2022年10月28日更新

食品ロス削減の取り組みで食品製造業の企業価値向上へ 第01回 食品ロスの現状 

藤田 喜徳 氏

はじめに

毎日お茶碗1杯、おにぎり1つ、一年間で365個。これは私たち日本人ひとりひとりが、「食べられるのに捨てている」、残念ながら食べ物を無駄にしている量をご飯の量、おにぎりに換算した数字です。
一方子どもの7人に一人は貧困(相対的貧困を指す。平成28年厚生労働省「国民生活基礎調査」による)であり、この数字は以後改善の兆しが見えません。中でもひとり親家庭の貧困率は半数を超えているという現状があります。

今回から3回、「食品ロス削減への取り組みで食品製造業にとっての企業価値向上へ」と題し、身近な問題であり、かつSDGsにもある世界共通の重要なテーマ、そして改善への取り組みは非常に大きな効果をもたらす「食品ロス」についてお話します。
食品業界で従事する皆さんのご活躍はこの大きな社会問題解決に繋がっています。そして、そのひとりひとりの社会への貢献が皆さんの会社の企業価値を向上させることにもなっているのです。
もちろんそのような仕事に従事する皆さんの価値が何よりも大きいことかといえることと思います。

「食品ロス」は世界的なテーマ

私たちの毎日、私たちの身の回り、社会を見回した時に大切な現実、取り組むべき課題はたくさんあります。しかし冒頭にあげた数字だけを見ても、この「食品ロス」は、私たちひとりひとりがまず生活者として真剣に考え、取り組まなくてはならないテーマであると感じます。そして、食品に関連する事業を営われる事業者、経営者におかれましては如何に大きな社会的責任を負ったテーマであるかということが理解できます。
もちろんこの問題は日本でのことだけではありません。世界で生産されている食糧のうち1/3が生産から消費のサプライチェーンの中で捨てられているという現実は驚くべきことです。
国際連合食糧農業機関(FAO)「Global Food Loses and Food Waste」によると、「畑から食卓まで」、つまり農業生産⇒収穫後の取り扱いと貯蔵⇒加工⇒流通⇒消費というフードチェーンにおいて、低所得国では、フードチェーンの早期、あるいは途中の段階で失われることが多く、消費段階で捨てられる量はごく少ないものの、収穫技術の乏しさ、厳しい気候条件の中での貯蔵施設・冷却設備等の未整備などに原因があるといわれています。一方、中所得、高所得国では、主としてフードチェーンにおける各企業間の協調の欠如と消費者の習慣に原因があるといいます。世界的に見ても食料はかなりの割合が消費の段階で無駄にされております。

SDGsにおける「食品ロス」のテーマ

「食品ロス」は世界共通のテーマです。今回は、SDGs(サステナブル・デヴェロップメント・ゴールズ、持続的成長のための開発ゴールと訳しましょうか)の視点からも考察いたします。この国連において全会一致で採択され、2030年を世界共通の17の目標、169のターゲットの中で、とても大切なテーマとしてお話しを続けたいと思います。
「食品ロス」は、17の目標の中、12「つくる責任 つかう責任」の中のテーマになっています。「食品ロス」の削減、食品廃棄物の削減が世界共通のターゲットとなり、ゴールとなっております。そして、1「貧困をなくそう」、2「飢餓をゼロに」にもつながる非常に重要なテーマです。
農業生産を営む事業者には昨今の著しい気候変動の問題は特に深刻です。気候変動による生産過程における「食品ロス」の問題は13「気候変動に具体的な対策を」に関連します。また「食品ロス」の問題解決に向けた様々な社会活動がお互いに連携を深めています。これは全体テーマにあります17「パートナーシップで目標を達成しよう」との関連において目標を達成することになります。
さて、ここで12「つくる責任 つかう責任」をもう少し深く考察してみます。
このテーマには、11の具体的なターゲットが設定されています。
その中の、12.3「2030年までに小売り・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食料の損失を減少させる。」
12.5「2030年までに廃棄物の発生防止、削減、再生利用及び再利用により、廃棄物の発生を大幅に削減する。」
と具体的なゴールが示されております。

日本における「食品ロス」の現状

さて、まずは日本の現状を見てみましょう。
総務省や農林水産省の資料から数字を見ることにします。年間の食品ロスは令和2年度522万トンという推計値が既に発表されています。食品ロスとは、「食べられるのに捨てられてしまう食品」を指します。
例えば、お店が食品の鮮度を気にするあまりに、賞味期限直前までの販売を諦め廃棄してしまうケースです。もちろん家庭でも同様です。食べるつもりで買った食品を冷蔵庫に入れたまま賞味期限が過ぎてしまったことで捨ててしまう。
製造、卸、小売りといった事業系からの食品ロスの総量が年間約275万トン、私を含め皆さんのご家庭から出る食品ロスが約247万トンです。これを国民一人当たりの数字に換算しますと1日にひとり約113グラム、これはお茶碗にご飯1杯分、あるいはおにぎり1個に相当する量になるということになります。毎日おにぎり1個を食べずに捨てていると思うと、私もできることを何かしよう!という思いになります。
またこの522万トンという量は日本だけの数字ですが、その数字はなんと、世界中で飢餓に苦しむ人々に向けた年間食糧援助量の約2倍にもあたる量になります。

一方、食品廃棄物全体を示す言葉に「フードロス」があります。
食品廃棄物全体の重量は年間約2,500万トン。その内、事業系食品廃棄物の量は約1,624万トン、その8割は食品製造業から出ます。加えて家庭から出る食品廃棄物は意外にも多く約748万トンになります。
もちろん単に食品ロス、食品廃棄物だけでも大きな問題ですが、その余剰ともいえる生産のためのエネルギー消費の問題は、環境問題にもつながっております。
日本の摂取カロリーから見た食料自給率(令和3年)は38%(飼料自給率を含めない食料国産率は47%)にしか過ぎず、カナダ、アメリカに比べて著しく低く、先進国の中では最低水準であります。多くの食料を輸入に頼っておきながら廃棄に至る、あるいは加工における余剰生産から結局は廃棄に至るものが少なくない現状があります。
さらには日本において税金を使って行われる廃棄物処理の費用はここ数年約2兆円を超えており、その半数が食品廃棄物と言われております。そして、その量は依然増加傾向にあり、その中に占める食品廃棄物が単にそのためのコストの問題だけでなく、水分を多く含むことからその廃棄のための運搬および焼却において相当の量のCO2を排出していることを併せて認識しなくてはなりません。

日本における法整備の現状

食品ロスに関連する法律は、「食品ロス削減推進法」と「食品リサイクル法」です。
しかし、このコラムの読者の皆さんは、法律があるから取り組むという消極的な方ではないと思います。大切なことはその法の精神を心から理解し、改善に向けて実行をすることです。企業で取り組むことでより大きなことができます。
「食品ロス削減推進法」の前文には、

  • 世界には栄養不足の状態にある人々が多数存在する中で、とりわけ、大量の食糧を輸入し、食料の多くを輸入に依存している我が国として、真摯に取り組むべき課題である
  • 食品ロスを削減していくための基本的な視点として、①国民各層がそれぞれの立場において主体的にこの課題に取り組み、社会全体として対応していくよう、食べ物を無駄にしない意識の醸成とその定着を図っていくこと、②まだ食べることができる食品については、廃棄することなく、できるだけ食品として活用するようにしていく

とあります。

グローバルな視点

世界では9人に1人が栄養不足の状態にあるという現実の中、日本は食料の62%を海外からの輸入に頼っているわけです。この現実を真摯に受けとめ行動しようというのが法律の趣旨であることがご理解頂けました。「食」の世界はグローバルな視点なくしては語れないということです。
更に詳しく見てみたいショッキングな数字があります。それは食糧分類毎に廃棄されている割合や量を示す数字です。(出所:公益財団法人日本ユニセフ協会、FAO)

  • 肉類:20%
    世界で2億6,300万トンの肉が生産され、そのうちの約20%が捨てられているというのです。
    7,500万頭の牛に当るといいます。
  • いも類:45%
    北アメリカとオセアニアだけで、581万4,000トンが買ったり、食べたりする段階で捨てられています。
  • 果物・野菜:45%
    果物や野菜は食料の中でも捨てられている割合が高いといいます。
    3.7兆個のリンゴにあたるといわれます。
  • 乳製品:20%
    ヨーロッパだけでおよそ20% 2,900万トンの乳製品が捨てられています。
  • 穀物:30%
    先進工業国では2億8,600万トンの穀物が捨てられています。
  • 魚介類:35%
    漁業でかかった魚のうち8%は市場に出ることなく海に返されているといいます。
    しかしその多くは死んでしまったり、死にかけていたり、ひどく傷ついていたりと漁の段階でもこの状態です。30億匹のアトランティック・サーモンに相当するそうです。

こんなに捨てられているの?
世界の人口は今年2022年11月には80億人に達すると国連が発表しました。2058年頃には100億人になるとされています。持続的成長の鍵のひとつ、しかも極めて基本的な改善のチャンスは「食品ロス」の削減にあることはこの数字からも容易に理解できます。
もちろん、既にたくさんの会社がこの大きな問題に対して様々な取り組みを始めていらっしゃいます。毎日食品と向かい合う食品業界に携わる皆さんだからこそできる様々な取り組みは素晴らしいものです。そして、地域をリードする皆さんの姿には感銘致します。さらには、世界をリードする日本であり続けたいものです。

まとめ

「食品ロス」のテーマ、身近かに感じて頂けましたでしょうか。
最近は小学校でもSDGsの授業が行われることがあるそうです。会社、職場では仲間と、家に帰ったらお子さんとも話ができる共通のテーマです。
コロナ禍で家に居る時間が増えている今だからこそ、人間の営みの基本のひとつである食生活、そこから出る食品ロス、その基にある消費活動を見つめ直す良い機会だと感じます。野菜については農業に携われる方が一番よく知っています。加工品についてはそれぞれの企業がその商品について一番よく知っているわけです。企業は単に商品を消費者に届けるだけでなく、「無駄なく美味しく食べる」を伝える、パッケージを通して、ホームページ、新聞、テレビ等の媒体を通じて、もちろん店頭など流通業とも一緒になって、という更なる取り組みに期待します。いっそう消費者から信頼される企業、価値ある企業であり続けてほしいものです。

著者プロフィール

藤田 喜徳 氏

2015年まで花王株式会社に勤務。経営監査室長、グループ会社監査役等歴任。海外駐在を含め、内部統制整備、内部監査、ガバナンス対応やリスクマネジメント等に従事。その後、カゴメ株式会社、三菱自動車工業株式会社で海外事業責任者、株式会社ウェザーニューズ執行役員を歴任。現在はシカゴに本部を置くコンサルティングファームJLEANのVice PresidentとしてJapan Business責任者を務める。

藤田 喜徳 氏

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