の変化によって、どの業界や会社も喫緊に対策を迫られていることと思います。私がいつも申し上げていることの一つに、経理部などのバックヤード部門というのは、通常時ではその存在意義や実力の差が顕在化しにくいのですが、有事の際にそれが一気に顕在化する、ということです。言い換えれば「経理が強い会社は、まずつぶれない。しかし、経理の弱い会社は…」ということです。これまで経理を軽視、あるいは強化をおろそかにしていた会社は、たとえ直近まで絶好調であったとしても、今は資金繰りや、業務のオペレーション対応で右往左往、四苦八苦しているかもしれません。「いつ何が起こるかわからない」。そうした危機意識のある会社、目に見えないリスクに備えられる会社が、これからは生き残っていく時代になることでしょう。

さて今回は、経理部、経理社員がどのように活躍することで、このような状況の中にあっても会社の利益改善などに貢献できるのか、その一例を取り上げてみたいと思います。

たとえば経理社員が「自社の製品やサービスを、他の会社や業界と照らし合わせて分析、提案をしてみる、ということを考えてみたいと思っています。今利益がありノッている業界、あるいは資金や予算のある会社などに自社の製品やサービスを売り込んでみては、という提案を現場や経営陣に行うのです。つまり、「売上そのもの」を上げるための提案です。

いくら自社の製品やサービスの品質が良くても、昨今のような突然の環境の変化により、既存の大口の取引先が「今経営が大変で御社の製品を購入できる状態ではない」ということがいつ起こるかわからない時代です。常に新規の取引先を探しておく準備というのは危機管理の側面からも必要です。

現場の視点から見ると「うちの製品はこんなに良いのにどうして取引先は買ってくれないのだろう」と思うことも、経理的視点から見ると、「うちの製品がいくら良くても、相手に買う予算がないのであれば買ってもらいようがないのです」という見方もあるわけです。「お金がない」と言っている会社の玄関で「買ってもらえるまで帰りません」と粘るよりは、その時間を別の形で使ったほうが良いのではないかということです。

では具体的にどのような提案をすればよいかというと、たとえば、「お金がある業界、資金や予算がある会社を狙いましょう」というのはいかがでしょうか。このような世の中の状況であっても、資金がある会社はあります。たとえば「○億円資金調達しました」というプレスリリースやインターネットのニュース記事を見ることはないでしょうか。そのような会社には資金があります。自社の製品やサービスが売り込める要素がないかを考えるわけです。資金や予算がない既存の取引先に営業するよりも、受注の確率は高いはずです。

このような発想は、会社の数字をいつも見ている経理だからできる発想です。しかし、日々世の中の情勢をチェックしていなければこうしたことはできません。経理社員も新しい情報のブラッシュアップは必要です。日頃の習慣として、たとえばPR会社が配信するプレスリリースをチェックし、勢いのある会社や業界を見つけ、その財務状況を確認し、現場や経営陣に新規取引先候補として伝える、ということもできるでしょう。このような役割として経理部が存在すれば、経理部も「戦略的な部署」「売上を立てられる部署」の一つとして認識されていくのではないでしょうか。

そしてもう一つのアプローチ事例として「同じ広告費用を投下するのであれば、既存の広告媒体ではなく、新しいWEB媒体にトライアルで変えてみるのはどうでしょうか」というような類のものです。つまり、同じ金額でも使い方によってはこれまでよりもむしろ売上が伸長することがあるかもしれない、という可能性を持たせる使い方を日々励行、推奨するということです。

経理というのは、「費用削減」のイメージがこびりついていると思いますが、これを単純に実行しても、現場社員のモチベーションが下がることはあっても、上がる、つまり「ときめく」ことはありません。
私は日頃の習慣として、費用の総額は下げずに、その代わりに、「ここに使っている費用を別の場所に置き換えたらどうでしょうか」という提案ができないか、ということをいつも考えています。それであれば、現場社員のモチベーションを下げませんし、提案内容の賛同も得やすくなります。また、現場の社員それぞれがお金の使い方について「考えて使うようになる」という習慣が身につくと考えるからです。

たとえばある会社で、何年も業界誌に毎月10万円で広告を出している会社があったとします。ある若手社員が新規でSNSを使った広告をやりたいと申し出たのですが、経営者がなかなかOKを出さない、ということがありました。SNSを使った広告が実際にどれくらいの効果があるかよくわからないという理由からです。せっかくSNSに詳しい若手社員がやる気に満ちてこのような提案をしても、なかなか決裁が通らない。結局、若手社員もやる気を失いその後提案をすることもなくなり、気づいたらそのまま2年、3年経過してしまっている、という会社もあるのではないかと思います。

そのような窮状に、経理は助け船を出すことができます。

経営者が「追加で出す予算はない」というのであれば、では3か月だけ、業界紙への広告出稿を見送って、その3か月分のお金でSNSのプロモーションを行ってみればどうでしょうか、という金額面から見た提案をします。すると経営者は、まず予算がないことを理由に提案を却下することができなくなります。さらに、「3か月業界に広告を出さなくなったことによって、周囲から『どうかしたのですか』など反応があれば、やはり広告を再度出し続けてもいいですが、誰からも何も言われず、売上も変わらなければ、その広告出稿自体、もう必要がないのかもしれない、という判断もあるかもしれません」と伝えます。ただ一番困るのは、これまで広告出稿を依頼していた会社ですので、もし業界のつながりでどうしても辞めないで欲しい、と先方から言われた場合は、そういった費用対効果についても議論をして、値引きを交渉する、ということもできると思います。
その上で、SNSのプロモーションを現場で一所懸命に行ってもらい、それによって新しい顧客が獲得できたら万々歳ではないでしょうか。仮に全く効果がなかったら、業界紙に広告を再掲載する、という形に戻せば、チャレンジした結果を踏まえてのことですので皆が納得し、現場の社員もまたやる気を出して新たな提案を積極的に出してくれるはずです。

このような「数字」を軸にした経理ならではのサポートや提案を行うことによって、現場の数字もモチベーションも下げさせない役割を果たす、ということができると思います。

著者プロフィール

流創株式会社
代表取締役

前田 康二郎(まえだ こうじろう)氏

数社の民間企業で経理・総務・IPO業務等を行い、海外での駐在業務を経て独立。現在は「フリーランスの経理部長」として、コンサルティング業務を行うほか、企業の社外役員や顧問、日本語教師、ビジネス書作家として書籍・コラムなどの執筆活動なども行っている。節約アプリ『節約ウオッチ』(iOS版)を運営。

著書に、『スーパー経理部長が実践する50の習慣』、『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』、『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』、『伸びる会社の経理が大切にしたい50の習慣』(以上、日本経済新聞出版社)、『スピード経理で会社が儲かる』(ダイヤモンド社)、『経営を強くする戦略経理(共著)』(日本能率協会マネジメントセンター)、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』、『自分らしくはたらく手帳(共著)』『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』(以上、クロスメディア・パブリッシング)など。

前田 康二郎(まえだ こうじろう)氏

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