2017年11月06日更新
企業力アップのためのお役立ち 第23回 労働生産性向上は「いかに働かないか」から考える、省力化こそが第一歩
沢 葦夫 氏
労働の生産性は「労働者1人の1時間当たりの仕事量」です。1日を過密なスケジュールで過ごすと、よく働いたという気持ちになりますが、その割には業績や賃金が比例していないような気がしませんか。問題は仕事の量ではなく質なのです。その質を高める前に、着手できることがありますのでご紹介しましょう。
世界でも低い日本の労働生産性
新聞などで耳にする「日本人労働者の生産性の低さ」ですが、いったいどれほど低いのでしょうか。
労働生産を知る数値
会社で勤務している人ならば「1人当たりの売上高・利益高」はよく耳にする数値だと思います。ある期間の売上高を社員数で割ったものです。これをさらに1人当たりの総労働時間でみれば、時間当たりの売上高がわかります。
社員1人の労働1時間当たりの売上高が大きいほど生産性が高いといえるでしょう。しかし、機械で生産できる製造業と人手に頼るサービス業では、前者が高く後者が低いという数値の開きが生じますので一概に両者の比較はできません。同じ製造業でも自動車とタンカーなどのように製品が異なると、やはりこの金額は異なります。
世界での日本の順位は?
この違いは国と国での生産性を比べる場合にも当てはまります。しかし、産業の選択も含めた一国の労働生産の結果として比べることは、けっして間違いではありません。算出の方法はその国のGDPを労働者の総労働時間で割った数値になります。
OECD(経済協力開発機構)加盟国のみの結果ですが、1時間当たりGDPの1位はルクセンブルクで93.4ドル、2位アイルランド、3位ノルウェイ、4位ベルギー、そしてようやく5位にアメリカ(68.3ドル)が登場します。デンマークが6位、フランスが7位、ドイツが8位で、日本はなんと20位(41.9ドル)です。それ以下の順位で日本人になじみのある国では韓国が30位(31.9ドル)、ロシアが34位(25.1ドル)となります。一見して経済の成熟度が高い国のほうが低順位のようですが、アメリカやイギリス、ドイツと比較すると同じ経済先進国の日本は低すぎるような気がします。この数値を見る限り、やはり働き方改革が必要といえそうです。
生産性が低い原因、向上しない背景
生産性が低い原因にはさまざまなものが考えられ、特定は容易ではありません。しかし、経済誌などではその要因が以下のように語られており、日本の生産性が低い原因をさぐるヒントになるのではないでしょうか。
- 産業構造の変化:オートメーション化に適さないサービス業の比率が上昇。中・後進国等の成長による日本の製造業などの優位性の縮小。
- 企業風土:勤勉・努力が評価され、実績よりも勤続年数や勤労態度などを重視。
- 雇用・賃金:労働時間と賃金が比例、生活のための残業なども多い。
労使ともに働くとはどういうことか、何を基準に生産性を考えるべきかを再考しなければならないのかもしれません。
必要のない仕事を減らす、省力化やIT化を検討する
冒頭で述べたとおり、業種や業態、扱う商品や活動する地域などで生産性に違いが生じます。自社の生産性の評価を知り、さらに向上策を考えるとなるとあまりに要因が多く、またどう改善するべきか見出しづらいものです。
業種や業態にかかわりなく単純化してみると、次の2点を実現することで高い生産性が約束されるはずです。
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規模が大きく利益率の高い商材をできるだけ多く扱う。
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それらを可能なかぎり低いコストと短い時間で調達・生産・販売する。
「1.」を考えると、取り組んでいるビジネスがあまりお金にならなければ、社員1時間当たりの生産性を高めても売り上げやそれに見合った賃金の引き上げは期待できないことになります。生産性の向上を考えるときには、現在のビジネス領域の採算性や将来性も同時に考えたほうがよさそうです。
「2.」については、その改善策は意外と難しく、下手をすると生産性を悪化させてしまうリスクもあります。毎月の会議の回数が同じで、決裁書類と承認印の数も変わらず、社員がやむを得ないバックオフィス業務を抱えていたとすると、労働時間の短縮は社員の負担になるだけです。仕事の持ち帰りなど情報漏えいリスクや退職率を高めるような悪い結果を招かないとも限りません。オフィスからの退出時間を早めるだけでは問題の解決にはならないということです。
しかし、逆に考えれば、仕事の中から無駄なもの、省力化できるものを洗い出し削減するだけで、働く側が特に変わらなくても、労働生産性の向上につながるということです。
伝票類の電子化などオフィスのペーパーレス化、RPA(Robotics Process Automation:主にホワイトカラー業務の効率化や自動化)の考え方による定型業務のオートメーション化、テレビ会議の導入、難しい問題を解決するためのAI化、モバイル機器による機動性の確保など、業務の見直しと同時にITに代行させることが検討できます。
働き方改革は働く環境を変えることで、働く側の意識も変わるのではないでしょうか。「いかに"無駄な仕事で"働かないか」を考えることが、その一番の解決策となるわけです。
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著者プロフィール
沢 葦夫 氏
ICTアナリストの経験を活かし国内外のマーケットや技術動向について寄稿多数。近年は消費財や消費者向けサービスにも研究テーマを拡大、社会を対象とした記事執筆まで手掛けています。業界の経営企画部門や経営者向けの産業分析レポートのほか、アンケートの集計分析が得意分野です。
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