2023年01月27日 更新
物流DXとは?定義から業界の課題やメリットなどを詳細に解説
物流DXについて
ここでは、物流DXについて、DXとは何か、物流にどのように活かされるのかを解説します。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは
DXとは、Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)の略語です。DXを直訳すると「デジタルによる変容」となります。つまりDXとは、デジタル技術を用いて生活やビジネスが変容していくことを指しているのです。
ただデジタル技術を利用するだけではなく、デジタル技術によって製品・サービス・ビジネスモデルを変革してこそDXといえます。DXの実現は競争上の優位性を確立するうえで大変重要です。
物流DXとは
物流DXとは、物流業界におけるDXのことです。国土交通省では、物流DXを「機械化・デジタル化を通じて物流のこれまでのあり方を変革すること」(注1)と定義しています。
物流DXを成し遂げることで、他産業に対する物流の優位性を高めることが可能です。生活様式の変化によってより需要が高まるスムーズな物流を、DXによって実現していくことができます。
さらに国土交通省は、物流DXを通して、日本の産業全体が国際競争力を強化できるような変革を行うことが重要であると指摘しています。
注1 最近の物流政策について|国土交通省
物流DX推進の背景
物流DXの推進は、2021年6月に物流業界の指針である「総合物流施策大綱」閣議により決定されました。この閣議決定においては、今後取り組むべき施策として、2021年度~2025年度に、物流DXによる業界全体の活性化を実施することが定められています。
このように、DXの物流業界への需要は今後さらに高まることは間違いないと考えられます。物流DXを導入することの必要性が幅広く認知され、実際にDXの導入が国家レベルで推し進められている最中です。
物流業界の課題
それではここで、物流DXによって解決される可能性のある、物流業界が抱える課題について確認してみましょう。
人員不足
物流業界では、多くの企業が人員不足であることを実感し、明確な問題として掲げています。とりわけドライバーの人員不足については、現状で既にドライバー不足が叫ばれています。ドライバーの高齢化も将来的な人員不足の懸念材料です。少子高齢化がますます進む世の中において、今後数十年をかけて、人員不足がさらに深刻化する恐れがあると考えられます。
小口宅配便の増加
近年ではネットショッピングの普及などにより、個人向けの小口宅配便が増加傾向にあります。小口宅配便の増加は、人員不足や再配達の増加といった問題を増幅させる一因となっています。
BtoCやCtoCの小口配送は、その性質上、やむを得ず効率が良くないものとなりがちです。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、小口配送の増加傾向は今後ともさらに拡大する可能性が大いにあるでしょう。
したがって、小口配送の増加における非効率化の改善が課題となります。
荷物管理の負担増大
現在物流業界においては、倉庫の空きスペース不足が深刻な問題となっています。コロナ禍によって物流の需要が一気に増加したため、大型マルチテナント型物流施設の新規需要は高まる一方です。
物流施設の空室率はわずか0.5%前後と低い状態が続いているため、荷物管理の負担も増大しています。物流施設の拠点を増やすだけではなく、適切にデジタル化を行って不要な在庫を減らすなど、効率的にスペースを活用しなければ問題の解決は難しいでしょう。
低賃金・長時間労働
現在の物流は小口宅配便の増加により、荷室の積載率より配達までの時間を優先する状態が続いています。この状態はつまり、少ない荷物を高頻度で輸配送している状態です。
他社との競争にも勝たなければならないため、荷主からの運賃は下げざるを得ない状況にあります。結果的に、低賃金・長時間労働による配達員への負担が増加しているのが現状です。この状況が続くと貴重な若年層の労働力確保が困難となり、人材不足がますます深刻化するという悪循環を引き起こします。
物流DXのメリット
物流DXは、物流に関するさまざまな課題を解決できる可能性があります。物流DXのメリットを解説します。
物流の自動化・機械化
自動化・機械化といえば、飛行機の自動操縦や自動車の自動運転に使われる技術が注目されています。物流の世界でも、幹線輸送手段の自動化・機械化に向けた研究開発が行われている最中です。
2021年3月、国土交通省と経済産業省はトラックの後続車無人隊列走行技術を実現したことを発表しました。実験では、無人のトラックが自動で一定の車間距離を保ち、隊列走行することに成功しています。少ない人手でたくさんの荷物を運搬する最新の技術に期待が集まっています。
電子化によるコスト削減
紙媒体の伝票や注文書などを電子化することによって、コストの大幅な削減が期待できます。これまで頻繁に行われていた書類の管理ややりとりが不要になる点は、大きなメリットです。
伝票や注文書が電子化すれば、事務処理をするためにわざわざ改めてデータを打ち込むといったような作業もなくなり、人員不足の状況の中でより適切な人員配置が可能になります。伝票の転記間違いなどによる配送の間違いや損失も減少する可能性があり、ペーパーレス化による経済効果は大きいと考えられるでしょう。
可視化による業務効率の向上
現在すでに、公共機関の管制塔では動態管理システムを活用して、走行中の車両の位置や目的地への到着予定時刻などを把握しています。陸路や海上の輸送においても動態管理システムを導入し、効率的かつ迅速な輸送を実現できます。
出荷や着荷の場所に加えて、道路などの状況把握ができていれば、配送でも最適なルートが選択できるため発注から納品までの時間短縮が可能になります。これは物流業者と利用者双方にとってのメリットです。
人手不足を解消
物流DXにより、業界の大きな課題である人手不足の解消が望めます。DXが実現すれば、人がしなければならないことが減り、限られた人材を今まで以上に活用することが可能です。
具体的には、これまで人手を入れて行ってきた管理業務・輸送業務・荷積み・積み替えなどをAIや機械が代行する方法などがあります。このような方法で大幅な人員削減が可能となり、削減分の労働力を人でなければできない業務に当てられます。
労働環境の改善
物流DXにより勤務状況を可視化することで、労働環境の改善を目指せます。無理な長時間労働はもちろんのこと、需要の少ないところに多すぎる人員を投入することを避けるなど、勤務の無駄の削減にも役立つでしょう。
さらに勤務状況が可視化できていれば、客観的で公正な人事評価も可能になります。シフト表や日報もペーパーレス化で自動生成でき、ドライバーにとっては日報を作成する手間の省略にもつながります。
物流DXの課題
さまざまな業界のなかで、DXが最も進んでいない業界が物流業界です。ここでは、物流DXを進めるうえでの課題を解説します。
拠点ごとの業務ルールの存在
物流はそれぞれの拠点ごとに扱う商品・サービス・仕事内容が異なるため、拠点ごとに業務ルールが存在しています。それぞれの拠点で、扱うものにあわせ工夫された業務ルールがあるのは致し方のないことかもしれません。
しかし、物流DXは輸送のフロー全体の変化をもたらすものであるため、それぞれの拠点に独自のルールがあると、物流DX導入とともに一気にフローを変えるのが難しくなってしまいます。DX化のなかで、個々の現場にあわせて業務を構築することが大切です。
デジタル技術がなくても現場は回っている
総じて物流業界の現場スタッフは、物流DXに関する理解度が低い傾向にあることを考慮しておかなければなりません。現状のままでも現場が回っているという感覚が根強く、また物流DXに嫌悪感を示し、デジタル技術よりも現場の判断を優先させる可能性もあります。
したがってDX化が進んだとしても、シフト管理システムや最適輸送経路通達システムの出した結論とは違う行動を取るかもしれません。
技術先行での物流DX推進
物流DXの先進技術の活用事例をメディアが紹介する機会も増えています。しかし、紹介されている事例があるために、技術の活用のみに着目してしまうケースがあります。
物流DXには本来、デジタル技術や制約事項などの正しい理解が必要で、理解せず導入すれば大きなリスクを伴うでしょう。導入にあたって、デジタル技術の現場適合性や効果の検証も不可欠です。
「このような技術がある」と聞いて技術を試すこと自体が目的となってしまうと、大きな失敗を招く恐れがあります。導入に向けた課題や効果を適切に評価しなければ実用は難しいでしょう。
まとめ
物流DXは、物流業界全体にデジタルで変革を起こし、物流の効率化や人材の適正な配置を実現するものです。デジタル化によって、現在物流業界が抱える、人員不足や荷物管理等の問題を解決していくことができるでしょう。
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著者プロフィール
富士通Japan株式会社
流通ソリューションビジネス統括部
沖津 里枝
【事業内容】
流通業における準大手、中堅・中小企業向けのソリューション・SI、パッケージの開発から運用までの一貫したサービス提供。
AIやクラウドサービス、ローカル5Gなどを活用したDXビジネスの推進。
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