2021年5月28日更新
テレワークで変わる日本の働き方
~求められる社内制度とは?~
第02回 生産性向上の視点から求められる制度改革とは?
藤田 喜徳 氏
前回のお話
「テレワークで変わる日本の働き方」第1回は、理想的なテレワークの実現へと題し、法対応に加えて、社員を幸せにする制度設計の大切さや広義の制度設計で真の働き方改革をめざそう、というお話をさせて頂きました。
働き方改革と生産性向上
2019年4月施行の「働き方改革関連法案」が求めるものは多様な働き方への取組み。そのベースにある課題として、生産性の改善が求められているのは言うまでもありません。しかし、残念なことに企業の取組みは、労務管理の徹底のための「勤怠管理システム」導入や改善、そしてペナルティ回避のための有給休暇取得推進に終わっている現実も垣間見ます。
一方、新型コロナウィルス感染症対策として「テレワーク」という働き方が急速に広まりました。しかしこれは働き方の手段の1つに過ぎないということを正しく認識し、引き続き生産性向上に向けた様々な取り組みに真剣になりたいものです。
生産性向上はひとりひとりのテーマ
もともと「生産性」はひとりひとりが考えなくてはいけないテーマ。要は仕事を効率よくこなすこと。同じことをするのなら短い時間で確実にこなし、求められる成果を出す。それにより顧客満足も増大する。何よりも貴重な自分の時間はうまく使った方が良いわけです。「テレワーク」が始まったからではありません。
DXなんて格好の良いことを言わなくてもシステム化の更なる推進により効率化、スピードアップできる仕事はまだまだあると考え、業務改善の提案制度や例えばRPAなどを気軽に勉強に行ける研修制度の充実などできることはたくさんあります。
チームで生産性向上
仕事はフローの中でこなしているということを意識することが大切です。ひとりひとりが自分の仕事を早く終え、次の人に流す。人を待たせてしまうこともしばしばあります。あるいは確実に仕事ができないと、仕事のやり直し。これは相手にもやり直しが発生する場合がある。一方、一人だけ早すぎて仕事が詰まってしまっても意味がありません。チームリーダーは全体最適でのスピードと品質を考えなくてはなりません。
生産性を考える時に、目標管理と評価制度に時間と品質を入れることが大切です。工場や倉庫の作業と同じです。駅伝、リレーなどのアスリートと同じです。
そのために評価は上席者によるもの、また360度評価の前に、「フロー評価」の視点を大切にすることです。仲間が仲間を評価しお互いを高め合うのがポイントです。評価というとKPIやMBO、BSC、最近はOKRなどとかく評価手法に議論が行きがち。3文字略語のカッコよさに振り回されることなく、評価の視点、つまり基本や中身を考えることも忘れてはいけません。
1つ具体例を示します。業務プロセスの概念を評価に取り入れる。ステップ1、ステップ2、ステップ3の3ステップ評価です。
ステップ1:どれだけ早く確実に前ステップの人から仕事を受けられたか、待ち時間はなかったか。前工程の人を評価します。
ステップ2:どれだけ早く確実に自分の仕事をこなせたか。自分自身の評価です。
ステップ3:どれだけ早く確実に次のステップに仕事を流せたか。自分自身と次工程の人の評価を合わせます。自分が次工程の人の期待に応えられたかです。
そう、工場の流れ作業のイメージです。極めて基本的です。何を今更と思われる方もいるかと思いますし、「プロセス」を評価に入れている会社はあります。生産性を論じる時に基本に立ち帰ることが近道かもしれません。事務作業に無駄や淀みがある会社を多数見てきました。仕事やシステムの分断さえある会社もあります。システムであればインターフェースがうまくいっていないということです。トータルな時間の効率化が図られていると、むしろ業務の間に多少の「のりしろ」を作り、間違いの防止、品質向上につなげている会社もあります。
生産性の向上を感謝の連鎖に
この基本的なマネジメントのさらに良い所は、仕事の連鎖、人の連鎖、前後の工程の人に感謝、感謝の連鎖が生まれるということです。仕事のスピード・品質向上に加え、お互いの感謝や尊敬がチームワークを向上させ、それも生産性の向上につながるのです。
あるエアラインのエラーマネジメントの研修映像を見たことがあります。仕事の中で起きるエラー。一つのエラーだけでは大事故には繋がりません。大事故はエラーチェーンから起き、そのエラーの連鎖を断ち切ることで大事故を防ぐというエラーマネジメントの原理原則です。仕事をチェーン、フローの中でマネッジしていくという要素がここにもありました。
加えて航空会社は定時運行性をひとつの重要KPIにしております。地上職と客室、また整備と運航、ディスパッチャーとパイロットなど仕事の連携、フローに対するマネジメントに生産性向上のヒントがあると理解できます。
生産性が向上する仕事のやり方は会社や組織の資産
良い仕事のやり方は社員が生んだ会社の資産です。仕事が価値を生んだか。仕事のやり方も価値。仕事の意義も価値。それらは会社や組織における立派な資産であり、それを評価する制度が大切です。
欧米流、「Job型」の導入で職務記述書(=ジョブ・ディスクリプション)の整備を進める会社が増えてきました。自分の業務の列挙、また自分の価値を主張するためのツールではありません。仕事が多ければ高い給与が得られるわけでもありません。同時に求められるのはスピード、アウトプット、品質です。目標設定の際にそこまで追求し、生産性向上に社員全員で取り組むことが大切です。
時間の使い方は個人を豊かにする ~ドラッカーはオペラ鑑賞からある教訓を得た
少し話にブレーク。仕事から頭を離しましょう。
ウィーンの街の真ん中に1869年に完成し、小澤征爾も音楽監督を務めたウィーン国立歌劇場があります。マネジメントの父P.ドラッカーはウィーン生まれでウィーン育ち。週1回オペラを鑑賞していたそうです。もちろんドラッカーはアメリカに渡りましたから若い時の経験です。彼はこの行動からある発見をし、将来に及ぶ貴重な教訓を得ています。
今、私の手元にあるオーケストラの演奏会のプログラムを開くと支援企業の名前が並びます。寄付という形でのCSR活動に加え、社員の文化活動を応援する制度で、未来のドラッカーを生むことも可能かもしれません。
働き方改革や生産性向上に向けて必要な制度を考える際、そのヒントは結構職場以外にもあることがこのドラッカーの行動からも感じられます。
労働関係法と求められる柔軟性
そこで障害になるのが法律です。正しく言えば、労働基準法にある「週40時間、1日8時間以下の労働」という軸に勤務時間を設定している会社が多いのではないでしょうか。同じ仕事を6時間でこなせるのなら1日6時間にしても良いといえます。週休3日制を始めた会社もあると聞きます。しかし、「そうしたら残業が増えるのでは?残業が増えたら残業代を払わなくては?」と躊躇する経営者も少なくないでしょう。しかし、少なくとも法定外残業とならなければ割増賃金は発生しません。
労働安全衛生法の2019年改正で、全従業員に対する労働時間の客観的把握が義務付けられました。そのせいかテレワーク下での勤怠管理に必要以上に神経を尖らせる経営者や人事担当者は少なくありません。テレワークに対応した勤怠管理を行うために始業時、終業時に上席者にメールを入れることを求める会社も出てきました。また同法が勤務は常に使用者の指揮命令下であることを求めるため、どうしても「型」にはまった厳しい管理手法を考えがちです。
社員の成長を考えた制度に
今まで8時間かけていた業務を6時間でこなす。生産性は向上したのに勤務時間はそのまま?
ならば空いた2時間を更なる業務の効率化や改善のためのアイデア創出に使う。あるいは次のキャリアに繋がる業務知識習得に使う。
評価制度の中に「成長」という項目を入れ、職務記述書の中にも記載する。毎日の報告なくしてもそれは「使用者の指揮命令下」として勤務時間に含め、労働時間も客観的把握ができるようにしておく。そのような柔軟な対応を考え、生産性向上実現と同時に社員の能力開発とキャリア支援の制度を作ったらいかがでしょうか。
生産性向上の知恵は社外にもあり
自分を成長させる活動は決して社内に限りません。社外活動、社会的な活動であっても良いはずです。ESGやSDGsに向けての取組みを始める会社が増えてきました。これは地球規模での活動です。会社の殻を破った、あるいは社会の連携の中でのアイデアも重要になります。
私が花王に勤務していた時、次世代の育成プロジェクトと称した小学校生活科の授業の中で家事、食器洗いや掃除を教えに行くというボランティア活動がありました。人一倍仕事を早く片付け時間を作っての参加でした。そして学校に行けば1単位45分という限られた時間の中で説明も実験も実習もこなす。同時に2つのテーマをこなす。もともと家事には効率化のヒントが含まれています。職場に帰った後業務に応用できる事はたくさんあり、更なる生産性向上にも貢献できました。業務効率化による生産性向上実現と同時に社外活動、社会活動への参加制度の導入もお薦めします。
第2回の終わりに
既にお気づきの通り「○○○制度」を導入したからといって生産性が向上するわけではありません。しかし、人は常に良くなりたい。何かを良くしたいと思うものです。そんな社員の気持ちを応援するあなたの会社らしい制度を見つけてみてはいかがでしょうか。
著者プロフィール
藤田 喜徳 氏
2015年まで花王株式会社に勤務。経営監査室長、グループ会社監査役等歴任。海外駐在を含め、内部統制整備、内部監査、ガバナンス対応やリスクマネジメント等に従事。その後、カゴメ株式会社、三菱自動車工業株式会社で海外事業責任者、株式会社ウェザーニューズ執行役員を歴任。現在はシカゴに本部を置くコンサルティングファームJLEANのVice PresidentとしてJapan Business責任者を務める。
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