2022年2月25日

物流業界における2024年問題とSDGsへの対応。
物流事業者が取り組むべきこととは!
第01回 2024年問題 運送会社への影響と対策について 

河内谷 庸高 氏

2024年4月1日からドライバー職にも時間外労働の上限960時間規制が施行されます。いわゆる「2024年問題」までいよいよ2年後に迫り、各社対応に頭を悩まされていることかと思います。 月間平均すると80時間以内の残業時間となるため、改善基準告示の293時間/月を守れている企業でも、さらに20時間近く労働時間の削減が求められます。
さらに、2024年までにも、

  • 2019年:年休5日取得の義務化
  • 2020年:未払賃金の請求権消滅時効期間が2年から3年に延長
  • 2021年:同一労働同一賃金の適用
  • 2023年:中小企業も月60時間超の時間外割増賃金率が25%から50%へと引上げ

というように、各種労働基準法の改正により、働き方改革が加速度的に推進されています。
時間外労働の上限規制のインパクトが大きいため、2024年に目がいきがちです。しかし、2023年の変更も運送会社経営には大きな影響を与えます。

実際に月60時間超の時間外割増賃金率が25%から50%へと引上げられると、どれぐらい人件費がアップするか、もう試算されていますでしょうか。 例えば、月間残業時間が100時間だとすると、60時間を超えた40時間分が割増賃金率50%の対象となります。つまり、計算すると今のままだと単純に人件費が約3.4%が上昇します。 さらに、この時間外割増賃金率の引き上げに加え、最低賃金もさらに引き上げられるでしょう。 ここ数年、約3%ずつ最低賃金が引き上げられています。2019年度から20年度にかけては、新型コロナの影響で、全国加重平均で901円から902円とほぼ据え置きとなりました。しかし、21年度は930円となり、3.1%アップしました。22年度以降も毎年3%前後アップする見込みとなっており、さらに最低賃金が上昇していきます。
2024年問題に向けて、運賃・条件交渉や、賃金制度の見直しを進める場合は、割増賃金率および最低賃金の上昇を組み込んだ試算をする必要があります。

先進運送会社の対応事例

長時間労働が横行している運送業界の中でも、すでに293時間を遵守し、270時間に向けてさらに取り組みを進められている、先進的な運送会社もあります。
そのような企業の取り組みを見てみると、下記のような切り口にまとめられます。

1.荷主企業への交渉
労働時間の削減によって、ドライバーの給料が減らないように運賃値上げ交渉は当然考えられているかと思います。荷主側も当然物流費予算があるため、運賃値上げの一本槍ではなく、コースの見直しや待機時間削減の提案など、複数の改善案を検討し、提案することが重要です。

1)運賃値上げ

標準的運賃水準も参考に、原価計算から適切な運賃の提示・交渉する。

2)附帯作業の料金収受

今まで無料サービスとして行っていた、棚入れや積込み・取卸し作業などの対価として料金をいただく。または、荷主側で実施してもらう。

3)待機時間の削減

積み込み時に2時間以上の待機が発生している場合、別途待機時間料をいただく。または、待機時間を削減してもらうよう、荷主側に要請する。

4)集荷・積み込みカット時間の早期化

今までの集荷の最終締め切り時間を1~2時間早める。(特に、集荷拠点から1時間以上離れているエリア)

5)時間指定の見直し

「午前着」や「○○時着」などの指定が多く、配送効率が悪化している要因となっている場合、着時間指定を外したり、時間変更してもらったりと打診・交渉をする。

2.労働時間管理の徹底
デジタコで時間管理をされている企業は多いと思いますが、先進運送会社では、特に休憩時間管理に注力されています。「車が止まっている=休憩」とはみなされないので、デジタコへの記録や運転日報への記載を徹底されています。
なお、労務トラブルを防止するためには、休憩に関するルールを就業規則などで明確にし、周知・運営することをお勧めします。

3.運行効率の向上
長距離輸送を主体としている関西のある運送会社様では、GPSによる動態管理を15年以上前から導入されています。乗務員の現在地と時間を把握し、次の運行の積地を決めることで、空車率を下げています。また、毎朝主要荷主に対して空車情報メールマガジンを配信されています。それもGPSと連動しており、空車場所・時間や車種、希望方面などが一目でわかるようになっています。
これらの取り組みにより、運行効率を高められています。

4.輸送形態の変更
四国に本社を構える運送会社様では、長距離輸送を一人のドライバーが担当するのではなく、4名体制でリレー輸送を実現されています。四国と関東の長距離を、中間地点となる滋賀県で車両を乗り換え、それぞれの発地に戻り、幹線輸送の前後の集荷・配達はまた別のドライバーが担当することで、労働時間を削減しています。

5.DX推進による生産性向上
路線の集配をメインにされている関東の運送会社様では、AIによる物量予測システムを導入・活用されています。昨年の物量実績(個数・件数・重量など)や天候などの関連データをAIが分析することで、物量の予測を算出。その予測をもとに人員配置の最適化を図ることで、一人当たりの労働時間を月間平均15時間削減することに成功しています。

2024年に向けて取り組むべきこと

前述の法改正や時流変化を踏まえて、2024年に向けて運送会社が注力すべきことをまとめると、以下のような項目が挙げられます。

(1) 労務管理の強化
(2) 荷主交渉(運賃値上げ・条件改善)
(3) 荷主企業の見直し・切り替えによる運行効率の向上(≒新規営業の強化)
(4) (2)・(3)を実現するための収支管理・原価管理の強化
(5) DX・デジタル化推進による生産性向上
(6) 人材採用・育成・定着の強化
(7) (1)~(6)を実現するための管理職のレベルアップ
(8) 輸送形態の見直し・切り替え
(9) 人事・賃金制度の見直し
(10) M&Aも含めた成長戦略の再構築

労働集約型産業である運送業界において、2024年問題の経営への影響は甚大で、対応できている会社とそうでない会社の明暗がはっきりと分かれていくでしょう。今や、変化しないことが一番のリスクとなっています。
荷主業界や運行形態によって各社課題は異なるかと思いますが、ぜひ自社に落とし込み、優先順位を付けて、実行していただければと思います。

著者プロフィール

船井総研ロジ株式会社
物流ビジネスコンサルティング部 部長

河内谷 庸高 氏

2006年 船井総研グループに入社。運送会社・物流会社向けに、マーケティング戦略の立案や販促・営業強化、デジタル化・業務効率化、ドライバー採用強化といったテーマをメインにコンサルティングを行っている。
物流企業経営研究会「ロジスティクスプロバイダー経営研究会(会員数約300社)」を主宰。

河内谷 庸高 氏

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