2019年01月21日更新

これからの介護事業経営 第13回 遂に審議が終了。新・処遇改善加算の詳細と問題点を探る

小濱介護経営事務所 代表 小濱 道博 氏

1. 遂に概要が判明した新加算の内容

社会保障審議会介護給付費分科会での審議がまとまり、2019年10月にスタートする、新しい処遇改善加算(仮称)の全容が見えてきました。全国の介護施設、介護事業所に勤務している職員からは、勤続10年以上の介護福祉士は、月給が8万円増えて良いねという話が随所で聞こえてきます。また、看護職員や施設ケアマネジャーも新加算が介護職員以外の職種に配当が可能となったことから、新たな昇給を期待している介護職員以外の職員が増えています。この辺りは既成事実として、完全に一人歩きしている状況と言えます。これは、特に小規模事業者にとって、危険な兆候と言えそうです。期待が膨らみすぎると、現実を知ったときの反動で労働意欲の低下や退職の引き金となる可能性があります。早期にこの新加算の概要を知らせて、過度な期待を取り除くことが必要となっています。

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2. 新加算の審議経過

9月5日の第一回の審議では、昨年12月8日の閣議決定した項目に、「介護職員など」という表現があったことから、介護職員以外、すなわち現在の介護職員処遇改善加算では支給対象から外れている看護職員、ケアマネジャーなど他の職種への配分を認めることを求める意見が大部分を占めました。

10月15日の第二回審議で、厚生労働省は本来の加算の趣旨が、介護職員の確保、とくに経験10年以上のベテランスタッフの定着の促進であることから、一定割合の配分をベテランスタッフに実施することを前提に、他の介護職員、さらには他の職種への配分を認める方向を示しました。

10月31日の第三回では、勤続10年について同一事業所で10年か、転職していても介護業界に10年以上勤続すれば良いかの判断が中心となりました。同一事業所に限定した場合、新しく新設されたサービスや開業年数が少ない事業所が不利になる事から、一定条件のもとで業界10年以上のスタッフも認める方向が示されました。11月22日と12月12日は細かい算定要件が確認されて審議は終了となっています。

3. 算定要件は2019年3月までに発出の見込に

社会保障審議会で意見が取りまとめられた新加算は、2019年10月の消費税増税に合わせてスタートしますが、その詳細な算定要件である厚労省告示、解釈通知、Q&Aは2019年3月までに発出の見込となっています。これは、加算の原資である消費税の増税がまだ正式に決まっていないためで、その発出は増税決定後となります。現在判明している算定要件は、今後の通知等の発出段階で変更となる可能性はありますが、現時点での内容を確認していきます。

4. 新加算の概要と算定要件

  1. まったく新しい新設の加算である
    従来の介護職員処遇改善加算は、現在のままで存続されます。新加算は、従来は認めていなかった他の職種への配分を認めることから、まったく新しい新設の加算となります。その算定要件として、現在の介護職員処遇改善加算の算定区分Ⅰ~Ⅲを算定していることとされました。区分Ⅳ〜Ⅴは段階的に廃止されますので除外されています。
  2. 二段階の算定率が設けられる
    勤続10年以上の対象者一人あたりに、必ず月額8万円が支給される訳ではありません。従来の介護職員処遇改善加算同様に、月々の介護報酬の請求総額に所定の算定率を掛けて算出されます。よって、稼働率の低い事業所が受け取ることが出来る金額は、月々の請求金額に比例して低い金額になります。その算定率は、サービス提供体制強化加算、特定事業所加算、日常生活継続支援加算のいずれかの算定をしていることが前提で、これらの加算の算定実績の無い事業所の場合、加算率が下がる二段階の算定率が設けられます。そのため、これらの加算の算定実績の無い事業所が受け取る金額は、さらに低いものとなります。その事業所の運営状況で、対象者が受け取ることの出来る金額に差がでることを理解する必要があります。
  3. 該当職員をグループ分けして配分する
    従来の介護職員処遇改善加算同様に、その配分方法や基準は経営者側に委ねられています。必ずしも均等配分は求められていません。該当職員をグループ分けして、グループ毎に一定割合を配分することが要件となります。第一グループは、勤続10年以上の介護福祉士の資格保持者です。この場合、同一サービス、同一会社での10年に限定されずに転職者でも、業界での勤務実績が10年の介護職員も対象とするなど、ある程度は経営者の柔軟な判断を可能としています。勤続10年以上の介護福祉士とは、勤続10年以上の中で介護福祉士の資格を取得していれば対象者となります。第二グループは、その他の介護職員全体のグループ。第三グループは、介護職以外の他の職員のグループです。

    第一の方法として、加算の全額を第一グループだけに支給する場合、何も問題はありません。第二は、第一グループと第二グループに支給する方法です。この場合、第二グループへの支給総額は、第一グループへの支給総額の半分以下とすることが要件です。第三は、第一グループと第二グループ、第三グループに支給する方法です。この場合、第一グループ:2、第二グループ:1、第三グループ:0.5、が配分比率となります。すなわち、他の職種に配分できるのは、第一グループの1/4までです。

    それらのグループの中では経営者の判断で配分が可能です。ただし、第一グループの中に、月額8万円の処遇改善となる職員、または、改善後の賃金が年収440万円以上となる職員が1人以上いることが前提条件とされています。この要件をクリアした上で、グループ毎の配分を行わないといけません。この月額8万円が従来の介護職員処遇改善加算での賃金改善額を含むか否か等の詳細は年度内に発出される通知待ちとなります。

  4. その他の算定要件
    この新加算の対象サービスは、介護職員が配置されるサービスとなるため、訪問看護、居宅介護支援、福祉用具貸与などは算定出来ません。従来の介護職員処遇改善加算の算定要件である職場環境等要件における職場環境等についての改善の取組を複数行っていることが必要です。また、処遇改善加算の取組についてホームページに掲載しているなどの見える化を行っていることも要件に設けられる見込です。

5. 今後の事業所の二極化を拡大する可能性も

月額8万円の処遇改善となる職員が1人以上の算定要件が、従来の介護職員処遇改善加算での賃金改善を含むか否かはこの加算算定の重要な分岐点になります。又は、年収440万以上とされている事から、含むと考えられますが、仮に単独であるならば、この加算の算定の可否を大きく左右します。

例えば、訪問介護事業所で、稼働率100%の状態で特定事業所加算も算定していて、勤続10年以上の介護福祉士が1人である事業所において加算を算定した場合、満額の8万円を獲得出来ます。しかし、月額8万円の処遇改善が1人必要ですので、その全額を対象の介護福祉士に渡して他の職員への配分は出来ません。さらに他の職種への配分比率は、勤続10年の対象グループの1/4が上限です。従来の介護職員処遇改善加算での賃金改善を含むとされた場合であっても、同様の問題が起こる可能性が高いと言えます。

今回の新加算において、他の職種である看護職員や施設ケアマネジャーに支給されるのは、対象の介護福祉士を多数抱える一定規模以上の事業所が中心となり、小規模事業所で他の職種の賃金改善まで行うのは非常に厳しい現実が分かります。かといって、この新加算を算定せず、勤続10年の該当者に支給しない選択をした場合、その事業所は人が定着せず、新しい人材の確保も非常に不利になることが予想できます。結果として、ベテラン介護職員と従来あった他の職種との賃金格差が縮まり、他の職種の不満が拡大することが予想されます。この辺りは、経営者の管理能力の問題とは言い切れない部分が確実にあります。

いずれにしても、事業規模の大きい事業所に有利な加算であることは間違いありません。この加算は、介護事業の二極化を更に拡大させる可能性も否定できません。

6. 消費税増税によって介護報酬も改定される

今回の審議では、消費税増税によって介護報酬も改定も議題とされました。2019年10月の消費税増税によって、各介護サービスの基本報酬がアップします。加算については、ごく一部の加算のみ対象とされて、多くの加算のアップはありませんので、基本報酬だけと考えておくべきです。前回2014年の消費税の3%増税時に基本報酬は約0.4%の引き上げでした。今回は3%ではなく、2%の増税ですので、0.4%を切る引き上げ率と考えられます。これは、介護サービスでは消費税が非課税であるためで、単純に介護報酬の2%が上がるのでは無く、収入と経費の差額である利益額の2%が引き上げられるためです。同時に、区分支給限度額も相当分の引き上げが行われます。

今回は介護報酬が若干ですがアップします。しかし、通常の介護報酬のアップと同様に考えてはいけません。消費税の増税によって、物価がそれ以上に上がると考えるべきです。また、利用者負担も若干ですが増える事も忘れてはいけません。

著者プロフィール

小濱介護経営事務所 代表
C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問
C-SR 一般社団法人医療介護経営研究会 専務理事

小濱 道博(こはま みちひろ) 氏

日本全国対応で介護経営支援を手がける。
介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。
昨年も延20,000人以上の介護事業者を動員。
全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター等の主催講演会での講師実績は多数。
介護経営の支援実績は全国に多数。著書、連載多数。

小濱 道博 氏

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