2017年05月08日更新
企業力アップのためのお役立ち 第17回 改正労働者派遣法施行!企業が押えておくべきポイントとは
丸の内とら 氏
2015年9月30日に改正労働者派遣法が施行されました。これにより、労働者派遣事業を営む企業の業務や派遣労働者の働き方に、少なからぬ変化が生じつつあります。この記事では、改正労働者派遣法のポイントおよび企業が押さえておくべきポイントを紹介します。
改正労働者派遣法とは
労働者派遣法は文字通り労働者派遣に関する法律で、1986年にはじめて施行されました。これにより社外から一時的に労働者を雇用することが可能となり、労働者派遣をビジネスとして営む企業が生まれました。
当初、労働者派遣の対象となっていたのは特殊な技能を要する13の業務で、派遣期間の上限は1年と決められていました。その後、何度かの改正により対象業務の拡大・派遣期間の延長などが行われ、もっとも直近に施行されたのが2015年の改正労働者派遣法です。
この法改正は、従来の労働者派遣状況にまつわる種々の課題に対応することを目的として施行され、特定労働派遣の廃止、派遣期間の見直し、雇用安定措置の義務化などが盛り込まれています。
次の項では、2015年に施行された改正労働者派遣法のポイントをご紹介します。
改正労働者派遣法の施行で何が変わったのか
ポイント1.特定労働派遣の廃止
まず、従来の特定労働者派遣事業(届出制)と一般労働者派遣事業(許可制)の区別が廃止され、全ての労働者派遣事業が許可制となりました。つまり、労働者派遣事業を営むすべての企業は、厚生労働省の審査をクリアすることが求められるようになったのです。
派遣業者にとってはビジネス上のハードルが若干上がりましたが、派遣労働者や受け入れ先の企業にとっては「安心感」という大きなメリットが生まれたといえます。
ポイント2.派遣期間に関する改正
次に、労働者の派遣期間に関する規定が変更されました。
改正前の労働者派遣法では、特定の専門26業務に関しては無期限で派遣社員を雇用することが可能でしたが、26業務以外については同一の業務では原則1年、所定の手続きを踏んでも最長3年までしか雇用することができませんでした。改正法ではこの区別が廃止され、派遣禁止業務を除くすべての業務で3年間の雇用が可能となりました。また、3年ごとに労働組合への意見聴取を行えば、3年以上の延長も可能です。
派遣労働者は3年が経過した時点で、①「派遣先に直接雇用を申し入れる」②「派遣元企業で無期限雇用してもらい、引き続き受け入れ先で働く」③「派遣元企業より次の派遣先の紹介を受ける」のいずれかを選択することができます。
ポイント3.雇用安定措置の義務化と派遣労働者への支援
3つ目のポイントは、派遣労働者に対する雇用安定措置が義務化されたことです。
派遣による雇用期間が満了した労働者を正規社員として雇用するなど、雇用の安定措置を講じることが義務化され、法律上明記されました。これにともない、派遣元企業には雇用期間が満了した労働者に対して直接雇用の申し入れや次の就業先の紹介、派遣元での無期雇用などの措置を講じる義務が生じます。
また、派遣元企業・受け入れ先企業では、派遣労働者の福利厚生の利用、教育・訓練などについて配慮する義務が課せられました。受け入れ先企業では派遣労働者に対して自社の社員との差異が生じないように措置を講じたり、派遣労働者のキャリアアップを目的とした教育研修やキャリアカウンセリングなどを実施することが義務付けられます。
派遣労働者受け入れに際して留意すべき点
このような改正派遣労働法の施行を受けて、派遣労働者を受け入れる企業ではどのような点に留意する必要があるでしょうか?
まず、全体的な話としては、前項でご紹介した変更点を踏まえ、自社の就業規則の改訂・見直しを行う必要があるでしょう。特に、派遣労働者のキャリアアップ支援に関しては教育訓練の実施方針を定めたうえで、適時就業規則内に対応策を盛り込むことが求められます。
加えて、派遣労働者の雇用期間変更についても注意が必要です。
前述のとおり、3年を経過したあとも労働組合からの意見聴取手続きを経て同じ派遣労働者を雇用することができますが、この手続きを滞りなく行うためにも、派遣労働者の雇用を開始した起算日を適切に管理しておくことが求められます。
「絵に描いたもち」では意味がない
以上、改正派遣労働法のポイント、および法改正を受けて受け入れ先企業が留意すべき点についてお話しました。
改正労働者派遣法は、非正規雇用者が安定的に就労できることを目的として施行されたものですが、せっかくの法改正も、適切に運用されなければ意味がありません。実際今回の改正について、労働者サイドからは「非正規雇用が拡大するだけではないのか」といった否定的な意見も上がっています。
「法律で定められているから」「義務だから」と上辺だけ対応するのではなく、企業と派遣労働者とがWin-Winの関係を築けるよう配慮しつつ、体制の整備・運用の両面において誠実に取り組んでいきたいものです。
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著者プロフィール
丸の内とら 氏
フリーライター歴20年。IT関連を中心に執筆活動を展開し、20冊を超える著書を出版。
ソフトウェアハウス、独立系SIerを経て、現在はIT系サービス企業の経営戦略部に所属。
マーケティング、プロダクトマネジメント、開発などに幅広く関与しています。
システム開発は上流から下流までほぼ一通り経験しましたが、もっとも得意とするのは品質検証。
「三度の飯よりテストが好き!」で、独学でJSTQBを取得した変わりものでもあります。
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