2022年7月28日更新

2024年に迫る医師の働き方改革 何が変わり何を実践すべきか 第04回 富士通Japanの目指す医療の働き方改革、現場に寄り添い作り上げるソリューション
データをどう活用するか、顧客に提案できる企業に  

富士通Japan株式会社

2年後に施行が迫った「医師の働き方改革」。徐々にこれを喫緊の課題と捉える医療機関も増えてきた。電子カルテシステムや医事会計システムのみならず、業務の見える化や時間管理など多彩なソリューションを展開する富士通Japanだからこそ実現できる医療現場の働き方改革があり、それはユーザからの高い評価を得ている。現場に寄り添い、丁寧に課題を抽出していくことで顧客の成功体験を引き出す方法は、ユーザ同士の横のつながりをも密にし、さらにパワーアップしたソリューション開発へとつながっている。ヘルスケアソリューション開発本部 経営ソリューション事業部の井上貴宏事業部長と、ヘルスケアソリューションの商品企画から拡販までを行うヘルスケアソリューションビジネス統括部の野田悠介シニアマネージャーに、富士通Japanが考える医療分野での働き方改革や、支援のためのソリューションの実際、今後のソリューション開発の展望などについて聞いた。


富士通Japanヘルスケアソリューション開発本部 経営ソリューション事業部の井上貴宏事業部長(右)と、
ヘルスケアソリューションビジネス統括部の野田悠介シニアマネージャー(撮影:清水盟貴)

――様々な事業者が新型コロナウイルス感染症の影響を受けていますが、最も深刻な影響を受けたのは医療機関ではないでしょうか。多くの医療機関で経営指標が悪化しているだけでなく、業務そのものの見直しを迫られる状況もありますね?

井上:新型コロナウイルスの感染拡大が始まったころは、どう患者さんを受け入れるのか、どう治療するのかが医療機関にとっての課題でした。しかし、現在のように、withコロナのフェーズに入ると、新型コロナの患者さんとそれ以外の患者さんをいかに上手にオペレーションしていくかが課題になってきました。それは、患者さんへの接し方だったり、通院スタイルだったり、院内で密にならないための工夫だったりと様々です。当然、その環境下で働く医療スタッフのストレスも上がっています。そうした中で、医療機関により温度差があるものの、2年後の「医師の働き方改革」を含めた働き方改革を喫緊の課題として捉えるところも徐々に増えてきていると感じています。

先鞭をつける医療機関では、職種間のタスクシフトやタスクシェアに加え、人が行っていた業務をITにシフトすることで、より効率的に働き方改革を推進し、経営的なメリットを出しているところも出てきました。

医師の勤務時間の可視化が「医師の働き方改革」の第一歩

――2024年4月からは、「医師の働き方改革」が施行されますが、実際の医療機関ではどのような取り組みが求められているのでしょうか。

野田:実は、医師の勤務時間などを正確に把握している医療機関はとても少ないのが現状です。厚生労働省の「令和元年 医師の勤務実態調査」によれば、副業・兼業も含めた時間外労働時間を概ね把握している病院は4割に届いていません。その背景には、臨床、研究、院外での勤務など、医師の働き方の特殊性があるでしょうが、既に働き方改革の推進は待ったなしの状況。その第一歩としては、まずは勤務時間を正確に可視化することが求められます。

医療機関は、一般の企業のように多くのスタッフがリモートワークできるような職場ではありませんが、業務の中には、リモート作業ができる業務もあります。勤務時間や勤務内容の可視化でその業務を抽出できれば、ICTの力を使い、「働き方改革」に繋げられると考えます。医師しかできない業務以外を他職種にタスクシフトすることも可能となります。

医療機関側の取り組みと並行して、弊社も支援の方法を変えていく必要があると考えています。従来は、お客様にソリューションを紹介するだけで終わっていた面もあったのですが、働き方改革の推進のためには一歩踏み込んで、ソリューションをどう使うかを共に模索し、ソリューション活用の成功体験を一緒に経験して、さらにその成功体験を他施設にも広めることが必要だと考えています。

井上:実際、これまで良いソリューションを導入していただいても、ご多忙ゆえに十分に機能を使いこなせていないのでは、と感じることも少なくありませんでした。それは私たちのご案内が、「上手に使えばこんなこともできますよ」という紹介に留まり、顧客任せにしていたところがあったからです。

だからこそ今後は、もっと現場に入り込み、問題解決まで一緒に考え、何らかの結果を出すところまで寄り添って進めたいと考えています。これまでは「ものづくり」に集中していたところを、現場でのサービスを付加することで「十分に使ってもらえる形になるまで支援」し、さらにそこからその情報をフィードバックして新たなソリューションを生み出すところまで繋げることが必要です。私が事業部長を務める「経営ソリューション事業部」は、こうしたことを円滑に進めるために、2022年4月に発足した部署です。開発を行うシステムエンジニア、導入担当のシステムエンジニア、営業など様々な担当者が、一丸となって顧客サポートと開発を進めていきます。

現場観察でユーザに寄り添う「フィールドイノベーター」

――実際にはどのような形で進めているのでしょうか。

井上:可視化のためには、各医療スタッフにその時何をしたのかを申告してもらう必要があります。ただ、各医療スタッフにとっては当たり前の業務であるがゆえに、その業務の意味するところが見えにくいことがあるのです。それを明らかにするため、「フィールドイノベーター」という弊社の担当者が現場に入り、現場観察をしながら行った業務を調査した上で、業務を一覧にして棚卸をし、細かいところまで可視化していきます。その結果を顧客と共に検討し、業務の見直しを図っていきます(図1)。


図1 フィールドイノベーターによる活動の取り組み

野田:医療機関における業務の棚卸は、現場観察のようなアナログな手法と、ITによるデータ集積/解析というデジタル手法を車の両輪として行うことが不可欠です。データが蓄積されていけば、将来的にはデータドリブンな働き方改革、病院経営支援のツールの提供にもつながると考えています。

503施設のユーザ会メンバーが広げる成功事例の種

――「現場観察」による寄り添い型の支援も富士通Japanの強みの一つですね。医療機関が富士通Japanをパートナーとするその他のメリットについても教えてください。

野田:特長的なのは「ユーザ会」の存在ではないでしょうか。これは、弊社のソリューションを導入している医療機関の成功体験を他施設に情報共有する場として活用いただいてます。

弊社では黎明期より電子カルテシステムを開発してきました。現場でのカスタマイズなしに使っていただくパッケージ型電子カルテシステムとして販売し始めたとき、ユーザの求める機能を標準機能として取り込み、バージョンアップするシステムにしたいという思いから作ったのが電子カルテフォーラム「利用の達人」というユーザ会です。2004年7月に発足し、今では弊社の電子カルテシステムを導入いただいている503施設(2022年1月時点)の病院様が参加する大きな会に成長しています(図2)。


図2 電子カルテフォーラム「利用の達人」の概要

井上:この会には、「快適さ改善」、「診療報酬改定」、「看護」などのワーキンググループがあり、それぞれのテーマに沿って毎月何かしらの情報発信を行っています。弊社からの一方通行の情報発信ではなく、ユーザの皆様が積極的に参加し、闊達な議論を行っているのが大きな特長です。参加ユーザ様は単に事例を聞くだけでなく、それを自院での改善につなげています。さらに、年に1回、運用事例発表会も行われ、各病院様での成功事例をたくさん共有いただいています。

もちろん、ユーザ会は、弊社のソリューションに対する改善点の要望をいただくことも目的の一つです。そうした声をシステムにフィードバックすることで、より良いソリューション作りにも活かせます。こうしたことを継続できるのは、弊社が多彩なソリューションを持っていることや、多くのユーザ様に使っていただいているからだと思っております。

「HOPE タイムリフォーマー」で業務を可視化

――多彩なソリューションを展開していらっしゃいますが、「働き方改革」に関わるソリューションにはどのようなものがあるのでしょうか。

野田:まず、勤務実態を把握するソリューションとして「HOPE タイムリフォーマー」があります(図3)。これは、医師、看護師、その他のメディカルスタッフなど、病院全体の勤務管理をし、働き方改革法への対応で必要な在院時間、時間外、年休取得の管理を行うものです。例えば医師の場合、診療だけでなく、会議や研究、他院の勤務など、業務内容も様々です。医師が行う業務をオンタイムでシステムにワンクリック入力してもらい、1日の中でどの業務をどれだけ行っているのかを詳細に可視化します。業務が可視化されることで、医師が行っていた業務の一部を他業種にタスクシフトしようと検討できるようになります。

ある病院様では、当初タスクシフトでは新たなスタッフの雇用による人件費増が懸念されていましたが、蓋を開ければ医師の時間外労働時間が減り、トータルの人件費は以前より低く抑えられたといいます。また、他の病院の事例では、導入当時、医師からの抵抗があったものの、給与体系などと連動させることで、医師の満足度も上がり、経営的にもプラスになったとのことでした。

労働時間管理の変革

医療機関の働き方改革が求められる中、労働時間管理の変革が求められています。HOPEタイムリフォーマーは病院全体の勤務管理をトータルでサポート。働き方改革法への対応で必要な『労働時間』、『超過勤務』、『年休取得』の管理を行い、適正な労働環境マネジメントを支援します。また、看護勤務管理から経歴管理・人材育成まで看護部の看護管理過程機能も充実。作業負荷調整や人員配置をシステムでサポートし離職防止とスキル保有者の確保を支援します。


図3 「HOPE タイムリフォーマー」は、病院全体の勤務管理をサポートする

井上:働き方改革に寄与するソリューションとしては、会計の後払いができる「らくらく会計」もあります(図4)。これは、患者さんの会計待ち時間の短縮も図れるシステムです。患者さんがあらかじめクレジットカード情報を登録しておくと、診察後はそのクレジットカードで後払いの会計ができます。決済内容は患者さんに通知され、領収書や明細書は後日窓口で受け取ることになります。医療機関で会計に時間がかかるのは、ピーク時に医事課に業務が集中することが一因です。「らくらく会計」では利用者の会計処理をクレジット決済として後回しにできるため、ピーク時の作業量を抑えられ、業務の平準化を図れます。


図4 患者さんの会計待ち時間を大幅に短縮する「らくらく会計」

――医療機関では看護師さんの業務負荷の課題も大きいですね。

野田:看護師さんの場合、病棟ごと、その日ごとに忙しさが違います。その忙しさを可視化するツールを今開発しています。新規入院患者数や、患者の年齢、重症度、日常生活動作(ADL)、認知度、さらに病棟の看護師さんの勤務経験などで重回帰分析を用い、勤務情報と組み合わせて病棟ごとの忙しさをスコア化するものです。このスコアにより、どの病棟が忙しくなるか日ごとの予測を立てられるので、あらかじめ人員配置を調整し、業務の平準化を図れます。

これまでこうした作業は看護師長などのリーダーが相談して決めていました。自分たちの病棟の忙しさを確認する作業がかなり負担になる上、会議にも時間がかかっていましたが、このソリューションを使えば、客観的なデータで根拠を持って人員の配分を希望できます。トライアルで使用中の病院様からは好評価をいただいています。

より良いシステム作りでは他社との協業も

――そのほか、看護師さんの業務負荷軽減のため、新たに開発しているソリューションなどはありますか。

野田:一つは、患者さんからの問診内容を自動で電子カルテなどに入力できるソリューションです。入院や初診時、患者さんからの問診内容は年々増加し、その情報を入力する作業が看護師やクラークにとって大きな負担になっています。こうした業務負荷軽減のため、AIを使った診療支援システムを展開している医師が創業したプレシジョン社(東京・文京区)と一緒にシステムを開発、トライアルを始めています。

多くの医療機関で行われている入院や初診時の問診は、医療スタッフが患者さんと会話しながら紙を使って行っているのが一般的です。一方、プレシジョン社のシステムでは、患者さんにタブレット端末を渡し、出てくる質問に答えてもらい、入力済みタブレットを回収するだけ。タブレットに表示される質問は、患者さんの答えに応じてAIが次に必要な質問を出していくので、看護師さんなどのフォローが少なくても漏れなく情報を収集できます。医師2000人が協力した診療情報データベースをもとにAIが分析しているので、予診の精度が高まるメリットもあります。入力情報は電子カルテシステムとシームレスに連携するので、看護師さんは聞く手間だけでなく、転記作業も省けます。患者さんへタスクシフトという新たな考え方です。これにより、看護師さん本来の業務である看護業務を行える時間が増えます。

今後は、入院患者用として、患者さん自身のスマホにアプリを入れてもらい、そこに必要な情報を入力するとシームレスに電子カルテシステムに連携できることも考えられると思っています。

――入力の省力化には、音声入力といった技術も望まれているようですが、そうしたことも進めていますか。

井上:電子カルテシステムとの連携にはまだ至っていません。ただし、今後は病棟のラウンド中に音声入力を行い、後で音声データをテキスト化したものと音声データそのものの両方を利用できるソリューションの開発も考えています。記録の省力化で時間ができれば、看護師さんが患者に向き合う時間が増えるだけでなく、看護師さん自身の自己学習時間も増やせます。結果として質の高いケアに貢献できると考えています。

――2年後を睨み、時間管理ソリューションなどの導入を考えている医療機関は増えているのでしょうか。

野田:様々な学会で、働き方改革をどうするかという話題がトレンドになっています。そうした場所で、システムを導入した医療機関が成功体験の事例を話すと、まだ着手していない医療機関の意識が高まり、経営者のIT投資判断にもつながるようです。

――今後の富士通Japanの展開について教えていただけますか。

井上:今提供している電子カルテシステムにしても、もっとできることがあるはずです。現場では何が必要なのか、もっと生の声を聞いて課題を確認し、それをもとにコンサルテーションなどもセットで行いながら、解決のためのサービスを作っていきたいと考えています。医療コンサルタントによるコンサルテーションを受けている医療機関もあるでしょうが、我々システムベンダーがシステムにコンサルテーションを組み合わせれば、ICTの力で強力に業務を推進する強みを持てるのではないかと考えています。コンサルタントとの協業の可能性も視野に入れれば、お互いの強みを活かした展開も見えるのではないでしょうか。

野田:本来、電子カルテは医療従事者の負荷軽減のためにあるものですが、いくつかの医療機関では記録システムの評価に留まっているケースがあります。そうした実情を打破するためにも、今後は音声入力やAI問診など、様々な技術を活用しながら、働き方改革・病院運営に役立つソリューションに育てていきたいです。

電子カルテには日々データが蓄積されていきます。いかに必要最小限のデータを入力し、そのデータをどう利活用していくのか、蓄積されたデータを二次活用して付加価値を高める仕組みを作り、そうした仕組みをユーザ様には継続してご提案していきたいと思っています。

2024年に迫る医師の働き方改革 何が変わり何を実践すべきか
第04回 富士通Japanの目指す医療の働き方改革、
現場に寄り添い作り上げるソリューション
データをどう活用するか、顧客に提案できる企業に

著者プロフィール

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【事業内容】
自治体、医療・教育機関、および民需分野の準大手、中堅・中小企業向けのソリューション・SI、パッケージの開発から運用までの一貫したサービス提供。AIやクラウドサービス、ローカル5Gなどを活用したDXビジネスの推進。

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