2020年04月15日更新

病院の人材活用 第06回 院内の若手世代へのアプローチ方法

ハイズ株式会社代表取締役社長
国立大学法人高知大学医学部附属病院病院長 特別補佐
裵 英洙 氏

「まったく、最近の若手は・・・」
医療機関の管理職と話していると、このセリフをよく耳にする。春は新人職員の季節、さらにこのセリフは院内を駆け巡るかもしれない。

「ゆとり世代」「新人類」などと表現されてきた若手。病院経営側からすると貴重な戦力であり、将来の組織を背負う人材でもあり宝の山にも見える。ただ、医療機関で働く医療職は社会人マナーや一般常識を身に付けずにいきなり社会に出ることが多く、特に医師の場合はいきなり「先生」デビューである。あいさつの仕方、目上の人との会話、対外的な振る舞い方、名刺の渡し方、などのビジネスパーソンとしての基礎マナーだけでなく、業務に関わる内容、例えば、書類の書き方、報連相の方法、コミュニケーション、電話の対応なども不十分な新人も少なくない。さらに、日本の医療の特徴、医療機関の理念、働いている地域独自の連携作法などもまだまだ知らないことが多い。しかし、そのことをもって「まったく、最近の若手は・・・」といって思考停止に陥るのは管理職としてはいただけない。

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最近の“若手”は、学びに関しては一昔前とはちょっと異なるようだ。上司は背中で語る式、スパルタ式、技を見て盗め式などの指導方法では、なかなか彼らの心を動かせないことも多い。医療機関の管理職は貴重な若手と一緒に仕事をするためにも、“今どきの”育成方法を知っておいて損はない。

最近の新入職員は就職前の教育課程で「褒められて伸びる」式で育てられた、いわゆる「ゆとり世代」である。公益財団法人日本生産性本部の発表では、平成27年度新入社員のタイプについて「消せるボールペン型」と表現している。『見かけはありきたりなボールペンだが、その機能は大きく異なっている。見かけだけで判断して、書き直しができる機能(変化に対応できる柔軟性)を活用しなければもったいない。ただ注意も必要。不用意に熱を入れる(熱血指導する)と、色(個性)が消えてしまったり、使い勝手の良さから酷使しすぎると、インクが切れてしまう(離職してしまう)』とのことだ。

私も医療機関の経営現場からは次のような声を聞く。
「器用そうだが、飽きやすい」「叱責するとすぐに萎える」「失敗することを恐れる」「受身で指示待ちが多い」「異なる世代とのコミュニケーションに熱がない」

冒頭の「まったく、最近の若手は・・・」は、いつの時代も年長者が若者に向かって発する常套句であり、社会人として人生の先輩として、長年培ってきた知識や経験、技術を誇っての優越感からもあろう。しかし、見方を変えると、そのような若手をマネジメントできないという自分の能力の限界を露呈してしまっているとも言える。実は、若手は心許せる仲間にはずば抜けた協調性があり、素直で真面目で、加えてIT能力に長けている面があり、情報探索能力に優れ、ひと昔前の世代とは比較にならないほど多くの情報をネットや仲間から素早く手に入れる。これらの弱みと強みを理解した上で教育していくことこそが重要なのであろう。これらの点を踏まえて、次の3点に注目したい。

1. “現代語訳”を意識する

働くとはどういうことか、職場とは何か、を昔ながらの義理人情トーンや表現で話すのではなく、若手の文脈で語れるようになりたい。その際に、彼らに親和性のあるマンガやドラマの一場面や登場人物に重ねて話すと効果的だ。さらに、LINEやチャット等のツールで重厚感を見せずにライトに語ることも良いだろう。「私(上司)はこう思うんだけど、君の友達とかはどう考えるかな?」といった感じで、本人のみならず周囲の友人たちの思考を巻き込みながら向き合わせるのも一手だろう。その中で、「組織とは何か?」「プロの喜びとは何か?」など、当たり前のことを今一度、きちんと伝えることは重要だ。「そんなこと言わずもがな」でなく、「そんなことも言うの?」的な部分もあなどれない。若手はまじめな部分も多く、真摯に仕事に向き合うプロである上司に惹かれることも少なくない。

2. WHYから始めよう

なぜそれが必要か、を説明してから、その方法論を伝えていく。WHYを知ると、情報探索能力に優れている彼らは、HOWを自分たちで発見していくことも多い。また、独自の知人ネットワークで情報を収集することで、自身で工夫したり、自身のやり方を開発したりすることにも長けている。すべき理由を丁寧に説明すると、彼らは驚くほどのパフォーマンスを出すことが多いものだ。方法論だけを伝えて“やらせる”だけのパターンに陥らないように注意したい。

3. 現在地を教えてあげる

スマホの地図ツールに慣れている若手は、常に現在地と目的地の距離感を考える思考過程に慣れている。そこで、若手に対しては図やフローチャート等で説明することが効果的だ。「見て覚えろ」では彼らは動きにくい。手書きで構わないので、自分が関わっている仕事、所属する組織の仕事を一枚の絵や図にまとめてみる。キーパーソンは誰か、一日の仕事の流れ、重要なポイント、組織関係を書き込んでいく。若手にしてみれば、地図ツールのように現在地確認をしながら、これから覚えていく仕事の全体像が一目で見られるので助かる。全体像が示せれば、全体のかかわりと自身との関係、その仕事の背景、目的が明確に伝わり、若手も納得して仕事に向き合えるようになる。

何事も最初に労力と時間をかけると後で楽だ。人は間違ったスタイルを身に付けてしまうと修正に膨大な時間がかかってしまう。ゴルフを例にとると、我流でのスイングが身に付いてしまうと後で名コーチに教えを請うたとしても修正は至難の業と聞く。だからこそ、初心者レベルでしっかりと基礎を身に付けるのが結局は上達のコツである。若手育成も同じだろう。最初に労力と時間をかけることで、スムーズに巡航速度に乗ってしまうと手間はぐっと減る。つまり、最初のひと手間ふた手間が管理職自身を楽にするのである。

著者プロフィール

ハイズ株式会社 代表取締役社長
国立大学法人高知大学医学部附属病院病院長 特別補佐

裵 英洙 氏(医師・医学博士・MBA)

奈良県出身。1998年医師免許取得後、金沢大学第一外科(現:心肺総合外科)に入局、外科医として勤務。
金沢大学大学院にて外科病理学を専攻。病理専門医を取得し、臨床病理医として活躍。
勤務医時代に病院のマネジメントの必要性を痛感し、慶應義塾大学院経営管理研究科(慶應ビジネススクール)入学。首席で修了しMBA(経営学修士)を取得。
現在は、各地の病院経営の経営アドバイザー、ヘルスケアビジネスのコンサルティングを行っている。

裵 英洙 氏

その他役職

  • 厚生労働省「医師需給分科会」委員
  • 厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会」委員
  • 厚生労働省「上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」委員
  • 厚生労働省「新たな医療のあり方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」委員
  • 北里大学医学部医療経営講座 特任講師/長崎大学医学部 客員講師 ・日本福祉大学大学院 客員講師/ 高知県 医療RYOMA大使

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