2020年09月24日更新
これからの介護事業経営 第23回 慰労金支給事業と介護サービス提供支援事業
小濱介護経営事務所 代表 小濱 道博 氏
1. 申請手続は一括で一度に提出する
多くの都道府県では8月17日から8月31日が最初の申請手続きとなる慰労金を中心とした支援事業ですが、必要な取得要件と手続を確認して、認識不足で差し戻しとならないように万全の準備をしてください。かかり増し経費などの申請は、原則、1回目の交付申請で慰労金と併せて、その他の支援事業の申請についても今後の執行予定額を含めて上限額で申請します。また、返納が生じないよう、可能な限り有効に使い切ることが求められています。その後、実績報告を提出しますが、使い切れずに残った金額は返還します。たとえば東京都は原則、補助金支払から2カ月後に実績報告書を提出する予定ですので、速やかに使い切る必要があります。
2. 感染症対策を徹底した上での介護サービス提供支援事業
令和2年4月1日以降、感染症対策を徹底した上で、サービスを提供するために必要な「かかり増し経費」が発生した介護サービス事業所・施設などが支給の対象となります。すべての介護サービス、介護施設、有料老人ホームなどが対象となり、コロナ感染者、濃厚接触者の有無は問われません。なお、申請は令和2年4月1日から令和3年3月31日までにかかる経費が対象です。申請日以降に発生が見込まれる費用も合わせて、概算で一括申請することが原則です。そのため、最初から上限額で申請します。また、事後に実績報告が必要です。後日の監査などに備えて領収書などの証拠書類を保管します。実績報告時に支出実績が補助金額に満たなかった場合は、都道府県に対し精算を行います。支給の上限額は、サービスごとに定められています。
かかり増し経費とは、通常の運営では掛からず、コロナ禍の影響で特別に支払うことを余儀なくされた費用を言います。たとえば、余分に購入したマスクや消毒液といった衛生用品などの感染症対策に要する物品購入。インターネット会議や利用者とのTV電話のためのタブレットなどのICT機器購入またはリース費用などです。介護施設の場合は、併設の短期入所についても交付を受けることができます。この場合、補助上限額は以下のとおり計算します。
- (1)本体施設分→本体施設の定員×基準単価(38千円)
- (2)併設施設分→併設施設の定員×基準単価(44千円)
また、施設系サービスで空床利用型の短期入所を行っている場合の取扱は、
- (1)本体施設分→本体施設の定員×基準単価
- (2)短期入所(空床利用型)→前年度の1月当たり平均利用者数(小数点以下切り上げ)×基準単価
となります。
3. 介護サービス事業所・施設などに勤務する職員に対する慰労金の支給事業
慰労金が支給される職員の要件は、介護サービス事業所・施設などで通算して10日以上勤務した者であることです。施設などには、介護保険施設の他に、有料老人ホーム、サ高住、養護老人ホーム、軽費老人ホームが該当します。「10日以上勤務」とは、介護サービス事業所・施設などにおいて勤務した日が、始期より令和2年6月30日までの間に延べ10 日間以上あることです。1日当たりの勤務時間数は問わずに勤務日数を数えます。なお、当直勤務などで日をまたぐ場合は2日と数えます。複数の介護サービスで勤務する場合は、勤務日数を通算します。「始期」とは、その都道府県における新型コロナウイルス感染症患者の1例目が発生した日または受入日のいずれか早い日となります。第1例目の発生がなかった都道府県では、その都道府県が緊急事態宣言の対象地域とされた日となります。
対象職員は、人員基準上の職員だけではなく、「利用者との接触を伴い」かつ「継続して提供することが必要な業務」に合致する状況下で働いている職員はすべて対象となりますので、受付、事務員、送迎の運転手、厨房職員などは各々の勤務状況に応じて施設側の判断で設定します。なお、慰労金の給付は、医療機関や障害福祉施設などに勤務する者への慰労金を含め、 1人につき1回に限られますので重複した申請はできません。
支給金額は、通所系、施設の場合は、その事業所・施設で感染者が出た以降も勤務を継続した者。訪問系の場合は、感染者や濃厚接触者に実際にサービスを提供した者は一律で20万円の支給対象となり、それ以外の場合は5万円の支給となります。
この慰労金は、所得税法の非課税規定に基づき、非課税所得に該当します。そのため、扶養となるための上限である130万円の壁には影響ありません。注意すべき点は、給与として支給して源泉所得税や社会保険の対象としてはならないという事です。給与とは別の形での支給が必要です。手渡しか、振込みになりますが、記録を残す意味で振込みがお勧めです。今回の申請では、振込料金を見積もって慰労金と共に請求できますので活用すべきです。
慰労金の請求は、個人申請を施設が委任を受けて代行する形となるため、支給対象者には必ず委任状を提出させます。退職者で、支給要件に該当する場合は、原則として勤務していた介護施設などを通じて申請します。勤務していた介護施設などを通じた申請が難しい場合は、その施設の勤務証明など必要な書類を揃えた上で個人申請することとなります。
4. 在宅サービス事業所による利用者への再開支援への助成事業
在宅サービスの利用休止中の利用者に対して、健康状態・生活ぶりの確認、希望するサービスの確認(感染対策に係る要望を含む)、サービス事業所との連携(必要に応じケアプラン修正)を、1回以上電話などにより連絡を行った場合に支給されます。支給額は、電話の場合、1利用者あたり1,500円。訪問の場合、1利用者あたり3,000円です。支給対象は在宅サービスに限られます。この請求も概算で一括請求しますが、支援見込額の見積もりが困難な場合は、事業の定員で見込み額を計上します。
5. 在宅サービス事業所における環境整備への助成事業
令和2年4月1日以降に、感染症防止のための環境整備を行った在宅サービス事業所が対象です。助成の対象となる経費は、令和2年4月1日から令和3年3月31日までの期間で、「3つの密」を避けてサービス提供を行うために必要な環境整備に要した物の購入費用などです。請求の根拠として、領収証などの証拠となる書類を保管しなければなりません。購入例としては、長机、飛沫防止パネル、タブレットをはじめとするICT機器などです。1事業所当たり20万円が上限となります。
6. 証憑書類は施設にて保管する
かかり増し経費や三密対策経費は、その支出がコロナ対策として支出したことが説明できれば認められます。領収書などの証憑資料は施設側で保管して、後日の監査などで確認される場合があります。この受給申請は、同一の様式で発出済みで、都道府県のホームページで取得できます。
介護報酬を算定して国保連合会に口座がある場合は、国保連の伝送請求システムを利用して申請書を提出します。有料老人ホームなどで口座が無い場合は、都道府県に対して紙での申請となります。基本的に支援金は毎月15日から月末までが申請期間となり、その翌月末に銀行口座に振込となります。東京都の場合、国保連受付分は、令和2年 11 月末日までの申請受付分(令和2年 12 月末頃支払分)が最終となり、それ以降の申請は、東京都への直接申請となります。都道府県によって対応が異なる場合がありますので、詳細は該当するホームページなどで確認してください。
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これからの介護事業経営 【連載記事】
- 第01回 地域包括ケアシステムと複数事業化のすすめ
- 第02回 介護保険制度改正の方向と今後の事業経営
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- 第05回 介護保険事業 押さえておきたい実地指導の傾向と対策
- 第06回 介護保険部会の意見取りまとめを読み解く
- 第07回 平成30年度(2018年度) 介護報酬改定の動向
- 第08回 平成30年度介護報酬単位の答申内容の検証
- 第09回 次期2021年介護保険法改正への動き
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- 第15回 介護職員等特定処遇改善加算の通知とQA解説
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~「介護保険施設等に対する実地指導の標準化・効率化等の運用指針」全解説~ - 第17回 介護職員等特定処遇改善加算の最終確認
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- 第20回 2021年度介護保険法改正の内容と楽観できない先送り報道
- 第21回 介護職員処遇改善加算及び介護職員等特定処遇改善加算の変更点
- 第22回 介護報酬の行方
- 第23回 慰労金支給事業と介護サービス提供支援事業
- 第24回 介護報酬改定も二巡目に
著者プロフィール
小濱介護経営事務所 代表
C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問
C-SR 一般社団法人医療介護経営研究会 専務理事
小濱 道博(こはま みちひろ) 氏
日本全国対応で介護経営支援を手がける。
介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。
昨年も延20,000人以上の介護事業者を動員。
全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター等の主催講演会での講師実績は多数。
介護経営の支援実績は全国に多数。著書、連載多数。
小濱 道博 氏コラム一覧
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