2018年06月15日更新

これからの介護事業経営 第10回 平成30年度改定後の実地指導対策

小濱介護経営事務所 代表 小濱 道博 氏

平成30年度改正の余波が続く

平成30年度改正もすでに過去のものとなりつつある。多くの経営者や担当者は、もう暫くは介護保険法も介護報酬の話は聞きたくないとばかりに、日常業務に邁進しているのではないか。しかし、今年8月から年収340万円以上の高所得者は自己負担3割となり、介護保険料の滞納者は最大で4割負担となる。さらに10月からは、訪問介護の生活援助サービスにおける利用回数制限が、福祉用具貸与では上限価格制が始まる。まだまだ、平成30年度改正の余波が続いている。

新たな動きが出始めている

ここ1年間、介護報酬改定審議の影に隠れた感のある保険外サービスの議論は、未来投資会議などにおいて着実に進められている。東京都豊島区では、訪問介護における混合介護(豊島区では選択的介護と呼ぶ)が10数事業所の参加によって今年8月から実施される。豊島区での事業対象は訪問介護だけであるが、通所介護を対象とした混合介護は早ければ年内に厚生労働省から自治体に対して通知が出されて、訪問介護に先行して正式に解禁される可能性が高まっている。3年後の2021年度介護保険法改正への動きも出て来た。財政制度等審議会による「新たな財政健全化計画等に関する建議」には、2021年度改正に向けた論点が示されている。来年には再び、社会保障審議会介護保険部会で介護保険法改正の審議が始まる。

そのような中で経営の足下を見ると、今年度の実地指導対策が急務となっている。今回の介護報酬改定において、運営基準の変更や介護報酬の算定要件の変更が行われたサービスも多いからである。

居宅介護支援は早急な対応を

特に居宅介護支援では、「利用者は、ケアマネジャーに対して複数の居宅サービス事業者等の紹介を求めることできる」ことなどを、利用者に対して文書交付、口頭説明の上で署名を得ることが求められ、実施されない場合は運営基準減算となる。既存の利用者にも次のケアプランの交付時、すなわち6月までに対応を終わらないと減算となる。この文書交付の方法や、何に署名を記載するのかが理解できていない事業所も未だに存在する。文書交付は、重要事項説明書の留意事項の項目に記載して行う。新規契約者は、重要事項説明書の説明同意の時点で要件を満たす。しかし、既存の利用者には別紙の文書を交付して、理解した旨の署名を得る必要がある。その他にも、居宅介護支援では多くの運営基準が見直されている。それは、ケアプランに医療系サービスを位置づける場合の、医師へのケアプラン控えの交付であり、訪問介護から報告された利用者の口腔関連、服薬関連情報を主治医の医師に伝えることなどである。利用者が入院する際の担当のケアマネジャーの情報を病院の担当者に依頼することを重要事項説明書に記載して説明することも忘れてはならない。

また、特定事業所加算を算定する場合、他の法人の運営する居宅介護支援と共同で事例検討会、研修会を開催するための暫定計画を4月中に策定し、9月までに本計画を立てていないと10月から加算が算定出来ない。しかし、事例検討会を毎月実施するか否か、事業所の全ての職員が参加する必要があるか否か等を理解出来ないままの事業所も多い。これについても、実施回数は必要と考える回数なので最低で年一回で良いし、全ての職員の検討会への参加までは求められていない。欠席者には後日、周知すれば足りる。計画書の雛形もインターネットを検索すると見つかるが、基本的な事柄を理解しないままで実地指導を向かえると大変なことになる。

多くのひな型が変更されている

訪問看護の理学療法士等の利用者に対しても、理学療法士等の訪問はあくまでも看護職員の代わりである旨の説明と同意が必要となっている。また、介護サービスでの新加算関連の計画書等のひな型も多数示された。通所リハビリテーション計画書、訪問看護計画書と記録書、加算算定関連では褥瘡マネジメント加算、栄養スクリーニング加算、口腔衛生管理関連、排泄支援計画、経口移行・維持計画、事業所評価加算などの新しいひな形が厚生労働省から出されている。当面は現行のものを使用できるが、不足する項目があれば追記しなければならない。独自様式を使う場合も、厚労省の雛形で示された項目はすべて網羅する必要がある。次の計画の見直しからは新様式での作成となるため、使用するひな型の再作成も速やかに行なうことが必要である。

大幅な変更の身体拘束廃止未実施減算

算定要件が大きく変更されたのが、身体拘束廃止未実施減算である。減算の対象サービスは介護老人保健施設、介護老人福祉施設、介護療養施設、介護医療院、特定施設入居者生活介護、認知症対応型共同生活介護、短期入所である。改定後は、基本報酬の1日10%の減算となった。問題は、減算の対象の新要件が追加されていることだ。具体的には、①、身体的拘束の適正化のための対策を検討する委員会を3月に1回以上開催していない場合、②、体的拘束適正化のための指針を整備していない場合。③、身体的拘束適正化のための定期的な研修を実施していない場合の三点である。委員会については、構成メンバーや専任の責任者の配置、他の委員会との併設の禁止などが通知で明示され、委員会の開催プロセスが示された。特に、「報告された事例及び分析結果を従業者に周知徹底すること。」を実施することも重要となる。指針の整備では、7つの盛り込むべき項目が示されたため、指針の見直しを行わないとならない。また、研修は指針に沿って年に二回以上。そして新規採用時には必ず身体的拘束適正化の研修を実施することが必要である。該当する施設は、早急にガイドラインの整備と研修計画の策定が急務である。その期限は、最初の身体拘束委員会の開催期日が3ヶ月であり、遅くとも6月までである。すなわち、6月までに対応が終わっていないと、7月から減算となっている。

制度改正対策を見直す時期に来ている

ある団体職員は、事業者が役所に質問しても、役所も分からずに回答に窮して、その団体に確認するように言っていると嘆いていた。誰も正しい情報を理解する間もなく、通知やQAが大幅に遅れた弊害が出ている。正しい情報が伝わらないうちに、加算等の算定届の提出期限を迎えたことも大きい。現場の担当者は、算定届を提出した時点で役割を終えた気になる。しかし、現時点で厚生労働省からのQ&AはVol.4まで出されているのをご存じであろうか。この最新のQ&Aが出されたのは、5月29日であった。

制度改正の時期には、多くの施設では外部研修に職員を参加させている。研修に参加した職員が、施設の中で講師となって他の部署の幹部職員に伝えていくのが一般的だ。しかしもはや、介護施設の一部の職員だけが、制度改正や報酬改定の内容を理解していれば良い時代は終わりを告げている。一般職員レベルまで制度改正の内容を把握していないと、施設や事業所運営の大幅な方向転換の意味が理解できずに、一般職員の不満が高まるリスクを負うことになる。上に立つ幹部職員が十分に理解できていない職場の場合は、一般の職員が正しい理解が出来るはずも無い。これは、従来の介護施設における研修システムでは研修スケジュールを消化することが第一の目的であったことも大きい。役所による実地指導では、年間の研修スケジュールの有無と研修の実施記録が重視される。その結果、施設側でもその実績作りに重点が置かれて研修効果の測定が出来ていない。研修講師の担当職員が役所の主催する集団指導での内容をコピペで話していることも多い。理解できていない担当者が講師になって内部研修しても、参加者には何も伝わらない。それ以上に、参加者が研修で知識を吸収することへの意欲に薄く、その場に参加するだけの状況に慣れてしまっている。今回の制度改正を機に、施設の研修の意味を再考する必要がある。

無通知指導が拡大の方向

そのような中で、ある自治体が今年度からの実地指導から、通常一ヶ月前の事前通知を改めて、通知を開始時点で行う無通知指導を実施するとの情報が入ってきている。その前提は、その事業所で虐待などが疑われる場合と考えられる。前回の改正から、介護保健施設等指導指針では疑わしいという理由で無通知指導が可能とされたからだ。今後は、各地で無通知指導が増えるのではないか。日頃からコンプライアンス対策が出来ていない事業所は大変なことになりかねない。

著者プロフィール

小濱介護経営事務所 代表
C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問
C-SR 一般社団法人医療介護経営研究会 専務理事

小濱 道博(こはま みちひろ) 氏

日本全国対応で介護経営支援を手がける。
介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。
昨年も延20,000人以上の介護事業者を動員。
全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター等の主催講演会での講師実績は多数。
介護経営の支援実績は全国に多数。著書、連載多数。

小濱 道博 氏

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