管理会計の今後の動向を考察「AIやRPAが与える5つの影響とは?」 その2
2019年12月27日更新
AIやRPAが、実際の業務の中に活用され、私たちの仕事を効率化したり意思決定を支援したりしてくれるようになりました。AIが人間の仕事を奪うという議論も活発におこなわれています。AIやRPAが管理会計に与える5つの影響のうち、前回のコラムでは2つの影響をご紹介しましたは、今回は残り3つの影響を解説します。
AIやRPAが管理会計に与える影響
管理会計にAIやRPAが与える影響は5つあります。前回のコラムで2つの影響をご紹介しましたので、今回は残り3つをご紹介します。
影響3「経営判断に役立つ予測値の提供」
管理会計システムは、経営層に対し意思決定に役立つ様々なデータを提供します。顧客別や商品別といったセグメント別の売上や利益は、今後、どの顧客や商品に注力するべきかといった判断材料の一つになります。場合によっては、特定の商品から撤退するという意思決定を下すための判断材料になるかもしれません。
いずれの場合でも、従来型の管理会計システムは、過去の数値実績を経営判断に役立てる形で集計し見える化したものである点には注意が必要です。過去の数値実績なくして、管理会計システムは成り立たないのです。逆に、管理会計システムは、今後発生するであろう未来の予測値を提示することは得意ではありません。前年同期の傾向値から統計的に予測をすることはできますが、精度が高いとはいえません。最適な商品別の発注量や倉庫別の在庫量といった、複雑な予測値を高精度で提供することは難しいのです。
この点、AIの機械学習を使えば、管理会計システムを補って、高精度の予測値を提供する可能性を広げます。機械学習を使うため、複数年にわたりデータの提供と予測値の修正といった人間による支援が必要となりますが、データを提供すればするほど予測精度は向上します。実際に、大手メーカーなどで機械学習を使って、工場の生産量を予測する取り組みが実用化されてきました。
AIシステムによっては、AIの判断プロセスを見える化できるものも登場しています。AIがなぜそのような判断を下したのかを可視化できれば、人間が判断する際に役立てることができるはずです。
AIは、従来型の過去データに基づく管理会計システムを補い、この先起こるであろう予測値を提供する可能性があります。経営層の意思決定は、過去の傾向値だけではなく、未来の予測値をも使って、より迅速にそしてより的確におこなうことができるようになるでしょう。重要なことは、AIやRPAといったITツールを積極的に活用するという姿勢を、経営陣がもつことです。他社に先駆けて、AIやRPAを導入することで競合優位を築く可能性があるのです。
影響4「連想技術による新たな気づきの提供」
管理会計システムの目的は、経営層が的確な意思決定を下すことにあります。データを収集することが目的ではありません。現状を見える化することで、競争優位や持続的な成長につながる的確な判断ができないと、管理会計システムの意味をなさないのです。
それでは、人間が難しい判断を下したり、クリエイティブな発想をしたりするとき、どのようなプロセスを経ているのでしょうか。特定のデータを段階的にブレイクダウンして、より詳細なデータを把握するかもしれません。ある特定の事象から、関連する項目を枝分かれさせながら発想を広げるマインドマップの手法を採用しているかもしれません。
管理会計システムの中には、たとえ経理に詳しくない経営者であっても、意思決定を支援する連想技術をもつものもあります。連想技術を使うことで、データを可視化するだけでなく、データの意味をも判断することができるため、原因分析や今後の戦略の立案に役立てることができるのです。
経営者が閲覧する機会が増えるであろう、ダッシュボードのインターフェースにも管理会計システムは多くの工夫を凝らしています。グラフや表などの見たい部分クリックする直観的な操作だけで、各チャートを連動させて表示させたり、関連性を見出したりすることができます。
このような意思決定を刺激する連想技術にも、AIの技術がふんだんに使われています。人間の直観力や判断力を、AIテクノロジーの拡張性やスピードで強化するのです。従来型の管理会計システムでは気づくことが難しいデータの関連性を可視化することで、経営者は現状を多角的な視点で分析し、把握することができるでしょう。
影響5「与信管理技術への応用」
経営者が新たな顧客やパートナーと取引を開始するかどうかの判断を下すために、重要な役割を果たすのが与信管理です。大規模な取引を開始する際には、債権が回収可能かどうかといった視点だけではなく、取引条件を定めるためにも取引相手を様々な角度から分析しなければなりません。
従来、与信管理は貸借対照表や損益計算書といった決算書類の分析に加えて、経営者の資質や社内の雰囲気、競合や金融機関との関係性、といった複数の要素を加味していました。このような数値化しにくい生のデータも、与信管理上は重要な要素となります。ときには、このような定性的なデータを営業担当者が入手し、与信担当者にフィードバックするといった手法をとることもあります。取引により債権が回収できない事態に陥ると、企業は多大な損害を受けることになるため、与信管理は重要な任務であるといえます。
しかし、近年ではビッグデータ分析やAI技術を活用し、取引先企業を事前に数値化する、スコアリングモデルが確立されてきました。たとえば、経営者の資質といった定性的なデータも、業歴などを加味して評価をすることができるようになっています。スコアリングモデルでは、取引先の定量的、定性的な情報に加えて、マクロ環境などの景気変動要因も考慮に入れることができます。景気変動要因には、長短金利や為替レート、株価インデックスといった複数要因が含まれます。
このように、経験や勘への依存度が高かった与信管理も、AIを使ったスコアリングモデルを取り入れることで、人への依存度を下げながら、客観的に取引リスクを可視化できるようになりました。
経営者が意思決定をおこなう上では、顧客やパートナーと取引開始をするべきかどうかは、重要な判断となります。取引先の倒産は、自社の事業継続に重大な影響を与えかねません。AIを使った与信管理のスコアリングモデルは、意思決定をおこなう経営者が、的確な判断をくだすために重要な役割を果たすでしょう。
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著者プロフィール
富士通Japan株式会社
ソリューション事業本部 GLOVIA会計・人事給与事業部 会計ビジネス部 プロジェクト課長 稲田 智
2000年、富士通株式会社入社。業務パッケージGLOVIAシリーズの設計・開発に従事。
2010年より株式会社富士通マーケティング。経営管理、会計の製品企画や拡販に従事。
現在は次世代ERPであるGLOVIA iZの構想立案・製品企画に取り組む。
※本コラム中に記載の部署名、役職は掲載日現在のものであり、このページの閲覧時には変更されている可能性があることをご了承ください。
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