2019年03月15日更新

これからの介護事業経営 第14回 介護職員等特定処遇改善加算の厚労省告示の解説とその意義を考える

小濱介護経営事務所 代表 小濱 道博 氏

1. 新加算の名称は「介護職員等特定処遇改善加算」に

2月13日の社会保障審議会介護給付費分科会において、10月からの消費税増税に伴う介護報酬の引き上げ、区分支給限度額の変更、新しい処遇改善加算の3点についての厚労省告示案が諮問されて了承された。これによって、10月からの介護報酬改定の内容が確定したことになる。

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これまで、勤続10年以上の介護福祉士に対して月額8万円を支給するといった情報だけが拡散していた。それだけが、既定事実として語られることが多かったのが現状である。しかし、今回の諮問によって、それは幻想であって現実ではないことが明確になった。

その新加算の名称は、介護職員等特定処遇改善加算という。初めて「等」の文字が入ったことからも、従来は認めてこなかった看護職員などの多職種への配分も正式に確定した。従来の介護職員処遇改善加算は、現在のままで存続する。これは全く新しい新設の加算となる。

2. 介護職員等特定処遇改善加算の算定要件

介護職員等特定処遇改善加算の算定要件は、

  1. 現在の介護職員処遇改善加算区分Ⅰ~Ⅲのいずれかを算定していること
  2. 賃金以外の処遇改善である職場環境等要件を複数実施していること
  3. 介護職員処遇改善の取組みをインターネット上に公開していること

その3つの要件に加えて、勤続10年以上の介護福祉士の中から1人以上の職員が、今回の加算によって月額8万円の昇給となるか、年収が440万以上となることが必要である。例えば、現時点で年収400万の職員がいた場合、月額4万円程度の昇給を行う事で年収は440万円を超える。この場合は8万円の昇給は不要である。但し、事業所において、月々の加算の算定総額が8万円に満たない場合は、この限りでは無いとされているので、不足分を事業所側が負担するリスクもない。

では、最初の3つの算定要件を見ていく。

① 介護職員処遇改善加算区分Ⅰ~Ⅲを算定していること。

現在の加算区分はⅤまであるが、ⅣとⅤは廃止が決まっているため、今回の要件からは外された。

② 複数の職場環境等要件の実施について。

現在の介護職員処遇改善加算では、1つ以上の実施が要件となっている。この新加算では、新たに1つ取り組み、合わせて2つ以上の実施が必要という意味になる。ただし、この要件は過去に実施していることでは無く、これから実施することで足りる。

③ 処遇改善加算の取組みを事業所のホームページで公開していること。

ホームページを持たないなどの場合の特例については、3月に発出される解釈通知、QA待ちになる。

3. 勤続10年以上の介護福祉士の人数は収入に反映されない

新加算では、現在の介護職員処遇改善加算同様に、毎月の介護報酬の請求総額に所定の算定率を掛け合わせることで請求額が決まる。実はこの加算算定の計算においては、勤続10年以上の介護福祉士の人数は、まったく反映されない。事業所内の勤続10年以上の介護福祉士の人数が1人でも、10人以上であっても、加算収入には全く影響がない。しかし、介護福祉士の育成に尽力している事業所と、育成に力を入れていない事業所を同列に捉える事も問題がある。その為、その算定率は二段階になった。高い算定率を取るためには、介護福祉士の充実度が反映されている加算の算定が条件となる。その加算とは、多くの介護サービスに設けられているサービス提供体制強化加算、訪問介護に於ける特定事業所加算、特養などでの日常生活継続支援加算、特定施設の入居継続支援加算が該当する。なお、サービス提供体制強化加算は区分Ⅰ(イ)、特定事業所加算は区分ⅠおよびⅡのみが該当とされた。それ以外の場合は、低い算定率を用いて請求することになる。高い算定率をとるハードルは決して低くはない。

4. 職員を3つのグループに分けて配分する

次に、入金された加算の各職員への配分方法を見ていく。まず、職員を3つのグループに分ける。Aグループ(仮)は勤続10年以上の介護福祉士のグループ。Bグループ(仮)は、その他の勤続10年に満たない、介護福祉士を持たない、その他の介護職員のグループ。Cグループ(仮)は、看護職員や施設ケアマネジャーなどの、介護職員以外の職種のグループとなる。

Aグループにおける勤続10年以上の介護福祉士については、経営者側の裁量が認められる。基本的には自事業所で勤続10年となるが、裁量によっては転職者も、介護業界10年勤続でAグループとすることも出来る。また、10年に満たない場合も裁量でAグループとすることも出来るが、すでに現場サイドのリーダーであるなどの合理的な説明を要するとされた。なお、先に記したように、Aグループのメンバーから1人以上は、月額8万円の昇給を行うか年収が440万以上となっていることが必要である。

次に、加算収入をグループ毎に支給する場合の上限が定められた。共通ルールは、下位グループの総額は、上位グループの総額の半分以下となる事である。Aグループだけに支給する場合は何も問題はない。AとBグループに支給する場合は、BグループはAグループの半分以下でなければならない。A、B、Cの各グループに支給する場合は、BグループはAグループの半分以下、CグループはBグループの半分以下になっていることが要件である。すなわち、CグループはAグループの半分の半分が上限となる。

各グループの上限額が決まると、そのグループ内での各職員への配分基準は、現在の介護職員処遇改善加算同様に、経営者の裁量に任せられた。特定の個人にのみ渡すことも、メンバー全員に均等に渡すことも、人事評価などを反映して差を設けることも、それぞれが可能となっている。なお、Cグループへの支給については、すでに年収が440万円以上の職員には支給出来ない。また、440万円に満たない年収の場合も440万円となった時点で打ち止めとなる。

5. サービス毎の格差が大きく出た新加算

今回の加算の算定率は、厚生労働省サービス毎の勤続10年以上の介護福祉士の人数に関する厚生労働省データに基づいて決定された。自事業所で該当者が多い場合でも、算定額が多くなることはない。その影響が顕著に出たのがデイサービスである。デイサービスの算定率は、区分Ⅰで1.2%。区分2で1.0%となった。定員が10人程度の小規模なデイサービスは、月の請求総額が200万円前後である。この場合の一ヶ月の算定額は区分Ⅰで24,000円、区分Ⅱで20,000円と、8万円には程遠い金額しか算定出来ない。デイサービスで8万円の算定額を得るケースは、区分Ⅰで700万程度、区分Ⅱで800万程度の介護報酬請求が必要で、実質的に大規模な事業所以外は8万円の算定額を得ることが不可能という状態だ。これに対して、訪問介護はサービス提供責任者の配置要件で介護福祉士資格が必要であることもあって介護福祉士の取得者割合が高く、加算の算定率が高い結果となった。サービス提供責任者のみに配分するとした場合では、多くのサービス提供責任者が月8万円程度の昇給となる見込である。また、介護施設についても算定率が高く設定された。

今後の予定では解釈通知が3月中に、QAが4月以降に発出され、実務面の詳細が判明する。この加算のスタートは今年10月であり、準備期間は十分にある。しっかりと算定要件を熟読して、確実な算定を心がけていただきたい。

6. 新加算創設の意味を考える

介護職員は、従来から「きつい、給与が安い、結婚できない」の新3K職場と呼ばれ、男性職員の寿退社という言葉も流布している。すなわち、頑張って介護福祉士の資格を取っても、介護職員の給与は団子状態で資格を取ったからと言って大きく変わることはない。そのため、将来が見通せずに結婚を機に、収入が高くて昇給が見込める他の産業に転職していく。このような状況が世間一般の見方である限り、介護職を目指す者は増える事はないし、現職の介護職員も何れは離れていくことになる。

今回の加算創設の目的の一つは、介護職員として頑張って資格を取り、組織の中でリーダーとしての地位を築くことで、他の産業同様の収入を得ることが出来ることを常態化することにある。すなわち、もう介護職は3Kではないと声を高らかに言えることが重要なのだ。他の産業の平均収入は440万円とされており、その水準まで介護職員のリーダー職の収入を引き上げることに重点が置かれた。リーダー級の1人以上の職員に対して、月額8万円の昇給か、年収が440万以上となることを目的とした算定要件である。各事業所において、少なくてもリーダー職は一般の会社勤めと同等の年収を得ることが出来るという既成事実を作ること。それがこの新設の加算の大きな役割である。残念ながら、10年以上勤続していたからと言って月給が8万円上がることは幻想であった。10年勤務したからと言って、一気に給与が上がることは一般常識から言っても有り得ない。しかし、頑張れば、一般企業並みの年収を得ることが出来るという新たな目標が出来ることは評価に値すると考える。この加算の趣旨を理解して、多くの事業者が年収440万円の介護職員を誕生させることが期待されている。

参考 サービス毎の算定率
サービス区分 特定処遇改善加算
区分I 区分II
・訪問介護・夜間対応型訪問介護
・定期巡回・随時対応型訪問介護看護
6.3% 4.2%
・(介護予防)訪問入浴介護 2.1% 1.5%
・通所介護・地域密着型通所介護 1.2% 1.0%
・(介護予防)通所リハビリテーション 2.0% 1.7%
・(介護予防)特定施設入居者生活介護
・地域密着型特定施設入居者生活介護
1.8% 1.2%
・(介護予防)認知症対応型通所介護 3.1% 2.3%
・(介護予防)小規模多機能型居宅介護
・看護小規模多機能型居宅介護
1.5% 1.2%
・(介護予防)認知症対応型共同生活介護 3.1% 2.3%
・介護老人福祉施設
・地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護
・(介護予防)短期入所生活介護
2.7% 2.3%
・介護老人保健施設
・(介護予防)短期入所療養介護(老健)
2.1% 1.7%
・介護療養型医療施設
・(介護予防)短期入所療養介護(病院等)
1.5% 1.1%
・介護医療院
・(介護予防)短期入所療養介護(医療院)
1.5% 1.1%

著者プロフィール

小濱介護経営事務所 代表
C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問
C-SR 一般社団法人医療介護経営研究会 専務理事

小濱 道博(こはま みちひろ) 氏

日本全国対応で介護経営支援を手がける。
介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。
昨年も延20,000人以上の介護事業者を動員。
全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター等の主催講演会での講師実績は多数。
介護経営の支援実績は全国に多数。著書、連載多数。

小濱 道博 氏

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