2020年11月17日
これからの介護事業経営 第24回 介護報酬改定も二巡目に
小濱介護経営事務所 代表 小濱 道博 氏
介護報酬改定審議も二巡目となり、残すところは訪問サービスと施設サービスとなっています。しかし、基本報酬単位決定のための重要資料となる介護事業経営実態調査の集計が、コロナ禍の影響で遅れていて11月にずれ込む見込です。いずれにしても、12月には介護報酬改定を審議している社会保障審議会介護給付費分科会は12月にはその審議を終えて意見をとりまとめ、12月後半には令和3年度介護報酬改定の改定率が出されます。来年1月25日前後には、介護報酬単位が発出されて、その後、通知やQ&Aが示される展開となっていきます。今回は、すでに二巡目の審議が終了している地域密着型サービス、通所サービス、ショートステイについての、これまでの状況をまとめます。
1. 定期巡回随時対応型訪問介護看護
地域によって人員基準に関するローカルルールが多く存在し、人員配置要件でバラツキが大きいため、人員基準の緩和措置を含めて、計画作成責任者と管理者の兼務を可能とすること。オペレーターおよび随時訪問サービスを行う訪問介護員は、必ずしも事業所内にいる必要はないこと、の2点を明確にします。
2. 夜間対応型訪問介護
定期巡回随時対応型訪問介護看護と同様に、人員基準の緩和措置が検討されています。オペレーターについては、 特養、老健などの併設施設の職員と兼務し、随時訪問サービスを行う訪問介護員等と兼務できること。複数の事業所間で、随時の対応サービスを集約できること。地域の訪問介護事業所等に対し、事業を一部委託できることなどです。また、基本報酬については、区分1の出来高の部分にメリハリをつけること、などの実現が案として出されています。
3. グループホーム
短期利用で、ケアマネジャーが緊急にショート利用の必要を認めた場合は、定員を超えた受入れができます。この時の算定要件を、7日を限度から、7日以内を原則として、家族の疾病等やむを得ない事情がある場合には14日を限度に見直すことを検討しています。 また、ユニット数に関わらず、1事業所1名までの人数要件は、1ユニット1名までに見直すことを検討します。個室についても、パーティションなどでプライバシーが確保される場合には個室以外も認めるべきとの要望が出ているため検討されます。医療連携体制加算の算定要件の医療的ケアの対象の拡大も検討項目です。
さらに、小規模多機能型サービスに認められているサテライト型事業所の創設、ユニット数を3ユニットまで弾力化して、基本報酬も2ユニットと3ユニットで区分することも検討されます。この場合、ケアマネジャーである計画作成担当者は最大3ユニット分まで兼務を可能とすることも併せて審議されます。
問題は、夜勤職員の配置人数で、平成23年にグループホームの火災事故が増えたことで、夜勤職員の配置人数を、2ユニットで1人配置から、1ユニットで1人配置に厳格化されています。これを以前の2ユニットで1人配置に戻すことが検討されていますが、反対意見も多く、実現の可能性は低下しています。また、運営推進会議と外部評価の双方での第三者による評価が必要とされる部分では、どちらかを選択する形に変更することが審議されます。
4. 小規模多機能型居宅介護
利用者層が軽度者に移りつつある現状と、半分以上の事業者が赤字である現状を踏まえて、低い設定となっている軽度者の基本報酬の引き上げが検討されます。また、訪問体制強化加算については、月に200回以上という訪問サービスの実施回数の算定要件を、200回、300回、400回などに細分化し、200回に満たない事業所は報酬を減額するなどが審議されています。総合マネジメント体制強化加算については、上乗せ評価を行う新たな区分を新設すること。登録者以外のショート利用の条件の緩和などが検討されます。
5. 看護小規模多機能型居宅介護
介護施設同様に褥瘡(じょくそう)マネジメント加算や排泄支援加算などの新設が検討されます。小規模多機能型居宅介護同様の措置と共に、現在、併用のできない訪問入浴介護の併算定を可能とすることの検討が行われます。
6. 特定施設入居者生活介護
介護付き有料老人ホームは、特養同様に終の棲家としての役割が明確となって、看取り機能の強化が求められています。このため、現在は介護保険の訪問看護サービスの併算を認めていない規定を、夜間看護体制加算で夜間の訪問看護ステーションとの連携を評価している部分で、これを日中に拡大することが審議されます。機能訓練については、訪問リハビリテーションとの併算ができないが、生活機能向上連携加算で連携での評価がされていることから、見直しが検討されます。入居継続支援加算は、医療行為の割合が15%と算定要件が高く、算定率が低いことを踏まえて、この要件の緩和が検討されます。
7. 通所介護
ADL維持等加算の安定率が低いことから、報酬単位数の引き上げや、算定要件の新規利用者15%以下などを緩和することが審議されます。生活機能向上連携加算では、セラピストとの連携で、インターネット会議などICTの利用を認める方向が出されています。個別機能訓練加算では、機能訓練指導員の常勤専従規定が難しいとの意見も出ていることから、人員配置要件や機能訓練項目の見直しが検討されます。入浴介助加算は、単なる入浴ではなく、自立支援の向上の取り組みを評価するなどの見直しが検討されます。
8. 通所リハビリテーション
リハビリテーションマネジメント加算はVISITへのデータ提供、ICTの活用などを含めて、報酬体系の簡素化と事務負担軽減が見直されます。社会参加支援加算と生活行為向上リハビリテーション実施加算は、重度者は継続したリハビリが重要との意見も多く、卒業という概念を含めて算定要件が見直されます。また、通所介護同様に入浴介助加算では、入浴をリハビリテーションの一環として捉えるなどが指摘されています。基本報酬については、前回の改定で大規模事業所の報酬が下げられた事に対して、国の大規模化の方向に逆行しているなどの意見も多く、見直しの方向が出されています。
9. 短期入所生活介護
医療的ケアの必要な利用者がいることから、看護職員については、必要に応じて訪問看護ステーションなどとの連携によって確保することを認めることが審議されます。介護予防短期入所生活介護でも、連続30日以上の利用者に対してサービス提供をする場合には、長期利用減算を適用することが検討されます。
10. 短期入所療養介護
短期入所生活介護とサービス内容が似ている事から、基本報酬を引き下げた上で、退所時にかかりつけ医に情報提供を行う総合的な医学的管理を評価する加算が検討されます。緊急短期入所受入加算では、7日を原則として、やむを得ない事情がある場合には14日を限度に見直すことを検討します。
11. まとめ
総じて今回の介護報酬改定は、従来の加算の算定要件の見直し、人員の配置基準の緩和などが中心となっています。これはコロナ禍の影響もあって、新しい日常への対応の意味もあり、介護保険制度も大きな転換期になっていることを示しています。介護事業経営も、既得権や従来のやり方に縛られず、新しい発想での経営に変わらないといけない時期だと言えます。
次回は、いよいよ12月中旬に審議の取り纏めが行われますので、2021年度介護報酬改定の全体像を見ていきたいと思います。
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これからの介護事業経営 【連載記事】
- 第01回 地域包括ケアシステムと複数事業化のすすめ
- 第02回 介護保険制度改正の方向と今後の事業経営
- 第03回 介護保険制度改正の審議状況と解説
- 第04回 介護職員処遇改善加算の算定のポイント
- 第05回 介護保険事業 押さえておきたい実地指導の傾向と対策
- 第06回 介護保険部会の意見取りまとめを読み解く
- 第07回 平成30年度(2018年度) 介護報酬改定の動向
- 第08回 平成30年度介護報酬単位の答申内容の検証
- 第09回 次期2021年介護保険法改正への動き
- 第10回 平成30年度改定後の実地指導対策
- 第11回 介護職員処遇改善加算で慢性的な人材不足は解消出来るか?
- 第12回 さらに加速する制度改正の動向と拡大する保険外サービスの可能性
- 第13回 遂に審議が終了。新・処遇改善加算の詳細と問題点を探る
- 第14回 介護職員等特定処遇改善加算の厚労省告示の解説とその意義を考える
- 第15回 介護職員等特定処遇改善加算の通知とQA解説
- 第16回 激変の2019年度実地指導
~「介護保険施設等に対する実地指導の標準化・効率化等の運用指針」全解説~ - 第17回 介護職員等特定処遇改善加算の最終確認
- 第18回 加速する2021年介護保険法改正審議の論点とポイント ~大激変の予兆~
- 第19回 介護保険法改正の動向と介護報酬改定の行方 〜2020年の展望〜
- 第20回 2021年度介護保険法改正の内容と楽観できない先送り報道
- 第21回 介護職員処遇改善加算及び介護職員等特定処遇改善加算の変更点
- 第22回 介護報酬の行方
- 第23回 慰労金支給事業と介護サービス提供支援事業
- 第24回 介護報酬改定も二巡目に
- 第25回 令和3年度介護報酬改定は
著者プロフィール
小濱介護経営事務所 代表
C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問
C-SR 一般社団法人医療介護経営研究会 専務理事
小濱 道博(こはま みちひろ) 氏
日本全国対応で介護経営支援を手がける。
介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。
昨年も延20,000人以上の介護事業者を動員。
全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター等の主催講演会での講師実績は多数。
介護経営の支援実績は全国に多数。著書、連載多数。
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