2022年7月19日更新

2024年に迫る医師の働き方改革 何が変わり何を実践すべきか 第03回 働き方改革先駆者が語るリモートワークの実態
医師しかできない仕事を効率よく実践できる土壌作りがカギ  

富士通Japan株式会社

医療従事者の働き方改革を進めるうえで、労働環境の選択肢を提供するリモートワークの重要性が認識され始めた。各種ITツールを活用することで移動などの時間を医師から取り除ければ、質の高い治療や新しい治療法の研究など、医師が本来費やすべき業務に専念できる。さらに慢性的に医師が不足する地域やへき地などにおいては、医師のリモートワークが地域医療の充実を加速する可能性がある。島根県の離島に位置する隠岐広域連合立隠岐島前病院に20年以上勤務し、人口約6000人の隠岐島前地区の医療を支え続け、加えて2021年からは島根大学医学部附属病院総合診療医センター長に就任。へき地診療を継続しながら総合診療医の教育にも携わる白石吉彦氏に、リモートワークを中心としたへき地診療での改革の実態や今後の働き方改革を進めるうえでの課題などについて聞いた。


白石吉彦氏

白石吉彦氏
隠岐広域連合立隠岐島前病院参与/島根大学医学部附属病院総合診療医センター長
1992年に自治医科大学を卒業。1998年に島前診療所(現隠岐島前病院)に赴任、2001年には同病院長に就任し、周囲のサテライトの診療所を含め、総合医の複数制や、本土の医療機関との連携を取りながら、人口約6000人の隠岐島前地区の医療を支える。2021年より同病院参与となり、島根大学医学部附属病院総合診療医センター長に就任。(撮影:伊東昌信、以下同)

――現在、白石先生は週に3日は隠岐島前病院に勤務し、残りの2日は島根大学医学部附属病院総合診療医センターのセンター長として働いています。

総合診療医には多くの疾患に対応し、速やかな診断・治療を行うことが求められますが、超高齢社会においては地域医療の核となると期待されています。そのような総合診療医を育成するために、政府も本格的に取り組みはじめ、現在、全国の7カ所に総合診療医センターが設けられ、島根もその一つとなります。

私は、隠岐島前病院で20年以上、総合診療医として勤めてきました。へき地で総合診療をしてきたわけですが、はっきり言って楽しかった。もちろん、その間にはいろいろトラブルもありましたが、今では44床の病院に医師が10人もいるという体制を築けました。へき地の病院でこれほど人員が充実しているところは、他にはないでしょう。

ただ、私がいる間は人が集まっても、いなくなったら医師が減ってしまうかもしれない。そうならないために、正しく総合診療医の仕事のことを伝えたい。総合診療医として働くことは、自己実現という意味でも充足しているし、仕事として考えても楽しいし、社会的な貢献もある。そういった様々なことを若者たちに伝えたかった。そういうこともあり、1年前に総合診療医センターのセンター長の話をいただき決断しました。

センター長を専任とはしませんでした。そうなるのが普通なのかもしれませんが、私は島根県内にいる多くの総合診療医を巻き込むことが重要だと考えました。今まで大学の教育に関わっていない人たちを巻き込んで、複数人で教育が行えれば診療医育成の質が高まります。現在は、私がセンターにいないときには、他の病院の方にセンターで勤めてもらうなどして、5人の医師で交代しながら業務をこなしています。

電子カルテやPACSがリモートカンファレンスの質を高める

――20年以上勤められた隠岐島前病院を、週に2日は白石先生が留守にすることになります。

それでも問題のない状況が隠岐島前病院で作れたと思っています。主にはリモートでも業務をこなせるという体制の構築です。

リモートワークは新型コロナウイルス感染症の発生が導入の勢いを付けたという面もあります。例えば、病院においては様々なカンファレンスがありますし、また隠岐島前病院では私が一番の年長者なので、若い医師を中心に聞きたいことが当然あるわけです。新型コロナウイルスの感染拡大が始まった瞬間に、そういった会議はすべてリモートで実施することにしました。たとえ院内にいたとしても、医師同士が接近すると感染のリスクがあるので、別々の部屋から参加するなどの工夫をしました。

実はリモートのカンファレンスの方が、結果的によかったのではないかと感じています。皆が部屋に集まるカンファレンスだと、進行している人の能力以上の成果が出ない。例えば検査の値をモニタで表示しているときに、ほかの誰かが「あの検査はしたの?」といったことを発言すると、そこで流れが止まってしまう。一方で、リモートのカンファレンスであれば、電子カルテなどそれぞれが興味のある資料を見ながら参加できます。現在プレゼンされている資料とは違う資料を開いて調べて、「この検査はしてないね」とか「この数値は異常値ではないか」といったことが指摘できるようになりました。

さらに電子カルテだけでなくPACS(医用画像管理システム)で診療情報を共有できる環境を整えていたのも、リモートワークを円滑に進めるためには効果が大きいです。PACSではエコーやCT、胃カメラなどの静止画を管理するだけでなく、動画の管理もしています。我々の病院の規模でそこまでのお金をかけているところはほとんどないと思います。

動画にすると得られる情報量はまったく異なってきます。リモート会議でも正しい判断ができますし、また総合診療医センターにいても、あるいは出張などで遠方にいても、パソコンでPACSにアクセスさえできれば正しい指示が出せます。このような環境が整えられたのは、やはり離島だからこその課題があって、そこに対応しようとしたことが良かったのかもしれません。

皮膚科の診療は既にリモートで可能に、今後は範囲が拡大していく

――カンファレンスや会議などは既にリモートがメインであることは分かりました。一方で、診療に関してはいかがでしょうか? オンライン診療は2018年度に保険適用となり、コロナ禍で一気に拡大したように感じています。

隠岐島前病院では皮膚科に関しては、患者さんに病院には来てもらいますが、診療は遠隔地にいる医師に行ってもらっています。当院では整形外科、産婦人科、耳鼻科などに関しては非常勤医師が島外から来て週1日、または隔週1日の診療を行っています。一方で、標榜していない皮膚科に関しては、皮膚科医に協力をあおぎ、Webカメラを利用して画像を写すなどをして、診療の補助を行ってもらっています。

また、別の島に立地している公設のサテライト診療所があるのですが、その診療所の患者さんはなかなか病院に来ることができません。そういった場合は若い医師を診療所に派遣して診療を行うのですが、そういった若い医師を支援する際にはリモートの会議システムが役立っています。画面を通して一緒になって話を聞くことによって、患者さんには安心感をもたらすことが可能だと考えています。

今後に関しては、すべての診療をリモートでできるとは思いませんが、例えば先ほどの皮膚科のように画像を見れば症状が分かるような場合は、患者さんにわざわざ病院に来てもらわなくても診療が可能になるでしょう。また忙しいビジネスパーソンが定期的に薬だけを欲しいということもありますが、休みを取らなくてもリモートで診療して処方箋を出すといったことが可能です。そういった仕組みの整備は、若い医師を中心にどんどん進んでいくのだと思います。

ここから先の内容については資料をダウンロードしていただき、お読みください。

  • 様々なITツールを駆使した「バーチャルオフィス」で島全体の力を集結
  • 医師の知的好奇心を満たせるように雑務は取り除く
  • 次のリーダーを効率よく育てられる仕組みがあるといい

2024年に迫る医師の働き方改革 何が変わり何を実践すべきか

著者プロフィール

富士通Japan株式会社

【事業内容】
自治体、医療・教育機関、および民需分野の準大手、中堅・中小企業向けのソリューション・SI、パッケージの開発から運用までの一貫したサービス提供。AIやクラウドサービス、ローカル5Gなどを活用したDXビジネスの推進。

富士通Japan株式会社

ページの先頭へ