2022年4月22日更新

物流業務の変革に向けた物流DXへの取り組み  

Ridgelinez株式会社
Competency Group Consultant
藤井 将洋 氏

1. はじめに

COVID-19感染症拡大など予測困難な変化への対応に加え、物流業界では人手不足の顕著化や輸配送のサービスレベルの高度化が要求されており、これまで以上の物流業務の変革が求められている。これらの取り組みはオペレーションの省人化や省力化による生産性の向上や、環境負荷低減などの新たな価値を生み出す新しい物流戦略へとつながっていく。
本コラムでは、物流に関わる企業にとって大きな課題である人手不足の解消やCO2削減などの環境課題、そして予測困難な変化への対応の必要性に着目し、物流DXに向けた考え方として、以下3点のアプローチ方法について紹介する。

(1)物流業務全体をマネジメントするLMS(Logistics Management System)
(2)物流ネットワークを最適化/変革するトランスポーテーション
(3)物流現場業務の根幹的な要素である庫内オペレーション

2. 物流業務を取り巻く環境

物流業界では現在、EC市場の急激な伸長に伴う物流需要量の増加が顕著である一方で、作業員の高齢化や慢性的な人手不足、働き方改革の中での効率化や省人化の要求といった、働き手に関わる課題が大きくなりつつある。また、納品先からは荷物のトレーサビリティ確保に加えてリードタイムの短縮などサービスレベルの向上が求められており、さらにはCO2削減や廃棄物削減などの環境負荷低減への取り組みなど様々な課題に直面している。
これらの課題に対応するため、物流現場では日々の改善活動はもとより、輸配送等のオペレーションの最適化、IT基盤を基にした物流機能の強化、省人化・省力化のための自動化設備の導入、環境への配慮を実現するべくデジタルデータを活用した物流DX(デジタルトランスフォーメーション)が企業戦略に盛り込まれつつある。

3. 物流DXに向けた考え方

物流DXは目的に合わせて大きく2通りがある。1つは現場における業務の効率化の実現で、もう1つはデータ利活用による広範囲な可視化による連携性の拡大である。これらの実現に向けデジタル技術を多く取り入れ活用することになるが、間違えてはならないのは、DXは目的ではなく、あくまでも変革のための手段である、という点である。
物流DXを実践し企業変革を成し遂げるために、特に重要な冒頭の3点の考え方に関して、以下に順を追って紹介する。

(1)物流業務全体をマネジメントする LMS(Logistics Management System)

多くの物流システムは拠点や荷主ごとの個別設計やシステム単位での縦割りになっていることが多く、可視化やトレーサビリティ、自動化を実現しているといっても限られた部分であることが多い。これは各拠点や工場単位の単独で効率化等が進められたため、部分最適に陥った結果である。
庫内オペレーションやトランスポーテーションなどにデジタル機器を導入し、マテハン機器や庫内作業支援端末からの作業実績データや、車両からの配送実績データや位置情報など様々なデータの取得と利活用を行って各プロセス単位での生産性等のKPIを設定している拠点は多々あるだろう。しかし、プロセス全体または複数拠点間の連携状況を把握しながら、データを価値へと変換して有効に利用している拠点は多くはないと言える。これらの物流業務全体を変革へとつなげるためには、物流業務をデジタルにマネジメントする基盤づくりであるLMSによる集中管理を行い、網羅的にデータを集約して分析/活用することが重要である。(図1参照)


図1 LMS(Logistics Management System)(出所:Ridgelinez作成)

LMSの活用によりパフォーマンスやサステナビリティの可視化範囲が複数拠点、複数工程に拡大され、在庫情報や収支情報、庫内作業実績、マテハン稼働実績、輸配送実績などが一元的に管理可能となる。そして統合的な分析やコントロールを行いながらPDCA( Plan・Do・Check・Act )またはOODA( Observe・Orient・Decide・Act )サイクルを回して、環境への負荷軽減やパフォーマンス強化およびレジリエンス力の強化などの新たな価値へと変換することができる。
例えば、各物流現場の状況から管理層における物流ネットワーク全体の各業務状況までをデジタル化することで、これまでにない速度で物流戦略を策定することができるようになり、より具体的な意思決定・経営判断情報を経営層に提供することができるだろう。(図2参照)
このLMSを活用して物流戦略を効果的につなげていくためには、後述するトランスポーテーションと庫内オペレーションの変革が成功に向けた重要なカギとなる。


図2 ロジスティクスマネジメントによる経営判断の迅速化(出所:Ridgelinez作成)

(2)物流ネットワークを最適化/変革するトランスポーテーション

前述のLMSを機能させるためには、輸配送業務における人手不足や顧客ニーズの多様化に対応したトランスポーテーションの変革が必須である。根本課題である人手不足の要因としては、属人的な配車による非効率な配送コース設計等に伴うドライバーの労働時間の長さや賃金の低さが挙げられる。労働時間は全職業の平均より約2割長く、年間賃金は全産業平均よりも約1、2割低いと言われている。(図3参照)


図3 トラック運送事業の働き方をめぐる現状(出所:国土交通省.”最近の物流政策について[1])

また顧客ニーズの多様化の要因としては、個人の嗜好の多様性に追従したインターネット通販等に代表される電子商取引(EC)の市場規模拡大が挙げられる。近年の増加率は大きく、宅配便の取扱件数は5年間で19.6%も増加している。(図4参照)


図4 電子商取引(EC)市場の成長と宅配便の増加(出所:国土交通省.”最近の物流政策について[1])

EC化に伴う小口配送化の影響で貨物自動車の積載率も約40%まで低下している昨今[1]、2024年4月以降はトラックドライバーの時間外労働の上限を960時間/年(特別条項付36協定を締結した場合)と定めた、いわゆる2024年問題が近づいてきている[2]。このままではドライバー不足に加えて労働時間の減少によって、より一層の輸配送キャパシティが減少し、物流業界だけでなく経済全体に悪影響を及ぼすだろう。このような現状から脱却するために、さらなるトランスポーテーションの変革に早急に着手する必要がある。

物流ネットワークを部分最適から全体最適へと切り替え、現状の需要変動や将来の需要予測に基づいた物流ネットワーク全体の適時見直しや共同配送化、既存の拠点を考慮した進出/撤退拠点の立地シミュレーションを行い(図5参照)、荷量や道路事情に合わせたトラックの配送ルートの最適化など、先進的な物流DX技術を活用して業務を変革していく。このことにより、旧来の輸配送コスト抑制だけでなく、関連人員削減/作業環境改善や環境負荷低減、BCP対応といった不測の事態に配慮した輸配送ルートの定義など、社会環境や社会要請に応える新しい物流の姿を手に入れることができる。


図5 拠点立地シミュレーション(出所:Ridgelinez作成)

また、別の視点では既存技術の活用度を高めることも重要である。
例えばTMS(Transport Management System)(図6参照) [3]の活用は、ベテラン担当者に依存せざるを得なかった配車計画の非属人化や作業負荷軽減、配車の迅速化にもつなげることが可能である。


図6 TMS(Transport Management System)
(出所:富士通株式会社.”輸配送システムソリューション”[3]を基にRidgelinezにて要約)

TMSで生成収集したデータを利活用して自社のウィークポイントを見極め、PDCAを回し、環境に優しくレジリエントな物流ネットワークの構築に向けて、トラック待機時間などの無駄を減らすトラック予約システムや点呼のデジタル化なども視野に入れて着手していくとよい。
また、3PL(Third Party Logistics )事業者に委託している場合は、自社で配車シミュレーションやBIツールでの分析を行い、課題定義することをお勧めする。自社のケイパビリティ向上とガバナンス強化を後押しし、双方の成長にもつながり、非常に効果的である。

(3)物流現場業務の根幹的な要素である庫内オペレーション(省人化/自動化)

社会環境や社会要請に対応し、かつ輸配送業務を効率的に行うためには、前工程である庫内オペレーションとの密なデータ連携と、省人化・自動化ソリューションの導入がポイントとなる。省人化・自動化ソリューションの導入は輸配送業務と同じく庫内作業者の不足に起因した物流停滞リスクへの備えや、近年の急激な賃金上昇による物流コストの増加、庫内での労働環境の改善などの事業環境変化に追従しやすくなるからである。
まずは、「近い将来目指すべき自動化(無人化)は何か」を定めることが大切である。既存技術の適用により、ある程度の省人化や自動化を実現することは可能だが、将来の目指すべき姿を考えずに省人化・自動化に着手すると部分最適で終わる場合や、次のステップに移行する際の足かせ要因にもなりかねない。
そのため、既存技術を適用して将来の自動化に向けたベース作りを行った後に、自動化の適用範囲拡大に向けた難易度の高い技術へのトライアルを実施しながら、最終的には庫内全体に行き渡る自動化オペレーションを導入する手順が効率的である。(図7参照)
また、省人化・自動化に向けたソリューション設計では、各プロセスの効率化とともに全体最適を目指し、オペレーションを軸にした検討を行うことが重要である。委託するベンダー選定を急ぐあまり、ベンダー提供の機器の制約にとらわれるようなソリューション設計は最も避けるべきである。


図7 バックキャスティングによる省人化・自動化の進め方(出所:Ridgelinez作成)

省人化・自動化に向けたポイントは、課題解決が必要なプロセスを自動化技術の視点で先に特定することである。プロセスの特定には、顕在課題の特定に加えて、アセスメントによる潜在課題の抽出が有効である。プロセスの前後のつながりを把握し、様々な手法・設備・適用候補技術から庫内オペレーションに適したものを採用し、そこで生成されるデータをさらなる庫内オペレーションの強化や輸配送業務の改善につないでいく。
しかしながら、物流センターの立ち上げや省人化・自動化ソリューションの導入には専門知識が必要であり、時には複数社の異なるマテハン機器(MHE)をコントロールするためのインテグレーションも必要となってくる。庫内オペレーション変革に着手する際、自社だけでは不足する専門知識をサポートし、プロジェクト負荷の軽減・仕様取りまとめ・進捗管理・品質管理を行うLier(ロジスティクス・システムインテグレーター)の参画も視野に入れて計画することで、庫内オペレーションの変革成功率が格段に向上するだろう。 (図8参照)


図8 工程別適用候補技術の選定とインテグレーション(出所:Ridgelinez作成)

4. まとめ

社会における不確実性の高まりとDX化の振興で、物流業務の変革もいよいよ本格的に取り組まれる時代となってきた。持続可能な物流業務に向けて、物流DXを利活用して経営視点で物流を捉えることにより、効率化やコスト削減、品質向上だけでなくパフォーマンスやレジリエンス力の強化に加えて、環境負荷低減や働き方改革などの社会要請に応えることができるようになる。
Ridgelinezは、変革への志を持つ「チェンジリーダー」とともに、未来を変え、変革を創る変革創出企業である。「人」を起点にすべての変革を発想し、新たな価値を創出し変革を実現する。 戦略策定からビジネスモデル・ソリューション設計、業務プロセス・アーキテクチャー設計、オペレーションシステム開発、戦略実行、エコシステム構築・運用、サステナビリティに関する経営課題の変革(Sustainability Transformation)まで、変革プロセスの最初から最後までを支援するコンサルティングサービスを提供している。
物流領域では、AIアルゴリズムによる輸配送や拠点立地、CO2削減などの環境負荷低減シミュレーション等の独自技術の活用とともに、物流現場で様々な実践経験を積んだ物流コンサルタントが今回ご紹介した3つのアプローチを含むロジスティクス変革に向けた伴走を行う。また、グループ会社では物流現場の業務変革を支援する専門技術者によるエンジニアリングサービス等を提供している。物流業務変革におけるデジタルトランスフォーメーションに向けて、皆さまのお力になることができれば幸いである。

引用文献・参考資料
[1]国土交通省「最近の物流政策について」
[2]厚生労働省「時間外労働の上限規制わかりやすい解説」
[3]富士通株式会社「輸配送システムソリューション」

著者プロフィール

Ridgelinez株式会社 Competency Group Consultant

藤井 将洋 氏

2002年 株式会社富士通アドバンストエンジニアリング(現 富士通)に入社。
食品卸売業様を中心に、庫内オペレーション設計やレイアウト設計、マテハン選定、物流センター構築支援といった、「企画~設計施工~稼働支援」までのOneStop物流エンジニアリングや倉庫内オペレーションの改善に向けたコンサルティングを実践。
2020年11月より、Ridgelinez株式会社に出向。
ロジスティクス関連企業様に対し、ロジスティクス戦略の立案やデジタル化、自動化・省人化、業務効率化、環境対応といったテーマをメインにコンサルティングを行っている。

藤井 将洋 氏

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