管理会計の課題・問題点とは?できない・わからない理由とその解決策 その1

2019年10月18日更新

管理会計の仕組みを組織に導入していくためには、様々な問題点を解決する必要があります。それでは、具体的にどのような課題や問題があり、それをどのように解決すればよいのでしょうか。その課題解決手法をご紹介しましょう。

管理会計はなぜできない・わからないのか?その6つの課題とその解決策

管理会計はほとんどの場合、経営陣が意思決定に役立つ指標を入手するために導入します。その一方で、経営に役立つデータは現場が持っており、そうしたデータを入手するためには、現場の協力が欠かせません。ところが、現場では管理会計に必要な情報を、エクセルや管理会計システムを活用して収集・整理するのに時間や手間がかかり負担に感じることもあります。そこで、管理会計の仕組みを導入したり定着させたりするときには、経営陣の意志を現場に浸透させ、従業員との間で軋轢が生じないようにすることが大切です。ここでは、そうした軋轢を生み出しかねない具体的な課題と、その解決策について解説していきます。

課題1:管理会計に不可欠な「付随データ」をどうやって現場から入手するか

通常、管理会計システムは経営層が意思決定に役立つ指標を得るために導入します。そして、意志決定に役立つ指標は、業種や業態、その会社の経営状況など様々な要因で常に変化します。つまり、管理会計を実践するのに「必要となるデータ」は、業種・業態や経営状況によって変わってくるということ。「管理会計には○○と○○のデータが揃っていれば十分です」というわけにはいかないのです。

多くの場合、管理会計に必要なデータは、まずは財務会計システムから入手します。しかし、財務会計システムの目的は、あくまで財務諸表を作ること。たとえば、売上という勘定科目でデータを抽出した場合、財務会計システムでは、その売上を計上した日付や金額といった「情報がわかる」だけにとどまります。

しかし、管理会計システムを導入して経営層の意思決定を支えるためには、売上には、顧客別、部門別、といったデータが必要かもしれません。つまり、売上という勘定科目に対し、日付や金額はもちろんのこと、顧客情報や部門情報が必要になるというのが管理会計での考え方なのです。

その他、必要なデータの具体例としては、現預金という勘定科目に対しては、銀行や支店名が必要になるかもしれません。さらに、仕入に対しては取引先名、在庫に対しては倉庫名など、会計データにひもづくさまざまな付随データが必要になるのです。

経営層が必要になるのは、このような付随データだけとは限りません。多店舗で小売店を経営している会社の場合、店舗別の売上に加えて、その店舗ごとの展示方法といった非会計データも必要になる可能性があります。このような場合、会計データと展示方法がわかるような写真データを紐付ける必要があるかもしれません。

重要なことは、経営陣が必要とする付随データは「現場が持っている」ということ。会計データであれば経理部が保有しており、非会計データであれば現場の販売員が保有しているでしょう。現場の協力なくして効果的な管理会計システムの導入は難しいといえます。

こうした経営陣と現場の溝を埋めるために必要なことは、コミュニケーションです。なぜそのデータが必要なのか、現場の十分な理解を得る必要があります。経営陣の意思決定速度を早め現場の仕事や業務がやりやすくなる、あるいは業績が向上することで金銭的な恩恵がある、といった現場にとってのメリットを訴求することも重要になります。

そのうえで、現場の業務負担を減らす手法も検討してください。管理会計システムの中には、従業員が必要な情報を簡単に入力できるインターフェースを持っていたり、あるいは外部システムと自動的に連携して、必要なデータを取り込んだりできるものもあります。従業員の業務負担を減らしながら、経営陣が必要なデータを収集するというアプローチが必要になるでしょう。

課題2:現場の「紙データ」をどう管理会計に取り込むか

管理会計では、現場にある紙のデータを取り込むことも必要になります。その代表的な例が発注書や請求書などの「紙のデータ」です。企業間取引であれば、請求書や発注書には、金額はもちろんのこと、取引先、仕入れた商品やサービス、日付、担当者など、経営陣が必要とするデータが記されています。会計システム上では、例えば請求書のデータは金額と日付程度しか入力されないことがほとんどですが、経営の視点からみると1枚の請求書にはその他にも仕入原価などの必要なデータがたくさん記されているのです。

そのほかにも、設計データや提案資料、企画書、写真など、経営陣が意思決定に使えるデータは、現場に紙として大量に散らばっていることが少なくありません。経営陣が様々な角度から現状を分析したり、意思決定に役立つ情報を入手したりするためには、現場にある紙文書を、管理会計システムに取り込むことが必要不可欠といえます。

こうした課題を解決するために重要となるのがOCRです。紙データをスキャンするだけでは単なるデータに過ぎず、管理会計システム上でのデータ連携や、検索が困難になります。スキャンした上で文字情報をOCRにより取得することが求められるのです。近年では、請求書を写真撮影するだけで、必要な仕訳を自動的におこなう会計システムも登場してきました。

OCRの精度は向上してきましたが、それでも機械的な文字認識では限界があります。手書き文字に至っては、機械的な方法ではほぼ文字認識できません。こうした中、成長が著しいAIの学習機能を使ってOCRの精度を向上させるというアプローチも一般化してきました。RPAツールの中には、紙文書を取り込んだ上でAIによるOCR処理を施し、管理会計システムなどと連携できるものもあります。現場の業務負担を軽減しながら紙文書を管理会計システムに取り込むのであれば、RPAツールの導入も検討してください。

課題3:経営分析の結果を現場の具体的なアクションにつなげる

現場の協力により細かくデータを収集し、多角的に経営状況を見える化できれば、管理会計の目標を達成したか、というと、じつはそうではありません。分析結果を今後の経営戦略の立案や利益改善に役立てたり、競合優位を築くための意思決定に役立てたりする必要があります。しかも、管理会計の効果を最大化するためには、経営戦略などの意識決定に役立てるだけではなく、その意思を、具体的に経営戦略に基づく行動に落とし込み、現場の従業員に促すことが大切です。

例えば、管理会計の分析の結果、販売目標を前年比で20%アップすると決定したとします。各事業部に、全社売上を20%アップさせるように指示しただけでは、各事業部は混乱するはずです。自分の事業部の具体的な数値目標が計算できないからです。当然、末端の営業担当者は、具体的にどの程度売上を上げればよいか分からないため、モチベーションが低下するかもしれません。

重要なことは、経営陣が戦略に基づき立案した売上目標を達成するために、各事業部が具体的な行動目標を立案できるレベルにブレイクダウンして数値化することです。各事業部の売上目標を明示するだけではなく、販売量と販売価格に分解してより具体的なKPIにまで分解し落とし込む必要もあるでしょう。

現場の従業員に目標に基づく行動を促すのであれば、末端の従業員にも具体的なKPIを明示する必要があります。経営陣の意思決定を促すだけの管理会計システムでは、絵に描いた餅になってしまう可能性があるので注意してください。

以上、管理会計の3つの課題・問題点をご紹介しました。次回のコラムではさらに下記の3つの課題・問題点について詳しくご紹介しましょう。

  • 未来に発生する予測値データをどう管理会計に取り込むか
  • 組織変更に柔軟に対応できる管理会計システムを導入する
  • 理解しやすく、活用しやすい管理会計とする工夫も必要

管理会計の課題・問題点とは?できない・わからない理由とその解決策 その2 >>

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著者プロフィール

富士通Japan株式会社
ソリューション事業本部 GLOVIA会計・人事給与事業部 会計ビジネス部 プロジェクト課長 稲田 智

2000年、富士通株式会社入社。業務パッケージGLOVIAシリーズの設計・開発に従事。
2010年より株式会社富士通マーケティング。経営管理、会計の製品企画や拡販に従事。
現在は次世代ERPであるGLOVIA iZの構想立案・製品企画に取り組む。

※本コラム中に記載の部署名、役職は掲載日現在のものであり、このページの閲覧時には変更されている可能性があることをご了承ください。

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