2020年01月21日更新

これからの介護事業経営 第19回 介護保険法改正の動向と介護報酬改定の行方 〜2020年の展望〜

小濱介護経営事務所 代表 小濱 道博 氏

1.介護保険法改正の動向〜介護サービス関連

2019年2月より始まった社会福祉協議会介護保険部会での介護保険法改正審議が12月で終了した。今後は、通常国会での改正介護保険法案の審議を経て2020年5月には成立する。結論としては、10月の消費税増税が実施されたことから、国民の負担を強いる改正は全て先送りされることになった。それは、以下の7項目である。

先送りされた改正の論点

  1. 介護保険料の負担年齢の30才への引下げ
  2. 補足給付対象の所得基準に不動産などの資産を追加の一部
  3. 介護施設の多床室料を全額自己負担とする
  4. 居宅介護支援の自己負担1割の導入
  5. 訪問介護の生活援助、通所介護の要介護1-2の市町村への移行
  6. 自己負担2割の対象年収の引き下げ
  7. 現金給付の導入

高額介護サービス費の基準を診療報酬に合わせて年収基準とすることは導入となる。この点については、前回の制度改正で、高額介護サービス費と高額診療費の基準を同じとする基本ルールが確立したことから必然である。これによって、年収770万円までは44,400円が上限であるが、770万円を超えると93,000円、1,160万円を超えると140,100円が高額介護サービス費の上限となる。ただし、医療と異なり、介護保険対象者は高齢者であり、かつ、要介護認定者であることから、改正の影響を受ける利用者は限定的であろう。

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補足給付では、第三段階が2区分に分けられ、全国で30万人の施設入居者が月額22,000円の支払い増の見込となる。預金残高が、第二段階では650万円以上、第三段階1では550万円。第三段階2では、500万円以上で補足給付自体が受けられない。国民年金受給者などには厳しい改正となった。介護施設は要注意であり、今後は長期滞在できる入居者自体が減少していく。

先送りされた項目は、次回以降に先送りされただけであることを認識すべきだ。無くなった訳ではないのだ。10月の消費税増税が延期となっていたら、多くの項目が実施されたことは想像に難くない。これらの7項目は、近い将来に実施される可能性が高いことを念頭に置いて、今後の事業経営における中・長期計画を立てる必要がある。

2.介護保険法改正の動向〜行政関連

消費税増税によって国民の負担を強いる改正項目は次回以降に先送りされた。しかし、その布石は確実に盛り込まれた。訪問介護の生活援助、通所介護の要介護1-2の軽度者の市町村への移行については、財務省の財政制度等審議会での令和2年度予算の編成等に関する建議においても明記されている。それが先送りになった理由は、消費税増税による影響は少ない。制度改正を審議する社会福祉協議会では前回の改正時にも論点となっている。審議会委員の意見では、反対意見が大部分を占めている。しかし、その反対理由は軽度者を介護保険から外して市町村事業に移行することではないのだ。市町村事業に移行は止むなしとの意見も多いことに留意すべきだ。ではなぜ、全体的に反対意見が大部分なのか。それは、市町村での受け皿となる総合事業などが、特に地方において、整備が遅れていることが大きな理由となっている。現時点で、市町村に移行を強行すると、確実に介護サービスを受けることが出来ない介護難民が発生する。市町村事業をある程度、全国均一レベルにまで整備した上で移行すべきとのもっともな意見が多数を占める。

ちなみに、平成28年から総合事業に移行した、旧予防訪問介護、旧予防通所介護である第一号事業については、スライドしただけであるので9割程度の整備が行われている。しかし、サービスA(緩和した基準)、サービスB(住民主体)については全体的に整備が遅れ、特にボランティア中心のサービスBに至っては、10%弱の市町村しか実施していないとの資料が厚生労働省から出ている。

前置きが長くなった。今回の介護保険法改正で導入される財政インセンティブの強化は、正しく、市町村事業の促進を強いることが目的である。介護保険法は地方分権の法律であり、市町村の意向が反映される。2018年からインセンティブ交付金(保険者機能強化推進交付金)が設けられ、市町村による高齢者の自立支援や介護予防の強化に取り組んでいる。この交付金の取得基準に、いわゆるポイント制を取り入れる改正を行う。すなわち、通いの場、介護補助者、ボランティアの整備、獲得状況でポイントを算定し、市町村への交付金の支給に差を生む仕組みが設けられるのだ。通いの場、介護補助者、ボランティアはすべて、総合事業などの実施に直結する項目だ。これによって、市町村事業を促進させていく。ある程度、全国的に整備が整った時点で、訪問介護の生活援助、通所介護の要介護1-2の軽度者の市町村への移行議論が本格化して、実現の可能性が高まるだろう。

3.居宅介護支援の管理者要件の見直し

居宅介護支援事業所の人員基準での管理者要件は主任ケアマネジャーである。主任ケアマネジャー資格を取得とするための経過措置は3年であり、令和3年3月31日までに主任ケアマネジャー資格の取得が必要である。しかし、直近でケアマネジャー資格を取得した場合、主任ケアマネジャー研修の受講要件である専従期間5年に満たない。さらには、主任ケアマネジャー研修の受講定員が限られており、その開催回数も年に1回程度であるなど、受講したくてもできないなどの問題が指摘されていた。現在の経過措置を変更して、令和3年3月31日時点で主任ケアマネジャーでない者が管理者である事業所については、その者が管理者である限りは、経過措置をさらに6年間猶予して令和9年3月31日までとする。令和3年4月1日以降に新たに管理者となる者については、新規許認可や管理者の変更場合を含めて、必ず主任ケアマネジャーであることが求められる。特例として令和3年4月1日以降に、管理者が急病などの不測の事態によって主任ケアマネジャーを管理者とできなくなってしまった事業所は、その理由と「改善計画書」を保険者に届出た場合においては、管理者が主任ケアマネジャーとする要件の適用を1年間猶予する。また、その地域に他の居宅介護支援事業所がない場合などの理由で、利用者保護の観点から特に必要と認められる場合には保険者の判断によって猶予期間を延長することができる。また、中山間地域や離島等では人材確保が特に困難と考えられるために、特別地域居宅介護支援加算または中山間地域等における小規模事業所加算を取得できる事業所は管理者を主任ケアマネジャーとしない取扱いを認める。正式な厚生労働省からの通知は、令和2年に入ってから発出される。

4.始まる介護報酬改定審議

2021年度介護報酬改定の審議は、この春から社会福祉協議会給付費分科会で始まる。今回の介護報酬改定では、今回の診療報酬マイナス査定を受けて、非常に厳しいものとなることが予想されている。さらには、自立支援介護の実現と、成果型報酬への移行がポイントとなるだろう。その対象となるサービス、通所介護等においては、基本報酬の引き下げと成果型加算の新設が予想される。AIがケアプラン作成を援助する科学的介護の促進で、導入促進のための加算の新設も期待されている。介護ロボットやICT化促進のための加算の新設も噂されている。そして、ケアマネジャーへの新たな処遇改善加算の新設も具体化しそうだ。予防ケアプランの報酬引き上げなども論点となるだろう。

5.全世代型社会保障検討会議などの影響

内閣府が主導する全世代型社会保障検討会議の影響は避けられないだろう。その最終意見は、6月に出される骨太の方針と成長戦略に盛り込まれる。それは、今後の社会保障改革の基盤となる。規制改革推進会議の動向も要注目である。すなわち、それらの内容が介護保険制度に与える影響は非常に大きく、今後の方向が決定されることとなる。

社会福祉協議会福祉部会で審議されている新たな法人体系である、社会福祉連携推進法人からも目が離せない。これは、介護事業の大規模化の類型であり、特に地方都市における人材確保や事業拡大における期待が大きい。今後の社会福祉法人の事業展開にも大きな影響を与える可能性が高い。その詳細な通知は2020年に出される。

2020年、介護保険事業の経営環境が再び大きく変わろうとしている。

著者プロフィール

小濱介護経営事務所 代表
C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問
C-SR 一般社団法人医療介護経営研究会 専務理事

小濱 道博(こはま みちひろ) 氏

日本全国対応で介護経営支援を手がける。
介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。
昨年も延20,000人以上の介護事業者を動員。
全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター等の主催講演会での講師実績は多数。
介護経営の支援実績は全国に多数。著書、連載多数。

小濱 道博 氏

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