2017年06月12日更新

これからの介護事業経営 第06回 介護保険部会の意見取りまとめを読み解く

小濱介護経営事務所 代表 小濱 道博 氏

改正介護保険法案は、5月26日に国会で成立した。今後の焦点は、平成30年度介護報酬改定に移った。衆参両院での法案審議時間は過去最低で、地方公聴会は一度も開かれなかった。実質的に与野党の論争も殆ど無く、無風状態での成立であった。成立後の介護保険制度の主な変更スケジュールを以下に取りまとめた。

【平成29年8月施行】

  • 高額介護サービス費の一般区分の月額上限を、37,200円から44,400円に引き上げる。
    • 1割負担の被保険者のみの世帯については、平成32年7月末までの時限措置として、446,400円(37,200円×12)の年間上限を設定。

【平成29年度から段階施行】

  • 被用者保険における介護納付金について、現行の加入者割から総報酬割へ段階的に移行。
    • 平成29年度・平成30年度1/2導入、平成31年度3/4導入、平成32年度全面導入。

【平成30年度から実施】

  • 地域密着型通所介護への総量規制の適用
  • 市町村協議制の対象にショートステイを追加
  • 更新認定有効期間の上限を36ヶ月に延長
  • 状態安定者について二次判定の手続きを簡素化

【平成30年4月施行】

  • 保険者による自立支援、重度化防止等に向けた取組を推進するための財政的インセンティブの付与。その実施方法と交付金額は、平成30年度予算編成の過程で検討される。

【平成30年8月施行】

  • 所得水準が現役世代並みと認められる個人について、利用者負担割合を3割に引き上げる。

【平成30年10月施行】

  • 福祉用具貸与業者に対し、貸与商品の全国平均貸与価格と当該福祉用具貸与業者における貸与価格の両方の利用者への説明及び機能や、価格帯の異なる複数の商品の提示を義務付け。
    • 複数の商品の提示の義務付けは平成30年4月施行。
  • 福祉用具貸与は、国が商品ごとに全国平均貸与価格を公表。商品ごとに「全国平均貸与価格+1標準偏差」を貸与価格の上限として設定する。上限を超えた場合、介護保険の適用から除外される。

【平成31年度末まで】

  • 軽度者に対する生活援助サービスやその他の給付の地域支援事業への移行について、引き続き検討し、その結果に基づき必要な措置を講ずる。

以下、平成30年度介護保険法改正についてのポイントを項目毎に見ていく。

1. 自己負担3割導入の影響

自己負担3割が平成30年8月より導入される。介護保険法に於いての自己負担基準は所得である。現在は、年収280万円以上(独居)の者が自己負担2割負担とされている。来年8月からは特に所得の高い年収340万円以上(独居)の利用者が3割負担となる。利用者全体の3%、全国で12万人が該当すると推計される。しかし、自己負担2割が利用者全体の20%に該当する事を考えると、自己負担3割該当は3%、すなわち利用者100人に対して3人の割合では殆ど影響は考えられない。さらに対象者は、特に所得の高い階層の利用者である。高額介護サービス費の適用があるため3割負担となっても、その実質的な支払上限は44,400円となる。利用控えが起きる可能性は極めて低い。それ故に利用者の一部が自己負担3割の該当となっても、介護事業者は過度な心配は不要と断言できる。

単身、年金収入のみの場合の自己負担割合と高額介護サービス費

では、何が問題なのか。第一に、自己負担3割の是非についての審議が社会保障審議会介護保険部会に於いて十分に成されたとは言えないことにある。自己負担2割の対象者拡大の審議が進行したなかで、審議の終盤に厚労省は自己負担2割の拡大案をあっさりと取り下げ、特に所得の高い高齢者の3割負担を提案して承認させてしまった感が強い。最初から3割負担の導入が議題に上がったとしたら、異なる展開になった可能性が強い。

自己負担3割導入の問題は、自己負担割合の基準所得は、介護保険法では無く厚生省令で定める規程であることにある。介護保険法に自己負担3割が明記されると、その後は厚生省令の改正だけで対象者を拡大できるのだ。その場合、国会に於ける審議は必要が無い。先に記したように、平成30年度以降は自己負担3割の影響は最小限に留まる。しかし、次回以降の制度改正で自己負担の基準所得が大きく引き下げられ、自己負担2割および3割の対象者が拡大していくことは否定できない。その布石がいとも簡単に打たれてしまったのが、今回の制度改正である。さらに、高額介護サービス費の基準金額が今年8月から37,200円から44,400円に引き上げられることも大きい。その理由は、高額診療費と基準を合わせることである。しかし高額診療費は改正されて57,600円に引き上げられる。さらに現役並み所得者は更なる上限の引き上げが行われる。高額介護サービス費も、近い将来において高額診療費同様に引き上がられる。将来的には10万円近くまで基準を引き上げるとも言われる。自己負担3割導入の影響は計り知れない。

2. 地域密着型デイサービスに総量規制を適用

地域密着型デイサービスに総量規制が適用される。その前提条件は、その市町村で定期巡回随時対応型訪問介護看護や小規模多機能型居宅介護などの許認可が行われていることにある。その場合、市町村の事業計画に年間の許認可件数などを明記することで、それを超えた指定申請は、指定しないことが出来るのが総量規制である。近い将来、デイサービスは定員19人以上の規模以外は、新規開業が難しくなると思われる。FC事業など、小規模型を活用してのビジネスモデルは大きな転機を迎えるであろう。ただし、デイサービスの許認可が全く出なくなる意味では無く、定員が18人以下の許認可が難しくなるに過ぎない。また、既に許認可を得て事業を営んでいる場合の影響は無いので安心されたい。

3. 介護医療院の創設

平成30年4月より、新しい介護施設として介護医療院が創設される。これに伴って、従来の介護療養型医療施設は、平成30年3月末を持って廃止となる。介護療養型医療施設が介護医療院に転換するための経過期間は6年である。期間内に転換を終えない場合は、従来の介護療養型医療施設は廃業となる。その指定基準は、4月26日から始まった介護給付費分科会にて検討が進められる。基本的に、医療機関併設型Ⅰは現時点で機能強化型の基本報酬を算定している介護療養型医療施設が転換対象となる。医療機関併設型Ⅱは、通常型の基本報酬を算定している場合が対象となる。この場合は、介護老人保健施設相当の基準を満たす必要がある。もう一つの選択肢が、医療機関外付け型であるが、この場合は特定施設相当(介護付き有料老人ホーム)の基準を満たすものとされている。法案を見る限り、その指定基準は厚生省令で定めるものと、都道府県の条例で定めるものに区分される。今後、保険者によるローカルルールが多くなると思われる。なお、当面は介護と医療の療養型医療施設からの転換のみが対象となるが、将来的には新規許認可も行われる。

4. 共生型サービスの創設

1事業所に対して、介護保険サービスと障害福祉サービスの双方の許認可を行い、二つのサービスの一体提供を可能とする共生型サービスが創設される。一体提供する場合、許認可基準を緩和して指定を受けやすくする。例えば、介護保険のデイサービスを行うと共に、児童福祉法における放課後等デイサービスを提供するなどが当てはまる。これによって所謂、富山型デイサービス等の運営が容易になる。これは障害福祉サイドからの要望から誕生した制度である。現在は、介護保険優先主義であるため、障害福祉サービスを使い慣れた障害者が65才になったのを機に、障害福祉サービスを止めさせられて、介護保険サービスに移らないといけない現状がある。そのため、障害福祉事業者が介護保険サービスの許認可を併設することで、使い慣れた事業所を継続利用させたいという希望があることが発端である。発端はどうあれ、大きなビジネスチャンスが生まれる可能性を秘めており、これまで以上に異業種からの参入が促進されることが予想される。その指定基準は今後の介護給付費分科会の審議で決められ、報酬についても介護給付費分科会と障害者部会でそれぞれの報酬が審議される。指定基準等の全容が判明するのは年末近くになると思われる。

5. 最大の影響が懸念される財政インセンティブの導入

高齢者の要介護度が改善した自治体を財政支援するインセンティブ制が導入される。これは、要介護度1以上の利用者について、運動機能改善で要介護度を改善、長期間同じ要介護度の維持を評価する仕組みである。厚労省が要介護度平均値など改善評価指標を定め、その成果に応じて国が財源を配分して報奨金を自治体に支払う。

その実施プロセスは、市町村はその取り組むべき自立支援等施策とその目標を市町村介護保険事業計画に記載する。自立支援等施策とは、その地域における要介護認定者の自立した日常生活支援の取組、予防介護の取組又は要介護状態軽減の取組及び介護給付費用削減の諸施策である。すなわち、地域住民の介護度を引き下げ、介護給付総額を減らすことの達成目標を事業計画に書き込む。次に一定期間経過後に、自立支援等施策の実施状況と目標の達成状況を調査して分析を行い、市町村介護保険事業計画の実績評価を行う。その評価結果を公表して、都道府県知事に報告する。すなわち、事業年度毎に達成状況を確認して都道府県に報告する。

都道府県は、各市町村の市町村介護保険事業計画を取りまとめて厚労省に報告し、市町村の自立支援等施策支援のために取り組む施策と目標を都道府県介護保険事業支援計画に追加する。すなわち、都道府県も所轄の市町村の目標達成を後押しするための目標を事業計画に書き込む。

厚労省は、介護給付費用の額について地域別、年齢別又は要介護認定及び要支援認定別の状況などの情報調査と分析を行って、その結果を公表して市町村の計画作成の指針を提供する。国は、市町村による自立支援等施策支援のために、市町村に対して予算の範囲内で交付金を交付し、都道府県の市町村支援の取組を支援するために、都道府県に対しても交付金を交付する。交付金の金額は国家予算の枠内で決められ、支給基準については厚生省令などで定められる。すなわち、目標を達成した市町村とそれを後押しした都道府県は、国から成功報酬として交付金を受け取ることが出来るのである。達成出来ない場合は、何も受け取ることが出来ない。

重要なポイントは、交付金は成功報酬であることである。市町村も都道府県も交付金は欲しい。制度上、市町村の自立への取組を支援する事が建前の交付金であっても、その程度の差こそあれ、作為的に地域における認定基準が厳しくなり、地域住民の介護度が引き下げられる結果となり、実地指導が厳格化されて介護給付総額が結果として引き下げられる事などが懸念されることは否めない。また、地域ケア会議に於ける行政側の関与が強まることも避けられないであろう。行政主導でのケアプラン点検の強化によって、機能訓練重視のケアプラン作成が優遇される事が想定される。この点は、先行して住民の介護度の回復や介護給付総額の削減といった結果を出している和光市や大分県の取組を見れば明らかである。厚労省が、それらの取組を見習うべき成功事例として何度も紹介する現状が、国が期待する行政主導のリーダーシップ像であることを物語る。

国が財政インセンティブとともに横断適用を進める和光市方式は、生活習慣や機能訓練としての運動中心の指導で、最終的に介護保険利用からの“卒業”を目指す「自立支援型ケアマネジメント」である。この和光市方式を数年前から取り入れているのが、東京二十三区の一つである荒川区である。その荒川区の介護事業所にお伺いしたときの職員の話である。和光市方式になってから、要支援者の「卒業」が増えて困ると言う。すなわち利用者の状態が回復して要支援者から自立者になっていく。和光市方式の根幹を担っているのが地域ケア会議(和光市ではコミュニティケア会議と呼ぶ)である。必ず、市の担当が参加して、新規のケアプラン内容が個別に指導される。ケアプランは、生活行為評価表と呼ばれるアセスメント票から導かれる。地域ケア会議でチェックと指導を効率的に行う為に、ケアプランの様式などは市内全域で同一のものに統一される。和光市の取組の素晴らしいところは、市が主導して、先頭に立って動いたことにある。お世話型介護を求める市民を根気よく説得して自立支援型介護を納得させる役目も役所が担った。地域のケアマネジャーへの教育支援、効率的な地域ケア会議の開催、さらには自立になった後も、多様な地域支援サービスを受けることが出来る仕組みを次々に打ち出したことにある。配食サービスや栄養管理、口腔機能の改善にも取り組んでいる。コミュニティサロンなども充実している。これは短期間で構築出来るものでは無く、そのために要した十数年の時間を理解しないと、正しい導入は難しい。単なるコピーでは、期待される効果が出ないばかりか、マイナスの影響が生じることになる。和光市方式は本当に素晴らしいシステムである。しかし、それを国の主導で短期間に全国に導入を進めたとき、表面だけを模擬した運用が、介護保険制度に大きな弊害を生むことを危惧する。和光市が仕組みを構築するに必要とした時間は10年を超える。さらに、和光市が成功した要因として、平均3年程度で配置転換が通常の役所に於いて、その常識を越えて5年も7年も同じ部署で責任者が頑張ったことがある。自治体の担当者には、先頭に立って地域住民と事業者の意識改革を実現するための、知識、経験、ノウハウの蓄積が求められるのが和光市方式と言える。

6. 有料老人ホーム関連

老人福祉法が改正され、一般の有料老人ホームに対して都道府県が行う行政処分が従来の命令までから、停止処分に拡大される。また、有料老人ホームが都道府県から事業停止処分を受けたことを理由に、市町村は併設の介護事業に対して指定取消処分を下すことが可能となる。さらに、前払い金を徴収している場合の積立金の義務を、すべての有料老人ホームに拡大し、従来の2006年3月以前に事業を開始している場合の特例を廃止する。

7. 次期制度改正の展望

次回の介護保険法の改正は、3年後の平成33年と思われる。今回の改正において、継続審議とされた諸項目が再び議論される。それは、訪問介護から生活援助サービスを市町村事業に移譲すること。居宅介護支援事業所の自己負担1割化。介護保険料の負担年齢を40才から20才に引き下げること。福祉用具貸与を要介護3以上とすることなどである。介護事業経営の最大のリスクは制度改正である。早期の情報収集が求められる。

著者プロフィール

小濱介護経営事務所 代表
C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問
C-SR 一般社団法人医療介護経営研究会 専務理事

小濱 道博(こはま みちひろ) 氏

日本全国対応で介護経営支援を手がける。
介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。
昨年も延20,000人以上の介護事業者を動員。
全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター等の主催講演会での講師実績は多数。
介護経営の支援実績は全国に多数。著書、連載多数。

小濱 道博 氏

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