2020年8月25日更新

介護現場から見たCOVID-19感染蔓延防止とリスクマネジメント第01回 施設の体制や職員について

社会福祉法人育生会研修センター センター長
株式会社安全な介護 講師
湘南医療福祉専門学校 非常勤講師
川村 亜希 氏

感染症対策は『持ち込まない』と『蔓延させない』に大きく分けられます。『持ち込まない』対策は主に職員に対する健康管理と外部の方の入場制限です。今回は主に『蔓延させない』対策についてリスクマネジメントの視点から、当施設における取り組みを例に挙げて見解を述べます。

イメージ

「蔓延させない」対策

当施設はユニット型のため感染症蔓延防止の観点からみると対策が施しやすいと言えます。入居者の部屋は個室であり、ユニットごとで職員、入居者を分断することができます。そのためインフルエンザ等の感染症が発症した際は、フロア、ユニットを閉鎖し、予防薬を投与しながら蔓延の被害を最小限に食い止めることができるものです。更衣室等も分け、職員の動線を制限するルールを作り感染症発症時に実施する仕組みになっています。

感染蔓延防止対策の問題点

1. 職員の負担増大

動線の制限をした場合、職員の出勤停止も重なっている状況でユニットを閉鎖するため人員不足は免れません。ここで他のユニットやフロアからヘルプに行きたいものですが、そうしてしまうと蔓延の原因となってしまいます。そのため感染症が発症したユニットの職員は、自分たちのエリアで治めるため残業、勤務変更等を余儀なくされ大きな犠牲を払うことになります。当該ユニットの負担は計り知れず、身体的にも疲労が蓄積し不安や心細さから精神的にも疲弊し、施設への不信感を募らせるきっかけにもなり得ます。

2. 不十分なゾーニング

高齢者施設のタイプは様々ありますが、特別養護老人ホームは大きく分けて2つのタイプに分かれます。4人部屋が主流の『従来型』と全室個室の『ユニット型』です。従来型は大人数で共有する大食堂と、大人数で利用するお風呂を備えている場合が多いと思います。対してユニット型は1ユニット10人程度で、各ユニットに共有スペースがあり2ユニットごとに一人で入る家庭的なお風呂を備えているのが一般的です。有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅などは個室の場合がほとんどですが、大食堂や大浴場を備えているところも多くあります。大きな違いは、個室か多床室かだけでなく、共有スペースを利用する人数が多いか少ないかです。ユニット型施設以外では、環境的に感染症が蔓延しやすいといえます。

当施設はユニット型ですが、ゾーニングが不十分な点もあります。ユニットごとに介護職員と入居者は分断できますが人数の少ない看護職員と相談員は担当の範囲がフロア単位になってしまいます。また、出入口、階段は共有することとなり完全なゾーニングではありません。

3. 排泄物取り扱いに対する不安

COVID-19感染者の糞便中にもウイルスが排出されることが明らかになりました。感染者、または感染疑いの入居者のおむつ交換、トイレの使用方法についていざという時にすぐに実施できるレベルでのマニュアルが整っているでしょうか。特にトイレの水を流すときにウイルスが飛散する可能性が示唆されており、便器のふたを閉めてから流すように勧められています。ところが施設で使われる障害者用のトイレのほとんどは背もたれがあるのでふたがついていません。当施設ではこのトイレを職員も使用します。

感染蔓延防止対策の改善点

1. 職員の負担軽減

職員の動線制限を実施した場合のヘルプ態勢を整える必要があります。他のユニットからお手伝いをして自分のユニットへ戻る、と言うものではなくユニットを固定できるようにヘルプ要員を確保します。緊急時の人員不足については管理職が補うことも求められます。また、自宅へ戻らず施設で寝泊りしたい職員もいるでしょう。そのような環境を整えておくことも必要です。隔離された空間で介護を行っていると孤立しやすいので、連絡手段を得て声をかけていくことも大切です。

2. ゾーニングの見直し

ユニット型以外の施設はユニット形式のケアを取り入れていく必要があると考えます。これは、感染症蔓延防止の観点だけでなく、認知症ケアにも効果が期待できるため通常のスタイルとして取り入れていく機会としてはいかがでしょうか。具体的な例は

  • 入居者を少人数グループに分け、パーティション等を使い空間を分断する
  • 分断した空間内で各グループの入居者は食事を摂る
  • グループごとに職員を固定する
  • お風呂はグループごとに時間を決めて使用する

また、感染症発症時のゾーニングは十分であることが求められるため、出入口、階段やエレベータの使用方法について、看護職員や相談員のユニット出入りのルールについても明確に定めておく必要があります。

3. 排泄物取り扱いのマニュアル作成

糞便の扱いについてはノロウイルス対策と共有できますから、これを機会に整えておきたいものです。便座のふたは代用品を見つけておきます。ポータブルトイレのふたも使えそうです。

  • 排泄介助時はガウンを使用する
  • 排便後のおむつ交換について後処理の方法と消毒方法の明記
  • 排便後のトイレについて水を流す際は便座をふたで覆い、流した後に消毒をする
  • ふたが無い場合、排便後のトイレについて水を流す際は水の飛散が少ない便座後方に立ち流し、その後消毒

感染症蔓延防止対策のレベル分け

感染症が発症してから蔓延防止策を実行し始めても潜伏期間や無症状を勘案すると遅いのです。日頃より完全なゾーニングを行い職員の動線を管理することが望ましいと言いたいところですが、先に述べたように負担が増加するなど、さまざまな弊害もあります。入居者、家族にも大きな影響があります。今回、COVID-19感染流行により私たちは緊急事態宣言を初めて経験し、今までの感染症対策では不十分であることを学びました。ここで、しっかりと振り返り感染症蔓延防止のマニュアルを整備し全職員へ周知させることが各事業所に課せられた急務です。

事業所によっては感染症の種類ごとにマニュアルを整えているかもしれません。しかし多すぎるマニュアルは頭に入りません。分厚いマニュアルを全職員に読ませるよりは、実際の動きが『身についている』マニュアル周知を目指したいと考えます。そのためには動線経路確認を含めた訓練が必要です。マニュアルをシンプルにするためには空気感染、飛沫感染が懸念される感染症(インフルエンザ、ノロウイルス、結核、COVID-19など)共通のマニュアルとして複数のパターンを用意し、警戒レベルに応じて段階的にしてみてはいかがでしょうか。例として、現在介護施設で現実的に実施されている動きを6段階に分けてみます。

  1. 1ケア1消毒  食事前後のテーブル消毒  グローブを使用した体液、排泄物等の取り扱い
  2. 職員のマスク着用  来客者へのうがい手洗い励行
  3. 手すり、椅子、ドアノブ等の消毒  職員の検温等健康管理  面会制限
  4. 20人以上の会合禁止  定時換気  来客者の入場禁止  オンライン面会の導入
  5. 会合の禁止  職員の外出自粛  向かい合った食事の禁止  動線の制限
  6. 完全なゾーニング  手が触れる物への消毒徹底  ガウンテクニック

上記のようにレベル分けを行い職員と利用者、家族に周知することで、事業所が想定する対策の全体と現在のレベルが分かりやすくなります。分かりやすいことが理解と協力を促します。

これからに向けて

ここで見直しておきたいのがスタンダードプリコーション(標準予防策)の位置です。今までのスタンダードプリコーションのレベルを1つ2つ上げる必要があるのではないでしょうか。上記に挙げたレベルで例えると、3のレベルを『年間を通し毎日行う標準的な事』として解除されることのないレベル1にしていくということです。これからの時代、あらゆる感染症に対して私たちは季節に関係なく、基本的に警戒をしていくことが求められています。
COVID-19感染流行から学んだことを、これからどのように活かしていくのかという課題に本気で取り組まなければなりません。

著者プロフィール

社会福祉法人育生会研修センター センター長
株式会社安全な介護 講師
湘南医療福祉専門学校 非常勤講師

川村 亜希 氏

児童福祉科の短期大学を卒業後、特別養護老人ホームで介護職員として就業。その後訪問介護サービス提供責任者、特別養護老人ホーム生活相談員を経て介護福祉士養成の専門学校専任教員となる。以降、介護福祉士国家試験受験対策講座や施設職員研修の講師、神奈川県及び横浜市主催のファーストステップや初任者研修の講師を担当している。2018年より株式会社安全な介護の介護と福祉のリスクコンサルタントとして、同社のリスクマネジメントセミナー講師を務める。2019年社会福祉法人育生会研修センターのセンター長として就任、特別養護老人ホームひまわり港南台に在籍している。

<資格>
介護福祉士、社会福祉士、精神保健福祉士、介護支援専門員、保育士、住環境コーディネーター2級、介護教員研修修了、福祉職員キャリアパス対応生涯研修課程指導者養成研修課程修了

川村 亜希 氏

ページの先頭へ