2020年03月19日更新

AI時代が求める未来の経理戦略 第07回 経営者が振り向く経理は何をしているのか

流創株式会社 代表取締役 前田 康二郎 氏

私が以前から思い続けていることの一つに、「会社は経理をもっと活用してもいいのではないか」ということがあります。数字が得意、数字が明るい人(経理)がせっかく社内にいるのに、「なぜ経営者の方々は積極的に経理に意見を聞こうとしないのだろう」「なぜ現場の皆さんは積極的に経理に数字の相談をしないのだろう」そんなことをいつも思います。

それは私自身がフリーランスなので余計そう感じているのだと思います。フリーランスとは違い、組織にはたくさんの人がいます。それ自体が大きなメリットですから、お互いに活用しないと損です。フリーランスの場合は相談したくても、全てのことを一人で考えなければなりません。私は昨年、新規事業として節約のアプリをリリースしたのですが、「どのような人に開発をお願いしたらいいのか」「商標登録はしたほうがいいのか」など、初めての経験が次から次へと訪れました。私のクライアント先の一つにそういった分野に詳しい人達が社員としていらっしゃったのですが、自分の個人的な事業のことでしたので、その方達に相談することなく、自分でエンジニアの方を探したり、インターネットで知識を得たりするなどして、なんとか乗り切りました。

つまり職場というのは、自分にない専門的スキルを持った人たちと「無料で」コミュニケーションがとれ、そのスキルも習得できる機会があるわけです。私だったら、いろいろなことを聞きたくて仕方がないのに、なぜお互いにもっと業務のことを話し合わないのだろう、と本当にもったいなく思います。

経営者の方々は、営業や開発など現場出身の方が多いので、現場には口出しをしたり、コミュニケーションも積極的に行ったりすることが多く、また、組織作りに関心の高い人も多いので、バックヤードの中でも人事部門には声がけをすることは多く見受けられます。しかし経理に関しては、経営者が経理にしょっちゅう声掛けする、というシチュエーションは、会社が赤字の時くらいではないかと思います。通常は経理社員も必要な時以外は経営者に話しかける機会も少ないですし、経営者も「経理は問題なく業務をやってくれている」と、思っている場合は、必要以上に話しかけることも少ないでしょう。

以前、経理社員の方達を集めたワークショップで、「ショックだった出来事」としてこのような話をしてくれた人がいました。年に一度の業績評価時に、その方はびっしり今期の反省と来期の目標を書いて社長面談に臨んだのに、社長の前に座った瞬間、「ああ、○○さんはいつもよくやってくれているから100点ね」と、ものの10秒で査定面談が終わってしまったのだそうです。

それを聞いて、そこに集まった経理社員の人たちは「わかる」と一同に納得していました。
経営者からすると、当然良いことと思っての行動でしょうが、社員というのは、それほど単純なものではありません。確かに悪い査定よりは良い査定のほうが嬉しいに決まっているのですが、それよりもまず、「自分のことを見てくれているのか」「自分の仕事を認識してくれているのか」ということを社員は考えています。だからこの話をしてくれた経理社員も、「結局社長は自分のことを本当は見てくれていないし、経理の仕事にも関心がないし、そしてこれからもそれは変わることはないんだ」と、悲しくなってしまったのだそうです。

経理という仕事は、「現場と違って過度なプレッシャーや叱られることも少ないけれど、現場のようには興味を経営者からは持たれていないのかも」と、経営者とのコミュニケーションによっては考えてこんでしまう経理社員も中にはいるのではないかと思います。

では、経理が会社に重要な貢献をしていることを改めて経営者の方に認識してもらうためにはどのようにしたら良いでしょうか。私が考える一番シンプルで効果的な方法は、経営者の方が持っている経理に対しての価値観をひっくり返すということです。

経営者の方は、「儲かる話」と「損をしない話」ということには常にアンテナをめぐらせているのではないかと私は思っています。つまり「経営者にとって関心のある話は何か、有益な話とは何か」ということを考えて、それを自分達から仕掛けていくことで、経営者の経理部や経理社員に対する関心度や評価も変わってくるのではないかと思うのです。

ただしそれほど大それたことする必要はないと私は思います。たとえば、他社の新規事業で成功している事例をまとめたものをレポートにしたり、費用削減ができる新しいツールの情報を提示したりするなどといったことで十分です。それだけでも経営者は「経理部や経理社員は会社のことを常日頃から『自分と同じように』考えてくれているんだな」ということがわかります。経営者が安心、信頼、気になる社員というのは、こうした経営者と同じ視点、目線を持った社員です。経理部の皆さんは培った経理のスキルでこうした情報も探してみてはいかがでしょうか。新入社員からベテラン社員まで誰でもできることですし、これも立派な経理の仕事の一つであると私は思います。

一方で、経営者の方は経理部や経理社員に何を期待すれば良いのでしょうか。
「経営者が想像する以上に、その会社が大きくなることはない」という言葉を耳にしますが、それは職種や社員に対しても同じではないかと思います。
経営者が期待しない部署や人が、それ以上の貢献を会社や経営者にすることはないと思います。だからこそ、まず経営者の方が経理に「何を想像、期待するのか」ということは、会社の利益にも関わってくる大切なことです。

経営者の方の中には、経理業務というと「通り一片の集計作業やデータ入力、振込、納税作業」が全てと思われる方がいるかもしれませんが、それは経理業務のごく一部です。本来経理がすべき本質的な業務は「利益改善」であると私は思います。

単純に、「この費用が使いすぎ」という一般的なことは、どの会社でもやっていることでしょうが、一味違う経理というのは、そこで終わりません。一味違う経理は、同業他者、あるいは今勢いのある業界の数字分析や、最新のビジネスモデルの知識に関する情報収集も日々自発的に行っていますから、「今どのような事業モデルが一番儲かっているのか」「どの業界に勢いがあり、予算を持っているのか」ということを把握しています。

そうした数字の見方に長けている経理社員が自分の会社の現状を把握したうえで、「当社はこうしたほうがさらに良くなるのではないでしょうか」という意見が出てきたら、それを参考にしない手はないのではないでしょうか。

経営というのは、絶対に判断を間違えてはいけない局面があります。特に数字の部分です。業務には、営業や研究開発のような「失敗が当たり前で、その先に成功がある」という業務と、経理のように「最初から完璧にしていなければいけない」業務とに分かれます。経営は当然その両方の要素を兼ね備えているわけですが、こと数字に対する判断に関して失敗は許されません。優秀な経理と経営者のダブルチェックで数字は常に見ていないと危険です。

忙しい経営者が全て一人で会社全体のマネジメントをしていて、たまたま現場の重要なことに気をとられていて数字に関する判断を1回間違えてしまった、それだけでも経営危機に直面することは多々あるわけです。そうしたリスクを経営者の方は意識をしていただき、そうならないためには誰の力が必要か。こうしたことは常に想定しておく必要があるのではないかと思うのです。

著者プロフィール

流創株式会社
代表取締役

前田 康二郎(まえだ こうじろう)氏

数社の民間企業で経理・総務・IPO業務等を行い、海外での駐在業務を経て独立。現在は「フリーランスの経理部長」として、コンサルティング業務を行うほか、企業の社外役員や顧問、日本語教師、ビジネス書作家として書籍・コラムなどの執筆活動なども行っている。節約アプリ『節約ウオッチ』(iOS版)を運営。

著書に、『スーパー経理部長が実践する50の習慣』、『職場がヤバい!不正に走る普通の人たち』、『AI経理 良い合理化 最悪の自動化』、『伸びる会社の経理が大切にしたい50の習慣』(以上、日本経済新聞出版社)、『スピード経理で会社が儲かる』(ダイヤモンド社)、『経営を強くする戦略経理(共著)』(日本能率協会マネジメントセンター)、『ムダな仕事をなくす数字をよむ技術』、『自分らしくはたらく手帳(共著)』『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』(以上、クロスメディア・パブリッシング)など。

前田 康二郎(まえだ こうじろう)氏

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