2022年2月25日

物流業界における2024年問題とSDGsへの対応。
物流事業者が取り組むべきこととは!
第02回 2024年問題に向けて人事労務管理のポイントと具体策 

三村 信明 氏

運送会社において多くの人員を占めるトラックドライバーは、勤続年数を重ねても、大きな技術革新が起こらないことには、大幅な労働生産性を向上させることが難しい職種です。他の職種と比較して、定期昇給が難しく、それが離職率を上げる要因の一つとなっています。慢性的なドライバー不足を解消するには、労働条件や労働環境の改善を図る必要性があります。

しかし、このまま働き方改革によって労働時間の適正化を進めていくと、残業時間が減少、時間外手当も減少します。その結果、給与がダウンし、離職率が増加する恐れがあります。そのようにならないためには、荷主交渉による運賃値上げ、業務効率化、サービス・品質向上による給与アップ(もしくは、給与保証、時給ベースでのアップ)と定着率増加を図る必要があります。

運送会社の人事制度

1)賃金体系

運送業の賃金体系は、1. 基本給+諸手当、2. 完全歩合給、3. 基本給と歩合給の併用、など各社各様です。

  1. 基本給+諸手当
    所定労働時間勤務することで決まった額の給与(時間軸給与)を支払う賃金体系です。固定給部分の割合が大きく、経営状況に応じた対応が難しくなりますが、割増賃金が正しく表示されるため労使間の争いが起きないことが利点です。
  2. 完全歩合給
    給与のすべてが売上高や走行距離や積み下ろし回数に連動した形で、出来高に応じて支払う体系です。経営状況に応じた対応がしやすいものの、成果が出ない場合の「保障給」の支払いが求められます。
  3. 基本給と歩合給の併用
    固定給にプラスして、出来高に応じた給与を支払う体系です。割増賃金や最賃割れの確認の際は、基本給(時間軸給与)と歩合軸給与で計算式が違うので注意が必要です。

ドライバーの給与は、歩合給や時間外手当などの変動給が50%以上を占めることが多いのですが、昔は、「寝る間を惜しんでバリバリ働く」歩合給型であったものが、基本給と歩合給の混合型に、最近は、訴訟リスクを回避することを目的として、時間軸給へと移行する企業が増えています。

ただし、時価軸給に移行するにあたっては、

  1. 労働時間減少による給与ダウンと離職率増加が懸念される
  2. 割増賃金は、固定給・時間軸給制よりも歩合給制のほうが少額で済み、長時間労働になりがちな運送業へのメリットが大きい
  3. 固定給+割増賃金の体系なので、時間が成果となって、ダラダラ残業が懸念される
  4. 割増賃金を計算するにあたって、徹底した労働時間管理(勤怠打刻の徹底、勤怠管理システムの導入など)が必要

上記のような課題があります。

とはいえ、歩合給(売上高給)をなるべく、やめたほうがいい理由としては、

  1. 残業時間を正しく把握せず運用してしまうことが多い(訴訟リスクが高い)
  2. 給料を増やすために仕事を増やして欲しい、との考えから、長時間労働が是正されない要因となる
  3. 歩合給の計算式で売上高(運送収入)を用いると、割のいい仕事、悪い仕事で不公平が生じる
  4. 自己主張が強い乗務員に対して割のいい仕事を割り当てる傾向(辞められたら困る)がある会社では、真面目な社員が退職する

などが挙げられます。

賃金体系のメリット・デメリット

メリット デメリット
基本給+手当
  1. 残業時間が正しく表示され争いが起きない
  2. 割増賃金を余分に払う必要がない
  3. 人件費の上昇を原因とする値上げ交渉がしやすい
  1. 徹底した労務管理が必要
  2. ドライバー・管理部門共に時間・勤怠管理について育成が必要。勤怠管理ソフトが必要
  3. 勤怠打刻の徹底
  4. 時間が成果になり、無駄な残業が増える
    [注]さぼり癖がつきやすくなる
出来高給
  1. 残業時間を正しく把握しなくても割増賃金の未払いが不足しないことが多い
  2. 時間軸給に比べて割増率が低い
    正しく運用されると、
  3. 残業時間が正しく表示され争いが起きない
  4. 割増賃金を余分に払う必要がない
  1. 残業時間を正しく把握せず運用してしまうことが多い
  2. 残業代の取り決めがなされていないことが多い
    正しく運用するためには、
  3. 徹底した労務管理が必要
  4. ドライバー・管理部門共に時間・勤怠管理について育成が必要。勤怠管理ソフトが必要
  5. 勤怠打刻の徹底
  6. 全て歩合給になるので長時間労働になりがち
    [注]給料を増やすために仕事を増やして欲しい
固定残業代制
  1. 残業代を一定金額(率)にすることで給与計算(実務)の手間が省ける
  2. 不要な残業が発生しにくい
  1. 労務管理が必要
  2. 未払い残業代のチェックが必要
  3. 残業代の過払いが発生。
  4. 未払いについて別途支給する必要がある
その他
[注]会社によりカスタマイズが可能
[注]コース別給の場合、人件費の上昇を原因とする値上げ交渉がしやすい
[注]計算方法により異なる
[注]コース別給の場合、フリー・臨時の仕事が主体の運送会社には向いていない

[注]参考:労働基準法37条に定める残業代割増賃金の計算方法

  • 時間軸給の場合(ex.所定労働時間勤務することで支払われる基本給)
    • 時間外割増賃金 = 基準内賃金 ÷ 月平均所定労働時間 × 1.25 × 時間外労働時間
    • 深夜割増賃金  = 基準内賃金 ÷ 月平均所定労働時間 × 0.25 × 深夜労働時間
    • 休日割増賃金  = 基準内賃金 ÷ 月平均所定労働時間 × 1.35 × 休日労働時間
      [注]基準内賃金…時間外割増賃金計算の基礎となる賃金
      [注]月平均所定労働時間…所定労働時間の1年間の合計を、12(1年の月数)で割り、1か月あたりの平均を算出したもの
  • 歩合給の場合(ex.成果報酬型ともいい、従業員の業績や成果によって決まる賃金)
    • 時間外割増賃金 = 歩合給 ÷ 総労働時間 × 0.25 × 時間外労働時間
    • 深夜割増賃金  = 歩合給 ÷ 総労働時間 × 0.25 × 深夜労働時間
    • 休日割増賃金  = 歩合給 ÷ 総労働時間 × 0.35 × 休日労働時間
      [注]歩合給に残業代を含める場合の注意点
      1. 通常の労働時間と、残業時間に対する歩合給が明確に区別できること
      2. 上記が区別されていても、名目が「残業代」というだけで実質はただの歩合給である場合、残業代とされない場合がある

2)運送業の評価制度

一昔前は、事故もなく、頑張って残業して運転してくれる人、少々わがままでも融通の利く人は、優秀なドライバーだったかもしれません。
しかし今、求められるのは、1. 労働時間・標準時間を遵守した上で、2. 安全への意識が高く無事故、無違反に努め、3. 挨拶がきちんと出来て、服装・身だしなみが整っている、4. 経営者・配車担当に(残業以外の点でも)協力的で「報連相」が徹底できる、5. 結果として納品ミスやクレームがなく顧客から信頼されるドライバーです。

また、管理職・管理部門においては、売上・粗利達成、車両稼働率、既存荷主保守、新規荷主開拓、協力会社開拓に加え、ドライバーの定着率・採用率、労務管理・労働時間削減について評価する仕組みを導入するとよいでしょう。

2024年に向けた人事労務の見直しロードマップ

運送業の人事制度については、前述のとおりですが、以下の手順で見直しを図っていくと良いでしょう。

STEP1:労働時間把握

STEP2:最低賃金割れ・未払い賃金がないことを検証

STEP3:長時間労働の是正(運行ルートの見直し、固定残業代制・コース別給の検討、業務効率化の推進)

STEP4:荷主交渉

STEP5:等級制度・評価制度・昇給昇格制度・賃金制度

上記STEP3~5は同時に推進していくことが望ましく、また、単なる労働法違反対策ではなく、社員・求職者志向での人事制度の見直しが必要です。

今は、就職先に「安定」を求める人が増えてきています。「安定して長く働ける」、「仕事量が安定しており、収入も安定している」というようなニーズです。給与体系も、歩合給が強いものより、固定給の方が好まれるようになってきています。

さらに、安全・安心な職場環境づくりに力を入れている企業でないと、人が集まりません。事故の多い会社は離職率も高い傾向にあります。やはり安心して働ける仕事・環境でないと、人は続かないですし、悪い評判が立って、採用・定着にも影響を及ぼします。

残業時間減少、給与がダウン、離職率増加をたどるか、荷主交渉による運賃値上、業務効率化、サービス・品質向上による給与アップ・定着率増加を辿るか、経営者のかじ取り次第で、明暗が分かれることでしょう。優先順位を付けて、実行していただければと思います。

著者プロフィール

船井総研ロジ株式会社
HR・組織開発チーム チームリーダー

三村 信明 氏

商社、大手経営コンサルティング会社を経て、船井総合研究所に入社。入社後は、生産財分野(製造業、建築資材メーカー、生産財商社など)、運送会社・物流会社を中心にコンサルティングを手がける。2018年7月より、船井総研ロジ株式会社に異動。運送会社・物流会社に特化して、人事制度の構築・運用支援を行っている。

三村 信明 氏

ページの先頭へ